名前は計画を立てて付けましょう 加筆
先ほどの人相書きの立て札を見て不機嫌まっただ中のミーヤ。
それを何とか取りなすビーツ一行。
まあ、食意地が張っているミーヤの機嫌を取るのは容易いもの。
「お!ミーヤ。彼処に見えるは、水桃のゼリーじゃぞ!甘いぞ〜」
「……」
「ここ王都でしか食えんからな〜。ここで逃したら、一生食べれんかもな〜」
ここぞとばかりにブラウもビーツの言葉に一緒になって言って来る。
「そうですよ。ミーヤ。この水桃はあの桃が材料なんですよ。あの桃はこの王都と後は…エルフが住む呪いの泉にしか生息しませんからね。これを逃したらもうありませんよ」
「ウゴウゴ!」
「…じゃあさ〜、みんなで買って来てよ。ぼくはここで待っているから」
渋々とだが、ミーヤが是と言って来たので、彼らは今のうちにと走って水桃を買いに行った。
「ばあさん!水桃ゼリー店にある分全部くれ!」
店番の女性は自分よりももっと年寄りのビーツから『ばあさん』呼ばわりされ、不機嫌ですと言わんばかりに眉の上に青筋を立てた。
「何だって?! あたしをばあさん呼ばわりするヤツに物は売らないよ! 他を当たってくれ。帰った帰った!」
否応無しに、店から追い出されたビーツたち。
それでも何とかしてミーヤのご機嫌を取らなければ、あのピノと一緒に王との謁見を済ませないとこの世が終わるかもしれん。
ビーツは必死だった。
そんなビーツの必死さがブラウたちにも伝わったのか、ブラウがマダムキラーの笑顔を振りまきながら、水桃を大人買いし始める。
ブラウの流し目と笑顔にやられた女性は、ブラウを抱きしめると豊満な自分の胸に彼の顔を埋めさせた。
苦しいと両手両足をバタバタさせているブラウをなんとか女性から剥がすと、ビーツたちは水桃の入った箱を何箱も抱えてミーヤが待つ場所へと戻って行った。
「ミーヤ。水桃買って来たぞ…」
「ミーヤ?」
「ウゴゴ?」
ミーヤの姿がこつ然と消えている。
その辺をくまなく探したが、ミーヤは見つからなかった。
一体ミーヤは何処に?
ビーツたちが買物をしている間、ミーヤは待ち合わせの飾り松の木の下で待っていた。
それも大人しく。
だが、始めは枝が日よけとなっていたのに、すぐに日の光が顔に当たって来る。
何度座る場所を変えても同じだった。
そこで、薄目を開けて木の枝が本当に動くかどうかを確かめる事にした。
《チキショウ! この人間ごときのくせに、おいらの足の上に座るた〜頭が高いんだよ! おまけにおいらを日よけにするなんざ、百万年早い!。一辺出直してこい!》
ブツブツと聞こえる言葉。
しかも、それは自分に対する文句のようだ。
ミーヤの頭上にあった枝が、ゆっくりと横に動き出す。
ーやっぱり!
それを確認したミーヤは魔法で「折れろ」と呟くと、メリメリと言う大きな音を立てて、飾り松の木の枝が一本折れた。
ミーヤの被っていた分厚いフードを枝で取り払うと、そこには長い黒髪が現れる。
《お前は!! お尋ね者の極悪犯!》
それを聞いたミーヤの頬がピクリと引きつった。
「ほお〜。面白い。今私は非常に機嫌が良いんだよ。松の木一本くらい、軽く燃せちゃうくらいに機嫌がすこぶる良いんだよ。良かったな〜松の木。最後に一言くらい言い残した言葉があるだろうから、言わせてやるよ」
手のひらを上に見せると手のひらの上に白く光る炎の玉が燃え上がる。
《お、お…ぎゃぁぁぁぁぁ!!》
目の前の飾り松は、一言を言う前に燃え尽きてしまった。
「フン。松のくせに僕に楯突くからだ。」
松が燃え尽きた後には、黒い塵しか残らなかった。
「やっぱり、飾り松は口だけか…」
この世界には、松は存在するが、それも変わっている。
飾り松は口だけの松で、人を騙すのが得意である。
燃やすとかすも残らないことから、何の役にも立たないことを飾り松と同じだと言われるほどだ。
「ぴー」
「ピノ、腹減ったのか?」
そう言えば私も何も食べてないな。
一体、ビーツたちはいつまで私を待たせる気だ。
まさかビーツたちが店のおばさんから攻撃されていることも、ブラウが女性の豊満な胸で窒息しそうになっていた事さえもミーヤが知る分けない。
すくっと立ち上がると、ミーヤは人差し指を立てるとただで食べれる物はないのかと魔法で探し始めた。
指先から銀色の細い糸がゆらゆらと出て行く。
それはまるで光り輝くクモの糸のようだ。
それが赤く光るとミーヤの口元は弧を描く。
「みつけた」
少しここから遠いらしいな。
ゆらゆらと揺れる糸を掴むとそれを器用に輪っかに結んだ。
それを地面に置いたミーヤは、辺を見渡す。
誰もいないのを確認したミーヤは、その輪っかの中に一歩足を踏み入れた。
次の瞬間ミーヤの体は、一瞬にして消えた。
探し物をする時や、そこまで移動する時に使うのだが、これのデメリットは中距離にしか使えないと言う事だ。
山を幾つも超えるような所に行くのに使うのには、不向きな魔法である。
『困った時のクモの糸』とミーヤは呼んでいる。
王都の中なのだろうが、少し田舎のようだ。
周りにはククリコの実が鈴なりになっている。
ククリコと言うのは、一粒口に入れると十日間は何も口にしなくても、大丈夫だと言う超が付くほどの健康食品である。
しかも、怪我や病気もこれを一粒口にすれば、たちまち治るのだ。
だが、このククリコがそんなに人々に知られていないのは、毒花の実であるオーランドとそっくりな事から、薬草に詳しい人間でなければ見分ける事が出来ない。
ちなみにオーランドの実は、一口食べたら即、天国行きと言われるほど強い毒を持っている。皮膚の弱い人間ならば、手に汁が付いただけでも、高熱に苦しむ。
だから、ククリコの実は高いのだ。
ククリコの実を主に食べるのはドラゴン。
ククリコの花は天使の涙と呼ばれている。
そんなククリコの実をポイポイと口に放り込んでは、咀嚼していると少し離れたおこリンゴと泣きべそオレンジの木の下から泣き声が聞こえて来る。
《煩いな〜オレ様の昼寝の邪魔をするなよ!》
リンゴの木が怒るとオレンジは枝を揺らしながらぼとぼととたわわに実ったオレンジの実を涙を零すようにポトリポトリと落とす。
ー本当に泣いてるみたいだな。
《オレンジ、お前に言ってんじゃねーよ。その汚い踞ったヤツに言ってんだ》
リンゴの声につられミーヤもオレンジの木も一つの方向を見た。
「何だ?」
《何だ?》
よく見ると、それはオオカミの子供だ。
しかも罠にかかっている。
この罠には、下手くそな魔法使いがかけたのだろう。
赤い色と紫色の光の繭の糸が檻の周りをゆらゆらと揺れている。
少しでも赤い糸と紫色の糸が触れれば、罠の箱ごと爆発する仕組みのようだ。
「ふん。こんなん、こうすればいいんだよ」
ミーヤは、色を取ってしまうとただの真っ白い繭の糸がゆらゆらと揺れている。
その糸をカマイタチで切り刻むと、オオカミの子供を檻から出してやった。
余程怖い思いをしたのか、オオカミの子供はカタカタと震えるとミーヤのウエストに抱きついてくる。
「離せと言っても無駄なんだろうな…」
土ぼこりで黒く汚れている子供を抱き寄せると、ミーヤは仕方ないかと微笑む。
自分も同じように汚れて倒れていた所をビーツ様に助けてもらったのだ。
「洗浄」
「ドライ」
立て続けに魔法を使うミーヤ。
ミーヤの魔法でさっきまで頭からつま先まで真っ黒に汚れていたオオカミの子供は、本来の髪の色が見えて来た。栗色と銀色の二色が混ざったふわゆるパーマがかかったような髪型だ。
肌の色も透き通るくらい白い。
耳は生えるのか?と思って、頭を撫でてみるが、耳は常時出ているわけでもなささそうだ。
「名前は?」
《おい、それは止めておいた方が良い》
《そこの男、人狼に名前をつける意味は知ってるのか?》
「煩い。つべこべ人に指図するな。燃すぞ!」
ミーヤの開いた手の平の上に青白い炎が立ちこめると、それまでミーヤに色々と文句を言っていた木々達がピタリと口を閉ざした。
ようやく静まり返ったのを確認したミーヤは、再度オオカミの子供に名を聞いた。
「ディー。みんな私の事をディーって呼んでた。でも真名は知らない」
オオカミの子は父も母も殺されてしまったと告げると泣き出した。
あおーん、あおーんと泣き出すオオカミの子供にミーヤはどう宥めたら良いのか迷ったが、その時にピンとひらめいた。
「真名を知らないのか…なら、ダイアナでいい? 月の女神って言う意味だよ。ディの髪の色ってお月様みたいで、綺麗だ」
ディーは生まれて初めて自分の髪の色が綺麗だと褒められて、目を見開いた。
他の人間たちからは自分の髪の色は変だと忌み嫌われていた。
酷い時には悪魔の子供だと言って、石を投げつけられた事もある。
怪我をするたびに、ディーはククリコの実を拾って食べていた。
ククリコの実は怪我は治すけど、ディーの心に出来た傷は治す事は出来なかった。
「ダイアナ… 私の名前…ダイアナ」
「そう、私はミーヤ。ダイアナの友達だよ」
「友達? ご主人様じゃないの?」
「何それ?」
「うーん。ダイアナよく分かんないけど、ミーヤはダイアナのご主人様」
「ま、まーいっか…」
ククリコと煩いオレンジの実をゲットした二人は、クモの糸を使って元の場所へと戻って行った。
真っ青になってミーヤを探していたビーツたちの目の前にいきなり出現したのは、二人の人影。
よく見れば、一人はミーヤで。ミーヤの体にくっついているのは、オオカミの子供だった。
「ミーヤ…もしかして、拾ったとか言わないだろうな…」
「拾ってはいない」
「なら、なんでそんなに懐かれているのだ?」
「知らん」
ミーヤとビーツの舌合戦が始まる。
「あ!水桃!! ご主人様〜!!水桃ですよ!!こんなにいっぱい〜!!」
嬉しそうに大声を上げてみず桃が入った箱に飛びつくダイアナ。
それを見たビーツたちは一斉に白い目をミーヤに向けた。
「ミーヤ…まさかとは思うが…おぬしはこのオオカミの子供に名前をつけたとか言わないだろうな」
「あ…付けたよ。だって、ディーとか言ってたからさ〜。ならもっと綺麗な名前をつけてやろうって思って、ダイアナってつけた」
「「「「あ〜〜〜〜〜あ」」」」
ビーツたちのため息が溢れた。
その後、ビーツとブラウからオオカミの子供に名前をつけると言う意味を教えてもらった。
それは魂の契約であり、ミーヤがオオカミの子供の魂を言霊で縛っていると言う意味だと言われ、ミーヤは黙りこくった。
ただ単に、ディーだけじゃ可哀想だし、綺麗な魂を持っているから、綺麗な名前をつけてやろうと本当にそう思っただけだ。
「どうしようか…」
「ご主人様〜!!」
「ビーツ様。ここはもう諦めた方がよろしいかと思われます」
ブラウの一言で、ビーツの長い説教から解放される事ができたミーヤは、ブラウの背中に向かって両手を合わせると柏手を打っている。
それを見たダイアナもミーヤと同じような事をし始める。




