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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第4章 獣の王国と魔導王朝編 ー生きとし生けるものの価値ー
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命の価値 ep.10 導魔

シンの精神が変容した時、身体に変化が訪れる。瞳孔に映る月の紋様。赤く光る目。「紫の魔女」ポルトはそれを「バルウェスクの民」と呼んだ。


シンの身体能力の飛躍はポルトの想定を遥かに超えており、ポルトは自分ではシンに勝てないことを察し、自決を選んだ。その力はどこかへと還っていく。










シンとフィスタ、そしてフォルリンクレーの国民達に脅威を与えた「紫の魔女」ポルトは、自らその命を断ち、彼女の力は「緑の魔女」グリムと共にクラリアへと還っていく。


「シンさんっ!」


その場に無防備に倒れ込みそうになったシンの体を、フィスタは支えた。力の入っていない成人の身体は重く、フィスタは一緒に倒れ込むようになってしまう。


「悪ぃな……」


「急に、どうしたんですか……?」


「反動、だろうな……。少なくとも今の俺に扱える力じゃ無いって事か……」


シンは自らに起きた「覚醒」とも呼ぶべき変化について思いをめぐらせていた。「バルウェスクの民」、ポルトが言ったその名前が、シンの脳にはこびりついていた。


「こんな所で……止まってらんねぇよな」


無理をして立ち上がろうとするシンを、フィスタはその場に押さえつける。


「まだ動いちゃダメですよ!そんな状態で、戦えるわけないじゃないですか!」


「今行かねぇで、どうすんだよ……!」


「……。シンさんは、ダリアさんを信じてないんですか?」


背後から伝えられたフィスタの一言は、シンの動作を止めさせるほど核心を突いていた。


「隣に立つって、強くなるって。それは良いことです、多分。でも、私達は『仲間』ですよね?だったら、私達もダリアさんを信じましょう。彼がそうしてくれたように」


振り返った時に見えたフィスタの表情は、我が子をなだめる母のように穏やかだった。シンの尖った心に染み渡るように、暖かい水に包まれていくように、フィスタの感情が流れ込んでくる。


「待つだけが怖いなら、私もここに居ます」


「すまねぇ……」


シンは己の実力不足から来る足踏みを、歯痒く思う。まだ、足りてない。本当の意味でダリアと肩を並べる為に、自分に足りていなことはいくらでもある。それを、シンは痛感する。


「勝てよ、ダリア」









ー魔女の塔 最上階 女王の間ー


俺の意識は、もう一つの人格である『ラグドゥル・フォン・ソロキオット』、すなわち「死」を司る古代悪魔と少しづつ溶け合うようにして重なっていく。




「俺に力を貸せ、ラグドゥル」


「随分と強欲になられたのですね、主人(マスター)


「俺はいつも、遅すぎるんだ。だから、大切なものを拾おうとしても取りこぼしてしまう」


「そういうものですよ、人生とは。後悔の無い人生とは退屈で、それ以前に有り得ないのですから」


「でもこれ以上何かを失ってしまえば、俺はきっと、俺で居られなくなる」


「仲間、ですか」


「俺はあいつらと一緒に居るためなら、なんだってする。悪魔にだって身を売ってやるさ」


「ふふっ。やはり、貴方を選んで良かった」







漆黒とも呼ぶべき混じりの無い純粋な黒色の腕、そして脚。背中から生えた空を掴む鋭利な翼、未完全であるが故か片方だけが主張する巻角。目は黄色く光り、その場の生命を萎縮させるエネルギーでも発しているかのようなおどろおどろしさに満ちていた。


最早それは、人々が想像する悪魔「本来」の姿。人を陥れ、絶望を届ける死神の如き存在感が、静かに漂っていた。


「人間を辞めた姿、という訳?」


クラリアは目の前に現れたダリアが変貌した姿に、驚きを見せることなくそう言った。


「……人間だよ、ちょっとだけ特別な」


そう言ってダリアは、右の人差し指をクラリアの方へと向ける。指の先には黒い稲妻がはしり、黒いモヤがバチバチと音を立てながら凝縮されていく。




黒砲(プルート)




ダリアがそう静かに呟いた瞬間、女王の間は突然静寂に包まれる。巨大なエネルギーの収縮、そして発散。その行為の影響で女王の間の大気は一瞬、()()()()()()




クラリアはその技が起こす最悪の未来を想像した。それを感じ取ると同時に、自身の限界を越えたスピードでその場にしゃがみこむ。それは最早反応、と言うよりも根源的恐怖による反射というべきものだった。




ドゴオオオオオンッ!




黒色の光の瞬きから数秒遅れて聞こえてきた爆発音。その音は同時に発生した爆風と一緒になって、女王の間へと流れ込んで来る。


「くっ……!」


風の影響を受けて立ち上がることの出来ないクラリアと対象的に、ダリアはその脚の先から生えた爪を地面に食い込ませ、暴風の中で確かに立ち続けていた。


「出鱈目な能力ね……!流石にここまで一人で来るだけのことはあるわ」


風が収まり、クラリアは何とか立ち上がる。しかし、目の前にいる「怪物」との差は先程までと何ら変わりはしない。


「……()()()()()()()()


ダリアは黒いモヤを集合させ、手に剣を握る。その形が、彼自身の身体と同じように姿を禍々しいものへと変えていたのは、言うまでもない。


「ここまで俺を来させてくれたシン、フィスタ。一緒に戦う決意をしてくれたテトラさん、道半ばで殺されたハクアさん……。全員の意志を、俺は継いでる」





悪魔の細剣(ラピア・ディアブロ)





その剣は「死」を司る悪魔が愛用されたとされる剣の模倣品。すぐにでも折れそうな細さながら、奪った生命は数知れない。死の音を感じさせない程の気品と静けさをもって、ダリアは剣を構えた。


「だから、お前の悪夢はここで終わらせる」


ダリアは剣を真っ直ぐに投げた。切り裂く、突く、両断する。そんな思いつく限りの剣の使い方とは明らかに異なるダリアの行動に、クラリアは一瞬面食らう。


「何……!」


その剣はクラリアに命中すること無く真横を通り過ぎる。一度の交戦ですぐに再来した、二つ目の()()。何故自分を狙わないのか、クラリアは考える間を要してしまった。


それと同時に、剣に意識を取られ目の前にいたはずのダリアの姿をクラリアは見失う。次の瞬間には、後方からの斬撃がクラリアに襲いかかる。飛び散る鮮血と、クラリアの苦悶の表情、そして小さな悲鳴が女王の間に響き渡る。



「普通、定石、攻略法、型……。意識せずとも生まれてしまう固定概念は、その時点で成長を止める。今の俺にはそれに縛られない動きを導いてくれる奴が居る」



ダリアは黒衣天蓋(こくえてんがい)によって、自身の中に眠る「ラグドゥル」の力を今まで以上に引き出すことが可能になり、それに加えて意識の共存を行うことが可能になっていた。


つまり、力の一部を借りているだけに過ぎなかった「闇纏(やみまとい)」と最も違う点は、ダリアの精神世界において指示を出すラグドゥルとの共闘が、実現できることになったことである。





主人(マスター)はまだまだ荒削りですが、私の考えを忠実に再現する実現性はあるようですね」


「お前と話しながら敵と戦うのは疲れるんだけどな……」


「では身体をお貸し頂けますか?」


「それだと俺の意識を完全に持ってくだろ」


「そんなことしませんよ。私は主人の忠実な下僕ですので。今まで助けてきた実績があるでしょう」


「でも、古代悪魔なんて物騒な呼び名じゃないか」


「……」


「その件についてはまた詳しく聞かせてもらうからな」


「……お手柔らかに」






ダリアは、能力の本来の持ち主であると考えられるラグドゥルによる指示を受け、能力を実行する。言わば自身の体を媒介とした攻撃手段を確立させた。それこそが「黒衣天蓋」の正体であった。






「お前に勝ち目は無い、クラリア・アナーキー」


ダリアは剣をクラリアの方に向け、そう言い放った。虚勢でも過信でもなく、自分の状態を理解しているからこそ出る発言だった。


それを聞いてクラリアは黙り込む。しかし、その様子は意気消沈しているようには見えない。まだ奥の手を隠し持っているかのような、そんな怪しさを秘めていたのだ。




「……力は還る、主の元へ」



クラリアは床を見つめたまま何かを話し始める。



「『導魔』の名において詠唱する」





光の禍根 ついぞ果つ

零るる涙 一入に

回る輪廻と 生まれる歪み

鐘鳴り止まず 終と為す





それは終わりの始まりを告げるもの。過去に消えたはずの「遺恨」とも呼ぶべき思想。しかし希望を継承するものが絶えず居るように、絶望もまた語り継がれる。




クラリアが詠唱を終えた瞬間、額に()()紋章が浮かび上がる。ダリアは、それを知っていた。




聖痕(スティグマ)……」


クラリアは不敵な笑みを浮かべ、ダリアを見据える。その目からは光が消え、自律した何かの意志を遂行する()()にさえ思えた。











作者のぜいろです!


本章も遂にクライマックスといったところでございます!ダリアとクラリアの戦いは勿論たっぷり書かせて頂きますが、『獣の王国と魔導王朝編』は、これで終わりを迎える訳ではありません。この謎を解くヒントは、少し前の話を見て頂けたら分かるかもしれませんね。


よろしければ、いいね、ブクマ、評価、感想等お待ちしております!


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