5 侵入
どうぞよろしくお願いします。
長めです。
文化祭2日目。それは起きた。
俺は見守ろうとしていた。
自由に友達と楽しんでいる朋佳を。
横川と篠原と……、俺の過去に、友人と恋人の間を行き来した女性達と、朋佳は笑って話して、何もなかったかのような。
これからのことしか考えていないような顔をする。
ふと、これから先、俺のことも過去にして進んで行ってしまうのではないかと思うこともある。
でも、今は一緒にいてくれる。卒業も近い。
それだけで幸せだと思えた。
そう、そんな甘っちょろいことを考えていたんだ。あの時の俺は。
朋佳の母親と伯母、そして篠原と匠海くん。
この4人を俺と横川で案内していた。
朋佳はクラスのシフトに入っていたからだ。
高校棟を半分ほど回ったあたり、11時過ぎのことだった。
スマホが震えた。
『天堂さん、帝慶をやめて、行方がわからないらしい。雅さん、匠海くん、周辺気をつけて!
川上先生、紗栄先生、ふたりをどこかでかくまえない?』
朋佳から、天堂の事件に関わったグループlineに投稿があった。
俺は顔を顰めてから短く打ち返す。
『文化祭に潜り込むのは厳しいだろ?』
その時は天堂が入れるわけがないと思っていた。
泉学院は生徒名の入ったチケットがないと入場できない。
男性ひとりでは、受験生の保護者と名乗っても断られるはずだ。
朋佳から直接電話がかかって来た。
「どうした?」
『文化祭のチケット!
はるみ伯母さんの分のチケットが消えてるの!
天堂さん、天堂家に入ったってことない?
合鍵持ったままとかさ。
だから、匠海くんと雅さん、安全なところに! どこ向かう?』
朋佳の慌てている声。
……そして、朋佳の心配が実物となって俺にも見えた気がした。
「え、ああ、なら短大の方の会議室の方に!」
『了解! 私も向かう!』
俺は電話を切って、横川に囁いた。
「天堂が来ているかもしれない。
帝慶をクビになったとか!?
朋佳の伯母のチケットが紛失しているそうだ。
天堂が合鍵を持っていて自宅に侵入したんじゃないかと朋佳が。
用心のため、短大の会議室に連れて行こう」
横川は一瞬驚いた表情をしたが、頷いて、篠原と匠海くんに声を掛けて、高校棟を出るために移動を始めてくれる。
ああいう男が唯一縋りついていた『仕事の名誉』を失ったら、自棄になるかもしれない。
俺はその後ろから、確認のため、声を抑えて朋佳の母と伯母に話し掛けた。
「チケットを紛失されたんですか?
家の中で?」
「はい、カレンダーの所に忘れないように留めておいたのにね。
もう、いやになっちゃうわ」
朋佳の伯母は恥ずかしそうに笑った。
俺はさらに声を潜めた。
「天堂が取って行ったということはないですか?」
朋佳の母と伯母の顔が強張る。
「今、若宮から連絡があって。
合鍵を持っている可能性はないのかと」
「……返させましたが、そうね。
合鍵を作ることだってできます、よね。
家の鍵は変えていませんし……、もしかしたら……」
朋佳の伯母の声は途中から震えてさらに小さくなった。俺は安心させようと力強く言った。
「安全なところに急ぎましょう」
ふたりは頷いて、前を見た。ちょうど中庭に出たところだ。
講堂の入り口が見える。
横川がスマホを耳に当てた。
何か話している。
講堂のエントランスから都と加藤と巫女の衣装のままの朋佳が飛び出してきた。
匠海くんが朋佳の姿に気がつき、走り出す。朋佳も走って来て合流した。
都と加藤も来てくれ、講堂の方へ、4人を囲むように移動していく。
朋佳は後ろの方にいた俺のそばに来て、一緒に後方や周囲を気にしながら歩き出した。
「天堂、大学、クビって?」
「都さんが聞いたらしい。
天堂さん、連絡つかなくなってるらしいし」
その時、朋佳がスマホを取り出した。震えている。
「もしもし!」
朋佳の表情が強張る。
「相原くんも気をつけて!
アキは?」
頷いて……。
「匠海くん達は短大の方に逃げ込んだから!」
そう言って電話を切ってから教えてくれる。
「天堂さん、中学棟の自然科学部の方にいるって!
相原くんはアキがいる高校棟へ。マユミとソウヤくんは自然科学部あたりで隠れてるみたい」
まだ天堂さんと呼んでいるのか。少し呆れる。でも朋佳らしい。
どうしたらいい? 警察?
天堂に関わった麻岡や伊藤達のことも気になるが、周囲には泉学院の生徒の他に、見学に来ている小学生もいる状態だ。
「っと、警察に……、篠原達への接近禁止出ているんじゃなかったか?」
「都さんに聞けばわかるかな?」
俺は朋佳の言葉に、講堂の入り口に立ち止まり、都へ電話を掛けた。
もう、講堂の中に4人と都達は入って行き、奥へ向かって進んでいて、外からはもう見えないだろう。
「都! 警察にどう話せばいい?
接近禁止命令とか出てるのか?」
その時、朋佳が叫んだ。
「いたっ!」
同時に俺の服を引っ張る。
「中学棟から出てきた!
どうしたら!?」
読んで下さり、ありがとうございます。




