命の価値 ep.11 聖痕の意志
新たなる力、「黒衣天蓋」を発動するダリアは、フォルリンクレーの女王クラリア・アナーキーに対して攻勢を仕掛けることに成功する。
しかしクラリアはまだ、彼女の本気とも言える「加護」の発動を十分にしていなかった。
【聖痕に関する報告書】
聖痕とは、初代五大英雄の時代に存在していた組織、及びその構成員達の統一された思想を言う。
起源は不明であり、構成員らは互いの素性等に関して一切の情報漏洩を行わない。過去に二度、構成員の捕獲に成功したが、いずれも自らで命を絶つ選択を行なったと報告された。
五大英雄との関わりは現在の所明らかになっていないが、敵対する組織、思想だとして当時徹底的な弾圧、調査がなされた模様である。
構成員はいずれも幾何学模様の刻印をその身に刻んでおり、これが足掛かりとなるとも思われたが、該当しない構成員が居ることが判明し断念。
また、調査隊として派兵されたうち、その殆どが全滅又はそれに近しい被害を受けたとして、その存在自体を「特定危険組織」として決定。及び、以降の処置については十帝、ひいては世界連邦の管轄下に置くものとする。
ー 魔女の塔 女王の間 ー
「お前、まさか……」
「察しが良いのね。うちのメンバーにでも会ったことがあるのかしら」
クラリアは先程までと変わらない様子でダリアに言葉を返す。しかしダリアは、そしてダリアの身体は強くそれを拒絶するように反応していた。
「でも私達は仲間を売らない。貴方が誰と会ったかも知らないし、私もそれを詮索するつもりは無い。それに、私がそうである事を知った者には、口が聞けない最期を迎えさせてあげて来たから」
クラリアは淡々と、まるで友人と何気ない日常を語らうかのような表情でそう言うのだ。
「私は『導魔』、クラリア・アナーキー。聖痕の意志を遂行する者。悪いけど貴方には死んでもらうわ、少なくとも障害の一つになりそうだし」
「それを、黙って受け入れるとでも思ってるのか……」
「許可を求めるつもりは無いわ。最初から、誰にも、ね」
クラリアがそう言った瞬間に、彼女の身体にはどこからともなく光が集まり始める。それはクラリアの身体に触れた瞬間に体内へと取り込まれていき、彼女の一部となる。
「広げるのにも苦労したのよ。私の『付与の加護』は、無機物に望んだ力を与えるもの。それが成長し、やがてモノとしての役割を終えた時、全ては私に還元される。ここまで言えば、分かるわよね?」
「回収してるのか、力の全てを……」
「うふふっ。そう。『七色の魔女』として国を支えてくれたテトラも、ハクアもグリムもシーズもエクサもポルトも。彼女達が今日という日まで蓄えてくれた力の結晶は、私に還って来る。投資みたいなものね。それに、エルドバにもフォルリンクレーにも、私の加護の息がかかったモノは多く存在する。貴方を殺す、ただそれだけのためだけど、私は手を抜かないタイプなの」
クラリアが言うように、光の粒子はフォルリンクレーの至る所から、そしてエルドバ全土から一点へと集まってきているのを、ダリア自身の空けた穴から見ることが出来た。
「そのために、テトラさんやハクアさんを殺したっていうのか」
「彼女達の死は、そうね……一応、想定外と言っておこうかしら。私にとってエルドバを支配するのも、平和を保つのもどちらでも良かった。私の目的は最初から、磐石な力の根を広げること。ここからエルドバへ、そして世界へと私の加護の網を広げていくためなら、どんな手段を取る事も許容していた。まあ、最終的な決断を起こしたのは彼女達。つまりは、元々私の感情だったモノが、そう決めただけの事だから」
クラリアにはまるで悪意が無かった。悪人を、悪意の自覚がありながらも悪行に手を染めるものだと定義するならば、彼女は少なくとも「悪人」では無いのだろう。
しかし、その結果として多くの命を奪い、友好国として共存してきた国を滅ぼすことにさえ手をかけたのだ。最早、酌量の余地は無い。
「貴方は強い。でもそれはあくまでも、せいぜい一人の力でしょう?私は、今まで積み重ねられた思い、力、その全ての集合体なの」
クラリアがそう言うや否や、光の粒子は彼女を覆い尽くすようにして一つにまとまる。ダリアはそれを完成させてはマズいと直感的に感じて動き出すが、既に遅かった。
ピカッ!
女王の間を包み込む眩い光は、一瞬にしてダリアの視界を奪い去る。
「くそっ……!」
せめてもの抵抗としてダリアは自分の顔の前に腕を出し、光が直接目に入ることを避けようとする。それは当然、一時の間、動きが封じられることを意味していた。
光が落ち着き視界が戻った後、そこに立っていたのはクラリアだったモノ。幾つにも重ねられたように感じられる気配が漂い、クラリアの背中からは光り輝く翼が片方だけ生えていた。片翼、とでも呼べるだろうか。
「加護の力は使い方次第。私の加護は決して強いとは言いきれない。少なくとも自分に還元されるまでにどうしても時間がかかってしまうし、与える対象にも、デメリットにも注意を払う必要がある」
「……それが今、成されたっていうのか」
「さあ?判断するのは貴方よ、ダリア・ローレンス。私もまだ、自分自身の力に慣れていないから」
凍てつく光籠
クラリアが右手を頭上に挙げると、無作為に氷の柱と光線が、突然女王の間に降りかかる。その威力は床に簡単に窪みを作り出し、幾つも同じ場所に当たれば穴を開ける程だった。
「近づけさせないつもりか……!」
ダリアは一度クラリアから距離をとる。彼女の技には距離に限界があるようで、一定の範囲にのみ攻撃は降り注いでいた。
「逃げ回るのが好きなの?」
地を這う亡者
クラリアは右手を上に挙げたまま、左手を地面の方に向ける。その瞬間、ダリアの足元の地面が崩れ、そこから紫色に変色したような人間の手が次々に生えてくる。
「捕まっても知らないわよ」
「2つ同時に出せるのか!」
明らかに性質の違う2つの能力。それは紛れもなくクラリアが、力を受け取って自身を強化している事の現れだった。
ダリアは地面から距離をとるために翼を大きく羽ばたかせ、空中へと飛び上がった。地面に居続けるのはクラリアの言うように嫌な予感がしたからだ。
「逃げ場がどんどん無くなるわよ?」
炎滅陣 放電
クラリアの目の前には大きな魔法陣のようなものが浮かび上がり始め、どこから現れたのか、炎がその道筋を辿っていく。そしてその魔法陣の直線上にあるものを全て薙ぎ払うかのような波動が、ダリアの方へと向かって発せられる。
紅く、そして雷のような轟音を鳴らしながら、その波動はダリアへと届いてしまう。
(受け流すしかない、か……!)
ダリアはこれ以上回避をする場所が無いことを悟り、あえて正面からその技を受け止める。
しかし波動の力は簡単には収まらず、女王の間の天井を突き抜けてダリアはフォルリンクレーの上空へと放り出されることとなる。
空中で翼を広げるダリアの額からは血が流れていた。波動によるものか、天井との衝突の衝撃によるものかは定かでは無いが、クラリアの加護の解放によって劣勢を強いられているのは間違いなかった。
「どうかしら、私が命を与えた執政官達の力は……?」
クラリアはダリアの居る空中まで上がってきた。足元には光の円のような模様が描かれており、それが彼女を支える足場となっている。
「これでもまだ、貴方は私に抵抗する?」
クラリアはダリアに敗北を認めさせるかのような発言を行うが、ダリアはそれを無視して言い放つ。
「負けることを考えて戦う奴なんている訳ないだろ」
「あら、責任感が強いのね」
そして勝負は最終局面へと移っていく。
作者のぜいろです!
フォルリンクレーサイドの話である「命の価値」というサブタイトルが付いた話は残り2話で終了します!ただ、第4章が終わるまではもう少し時間がかかってしまいます!
想定よりも長い(細かい部分を書きすぎた)ので、皆様に着いてきて頂けているか不安ですが、今後とも応援よろしくお願いします!
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