おまけ① チーズケーキ
連載100部分を記念したおまけ回になります!
本編ではシリアスシーンが多いので、ダリア達3人の日常風景をお届けします!
ダリア一行は今、史上最大の仲違いの危機を迎えていた。
「……シン、流石に今回は許せないぞ」
「マジで悪ぃと思ってるよ……」
「あわわわ……」
時は少し前に遡る。
「そういえばダリアさんとシンさんって、誕生日いつですか?」
「俺は11月25日だな。まああんまりいい思い出ないけどよ。ただ、昔ガガリアンさんが買ってくれた腕輪は今でも大事につけてるよ」
そう言ってシンは自分の右腕をフィスタに見せた。そこにはシンの言う通り銀色の腕輪がはめられており、名前まで丁寧に刻まれている。
「へー、凄いですね!ダリアさんはいつですか?」
フィスタは明るくそう聞くが、ダリアは口を結んで明後日の方向を見る。
「……分からない。俺は、捨て子だったから」
それを聞いて、フィスタは自分の犯した誤ちに気が付く。そしてすぐに、シンの腕を引っ張ってダリアより少し先を歩くようにして、耳打ちをした。
「なんで教えてくれないんですか!私が空気読めないみたいじゃないですか!」
「空気が読めねぇのはいつもの事だろ……」
「それは違います!って、そんなことはどうでもいいんですよ。ダリアさん、目に見えて落ち込んでるじゃないですか」
二人は気づかれないようにダリアの方を見る。ダリアの目からは光が消え、何やらブツブツと独り言を言いながら下を向いて歩いている。
「お前、謝った方がいいぞ。今後のために」
「んなっ!連帯責任でしょう、これは!」
「俺も知らなかったんだよ。あいつ、あんまり自分の話したがらねぇから」
「……まあ、私も深くは聞いちゃいけない雰囲気あると思ってますけど」
「後ろめたいなら何かあげればいいだろ。あいつ、多分なんでも喜ぶぞ」
「シンさんってそういうとこガサツですよね……」
「お前に言われたくねえけどな」
「じゃあこうしましょう!ダリアさんが気に入ったプレゼントを買ってきた方の勝ちっていう勝負をしませんか?」
「へー、俺の方があいつと付き合いが長いってのによくそんな提案出来るな。いいぜ、受けてたってやる」
(2人とも、何話してるんだろう……)
こうして、ダリアの気に入るプレゼント贈呈選手権が幕を開けたのだが、これを巡って事件が起こる。
「ダリアさん、あそこで休憩していきませんか?」
フィスタが指さしたのは、甘い香りが辺りに漂うケーキ屋さんだった。人気店なのか、既に行列が出来ている。
「あ、あぁ。フィスタが行きたいなら良いけど」
シンとフィスタが何やら2人でコソコソ話しているのを見て、ダリアは1人で勝手に被害妄想を膨らませていたのだった。そのためか、フィスタへの返事も若干詰まらせる。
(俺、なんかしたかな……)
「俺は別に用事があるから、2人に任せていいか?」
フィスタが列に並ぼうとした時に、シンはそう切り出した。
「あぁ、分かった。俺達はこの辺で待ってるから」
「おう」
そう言ってシンを見送った後、2人きりになったダリアとフィスタの間では気まずい時間が流れる。
(2人が何を話してたのか気になるけど、聞くに聞けないんだよな……)
(うぅ、シンさんが居ないと会話が始まらないよぉ……)
そう、2人は元々そんなにコミュニケーション能力が高い訳では無い!間にシンという存在が居ることで、3人での会話が弾むのだ。
「ダ、ダリアさんは好きなケーキとかあるんですかっ!?」
盛大に初手で言葉を噛んだフィスタは赤面しながらも尋ねた。
「ケーキか……。昔、母さんが作ってくれたチーズケーキはすごく好きだったな。お祝い事があるといつも作ってくれてたっけ」
「そうなんですね……!」
物事の始まり、きっかけは意外と単純なものだった。ダリアの過去のことについて気になっていたフィスタも、その話の流れでダリアの生い立ちについて聞くタイミングを得たのだった。
ダリアもまた、自分自身のことを明かせる人間が少なかったのもあってか、フィスタに思いのままを語った。
そうこうしている内に、フィスタとダリアの購入の順番が回ってきた。店内に入ると、ショーウィンドウの中に鮮やかなケーキが並んでいる。
口で味わう前に、目で楽しむ。二人は子供心を思い出して、キラキラした目でケーキを眺めた。
「あ、ダリアさん!チーズケーキありますよ!」
フィスタが指さした先を見ると、そこには確かにチーズケーキがあった。しかし、一つだけ……。
「……!」
ダリアは葛藤する。自分の好物であるチーズケーキが目の前にある。先程フィスタと話し込んだせいで、完全にチーズケーキの口になっていた。しかし、それは恐らくフィスタも同様。年上である自分が、ここは我慢するべきだ。
「フィスタ……」
「ダリアさん、良かったですね!チーズケーキ食べられますよ!」
ダリアの言葉とほぼ同時に、フィスタは満面の笑みで答えた。彼女は、ダリアが思っているよりもずっと心優しい人間だった。そう、ダリアは心の中で感じた。
「私、他のケーキも食べてみたいので!あ、でもちょこっとだけくださいね?」
「ああ、もちろん」
二人はそうして、チーズケーキを一つ。そしてフィスタの選んだ2つのケーキを持って店の外へと出た。そこには自分の用事があると言っていたシンが戻ってきていた。
「おお、買えたのか。何買ったんだ?」
「チーズケーキとショートケーキ、あとはモンブランです!」
そう言ってフィスタはケーキ屋で包んでもらった箱を開ける。
その瞬間だった。
「おお、美味そうだな」
シンはその箱の中にあるケーキを一瞥すると、チーズケーキに手を伸ばし、あろうことか一口で頬張ってしまったのだった。
フィスタとダリアに電撃がはしった。それがショックから来るものであることは、言うまでもない。
「……?どうした、二人とも」
フィスタとダリアの間で交わされたチーズケーキの話題、そしてそれが最後の一つであることを知らないシンは、配慮の欠片もなくチーズケーキを飲み込んでしまった。
「何で何も聞かずに食べちゃうんですか!」
「いや、1番美味そうだったから……つい」
「チーズケーキはダリアさんの好物なんですよ!しかもあの店で最後の1個だったんです!」
その時、シンにもダリア達が受けたような衝撃がはしったのは想像に容易いだろう。
ダリアは、ショックを通り越して怒りを覚えていた。そして、物語は冒頭へと戻る。
「な、なぁ。俺が悪かったよ、ダリア」
「……」
ダリアは年甲斐もなくいじけてしまい、捨て子の話をした時以上に落ち込んでしまった。
「次にケーキ屋があったら、俺が買うからよ。なぁ……」
その時にシンが見たダリアの目は、今後二度と忘れることも出来ない程の怒りに満ちていた。シンは思わず後ろにのけ反り、フィスタの姿を探した。
「どこ行った……あいつ!」
今にも暴走しそうなダリアだったが、遠くからフィスタの声が聞こえてきたことによって、事態は終息を迎える。
「ダリアさーん!チーズケーキ、出来たて買えましたよー!」
フィスタが手に持った箱には、確かにチーズケーキの姿があった。それを見たダリアの表情はいつも通りに戻り、幸せそうな顔で大きな口でそれを頬張った。
「シンさん、とりあえず借り一つですね」
「これに関しては否定しねぇよ……」
かくして、ダリア一行の壊滅の危機は免れた。シンはそれ以来、少しだけチーズケーキが苦手になった。ちなみに、フィスタはちゃっかりチーズケーキを2個買ってきたが、その分の代金はシンが払ってくれたようだ。
いかがだったでしょうか?
今後も何かの節目でおまけ回を書いていければと思っていますので、是非お楽しみに!