命の価値 ep.7 大広場の戦い
フォルリンクレーの女王、クラリア・アナーキーと対峙したダリアとテトラであったが、彼女の守護兵の前にその道を塞がれてしまう。
そして2人を待ち受けていたのは、テトラの存在の消滅という最悪のシナリオだった。
自身の無力さ、愚かさを痛感したダリアは、新たな姿「黒衣天蓋」を解放する。
物語はそこから少し遡り、大広場でグリムとポルトと対峙するシン、フィスタへと移る。
「くそっ、近づけさせねぇつもりかよ!」
シンはフォルリンクレーの執政官の1人、紫の魔女ポルトと対峙していた。ダリアを魔女の塔へと向かわせるために、障害となる執政官を留める決意をしたシンとフィスタだったが、苦戦を強いられていた。
「当たり前でしょう?近接型の戦い方をする貴方に近づくのはリスクが大きすぎるもの」
ポルトは大広場の周りに位置させていた毒を纏った獣達を、シンに向けて攻撃させていた。獣の大きさや特徴はそれぞれに違っており、シンは獣達各個に合わせた対応を迫られることになっていた。
「鳥型、獅子型ぁっ!」
襲ってくる獣には全部で3つのパターンがあることをシンは既に見抜いていた。四足歩行で牙や突進を主体に攻撃してくる獅子型、空中を飛行しており毒を撒き散らしながらも時たま滑空してくる鳥型、そしてサイズは大きくないものの周囲の獣と連携をとって攻撃してくる二足歩行の人型であった。
獣達の大きさは個体によって異なるものの、ポルトによる操作がなされているのか、獣特有の知能の低さのためか、どの型であっても基本的にワンパターンな攻撃方法しか取ってこない。
しかしそれでもシンを苦しめていたのは、ポルトによる毒の存在と、際限なく湧き出てくる獣達の数の問題であった。
「おらぁっ!」
シンは大剣を使って獣達の頭部や胴を両断するが、その度に禍々しい見た目をした毒の混じった血がその場に飛び散り、それは段々と足場を侵食していく。
「随分と狡い戦い方をするもんだな。そんなに俺と直接やるのが怖ぇのかよ」
「自信家なのね。でもその挑発には乗らないわ。私は、自分が傷ついてまで誰かに執着するようなことはしない。貴方に負けると判断すればここから逃げることすらも選択肢に入れるほど、ね」
ポルトの考えは、シンには到底理解出来ないものだった。勝負を受けながら、自分に危険が及ぶことを察したならばどんな状況でも逃げる、という思考過程はシンの中には存在していなかったからだ。
「へぇ、じゃあこうしたらお前は、多少本気になってくれるのか?」
命中特化 50%
速度特化 50%
シンの両目は青く光ると同時に、瞳孔には照準線が浮かび上がる。それに伴ってシンの持つ武器は大剣から通常の状態へと姿を変えていく。
「何を……」
ポルトが言葉を漏らしかけた時、眼下ではありえない光景が起こっていた。
シンを取り囲んでいたはずの獣達は無惨にもその体を切り裂かれ、血飛沫が舞う広場にはシンがただ一人立っていたのだ。
シンは毒の血を浴びることなく一時広場の中心を離脱し、広場の周囲にある建物の一つの屋根に立ってポルトを見下ろした。
「お前が何体手先を出そうとも、生物には体を動かすための核が必ずあるんだよ。それに加えてワンパターンの動き。お前に辿り着くための手筈は整った」
そう言ってシンは自分の持つ剣の先をポルトの方に向ける。次はお前だ、と言わんばかりのシンの態度に、ポルトは少しだけ神経をなぞられたような気がした。
「……へぇ。もっと考え無しに突っ込んでくるかと思ったのだけれど。意外と冷静なのね」
「力だけで押し切れるとは思ってねぇよ。少なくとも、今の状況だとな」
シンはそう言うと、建物から地面に降り立ち、広場で行なわれているもう一つの戦いに加勢する。
「無駄な抵抗、やめたら?」
「……ひぃぃぃっ!」
広場内を逃げ回るフィスタを、無情にもグリムの生み出した植物が追従する。植物はグリムの意図を遂行している、というよりも動くものに対して反応しているようだった。
果てなき渇き!
フィスタは自分に襲いかかる植物に直接手を触れる。その瞬間にフィスタが触れた部分からは水分が抜け落ち、突如枯れてしまう。
「……やっぱり、植物の性質は変わってない!」
「その力……。貴方も『加護持ち』なのね」
「貴方も、って……」
「私は違うわ。クラリア様に授かっただけだもの。でも、与えられた力の可能性を広げたのは確か」
グリムはフィスタが自分の天敵であることを認識した。どれだけ植物を生み出し続けたとしても、それを動かすための根源的な水分を奪われるのであれば意味は無くなってしまう。
グリムがクラリアから付与された力は「大地の源」。その能力は大まかに2つに分けられる。
一つは植物に命令を与えて操ることの出来る力。1つの植物に複雑な命令を与えることも出来るが、基本的には複数の植物に同様の命令を与え、その範囲内で自由に行動させることが主要な使い方である。
もう一つは植物に急激な成長を促すことが出来る力。グリムは日頃の研究によって植物同士を交配させ独自の植物を生み出すことに成功しているため、能力と掛け合わせることでその種子を瞬時に成体へと変化させることができるようになっている。
(だからこそ、私の力じゃあの子の加護に勝ることは出来ない。根本的に相性が良くないみたいね)
グリムはその言葉を心の内に留め、胸のポケットから新たな植物の種子を取り出す。
「命令よ、あの子を取り囲む壁になりなさい」
グリムはその種子をフィスタの方に向かって投げた。グリムの力によって種子は空中で成長を遂げ、根が生えたほどのタイミングでフィスタの足元に落ちる。
その植物は、「爆発的な増殖力」を特徴とする食虫植物を基にしている。時にその植物は、自らの肉体を食らい続けることによって成長を促す。
グリムの生み出した生物兵器の一つ、「グラントドール」。それはグリム自身の中でも利用には慎重を要すと決めているものだった。
グギャアアアアッ!
グラントドールは地面に根を張り巡らせ、瞬時に芽を出した。その芽は、左右に口を開くようにして現れると、その表面に鋭利な牙のようなものを生やす。
「な、なんですかこれぇっ!」
フィスタは目の前に現れた気色の悪い植物から本能的に距離をとる。その行為は期せずして、グラントドールの形成する肉体による檻から逃げるきっかけとなった。
「こんなの、中に閉じ込められたら大変じゃないですか!」
目の前で急成長する食虫、いや最早食人植物と成り果てたグラントドールを見てフィスタは言う。
しかしグラントドールを放つという行為は、グリムにとってはあくまでも目標を遂行するための手段に過ぎない。
「戦闘は自分の正義を相手に押し付ける手段でしょ。そこに卑怯も残酷も無いわ。勝つためならなんだってする、どんな手段だって用意する。あなたにその覚悟はあるの?」
グリムの言葉は確かに的を得ていた。フィスタもそれに納得したが、グリムの様子はどうもおかしいように見えたのだ。
「私には、シンさんやダリアさんのような強い信念はありません……。二人がこの戦いにかける思いも、十分に分かってあげられない。でも……」
フィスタは戦闘中とは思えない様相でグリムに語りかけた。
「私の正義は、あなた達の行為を許せるほど優しくない!もっと自分よがりです!私は、エルドバの人もフォルリンクレーの人にも仲良くしてもらいたい、ただそれだけです!」
グリムは、自分の正義とは全く異なる意見を持ったフィスタの言葉に、驚きを越えた感情を得た。一歩間違えば人が死ぬ戦場でこんな生ぬるいことを言う人間が居るのか、と驚嘆したのだ。
「そんな妄想……」
グリムが話し始めた瞬間に、フィスタの横にシンが降り立った。シンはフィスタの話を聞いていたのか、少し口角が右上がりになっている。
「ホントだよな、そんな夢みたいな話ある訳ないだろ」
「シンさん!私は真面目に考えてるんですよ!」
「まあ、そうだな。お前はそういう奴だ。だから、一人で戦うのが難しいなら、もっと俺に頼れ。この戦いは初めから一人じゃねえ、二人での戦いだろうが!」
シンは剣をグリムとポルトに向けて言う。
「てことで第2ラウンドだな。2人まとめてかかってこいよ、執政官共っ!」
作者のぜいろです!
シンとフィスタのペア、作者はとても好きな組み合わせになってます。今後ダリアの仲間が増えていく(予定)につれ、色んなペアを作れたらいいなと思っている今日この頃です。
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