命の価値 ep.3 託される者達
フォルリンクレーの国民達に対して悲惨なゲームを行うポルトの前に降り立ったのは、かつて自分も同じような罪を犯した「殺戮の少年」ダリアだった。
それに続くようにして、シン、フィスタらの一行も現場に到着する。
自分と同じ悲劇を繰り返させないため、ダリアはポルト達に立ち向かうことを決める。
ー突入数分前 フォルリンクレー首都近辺 ー
フォルリンクレーの奴隷市場にて商人の毒牙にかかったリスの獣人パウエを郊外の宿に預け、ダリア達は作戦の遂行のためにフォルリンクレーの首都へと近づいていた。
数日前、テトラとハクアが生誕祭についての周知を行なっていた場所を目指して三人は歩いていく。
魔導王朝の実態を知ったダリア達ではあったが、実際の所国の変革に必要な要素を自分達だけで集めるのには限界があった。
そのため、ダリア達は事前に策を練って来たのだが、どれも状況によっては失敗しかねないものだった。
ただ、シンから作戦の根本に関わる仮定がダリアとフィスタに伝えられた。
「ダリア。あくまでも俺達はフォルリンクレーの王政を倒すことが目的なのか?」
「それは……まだ分からない。でも、テトラさんみたいな正義感の強い人が居るのに、友好国の人間を奴隷にしているっていう状況が起こるとは考えにくいからな……。他に裏でフォルリンクレーに悪影響を与えている人間が居るって考える方が自然だろうね」
「なるほどな。あいつの言い方からすると、少なくとも奴隷の件に関わってんのは、改革派の奴らって事になるな」
「えっと……七色の魔女、でしたっけ……?」
「あぁ。テトラさんとハクアさん。そしてもう一人の味方以外は、少なくとも奴隷に対して容認してる可能性があるってことだろうね」
「ムカつく話だな……」
フォルリンクレーと同じように、国民を騙して国政を敷いていた、「砂の王国」ザバンの出身であるシンは顔をしかめる。
「とにかく、そいつらのトップに立ってる女王様の生誕祭ってなれば、少なからずそいつらも出てくるだろ。まあ、憶測にしかならねぇけどな」
「可能性はありそうだ。テトラさん達も逼迫してるみたいな様子だったし、ここからは気を引き締めて行こう」
「待て、ダリア」
生誕祭が行なわれているであろう場所を探すために歩き出そうとする俺を止め、シンは言葉を放った。振り向くと、いつになく真剣な面持ちのシンがそこには居た。
「もし、俺達が戦うべき相手が『女王』だったら、お前は俺を置いてそいつを倒しに行け。何があっても……俺は、勝つ」
ミスティアで気が付いた筆頭騎士ノエルとの実力の差。精霊の神殿で古代悪魔ラグドゥルにいたぶられた記憶。勝ち切ることの出来なかったエルドバの近衛騎士リュドとの戦い。
シンはこの旅で、幾度となく自分自身を責めてきた。自分がもっと強ければ、自分がもっとダリアにとって信頼出来る人間であれば……。
勿論ダリアがそんなことを気にしなくても自分を隣に置いて旅をしてくれる事は何となく察しがついていた。しかし、それではいけないと同時に気がついていたのも、確かだった。
「頼む、これは俺自身だけの問題じゃねえ。俺には俺に与えられた役割がある。そう思ってんだ」
シンの態度は、俺にとっても意外では無いものだった。エルドバでわざわざリュドさんに啖呵を切ってまで、自分の実力を示そうとしたシンの覚悟を、俺はもう知っている。
「……一人で戦ってるんじゃない。俺達は、三人で一つだ。でも、シンが俺の事を信頼してくれてるのは分かったよ」
俺はシンの胸に右の拳を少し強めに当てた。そしてシンに向かって言う。
「頼んだぜ、相棒」
「……おう!」
「ちょっと二人とも……。私の事、忘れないでくださいよ?」
「お前は戦えねぇだろ」
「戦えますよ!私だって精霊の神殿で自分の加護と向き合ったんです。もう守られるだけのフィスタじゃありません!」
「じゃあ、敵が来ても一人で戦えよ。成長したんだもんな?」
「そ、それは……!シンさんはいざという時は守ってくれるって信じてますから……」
「へっ、また子守りかよ」
「シン……」
三人はこれから緊迫した場面に直面するかもしれない、という中でもいつもと変わらない様子でいた。それがダリア達にとっての「いつも通り」だった。
ー 現在、フォルリンクレー首都大広場ー
「何やってんだ、ノロマ!」
シンは、自分の半身程もある巨大な剣を振って植物に捕らわれているフィスタを救い出す。空中で自由の身になったフィスタは、そのままシンに担がれて地面へと着地する。
「シンさぁぁぁん……」
「簡単に捕まってんじゃねえよ。こういう状況なんだ。何としてもダリアをこの先に行かせるぞ」
「努力はしますぅ……」
シンは大広場から十分に見ることの出来る、象徴のように聳え立つ塔を見ながらフィスタに同意を求める。
「ダリア!手筈通りにやれ!」
「あぁ……。気を付けろよ、シン、フィスタ!」
ダリアは黒い翼を広げて大広場の上空へと飛び上がる。しかし、それを見た執政官の二人はすぐにダリア達の意図を察する。
「……行かせない」
「逃がす訳がなくってよ!」
グリムが地面に試験管を叩き付けると、フィスタを縛り付けた植物達がまたもや急成長し、勢い良くダリアを追従し始める。
ポルトも口笛のようなものを鳴らし、元は鳥類であったと思われる毒に侵された獣達をダリアの方へと向かわせる。
二人の魔女の攻撃がダリアに届くと思われた瞬間、ダリアは剣を生み出し、攻撃に向かってそれを構える。
闇をも照らす一閃 !
ダリアがその瞬間に放った一撃は、斬撃の直線上に留まっていた物全てを等しく貫いた。グリムの植物も、ポルトの獣達も、ただ一瞬のうちに葬られることとなる。
斬撃が終わって少ししてから、斬られた事にようやく気がついたのか、地面には亀裂が入り巨大な溝を形成する。
「通してもらうぞ、この国の、エルドバの未来のために」
そう言ってダリアは、二人の執政官による障害を突破して、魔導王朝の女王「クラリア・アナーキー」が棲む魔女の塔へと飛び立った。
「ちっ……!」
ポルトは顔を曇らせ、懲りもせずダリアに向かって獣達を追わせようとする。しかし、その瞬間に背後に迫る気配を感じ取った。
ギィンッ!
ポルトは体に攻撃が触れるギリギリの所で、それを自分の腰に差した剣で受け止めた。
「行かせてやれよ、加虐性愛者野郎っ!」
「自分で手を下すのは嫌いなのよね……。そんなに死にたいなら特別な毒を使って殺してあげるわ」
「紫の魔女」ポルト vs. シン・ネオラルド
「……ポルト!」
グリムはポルトがシンによって襲撃されたのを見てそこに駆けつけようとするが、突然目の前に巨大な水の壁がせりあがってグリムの行く先を阻む。
「私だって、やれるって証明するんです……!」
「貴方も、私の邪魔をするの?」
(やっぱり怖いかも……!)
「緑の魔女」グリム vs. 「龍の巫女」フィスタ・アンドレア
期せずして大広場ではシンとフィスタが二人の執政官を食い止め、ダリアはクラリアの待つ「魔女の塔」へ向かう。
作者のぜいろです!
獣の王国と魔導王朝編も後半部分に差し掛かっております。個人的にフォルリンクレーサイドで注目してもらいたいのは、シンの動向についてです!是非お楽しみに!
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