変態の放し飼いはやめましょう。後編
「ビーツ様、そう言えば竜って一体何を食べさせれば良いんですかね?」
何百年も生きて来たと自嘲してきたビーツも、竜の生態の事までは知らなかった。
うーむ
三つ目を閉じると顎に手を置いて悩み始めるビーツ。
それを見て、ミーヤは顔がにやけて来た。
ーそう言えば、あのビーツ様の恰好ってお土産物屋に必ず在る置物みたい。
ミーヤの頭の中では、ビーツが酒瓶を片手に立っている狸の置物に見えたのだ。
お腹も突き出ているし、全身毛むくじゃらってところがミソよね。
一人心の中でウンウンと頷いているミーヤ。
今、ビーツは狸と言うよりも、見ざるの申のポーズで悩んでいるようだ。
「ミーヤ殿…お楽しみの所、悪いのですが…。ミーヤ殿の世界には竜はいますか?」
ブラウの言葉にミーヤはプルプルと首を振る。
彼は幼い子を諭すように優しくミーヤに語りかけていた。
「良いですかミーヤ殿。何百年も生きている生き字引のビーツ様でも、本物の生きた竜を見た事はないんです。
もちろん。それは私もそうですが…それほど竜と言うのは神聖な生き物なんですよ。
私やビーツ様が知っているのは、書物で書かれている事のみなんです。
それらに寄るとですね…元々、竜と言うのは、ジュダル神と共にこの世界を守る神聖な方。
彼らは滅多に地上へは降りて来ないんです。空はジュダル神の神聖なる領域。
空の上の動物であり、人がおいそれと触って良い物ではないんですよ。それをあなたは…はーぁ。
もし、一度でも人の匂いが付けば、鼻の良い親竜は育児を放棄してしまうのです」
日頃優しいブラウから、此処まで懇々と説教をされると思っても見なかったミーヤはがっくりと頭を項垂れた。
「オイラ 竜 食べる 知ってる」
ジャンガがすっかり項垂れているミーヤに、希望の光を差し込んでいた。
だが、単語を並べるだけのジャンガの言葉に、ミーヤは生まれたばかりの竜の幼生をジャンガに食われて成るものかと幼生を抱き締めている。
ジャンガの言葉を聞いてミーヤは、ジャンガの胸倉に頭突きをかました。
「私の可愛い子供を食うな〜!!」
「おお〜!! 迷いの森の守護者は竜伝説があるのであったな」
「ある オイラ 竜 食べる 知ってる」
「え?」
「だから、ジャンガもさっきから言っておるであろうが、ドグーラには竜伝説があるんじゃよ。彼ならば竜の飼い方も知っているかもしれんぞ」
「オイラ 知ってる」
大体ジャンガ(コイツ)が紛らわしい単語しか使わないから…ブツブツと文句を言ってるミーヤ。
「して、ジャンガ。竜の子は何を食べるのじゃ?」
「サラサ 魚 食べる」
サラサ?
首を傾げるミーヤとブラウ。
ジャンガは、地面に棒切れを使って絵を書き始めた。
水の流れる絵を描いた。「サラサ キラキラ きれい」
「じゃあ、サラサを探しに行こう!」
ミーヤの言葉に、ジャンガは頭を横に振る。
「サラサ ない」迷いの森に嘗てあった銀の川はもうない。
「川がないんだったら、じゃあ!どうやってこの子に食べさせんのよ!!」
「お!もしかして、その魚って陸に上がっているのかもしれんぞ、ミーヤ」
「なるほど! 桃に牙とギョロ目があるくらいだからな…それもありかも!!」
少しだけ希望の光が射して来た。
「して、ジャンガ。竜が食べる魚とはどんな物なんだ?」
今度はジャンガが、地面にカブトガニのような長く尾も長い魚を描いて「これ 食べる」笑顔で魚の絵に指刺し、食べるジェスチャーをする。
竜の食べ物のことは分かった。
「まだその魚はいるのだろう?」
ビーツの顔を見てジャンガは悲しそうに一声鳴くと、首を横に振った。
「さかな サラサ 消えた」
サラサの中でしか生息出来ない魚は、サラサが消えると共に魚も絶滅してしまったと言う。
「な、何ですとぉ〜!!」
だが、ミーヤの腕の中にいる竜の子供にはまだ歯が二本しか生えていない。
サラサと言う川もなければ、そこにすんでいる魚さえもいないと分かった今、ミーヤはどうすればいいのだろうかとピーピーと泣き出す竜を抱き締め途方に暮れる。
ミーヤの一房の黒髪にパクンとかぶりついた竜は、それをグイグイと引っ張った。
「これが食べたいのか?でも、私は禿げたくはないしな。あの天馬の鬣を毟り取ってやるべきだった」
それを聞いていたビーツ達は心の中でミーヤに「この罰当たりが!!」そう声を大にして叫んでいた。
それならとミーヤは手の中に魔力を込めると空豆くらいの銀の塊を作り出した。それは手の中から次々と溢れ出て来る。銀の豆に、ジャンガ達は目を見開いた。
竜は生まれたばかりと言う事で、手乗り文鳥と同じサイズである。竜に銀の豆を渡すと、豆を小さな両手でしっかりと抱き締めるようにして持っている。小さな尖った歯で、一生懸命に齧っている。なんて可愛いんだ。保護欲と言うよりも母性本能なのだろうか、そんな竜にミーヤの顔の筋肉が緩むばかりである。
片手に収まるくらいの大きさの竜は、お腹がいっぱいになったのかウトウトと船をこぎ出した。そんな竜に、ミーヤは微笑むと竜を潰さないように自分の懐の中へと入れた。
ミーヤの膨大な魔力が肌から伝わり、竜は何度か寝床を整えるようにミーヤの胸を突きながらも、目を瞑ると気持ち良さそうに丸まって寝ている。
ビーツは溜息をつくしかなかった。
ミーヤがどれだけ王の事を毛嫌いしようが、ここまで伝説通りに時渡り人が竜を携えて来ていると言う事が知れ渡れば、どんなにミーヤが嫌がっても、王との婚姻はさけられないだろう。
ミーヤは、竜の幼生にブラウの肖像画を見せて萌え萌えの花を咲かせている。
その姿は神聖な時渡り人と言うよりも、鼻息の荒い変態にしか見えない。




