命の価値 ep.4 始まりの炎
ポルトとグリム、二人の執政官を前にしてダリア達は対峙する。テトラの言う「支配」が既に始まっていることを察したダリア達は、二人の奥にいる黒幕「クラリア・アナーキー」を倒さなければいけないことを悟る。
シンとフィスタは二人の執政官を大広場に抑えることで、ダリアをクラリアの元へと向かわせる道を作り出す。
託す者と託される者、二つの思いが合致する。
「まさか、こんなことになってるなんて……」
フォルリンクレーの大広場で起こっていた惨劇は、俺達の想定よりも遥かに甚大な被害をもたらしていた。テトラ達の同胞でもあるはずの執政官達が、まさか国民に手をかけるとは思ってもみなかったからである。
「やっぱり、大元を叩くしかないみたいだな……!」
俺は目の前に近づいてくる魔女の塔を前に、気持ちを入れ直す。今まで何度も味わってきた、最終局面。これまでもずっと、俺は誰かのおかげでここまで来ることが出来ていた。
だからこそ、ここからは俺の仕事だ。シンもフィスタも、俺を信じてくれたんだ。その期待に応えられないのなら、俺の存在価値は無い。
俺はそんな気持ちを抱えながら、魔女の塔の元まで辿り着く。女王が居る場所、何処なのかまではまだ検討がついていないが、塔という場所において重要な人物が居るのなら、それは恐らく……。
「頂上か」
俺は魔女の塔の頂上を見つめる。これだけ高い塔をわざわざ作るくらいだ。その目的はこの国を見下ろす、人の上に立つ……。理由はいくらでも考えられるだろうが、俺の直感はそれを告げていた。
「行くぞ……!」
ビュンッ
そう言って俺が羽を更に広げて高度を上げていこうとした瞬間、魔女の塔の頂上に位置する部分から、目で追うことも出来ない速度で光線が放たれ、俺の翼を貫いた。
「なにっ……!」
俺の翼の光線が命中した部分はポッカリと穴が開けられ、その影響でバランスを取る事が難しくなる。
「くそっ!」
俺は何とか安全に着地するために、自分の足に瞬時に黒色のモヤを集中させる。昔に比べて随分とこの力の扱いも上手くなったものだと、我ながら思う。
闇纏 黒脚!
突然の事態にも何とか対応し、俺は地面が陥没するほどの衝撃を足から受けるが、とりあえず体の方は無事らしい。
「本当に頑丈な体だな……」
俺はそう言いながら、そびえ立つ魔女の塔を見上げる。空中から突入しようにも先程の光線を受ければ今度は無事では済まないだろう。それに、あの攻撃は恐らくフォルリンクレーの女王のものである可能性が高い。
それならば、尚更上からの突入は困難だろう。
「受けて立つさ」
俺は、魔女の塔に地上から入る入口があることを地上に降りてから気が付いた。しかし、不気味な程に人の気配がしない。国の重要な施設であるはずの場所に警備の一つもないという違和感は、俺の中から拭うことが出来ないままだった。
キイイイイッ……
俺の身長より二倍ほどある木製の扉を押して開けると、そこには明かりが一つもない暗闇が広がっていた。
しかしすぐに、俺は近くに倒れているものの存在に気が付く。外の光を頼りに目を凝らすと、それは既に息絶えた兵士達の亡骸であった。
「うっ……」
思わず込み上げる吐き気を何とか抑え込み、俺は前に進む。俺の体に宿っている古代悪魔「ラグドゥル」の影響によるものなのか、黒色のモヤを目に集中させると、暗闇の中でも昼間のような視界を得ることが出来た。
魔女の塔の内部はやはり、人の気配が少しもしない。シンとフィスタが食い止めてくれているからか、他のテトラさん達の同胞の姿も見当たらない。
その時、微かに声がした。
「……か。……誰か居……のか!」
その声に、俺は聞き覚えがあった。それは間違いなく、俺にこの国の置かれている現状を話してくれた、テトラさんの声だった。
しかし声は同じ階からは聞こえない。まさか、下にいるのか……?
闇纏 黒腕!
俺は自分の直感を頼りに、闇を纏った腕で思いっきり床を叩いた。激しい衝撃と共に、音を立てて簡単に床は崩れ、俺は地下の空間へと投げ出される。
地下に広がっていたのは、何も無い空間。1階よりもどんよりとした空気が漂い、嫌な雰囲気が立ち込めていた。
そしてその奥に、見覚えのある姿で牢に入れられたテトラさんの姿があった。
「……ダリア?」
「テトラさんっ!」
俺はすぐに牢を破壊し、テトラさんが繋がれている鎖を解いた。テトラさんは憔悴しているのか、前に会った時よりも酷くやつれているように見えた。
「何故君がここに……」
自由の身となったテトラさんに、俺の見た光景を簡潔に伝えた。それを聞いて彼女は、顔を曇らせる。
「そうか。外ではもう、2日も経っていたのだな……。私には、止められなかった」
止められなかった。その一言で、俺は今の惨劇と同時に起きている事態を理解した。
「まさか、エルドバが……!?」
「あぁ、あいつらのことだ。二手に別れて既に手を回しているだろう」
それを聞いて、俺の中にはエルドバで出会った人々の顔が浮かぶ。キエルさん、トルーグさん、キャッツさん……。無事だといいが。
「君は、やはり来てしまったのだな」
「……はい。戦うべき、理由ができたので」
「……」
テトラさんは恐らく、俺をフォルリンクレーとエルドバとの間のいざこざに巻き込んでしまったことを悔いているのだろう。彼女の表情を見るだけで、そのことは容易に想像出来た。
「テトラさん。俺は昔、故郷の人達をこの手で殺してしまった過去があります。そのせいで俺は自分を責めて、生きているのが辛いとさえ思う時がありました。だからこそ俺は、目の前に救うことの出来る人が居るなら、今度はこの手で救いたい。もう二度とあんな思いはしたくないんです……!」
俺は、自分の手が血に濡れていたあの日を思い出していた。その心の傷は今後も恐らく癒えることは無い。だが、前を向かない訳にはいかない。俺はまだ、生きているのだから。
「ダリア……。そうか、私は君の覚悟を見くびっていたようだな」
テトラさんは一度目を閉じ、大きく深呼吸をする。自分の生まれ育ったであろう国に逆らおうとする彼女の意思は、確かに俺の元にまで届いていた。
「行こう、ダリア。君の力を……貸して欲しい」
「勿論です、テトラさん!」
俺とテトラさんは、志を一つにして魔女の塔の頂上を目指す。この国に巣食う、本当の黒幕と対峙するために。
ー魔女の塔、最上階 女王の間 ー
「さっきの影、やっぱり来てるのね……」
フォルリンクレーの女王クラリアは、静かに国を見下ろすことの出来る窓を閉めて、豪華絢爛な部屋をゆっくりと歩いていく。
「面白そうなことになりそうね。大罪を犯した少年君……」
クラリアはクスッと笑い、椅子に座り込んだ。自分が女王であることを誇示するかのようなその態度は、誰の目に付くこともない。
「貴方が私に逆らえるかしら、テトラ。自分が人間では無いという事実を知って尚、貴方の生きる意味はどこにあるの?」
クラリアは、まるで未来が見えているかのようにダリアとテトラの来訪を予測する。魔導王朝の王は、確かにその時を待っていた。
作者のぜいろです!
フォルリンクレー側ではシンとポルト、フィスタとグリムのマッチアップが行われることとなりました!二人は果たして執政官に勝てるのか、そしてダリアの行方は……?今後の展開にご期待ください!
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