おはよう、新世界!②
いつもありがとうございます!
「って、んなわけあるか!」
いや、好きだよ?異世界転生モノ。でもそれとこれとは別の話だ。万が一、いや億が一にでも転生してるんなら、それはそれでウェルカム。別に現実世界に未練はないからね。
兎も角、今の状況を手っ取り早く確かめる方法が一つだけある。
俺はとりあえず、自分で自分の顔を思いっきりぶん殴った。
「ってぇ…!?」
痛い。フツーにメッチャ痛い。ステータスを確認するとHPが2減ってた。こんなに痛いのにたったの2…。まあでも成る程、今の身体を張った検証でわかったぞ。
…ワンチャンマジで転生してるかもな。そもそもソムニアには痛覚が無い。そりゃそうだろう、だってゲームだもの。MMORPGに痛覚があったら大変なことになっちゃうよ、廃人量産だよ。
となると俺が今やらなきゃいけないことも決まった。まずはいち早く迷宮の状態を確認すること。俺が正式な所有者として認証されてなかったらやべーことになる。なんたってここは『終夜回廊』。ユーザーが所有するダンジョンとして唯一”難易度地獄級”の認定を受けた激ヤバ迷宮だ。今のレベル1状態で放り出されたら、多分一秒で死んでしまう。
とりあえず目指すのはこの部屋―――「所有者復帰室」から出て廊下を進んだ先にある「中枢監理室」だ。中枢管理室には所有者照合台がある。そこに所有者である俺しか持っていない「迷宮鍵」を差し込むことで迷宮の所有者として認証され、迷宮関連の各種情報閲覧および各種機能が使用可能になる。
本来ならメニューの迷宮管理画面からできることなんだけど、レベルが低いから機能がロックされていた。めんどくさい。
石造りの小さな小部屋であるこの部屋は謂わば「スポーン地点」だ。ゲームにリログした時、基本的にはこの場所で目覚めることになる。
ともかく部屋の隅にある小さな扉を押し開け、中枢監理室へ向かう。廊下はかなり広い。天井は高く、ぶら下がる幾つかのランプが石造りの廊下を照らしていた。
所有者復帰室から中枢監理室までは一本道だ。中枢監理室の入り口は厚く大きな複合扉になっており、その手前には電子パネルが設置されている。
電子パネルの前に辿り着いた俺は、そのパネルに右手を翳す。すると、「認証完了」という文字がパネルに表示され、ガゴォン…ゴゥン…ゴゴゴゴゴゴゴ…とまあ厚い複合扉からいかにも聞こえてきそうな音を立て、ひとりでに内側へと扉が開いた。
俺はスタスタと中へ入る。中枢監理室の天井は廊下と同じように高く、緩やかな半球状を描いている。壁も床も磨き上げられた黒灰色の石材で統一されていた。石の継ぎ目には銀色の細い線が幾何学模様を描くように走り、その内側を青白い光がゆっくりと流れている。
窓のようなものは見当たらないが室内はうっすらと明るい。
天井に刻まれた無数の術式が淡い光を放ち、各設備を照らしているのだ。
俺は部屋の中央にある直径10m程の円形の台座に向かう。その台座の中心には鍵穴。
「これをぶっ刺しまーす」
俺はインベントリから「迷宮鍵」を取り出し、台座の鍵穴に突き刺した。
「…って、何も起こらんけど…?」
おかしい。確かこれで迷宮の管理画面が立ち上がる筈なんだけど…。
俺は鍵を抜き、もう一度差す。
「うーん…?あ、バカじゃん俺、回さなきゃじゃん」
時計回りに鍵を回すと、台座は激しく発光し、台座から部屋の隅々へと光の線が伸びて行く。
普段はメニュー画面から管理画面開けるから忘れてたよ、こんな仕様。
そして所有者認証を済ませたことにより、中枢監室は本来の姿を取り戻す。静かだった部屋の中で至る所から小さく電子音のようなものが聞こえ始めた。
鍵穴のある台座の前には4つの机が並べられており、そして部屋の奥、それまでただの壁だったそこには広大な迷宮のマップが表示されていた。
まあわかりやすく言うならエ●ァに出てくる中央作戦司令室的な感じか。
そして台座はプロジェクターのような役割を果たしているのか、台座の上には俺が求めていた”迷宮管理画面”が浮かび上がった。
「なんっ…じゃこりゃあ!?」
───
【DUNGEON STATUS】
終夜回廊
(地獄級・主大陸西方 灰冠山脈)
迷宮核:正常稼働
構造維持:魔力不足により一部異常を検知
自動防衛:一部異常を検知
魔力供給:不足
NPC:14名
管理者による高度操作:Lv不足により制限中
生産・補修要員:0名
────
「どこから突っ込みゃいいんだよ」
困ったぞ。異常だらけじゃねーか。しかもよく見ると部屋の奥に表示されてるマップも異常を知らせるマークばっかりだ。はぁ…。
「まずはそれぞれの異常を見ていくとするかね」
俺は迷宮管理画面をポチポチ触り、異常を一つ一つ確かめていく。
一つ異常を見つけると芋づる式に他の異常も出てきてまあ、本当に途方もない作業だ。
とはいえ俺は10年間、この迷宮を管理してきた。この程度造作もないわ…!!!
───嘘でした、すんません。超大変でした。30分で済ませたことを誰か褒めて欲しい。
「しっかし参ったねー、これは」
とりあえず見つけた課題を優先度順に並べるとざっくりこうだ。
1.魔力不足。灰冠山脈から供給される自然魔力があるとはいえ、全然足りてない。そのせいで各施設の稼働が制限されてて使い物にならない。普段は貯蓄している魔石+迷宮内で力尽きたプレイヤーがドロップする魔石で不足分を賄っているんだが、プレイヤードロップはゼロだし、貯蓄魔石は何故か消費されてない。どういうこと?
2.人手不足。元々レベルMAXだった時のNPC保有枠は500だったのに対し、今は創造7+雇用7でたったの計14。はっきり言って迷宮の規模に対して人手が足りなすぎ。これも施設稼働が制限されてる理由っぽい。
3.迷宮の脆弱性。魔力と人手が足りてないせいで今稼働している防衛領域は9層ある内たったの2層。もし今ランキング上位プレイヤーが徒党を組んで攻め込んできたら1発アウト。まじヤベェ。
4.俺の弱体化。レベルが1に戻ってるせいで迷宮のほとんどの機能を使えない。というか俺のレベルが低いせいで迷宮そのものが弱体化していると言っても過言じゃない。
5.アイテムのロスト。俺が10年間かけて集めたアイテムの大多数が消失してるんだけどどうしてくれる?
「ふぅ…。いや、改めて整理するとホントにヤベーな。不幸中の幸いは残ってるNPCが───」
俺が独りごちていると突然、中枢監理室の扉がガコンガコン言いながら開きはじめた。
え?ヤバくね?誰ですか?
とはならない。この状況でこの場所に入ってくるなら──
「フィエラ…!」
フィエラ。背は低く、短い焦げ茶髪、琥珀色の瞳。袖を絞った黒い実務服に身を包んでいる、岩人族の女性だ。俺が「ソムニア・アトラス」で最初に創造したNPCでもある。
「ソムニア・アトラス」はキャラメイクにも非常に力を入れており、俺はキャラメイクが大大大好きだ。故にスーパー可愛くて、身体も…こう…ボン、キュッ、ボォン!だ。我ながら天才的なキャラメイクをしたと見る度に思う。
「…貴方が所有者様なのですね」
「はえ…?」
びっくりしすぎてマヌケな声出しちゃったよ。だって随分人間らしく喋るんだもん。いつもは決められた文を音声AIが読み上げているだけなのに、今日はなんだか声までグラマラス…ッ!!
「…てか、所有者様なのですねって、そりゃそうだろ。まさか忘れちゃったのかにゃあ??」
「…?忘れたも何も、私たちは初対面です。その巫山戯た喋り方はよしていただけますか、不愉快なので」
あれれー、おっかしいぞー?某少年名探偵みたいになっちゃったよ。しかし今の台詞は二重の意味で有り得ないだろ。まず初対面ってのが意味わからんし、そもそも今フィエラが喋った言葉は定型文として存在しない。
「ゴホン!すまなかった。会って早々で申し訳ないが質問だ。まず、この迷宮は今まで誰が所有していた?そして、今は何年だ?」
「1つ、この迷宮に所有者はおりませんでした。2つ、今は連歴643年です」
「…は?……は!?」
さて、ここで先に挙げた異常事態の順位変更だ。
1.不幸中の幸いであり頼みの綱である残ったNPC14体は俺の事を──俺との10年間を覚えていない可能性がある。
2.時間が10年分巻き戻っている。俺が最後にログインした時は連歴653年だったはず。
3.フィエラの喋り方、応答、そしてさっきの俺の顔面パンチ、そして謎の称号”転生者”────テンプレ通りなら、俺はマジで転生してる。
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