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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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48.待ちに待った到着なので、

次の日、ショコラが起きると外は小雨が降っていた。あれから夜通し降り続いていたようだ。


「出発できるのか、確認して来る。」


外の店で朝食を済ませると、その足でファリヌは一人どこかへ行ってしまった。彼が帰って来るまで、ショコラとミエルは宿へ戻り部屋で待機だ。


「もしかして、今日は一日動けないかもしれないのかしら?」

「そうですね…。これからイザラへ向けては、大きな川の側を通りますから。増水などしていれば、その可能性も…。」


目的地までは、まだあと半分以上もある。こんなところで足止めを食うかもしれない事になるとは、ショコラは思ってもみなかった。


「そういえばたしか、イザラにも近くを川が流れているのよね。ええと…アントルメ川!」

「ええ、これから通るところもアントルメ川ですよ。イザラはその先、上流方面ですわね。水源はシャルトルーズですから、あちらで雨が降っていなければいいんですけど…。」


ショコラと共に窓の外を見たミエルも、心配そうにしていた。


「シャルトルーズの時も今回も、川を遡って行けば早く着いたのにね。…お天気が良ければ、だけれど。」

「私もそう思ったのですが、“船を使うと人目に付くでしょう”とファリヌさんに怒られてしまいました。」

「ふふふっ。」



――そんな風に、ショコラとミエルが暇を持て余していると「コンコンコン」と、部屋のドアがノックされた。


「俺だ。開けてくれ。」


やっと、待ちかねたファリヌの帰来だ。彼を部屋に入れると、ミエルはしっかりとドアを閉めた。


「それで、どうだったの⁇」

「はい、何とか出発できるそうです。上流はそれほど降らなかったようで、増水も大したことはないと。外に馬車を待たせてあります。急いで出ましょう。

よろしいですね?お二人とも。ここからは御者も一般の方です。車内であっても、くれぐれも気を付けてください。」

「はいっ()()()‼」

「…それでいい。」


改めて気を引き締めると、三人は荷物を持って急いでチェックアウトし、新たな馬車へと乗り込んだ。


今日からは、自由に馬車の外を眺めていいとのお許しが出ている。雨は上がったものの、相変わらず良いとは言えない空だったが、ショコラは熱心に流れていく景色を見続けていた。

他にすることが無いというのはもちろんあったが、それよりも、見たことの無いものが次々と現れては消えていくのだ。一つでも、見逃しては損だという意識が大きかった。

「わあー」だとか、「きゃー」だとか、気になるものを見付けては飽きもせずに歓声を上げ続けていた。

…その様は図らずも“田舎者”のようで、むしろファリヌはそのままにさせておくことにした。


「あっ!川だわ!!本当に大きい…。見て見て、船があんなに沢山‼あっちにはあんなに大きいのが‼」


行き交う船を指差し、ショコラははしゃいだ。


「そうね。」


まるで小さな子供のようだ。ミエルはくすくすと笑ってそれに答えた。


ひとしきり、思い切りはしゃぐとショコラはやがて疲れ、うとうとと馬車の中で舟を漕いだのだった…。



そんなことをしているうちに移動二日目も終わり、夜になって次の宿泊地へ着くと、この日は皆大人しくそれぞれの部屋へと入って休んだ。





翌日、移動三日目。何とか空も機嫌を直し、わずかに薄日が差していた。

この日これからついに目的地、イザラへと着く。


『イザラ領…どんなところなのかしら。着くのが待ち遠しいわ!』


朝早くに出発したものの、最終日も一日がかりの移動になるらしい。

長い…長過ぎる。

今が一番イザラに近い所にいるというのに、これまでで一番、目的地から遠く感じた。窓の外の景色にも慣れてきたからか、ショコラはうずうずと落ち着かず時間を持て余していた。




――そして、やっとの思いで到着した頃には辺りはすっかり暗くなっていた。


馬車を降りた場所は、大通りにある広場だった。もうすぐ夕食時になるというのに、その辺には馬車やら人やらが頻繁に行き交い、賑わっている。これまでの二日間に泊まってきた街よりも明らかに栄えた、大きな街だった。


大通りに面した背の高い建物は、下に商店や飲食店、上は集合住宅になっているようだ。どこもかしこも煌々と明かりが点いている。まるで祭りのようだ。…と言っても、ショコラは祭りになど行ったことが無かったのだが…きっとこんな風なんだろう、と思った。

実家の屋敷もとても大きかったが、建物が沢山並んだ街に比べればちっぽけだと感じた。


圧倒され、移動疲れも吹き飛んだショコラは、口を開け上下左右あちこちをきょろきょろと見回しながら歩いていた。


「シュクル、ちゃんと前を見て歩け。危ないぞ。馬車も通るから気を付けるんだ。」

「はっはい、ごめんなさい、兄さん…。」


ショコラは慌てて前を向き直し、ファリヌとミエルにはぐれないよう、小走りで付いて行った。


「シュクル、姉さんに掴まっていていいわよ。」

「ありがとう。そうするわ。」


言われた通り、ショコラはミエルの腕に掴まった。

それにしても本当に人通りが多い所だ。ここはさながら、夜会でも特に参加者の多い…王宮の夜会のようだと感じた。シャルトルーズの時はもう少し程よかった気がする。

夜にこうなら、昼の賑わいも容易に予測がつく。これから、まずはこれに慣れなければいけないのだな、とショコラは思った。



しばらく歩き、三人は食事を取るために店に入った。ここも活気のある場所だ。わいわいがやがやと騒がしいが、周りは皆楽しげだった。


食事を始めると、癖なのだろう、いつも通りファリヌはさっさと食べ終わり、ショコラはもたもた…()()()()()食べ進めていた。ミエルはと言えば、そんなショコラの方に歩調を合わせているようだ。


「少し席を外す。ゆっくり食べていていいから。」


そう言うと二人を席に残し、ファリヌは手洗いに立った。


――幾らかして席に戻ろうとしたファリヌは、ふと窓の外を見た。そろそろ夕食時が終わった時間だからか、人通りもだいぶ落ち着いたようだ。…ただ、ここも含め酒を出す店はまだまだこれからのようだが…。

向き直し、ショコラたちの待つ方へと歩き出すと、その側の席にいた二人組の男の会話がファリヌの耳に入ってきた。彼らはどうも酔っているらしかった。


「――じゃあ、行くか。」

「けどさあ、片方、ちょっと幼くないかあ?」

「まぁな。でも、圧倒的に可愛い‼」

「それはたしかに。この辺じゃ、ちょっと見ねえよな~。」


酔った彼らの視線の先には…思った通り、ショコラたちがいた。


「だが、俺はもう一人の方だな。」

「よし!決まりだ…」


男たちがおもむろに立ち上がろうとすると、その横をファリヌが大きな音を立てて歩いた。


「ミエル!シュクル‼終わったか?そろそろ出るぞ!」


ざわざわとした店内ではあったが、必要以上の声を出してファリヌは言った。


「…びっくりした。ゆっくり食べてていいって言ったじゃない。どうしたのよ、兄さん?」

「いいわよ姉さん、私も食べ終わったし。それじゃ出ましょう。」


戻って来るなり、なぜか大声で怒り始めたと感じたミエルは、ファリヌの言動に納得が出来なかった。ショコラも少し腑に落ちないとは思ったが喧嘩になりそうだったので取りなすと、ミエルも渋々店を出る準備を始めた。

そんなショコラたちの後ろで、ファリヌはギロリと凍てつくような眼差しで二人組の男たちを睨みつけた。

背筋が凍った彼らは、一瞬にして酔いが醒めた。


「…なんだよ、連れがいたのかよ…」

「なんか、もう、帰るか…」


男たちのブツブツと呟いた声は聞こえなかったが、ファリヌは彼らを尻目に見ると、ショコラとミエルを伴ってそのまま店を出て行った。



「すっかり遅い時間になっちゃったわね…。疲れてない?シュクル。兄さん、今日はどこに泊まるの?」

「言ってなかったか?ここでは部屋を借りてるから、宿には泊まらない。」


歩きながら話していたが、先を行っていたファリヌは立ち止まり、こちらを振り返るとじっとミエルを見た。


「何?」

「……文句、言うなよ。」


そしてまた前を向くとショコラたちを先導し、とある建物のところまでやって来た。

そこは、これまで歩いて来たのと同じく大通りに面した、集合住宅のようだ。もちろん何の変哲もない。その辺にあるものと同じだった。


ファリヌに付いて階段を一階、二階と上って行くと、三階の、ある部屋の前に辿り着いた。

ガチャリ、とファリヌが扉の鍵を開けた。


「――ここが、俺たちのしばらくの住処だ。」


明かりを点けると、中の様子がようやく分かった。屋敷のショコラの部屋と比べれば当然狭いに決まっていたが、ここまで来る間に安い宿の部屋をはさんでいたお陰か、思ったよりも狭くは感じなかった。

小さめのキッチンにまずまずの広さのリビングダイニング、その他に部屋も二つあった。家具類はすでに全て用意されていた。


「言っておくが、これでも“俺たち”には過ぎた部屋なんだ。」

「…もう、十分わかっています。」


ファリヌとミエルの会話など余所に、ショコラは一人、早くも嬉々として部屋の隅々を探検して回っている。それを見ていると、ここまでの宿の事もあり、ミエルは何か反論しようという気にはならなかった。


「それよりも、部屋の中では話し方を戻してもいいですか?何だか()()で…」


…気兼ねない喋り方が“窮屈”とは、ミエルには余程「侍女魂」が染み付いているらしい。そこまで強要をする事もないと思ったファリヌは了承することにした。


「まあ、いいでしょう。ショコラ様に庶民的な振る舞いが染み込み過ぎてもいけませんから。でも!きちんと戸締りをして、決して会話が外には漏れないようにすること!ドアを開けた時には、そこはもう外だと思うこと!…これだけは徹底してください。いいですね?ショコラ様もです‼」

「はあーい!」


どこからともなく、ショコラの返事が聞こえてきた。

これで一先ず、いつも通りでいられる場所を確保できたとミエルは安堵した。


「ああ、良かった…。ところで、ファリヌさんの()()はどちらなんです?」

「?強いて言うなら、そこ、ですかね。」


不思議そうな顔をして、ファリヌは二つある部屋の一つ、小さめの部屋を指差した。


「え…まさか、三人一緒…なんですか…⁉」

「…当然でしょう。私たちは、“兄妹”なんですよ⁉どうして別々だと思うんですか!」


たしかに、そう言われればそうなのだが…。考えていなかった事態にミエルが困惑していると、大きめの部屋からショコラがひょっこりと顔を出した。


「ねえねえ、ミエルはどっちがいい⁉奥のベッドと手前のベッド!」

「…ショコラ様の方が、よほど順応性が高いですね。」

「………」


固まったままのミエルは放っておく事にして、ファリヌは話を進めることにした。


「さあ!今日はもう遅いですから、早めに休みましょう。明日は一日、この辺を色々と歩いて回ります。道を覚えることと…買い物も必要でしょうからね。」

「分かったわ!」


ショコラもファリヌもさっさと次の行動を始めている。一人取り残されたミエルはハッとして我に返った。


「……そういうことは、もっと前から言ってください!!」

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