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終の森の現実とリュオス

何このコボルト可愛い!


不覚にもフィオナはそう思ってしまった。

聞くところによると、行き遅れた女はよくペットを飼うとのことだが、ひょっとするとこんな気持ちなのだろうか?


今までフィオナはそういう話を聞くたびに、そんなのは都市伝説だと一笑に伏してきたものだったのだが。


このコボルトを見た今なら分かる。

悔しいが分かってしまう。これなら飼いたくなっても仕方のないというものだろう。


両手を上げながら顔を輝かせて飛び跳ねるコボルトを見ると、そう思ってしまうのもいた仕方ないというものだ。


「くちゅん!」


コボルトの笑顔をみてホッとすると、同時に少し肌寒さを感じる。この部屋は少し寒い。

そういえば自分は裸であったと。同時に少し恥じらいを覚えた。


フィオナとてSランクまで登り詰めた冒険者だ。その辺にいる冒険者に成り立ての様な小娘とは違う。例え周りが男だらけだとしても、戦いの最中ならば素っ裸であろうと恥らうことなどしない。

それは命の危機に直結すると知っているからだ。


しかし、危害も加えるられる気も全く感じられない今となっては話は違う。全く異性としては認識出来ないが、そもそも雄か雌かも分からないが、相手は意思の疎通ができるのだ。


恥じらいの一つも覚える。


冒険者と言えど女を捨てているつもりなどはないのだから。



----------




コボルトは喜んでいた。


そう、言葉が通じていたのだ。先程までは目の前の女が言葉が発せられることは無かった。てっきり言葉が通じていないのではないかと、少しがっくりときたものだった。

しかし、今、女が喋ったのだ。

女が喋った言葉の意味をコボルトは知っている。

感謝を伝えるときの言葉だ。


この女は、自分のした行為について感謝の念を述べてくれたのだ。


他の者と意思を疎通するのはいつ以来のことだろう。

自分は自分の産まれた集落が滅んでからずっと1人で生きてきた。それは不自由こそ無かったがやはり寂しいものだった。


宝物を見つけても自慢できる相手はいない。


共に狩りをする仲間もいない。


共に飯を食らう仲間もいない。


共に喜びあう仲間もいない。


寄り添って眠ってくれる仲間もいない。


それは集団で生きるコボルトには、非常に悲しいものだった。寂しく心細い日々だ。

しかし、今目の前の女は反応を示したのだ。しかも、感謝の念で。


コボルトは文字通り飛び上がって喜んだ。

あぁ、人の言葉を習っていて良かったと。


「くちゅん!」


コボルトは喜び回っていると女から変わった音を聞く。振り返ると女は腕を身体に巻いてモゾモゾとしていた。


コボルトは知っている。


これは寒がっているのだと。実際にはそれだけでは無いのだが、その辺は常に素っ裸のコボルトには理解出来ない感覚だ。


コボルトは不自由そうに首を傾げる。

何故寒いのだろうかと。

この部屋は自身で温度調整をして快適にしているはずだ。


少しして、閃く。


そうだ。この女は毛皮がない。頭のてっぺんには生えているが身体に毛がないのだ。

そう思うと同時にコボルトは思いだす。そういえば、人は変なものを身に纏っていると。

邪魔だろうと思って剥いだが、あれが毛皮だったのかと。


道理で寒いはずだ。


そう思ったコボルトは、慌てて剥いだ衣服を取りに違う部屋へと走っていく。


もしかしたら、また感謝してくれるのではないかと期待しながら。



----------




コボルトは何処かへ走り去るとすぐに戻ってきた。

その手には、フィオナが森に入る時に着ていた衣服を手にもっている。

ご丁寧に鎧や籠手まで。


フィオナは、着てもいいのかと恐る恐るコボルトからそれを受け取ると素早く身を衣服で包んだ。所々破けてはいるが着れなくもない。

鎧や籠手は相手に敵意を表さない為に身につけず側に置いた。


このコボルトは賢い。

食事の時にナイフとフォークを持ってきてくれたことにしても、今衣服を持ってきてくれたことにしてもだ。


ひよっとすると、わざと鎧や籠手まで持ってきたことでこちらの出方を窺っているかも知れないと思うと迂闊なことはできなかった。

フィオナにはコボルトだからと侮る心はこの森に入るときに捨てている。ましてや、あの戦いの後では尚更だ。


ともかく、これで寒さは無くなった。衣服を着てみればこの部屋は非常に快適な温度を保っている。


コボルトは鎧や籠手を身につけないのを見ると不思議そうにしたあと鎧や籠手を再び何処かへと持ち去った。

戻ってきたコボルトは最後にフィオナが持ってきた刀を渡そうとしてきたが、フィオナはそれも首を横に振って断る。


と、途端にコボルトは淋しそうな表情を浮かべてトボトボと刀を持って何処かへと向かう。


再び淋しそうにトボトボと戻ってきたコボルトはソッとフィオナの顔を見上げた。

フィオナは少し罪悪感を覚えたが、これも安全に自分の立ち位置を見分けるためだと頭を振る。


変わりにゆっくりと慎重にコボルトの頭に手を置いて撫でながら、


「服を持って着てくれてありがとう。」


と言った。


途端にコボルトは弾けんばかりの笑顔を見せて嬉しそうに頭をフィオナの手にこすりつける。


フィオナは確信した。このコボルトは自分を傷つけるつもりなど毛頭ないのだろうと。まるで子供が親の役に立とうとするように一生懸命なのだと。


何故こんなに自分に懐いているのかは分からない。もしくはそれはただの戯れかもしれない。

しかし、どうせこのコボルトが拾ってくれなければ自分は死んでいたのだ。ならば、無碍には扱うまいと心に決めた。


決してこの可愛さにやられた訳ではないと自分に言い聞かせながら。



「さてと、」


ひとしきり喜ぶコボルトを撫で回したあと、フィオナは口を開いた。

何時迄もこのままという訳にもいかない。まず、あの後どうなったのかを聞かなければ。


「ねぇ。私はどうして此処にいるの?」


出来るだけ優しくコボルトに尋ねる。


「オレ、ヒロタ!」


聞きようによっては東に住む民族の名前にも聞こえるが、どうやら森で倒れていた所を拾ったからと言いたいのだろう。

フィオナは根気良く続ける。


「どの辺りで?」

「モリ!」

「他の人は居なかった?」

「イネェ!」

「何で拾ったの?」

「ババ、ネテタ!モリアブネェ!」

「何でババなの?」

「オレ、シル。メスババイウ。オスジジイウ。」




コボルトは行き良い良く返事はしてくれるのだが、上手く要領が掴めない。

というか、何故このコボルトは見た目に反してこんなにも言葉使いが汚いのだろうか?しかも、間違った知識まで持っているようだ。


フィオナは首を傾げながらも話を続ける。


「森のどの辺り?」

「アノヘン!」

「此処はどこ?」

「オレノス!」

「仲間はいないの?」

「イネェ!ミンナ、ニック!」

「私はフィオナ。あたなは?」

「?。ババダロ?オレコボルト!」

「せめてお姉さんって言って。」

「ナニイッテンダババ?」

「誰に言葉を教わったの?」

「マエノムレ。ジジ!」

「前の群れのコボルトは皆喋れたの?」

「ジジ、オレダケ!」

「ジジは何で喋れたの?」

「ジジ、マエヒトトイタ!」

「何で習ったの?」

「ヒミツ、ハナシ、カッケー!」

「ジジは人なの?」

「コボルト!」


酷くわかり辛い。

酷くわかり辛いのだが、まとめると、コボルトはこの森でフィオナを拾った。その場所は不明。というよりコボルトに地図とか場所を示す概念がないのだろう。理由は森で寝る?と危険だから。ここはこのコボルトの巣で、現在は一匹で住んでるようだ。

また、言葉は前の群れに居たコボルトに習ったようでそのコボルトは昔、人と共に過ごしていたらしい。恐らくは従魔の契約を交わしていたのだろう。

従魔の契約を交わすと魔物は人の言葉を理解するものもいるという。また、知能も高くなるらしい。

言語を習った理由は秘密の会話がカッコいいから。それにしても随分と汚い言葉を習ったようだ。

あとは、お姉さんという年齢で呼び名を変えるという概念と名前の概念が分からないくらいだろうか。


「はぁ。」


フィオナはそこまで一気に話すと大きなため息をついた。

大した収穫はない。

このコボルトが何かを隠しているとも思えないし、詳しく聞くにはコボルトの言語能力が低過ぎる。

また、コボルトと人との持っている概念の差が大きな壁となって立ちはだかる。


「ババ、ハナセ!……ハナソ?…ハナシセクダサイ?」


コボルトはもっと話そうとフィオナにせがんでくる。どうやら話せることが楽しくて仕方ないようだ。

まだ、少し言葉のニュアンスを捉えるのは下手なようだが。


と、そこでフィオナは一つ思い当たる。

そうだ。従魔の契約を交わしてしまえばよいのだ。

そうすれば、この賢いコボルトは更に賢くなるし言葉ももっと上手に操るだろう。

この先ずっと面倒がみれるかは分からないが、無理ならこの森を出る時にでも解除すればいい。


ただ一つ問題はこのコボルトが怒り出しはしないだろうかということだ。

従魔の契約の魔法はフィオナにも使えるが、その契約はどれだけ規制を緩めようとも主人への攻撃の禁止などの規制がついてくる。


また、契約を交わす相手が術者の力量を超える抵抗を見せるとその魔法自体弾かれる恐れがある。

この森を一匹で生き抜くこのコボルトに抵抗されればフィオナは契約を結べはしないだろう。そして、それでコボルトが怒り出せば武器を持たないフィオナはコボルトにまず間違いなく殺されてしまう。


しかし、このままでは情報を掴むのにどれ位かかってしまうことか。


フィオナは少し悩んだあと直接コボルトに聞いてみることにした。


「ねぇ?私と従魔の契約をしない?契約をすると貴方はもっと賢くなるし、言葉ももっと喋れるわ。」


規制のことは誤魔化しつつ話を振ってみる。

と、コボルトは尻尾をブンブンと降りながら答えた。


「ソレ、モットハナス?ナライイ!」


どうやら大丈夫なようだ。

ならばとフィオナは話を続ける。


「なら、ゆっくりと力を抜いて。ちょっとピリっとするかもしれないけど、抵抗しないでね?」

「ワカッタ!ハヤク!ハヤク!」


千切れんばかりに尻尾を振るコボルトはフィオナを急かす。

これなら大丈夫だろう。抵抗が無ければ失敗する事などあり得ない。

フィオナはそっと微笑みながら呪文を唱え出す。


「じゃ、行くね。……猛き心を持ちし魔より生まれ出ずる物よ。汝に命じる。此処に集いて我が従魔とならん!」


フィオナが呪文を唱え終わるとコボルトの身体がボウっと青白く光る。コボルトは少しくすぐったそうにしていたが、抵抗はしていない。


本来ならこの光はコボルトの身体に吸い込まれるのだが、此処で可笑しなことが起きた。

その光はコボルトに吸収される事なく弾けとんだのだ。


「えっ?なんで?」


呆気に取られるフィオナ。

これはつまり抵抗しなくてもフィオナの魔力を寄せ付けないほどにフィオナとコボルトの力量差が開いていることを示していた。


「オワッタ?」


コボルトは不思議そうな顔をしてフィオナを見る。


「ま、まって。もう一度やらせて?」

「オウ!」


そう言ってフィオナは再び呪文を唱え出す。

力量差があり過ぎると抵抗なしでも弾かれることをフィオナは知っていた。

しかし、理解出来なかったのだ。仮にもSランクである自分が、抵抗無しのコボルトとの間にあり得ないほどの力量差があるということに。


こうしてフィオナは再び呪文を唱え続ける。







「はぁ、はぁ、はぁ、」


その後、フィオナは10回も呪文を唱え続けた。結果は惨敗。

コボルトはこそばそうに身を捩らせるだけで光は一向に吸収されなかった。


フィオナは地面に膝と手をつく。


フィオナはSランクとしての誇りがあった。それはこの世界有数の実力者である自信だ。それが一匹のコボルトに脆くも破壊された瞬間であったと言えるだろう。


一方コボルトは何やら成功しなかったようだと考えて慰めるようにフィオナに寄り添ったが閃いたように立ち上がった。


「ガウッ!」


そうフィオナに向かって1吠えすると、突然フィオナを白い光が包む。


「なっ!」


フィオナは咄嗟に魔力を振り絞って抵抗を始めた。

感覚で察知したのだ。これが従魔の契約に非常によく似たものだということを。

フィオナは知っている。

従魔の契約は人にも使えることを、主に奴隷などはこの魔法で縛ることが多いからだ。

厳密には違うのだが良く似ている。


が、フィオナの全力の抵抗も虚しく光は全てフィオナに吸収されていった。


「ドウ?セイコウ?」


どう?どう?と尋ねるようにコボルトがフィオナに擦り寄る。その顔は褒めて褒めてと輝いている。


「ッ!」


フィオナは咄嗟に全力でコボルトの頭を殴りつけた。当然だ。従魔の契約は服従の魔法だ。

人としていきなり掛けられれば怒るのも仕方がない。


「ナンデナグル?オレチャントシタ。」


今にも泣きそうに成りながらコボルトはフィオナに尋ねる。


「人にかけちゃダメでしょ!なんてことすんのよ!」


フィオナは半ばパニックに成りながら吠える。


「デモ、フィオナもシタ!」


コボルトは瞳を涙に潤ませながら抗議をする。


「そ、それは……。」


フィオナは戸惑った。

相手がコボルトだったからなんてとても言えない。このコボルトはフィオナを餌としてではなく1人の仲間のような感覚で接してきていた。そう、まるで仲のいい友人のように。まるで親子のように。


そんな相手にましてや格上の実力者に契約内容をボカして従魔にしようとしていたからだとは言えない。

それは自分の命だけでなく尊厳まで捨て去る行為だと気づいたからだ。


先程、決して無録にはしまいと誓ったばかりだというのに。

自分が焦るあまりに、所詮は魔物と思うあまりに出てしまった暴挙だと。


バチっ!!


フィオナは、己の頬を両手で強くハサミ込むように叩くと、コボルトをギュッと抱きしめた。


コボルトがビクッと身を震わすが、お構いなしに強く抱きしめてコボルトの耳元で囁いた。


「ごめんね。本当にごめんね。」


その苦しいような優しくような声を聞いてコボルトは身を強張らせるのを緩めてフィオナに尋ねる。


「モウ、ナグラナイ?」


それは、自分が何かしたのだろうか。という怯えにも似た質問だった。

フィオナは、自分の不甲斐なさから出てくる涙をグッと我慢して返事を返す。


「うん。もう殴らないよ。ごめんね。」


慈しみと謝罪を込めてフィオナはコボルトの涙を拭い頭を撫でる。


「ナライイ!」


コボルトはそう嬉しいに笑うとフィオナに頭をこすりつけた。


「ありがとう。……って、え?あれ?」


ここでフィオナはようやく気が付いた。

自分がコボルトを殴ったことを。


本来、従魔の契約の魔法は、主に害をなす事を規制により認められない。

もし、それを行おうとすればこの世の物とは思えない激痛が身体中を駆け巡る筈だ。


なのに、自分には激痛どころか痒み一つない。

それに考えてみると、あの魔法のあと、このコボルトはフィオナのことをババではなく、ちゃんとフィオナと名前で読んでいる。


また、魔法のあとでは喋り方も先程までよりグッとよくなっている気がする。


従魔の契約魔法では、あり得ることではない。



フィオナはガバッとコボルトを引き離すと不思議そうにフィオナを見たコボルトに話かける。


「今何の魔法を使ったの?」


コボルトは少し考えを巡らせながら返事を返す。


「フィオナのマホウ!でも、ナンカヘン。だからチョットカエタ!」


フィオナは知らないことだが魔物は魔法を感覚的に使いこなす。

人は詠唱や杖などの魔法媒体を駆使して魔法を行使する必要があるにも関わらずだ。


これは、可笑しなことではない。何故なら本来魔法とは魔物が使っていた現象のことだからだ。それを人が詠唱や杖などの魔法媒体を使うことによって真似てきたのだ。


現在は魔物は、魔より生まれ出ずる物で魔物とされているが、それは誤りだ。

魔を司る物だから魔物なのだ。


元来、魔物は人よりずっと上手に魔法を使いこなす。

勿論魔法の使えない魔物も存在するのだが、それは言わば環境により魔法を使えなくなった劣化種なのである。本来の魔物ではない。


魔物の同種同士では鳴き声に魔法で意思を込めて会話をするほどに魔法は浸透しているものなのだから。


よって人の様に言葉で意思の疎通をするという概念が無かったのだ。と言うよりは必要が無かったと言える。


これは、人の史実に残っていない事実である。いや、あえて残さなかった事実といえよう。


従魔の魔法も元を辿れば、古くからあるテレパスというお互いを繋ぎ意思の疎通を可能とする魔法から派生したものだ。

しかし、人は知らない。そのテレパスの魔法でさえ、本来は古来からの高位な魔物が他種族と意思の疎通をする為にまた、円滑にする為にお互いの概念や多少の意思を解する魔力を共有するため使った魔法の劣化品である。


だからテレパスでは意思のみが、従魔の魔法では一方的に主から従へと概念が流れ込むのだ。


従魔の魔法を使うと魔物は賢くなるというがあれは違う。言葉という概念が流れこんだことにより魔物が言葉を解するようになっただけの話だ。


一度理解してしまえば、契約が切れようとも忘れる事はない。よってコボルトの集落のジジは覚えていたのだ。


絵物語に出てくる勇者と語りあう高位竜種はこの魔法を使って勇者との会話を進めるという配慮を行っていたのだ。

この魔法がなければその様な微笑ましい光景ではなく、お互いの概念が噛み合わずに凄惨な殺し合いへと発展したことだろう。


もちろん、そういう物語もあるのだか。



フィオナは全てではないにせよ感覚的にそれを理解した。


つまり、これはコボルトが高位竜種と同じではないにせよ。限りなく近い魔法を使ったことを意味する。


とは言ってもこれは珍しいことではない。魔物にとってようは出来る魔力があるか無いかの違いなのだから。魔法の行使が感覚的過ぎて人に伝わっていないだけだ。


「これは、規制が全く掛かっていない?だけど何か繋がっているような感じ。」


コボルトの概念と人の概念が交差するように理解し合った結果。フィオナはこの魔法の効果を感覚的に理解した。

と、同時にコボルトも人の概念を理解した結果。今までジジに習っていた分からなかった言葉も分かるようになったのだ。


「フィオナ?ダイジョウブ?マホウをトク?」


急な理解に戸惑うフィオナに対してコボルトは心配そうな声でフィオナを見上げる。


「ううん。大丈夫よ。…素晴らしい魔法ね。ありがとう。」


慌ててフィオナはコボルトの頭を撫でて感謝を述べる。


「わふっ。エライ?エライ?」


コボルトがくすぐったそうに尻尾を振り回しながらフィオナに擦り寄る。


「うん。とっても。」


フィオナに受け止められたコボルトは一つフィオナにお願いをする。


「わふっ!ジャア、ゴホウビ!ナマエ、ナマエつけて!」


そう可愛くねだるコボルトにフィオナは思わず色々な液体を噴出しそうになるが、乙女の意地とプライドにかけて堪える。

この際、乙女かどうかは言及しない。


「うん。そうね!……っと、どうしよ?その前にさ、ジジの名前って何だったの?あと君は雄?雌?」


迷ったフィオナはコボルトに尋ねる。


「ジジはナマエもジジ!…オス!」


どうやら、ジジはジジィではなくジジという名前だったようだ。

恐らく、ジジは年配のコボルトの雌を指してババアと教えた結果、概念を理解出来なかったこのコボルトは男性をジジ、女性をババと覚えたのだろう。


「うーん。じゃあニックは?」


フィオナはこのコボルトがよく間違えて発音する肉であるニックを候補にあげてみる。

我ながら、ナイスなネーミングだと。これなら雄であるコボルトにも十分につかえる。


残念な事にフィオナは自分のネーミングセンスの無さに気が付いていない女だった。

誰が肉という名前など付けられたいものか。例えニックが肉をさす言葉では無くて男性に有りがちな名前だとしても、このコボルトにはニックは未だ肉なのだから。


因みにフィオナは知らないがこのコボルトにとってニックとは肉の他に死体を意味する言葉ででもあった。


「マダ、オレニックジャナイ!!」


コボルトの猛烈な抗議によってフィオナは再び頭を悩ますこととなった。

何がいけないのかサッパリ分からないといった顔で。





数分後。


フィオナは必死で頭を捻った結果、一つの名前を捻りだす。


「リュオス!リュオスってどう?」


リュオス。それは古き神話に出てくる上位精霊の名前。

風の上位精霊であり、天真爛漫で陽気な精霊はこのコボルトの性格にもピッタリな気がした。


この事をコボルトに伝えるとコボルトはフィオナにとってもすっかりお馴染みとなった。

両手をあげて跳ねるような喜びを見せて言う。


「リュオス!リュオス!ソレがイイ!オレリュオス!」


そう言って踊るコボルト改めリュオスにフィオナは手拍子で合わせながら、ふと思った。



あぁー、私名前まで付けちゃって。これリュオスから離れられないんじゃないかなー。



っと。












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