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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第4章 獣の王国と魔導王朝編 ー生きとし生けるものの価値ー
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怠惰 【※】

争いを終えようとしていたエルドバとフォルリンクレーの間に、夜が訪れる。それを引き起こしたのは、世界連邦直属の聖騎士、帝下七剣『怠惰』のファファイニーであった。


彼の元に現れたのは、エルドバ護衛騎士位階3位の、『銀狼』のシルバー。ファファイニーの付き人であるジェバーセンを圧倒したシルバーは、ファファイニーを次の標的にするが……












「遊ぼうよ、ワンちゃん」



失楽園(パラダイス・ロスト)



ファファイニーがそう言って笑った時、シルバーの攻撃は彼に届くことなく、その間にある()()によって防がれていた。


「……なんだ!?」


その瞬間に、シルバーはファファイニーを中心にして、自然的に発生したとは考えづらい()()()()が舞っていることに気がついた。よく見るとそれは、ファファイニーを包み込むようにして浮かんでいるようにも見えた。



「あーあ、やっぱり君でもダメか」



ファファイニーは明らかにつまらなさそうな顔をして、ポケットに手を突っ込んだ。そしてタバコの箱とライターを取り出すと、その中の一本に火をつけてゆっくりと息を吸い込んだ。


暗い夜に白い煙が昇っていく。それはファファイニーなりの挑発であっただろうが、シルバーに対して力量差を測るのに十分すぎる程のインパクトを与えることになった。


「破ってみなよ、俺の園を」


「上等だ……!」




怒髪天(アグニ)怒弩旋陣(どどせんじん)ー!




シルバーは尖らせた爪を剥き出しにし、空気を切り裂く。それは飛ぶ斬撃となってファファイニーの方へと向かっていく。


前、横、上、後方。あらゆる方向から飛ばされる鋭利な攻撃は、確かにファファイニーを襲っているかのように見えた。





挿絵(By みてみん)




「……残念」



しかし、ファファイニーは優雅に片手を突き出すだけで、その攻撃を容易く受け止めていた。


「良いこと教えてあげるよ、オオカミくん。君は俺の『加護』とめちゃくちゃ相性が悪い。少なくとも君の物理頼りの攻撃は、どれだけ強くても俺の元には届かない」


シルバーは自分とファファイニーとの実力差に愕然としていた。それまであった誇り、自尊心、優越感……。その全てが破壊されたかのような、そんな感覚に陥っていたのだ。


「世界中枢の()の強さ、ナメてるでしょ、君。世界は、広いんだよ。自分より強い奴なんてごまんといる。でも、俺は俺より強い奴を探す方が大変だね」


そしてファファイニーは不敵に笑い、シルバーを挑発した。






「でも、君はそうじゃないみたいだね」





その言葉は、全てを物語っていた。黒の魔女ダスクを倒し、聖騎士相手にも圧倒出来た自分ですら、触れることも出来ない圧倒的な強者。その現実を前に、シルバーの心は既に平常では居られなかった。


「終わりだよ。まあ元々先に手を出してきたのは君だしね。俺が飽きる前にさっさとどこかに行ってくれないかな。君にも目的があるんでしょ?」


「……引き下がれるかよ」


「あ?」


「ここでお前に負けを認めて、俺は、エルドバはどうなるんだよっ!」


シルバーは渾身の一撃をファファイニーに向けて放った。ダスクですら圧倒した、牙狼(がろう)による攻撃だった。






「知るかよ、英雄気取りが」




断罪の鏡(エリュシオン)





その瞬間、シルバーの体は鋭利な武器によって切り裂かれたかのように数多の傷を受け、同時に血が吹き出した。


「壊れるオモチャは嫌いなんだよ」


一瞬だけ見えたファファイニーの目は、興味を失った冷徹なものであった。


「ファファイニーさんっ!」


その状態を見た、付き人の聖騎士であるジェバーセンは過去の記憶を思い出す。ファファイニーが帝下七剣として認められたきっかけとなった、とある()()を。








ガシッ






その時、誰かがシルバーに向けて振り下ろされそうになったファファイニーの腕を掴んだ。


「『警告』を知らせる2回の放音。まさか聞くことになるとは思わなんだ」


「邪魔するなよ、トルファンさん」


「目の前で同士が殺されそうになっているのを見て止めない人間が何処にいる」


「人間じゃなくて、獣人だろ?」


「獣人差別は流行らないぞ、ファファイニー。これは命令による行為か?」


「……」


「お前の事だ。命令なんてありはしないんだろ?」


「……ちっ」



ファファイニーはバツの悪そうな表情をし、掴まれた腕を振りほどく。


ファファイニーの腕を掴んだのは、エルドバ護衛騎士位階(ランク)2位、すなわち形骸化している獣王を除いて、本当の『最強』である者。ライオンの獣人「トルファン」であった。


物語を想起させるかのような、一点の濁りも無い美しい白の毛並み。赤く澄んだ目は、真っ直ぐにファファイニーを見つめていた。




「こんな辺境まで何の用だよ」


「こちらの台詞だ、ファファイニー。警告の対象はお前ではあるまいな」



トルファンはそう言ってファファイニーを睨みつける。その眼光だけで相手を殺してしまいそうなほどの圧力をもって、トルファンは語りかけるのだった。


「だったらどうする?」


「我は聖騎士である前にエルドバの民だ。お前が獣王国に仇なすと言うのなら、この場で切り伏せる」


「へっ、俺とあんたじゃ決着はつかねぇよ」


「……ならば去れ。お前の居場所はここには無い」


「はいはい」





ファファイニーは手に持ったタバコの吸い口を加え、一つ息を吸い込んだ。白い煙を吐き出して、吸い終わったタバコをジェバーセンに渡す。


「行くぞ、ジェバーセン」


「……はい」


そして二人はエルドバ王都とは反対側の森へと消えていった。その場には、傷付いたシルバーとトルファンだけが残される。


「何の用だ」


「お前を助けに来た訳では無い。通りすがりに見かけただけだ」


「勝手に手ぇ出しといてよく言うぜ」


「ならば、死ぬ気だったのか?」


「……」


トルファンの一言に、シルバーは黙ってしまう。トルファンが居なければ今頃自分がこの場に生きて立っていられなかった事を自分自身が1番よく分かっていたからだ。




「お前が死んでは、ゴールド様が浮かばれん。国を守って逝ったあの御方の為にも、お前が弱くあっては困るのだ、シルバー」


「クソ親父がなんだってんだよ……」


「お前が何と思おうが勝手だが、我のような老兵からすれば()()()()には数え切れないほどの恩があるのだ。……これで、一つ貸しが増えたな」


「その口癖やめろや。腹が立つ」


「元気そうで何よりだ」




口先では元気なシルバーを肩に担ぎあげ、トルファンはエルドバ王都の方角を向く。


「帰るぞ、民の安全を確保するのが優先だ」


「おい、まだ決着は……!」


「誰のものかは分からないが、大きな力が一つ消えた感覚がする。それも邪悪な気配が、だ。これ以上の手助けは不要だろう」


「……!」


シルバーの脳裏には、エルドバに向かって来た気配がよぎった。王城でも感じたその気配の主が、今回の事件に関わっているのは間違いがないのだろう。


「お前には色々話を聞く必要がありそうだ」


「俺より適任な奴がいるだろうが」


「お前も当事者だ。騎士としての務めは最低限果たせ。エルドバの国民ならな」


「説教したいだけだろうが」


「そう思ってもらっても構わん」





二人はエルドバ近郊の森を後にした。不穏な気配を漂わせ、その目的が分からずじまいであったファファイニーの事を気にかけながらも、トルファンとシルバーはエルドバへと急ぐ。

















ー エルドバ近郊の森、フォルリンクレー付近 ー


「くそっ、ついてねぇ……!」


「ファファイニーさん、昔みたいな行動は絶対にダメですからね?」


ジェバーセンは苛立ちを隠せないファファイニーを宥めるようにして言った。


「分かってるよ。それに、トルファンさんとやり合ったら俺も五体満足じゃ帰れないしな」


()()()()()トルファン……ですか」


「あの人はマジで強いからな。伊達に()()()やってねぇよ」


「え、執行人ってあの……?」


「あ、これ言っちゃいけないんだった。ジェバーセン、今すぐ忘れろ」


「いやいやいや、忘れられるわけないじゃないですか!執行人って言ったら世界連邦の組織の中で一番極秘の存在ですよ!私も今の今まで信じてなかったんですからっ!」


「あー、めんどくせぇ……。帰ったら話してやるよ」


「お願いしますよ!」


「とりあえずやることやってからな。はい、俺たちの目的は?」


「魔導王朝フォルリンクレーの女王、クラリア・アナーキーの捕縛、ですよね。彼女の過去の罪の精算のために……」


「そう。最近顕になってる歴史の遺物、聖痕(スティグマ)の一人だってのはとっくに調べられてるからね」





二人の聖騎士は、その目的の元にフォルリンクレーへと向かうのだった。











作者のぜいろです!


長かった本章もそろそろ終わりを迎える頃です。ここから約5話程書いた後、新章へと突入致します。現在は次の章の構想を練っている段階ですので、是非是非お楽しみに……!



よろしければ、ブクマ、いいね、評価、感想等お待ちしております!







ファファイニーの挿絵を書いて頂いたのは、ももちさんです!ありがとうございました

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