第9話
二人は午後の授業をゆっくり見て回ることにした。リンもリンで授業を受ける時とは違う新鮮味を感じ楽しんでいた。春の匂いと校舎の雰囲気はこの時期独特だ……
暖かくてどこか寂しい午後の校舎、これは気持ちの問題なのだろう。今は横に、少し低い身長の彼女の金髪、黄色い綺麗な髪のユイと手を繋いでいる。それだけでこの違いだ。
結局この子は…… 明るくて活発で前向きで、いっぱい食べてよく笑う。だけどたまに見せるイタズラな視線と上目遣い、ユイの感じは自分が最近忘れているものそのものだ。
――音楽室へ立ち寄った。
選択科目だろうか。女子生徒皆が歌っている。目をとじて深呼吸すると綺麗に聴こえてくる。そしてユイの歌声も綺麗に聴こえて…… ユイも生徒の楽譜を見ながら歌っていた。途中で止めさせる必要もない。自分しか聴こえていないのだから。ならばせめて自分だけでもユイの歌声を最後まで聴こう。綺麗な歌声だ。そしてすごく上手で何より楽しそうだ。彼女をここへ連れてきて本当に良かった。
だけど皆にも聴かせたい。この声を、この綺麗な声の輝きを。この音色の独り占めは贅沢だ……
ユイの体温が少し上がるのを感じた。この場が嬉しいのか、それとも今度は本当に緊張しているのか。わからないが、わからないなら両方にしておこう。どちらも彼女の大切な想いだ。自分と二人で共有できた貴重な想いと思い出として大切にしよう。何かあれば自分が必ず助けるから、今は楽しんでほしい。
曲が最大の盛り上がりの場に入った。
――続いて理科室に入る。
新学期が始まり最初の実験なのだろうか。今回の授業では特別に実験は各班によって好きなものを選んでよいことになっていた。もちろん混ざっては危険なものもあるため実験してよい内容は黒板に書かれていた。ある意味レクリエーション気分満載そうな授業だ。
実際小学生でもできそうな実験すら黒板に書いてあるくらいだ。しかし高校だけあって実験器具はかなり豊富だ。スライム一つ作るのでも規模が違う。
水色のスライムにユイが反応してつんつんしていた。これならばだいたいどんな実験にも興味を持って楽しめそうだ。
隣の席の生徒がガスバーナーのガスだけを出し続けていることに気付いていない。違う生徒がアルコールランプに火を付けようとするとマッチの火がボアッと一瞬燃えたが大事には至らない。中学あたりでよくありそうな光景だが、実際明確な目的がなく理科室にいると気が抜けて仕方ないのだがリンはユイの爆発魔法もガスと合わさるとガス爆発になるのかというくだらないことを考えていた……
――美術室や視聴覚室、授業ではないが図書室なども回り、気晴らしに体育館とグラウンドの体育の様子も見ることにした。
外はサッカーをしていた。ユイにざっくりとした説明をするとやりたいと言いグラウンドへ走った。
問題はいくつかあるがまず、手を繋いでいてはやりにくいのではないだろか。そしてそもそも透明化していては仲間からパスはもらえない。
だがシュートを決めようとしたチームのボールがゴールを大きく外れそうになった。普通なら大きく外れて終わりだがコーナーライン手前で落ちそうになるボールをユイが見事なウェッジコントロールでキープしシュートを放ちゴールを決めた。
さながらサッカー選手も顔負けだが今回歓声を浴びたのは大きく外した選手だった。実際皆の目にはあり得ないカーブを描いたシュートに映ったに違いない。真実を知るリンとシュートを決め満面の笑みのユイは後の試合も観戦し放課後を迎えた。
――学美との待ち合わせ場所に少し早く着いた。