表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】そんなにデカパイ自撮り女がよいんですの?~色気が足りないと婚約破棄されたので、最後の夜会で本気を出しました~  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

第三話 今夜はわたくし、自分のために咲くことにいたしましたの

アルベルトの声が裏返った。


「届けたのか?」

「はい。今朝、双方の署名が揃いましたもの。公式発表は後日ですが、手続きは速やかに進める方がよろしいかと」

「なぜ勝手に!」

「勝手に?アルベルト様も署名なさいましたでしょう」

「いや、しかし、夜会のあとでも」

「まあ」


エルミーナは目を細めた。


「まさか、まだ取り返せると思っていらしたのですか?」


アルベルトは言葉に詰まった。

エルミーナは、すっと彼の腕から手を離した。


「アルベルト様。貴方はわたくしに、情熱がないと仰いました。淑女すぎると。女性としての華が足りないと」

「それは」

「ですので、今夜はわたくし、自分のために咲くことにいたしましたの」


彼女は、近くの給仕からシャンパンを受け取り、軽くグラスを掲げた。


「どうぞ、これからは詰め物で夢を盛ったご令嬢方とお幸せに」

「詰め……っ」

「わたくしは、もっと立派な方と幸せになりますので」

「立派!?何がだ!どこのどいつだ!」

「……さあ、ナニがでしょうね?」


エルミーナは意味深に微笑んだ。

アルベルトの顔が、赤くなったり青くなったりする。


そのときだった。


「ヴァルモン嬢」


落ち着いた声が、背後からかかった。


振り返ると、そこに立っていたのは王太子殿下だった。

ローラン・ド・シャルドン王太子。

金の髪と青い瞳を持つ、この国の第一王位継承者。

社交界では誰もが気を張る相手だが、本人は割合と気さくな人物として知られている。


その王太子が、エルミーナを見ていた。

正確には、エルミーナを見てから、一瞬だけ瞬きをした。


それは、品定めというほど不躾ではない。

けれど、まったく動揺がなかったとも言えない。

エルミーナは、それを見逃さなかった。


「殿下。ご挨拶が遅れました」

「いや、こちらこそ。今夜は、いつもと印象が違いますね」

「最後の夜会ですもの。少し、気分を変えてみました」

「最後、とは」

「クロワゼット令息との婚約が、近日中に解消されます」


ローランは少し驚いた顔をした。


「それは、初耳でした」

「まだ公式発表前ですので。でも、もうすぐ皆様にもお知らせが届くかと思います」

「そうでしたか」


ローランは、ちらりとアルベルトを見た。

アルベルトは気まずそうに視線を逸らす。


「では、今夜の装いは?」

「自分のためのドレスです」


エルミーナは、真っ直ぐに答えた。


「婚約者の隣に立つためではなく、未来の公爵夫人らしく見せるためでもなく。ただ、わたくしが着たいと思ったものを着て参りました」


ローランは、エルミーナを見た。

今度は胸元ではなく、彼女の顔を。

晴れやかで、少し勝ち誇っていて、けれどどこか吹っ切れた顔を。


「なるほど」


ローランは微笑んだ。


「とてもよくお似合いです」

「ありがとうございます」

「特に、その顔が」

「顔、ですか?」

「ええ。今夜の貴女は、自由になった人の顔をしている」


その言葉に、エルミーナは少しだけ目を瞠った。


胸元ではなく、顔。

ドレスではなく、表情。

そう言われるとは思っていなかった。


「……殿下は、お上手ですのね」

「本心ですよ」


ローランは片手を差し出した。


「よろしければ、一曲踊っていただけますか」


会場が、ざわりと揺れた。

王太子から直々に、ダンスの申し込み。

しかも相手は、婚約解消が近いと告げたばかりの侯爵令嬢。


これは少し、面白いことになる。


エルミーナは、扇の陰で小さく笑った。


「喜んで」

「待て」


アルベルトが、低く声を上げた。


「エルミーナ。殿下の前で失礼だ。今夜は私のエスコートで来ている」

「そうでしたわね」


エルミーナは振り返った。

そして、アルベルトをゴミを見るような目で見据えた。


「最後の婚約者役、ご苦労様でした」

「エルミーナ!」

「もう結構です」


彼女は、王太子の手を取った。

ローランは楽しげに目を細め、彼女をダンスホールの中央へと導く。


音楽が流れ始める。

エルミーナの紫紺のドレスが、夜の花のように広がった。

王太子の手は安定していた。

近すぎず、遠すぎず。


彼女の呼吸を乱さない距離で、自然に導いてくれる。


「随分と思い切った夜にされたのですね」

「捨てられた女が、最後に少しくらい派手に振る舞ってもよろしいでしょう?」

「捨てられた、というより」


ローランは、ちらりと広間の端を見た。

そこではアルベルトが、今にもこちらへ駆け寄りそうな顔で立ち尽くしている。


「手放した男が、自分の愚かさに気づいたように見えます」

「それはお気の毒ですわ」

「同情している顔ではありませんね」

「ええ。しておりませんもの」


エルミーナは晴れやかに微笑んだ。

その笑みを見て、ローランも笑った。


「ヴァルモン嬢」

「はい」

「公式発表が済んだら、改めて茶会に招いても?」


エルミーナは、ほんの一瞬だけ考えた。

王太子からの誘い。

軽い言葉ではない。

だが、今夜の彼女はもう、誰かの顔色をうかがうための令嬢ではなかった。


「お誘いの内容によりますわ」

「では、貴女が退屈しない内容を考えます」

「期待しております」


その頃、広間の端ではアルベルトが限界を迎えていた。


「待て……待ってくれ、エルミーナ!」


彼の声が、音楽の合間に響く。

貴族たちが一斉に振り返った。


「私は、私は間違っていた!」


エルミーナは踊りながら、涼しい顔をしている。


「君がそんな……そんなに……こんなに魅力的だったなど!」


エルミーナは、視線も合わせず優雅にターンをする。


「返してくれ!私の……私の婚約者を返してくれ!」


その叫びは、華やかな音楽と、貴族たちのざわめきに飲み込まれていった。

エルミーナは王太子の腕の中で、これまでにないほど晴れやかな、そして少しだけ意地の悪い勝利の笑みを浮かべた。


ローラン王太子の視線は、確かに、一瞬だけ彼女の胸元へ落ちた。

けれど、すぐに彼女の顔へ戻る。


「失礼。見事なドレスだったので」

「ドレスだけですの?」

「もちろん、貴女も」

「殿下は正直な方ですのね」

「嘘をついても、貴女には見抜かれそうだ」


それは、正しい判断だった。

エルミーナはずっと、人の視線を見てきた。


何を見るか。

何を見ないふりをするか。

何を欲しがり、何を軽んじるか。

視線は、思っている以上に多くを語る。


その点、ローラン王太子の視線は、少なくともアルベルトよりずっと礼儀正しかった。


胸を見る。

しかし、そこだけを見ない。

それはなかなか、悪くない。


曲が終わり、拍手が広がる。

エルミーナは優雅に一礼した。

遠くでアルベルトが、絶望した顔をしている。


三年間、彼のために整えてきた淑女の仮面。

三年間、隠してきた胸。

三年間、見ないふりをしてきた鬱憤。


それらすべてが、今夜まとめて解放された。

エルミーナは、王太子の手を取りながら思った。

男という生き物は、実にわかりやすい。

だからこそ、今度はせめて、見る目のある男を選ぼう、と。

最後までお読みいただきありがとうございました。

「デカパイ自撮り女」という言葉の強さに負けて書いてしまいました。

令嬢、婚約破棄、王太子、ドレス、そしてデカパイ自撮り女。

異世界恋愛に必要なものは、だいたい揃っている気がします。たぶん。

ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



こちらもよろしくお願いします
▶ 追い出された白猫姫は、
王太子にお猫様として溺愛される
白猫姫×王太子/成り代わり魔女/お猫様溺愛/宮廷ラブファンタジー
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
巨乳好きだからと婚約破棄するのはもう貴族として失格でしょ。 巨乳好きはマザコンが多いって聞くけどどうなんですかね。
デカパイ自撮り女… 大草原不可避wwwwwwwwwwwww あ、お話は面白かったですよ、ちゃんとざまぁって思いましたし(*゜∀゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ