女王討伐
「スティィィィィィ……」
薄茶色だった体表は黒光りしたものに、血を薄めたように淡い桃色に輝く複眼は鮮血のように真っ赤に、背中からは刺が生え、女王はサディスティックな変貌を遂げていた。
(あれ?何?あれ……何?)
その刺激的過ぎる姿にトモルの思考回路はショート寸前だ。
(確かミエドスティンマの進化にはかなり時間がかかるはずだが、こんなリアルタイムでなんて一体何が……?)
「スティィィィィィン!!」
「!!?」
女王様はどうやらかなりのせっかちで、思考をまとめる時間を与えてくれない!背中に刺をさらに尖らせて……。
ボボボボボボボボボボボボボッ!!
勢い良く発射した!
「それってそういうものなの!?」
混乱の極みの中でも、ドラグゼオの身体は経験と本能から自然と最適な行動を選択する。
こちらも背部に取り付けられたキャノンとガトリングを展開し……。
バババババババババッ!!バシュウッ!!
一斉射撃!刺を全て迎撃した!
「撃ち合いで銃を開発した人間に勝てるわけないだろ!」
そう啖呵を切りながら、再び手に持った銃で十字架を描いた。
「もう一度……リベンジ十字葬炎弾!!」
ボボボボボボボボボボボボボッ!!
桃色の炎の十字架は再度クイーンに襲いかかった。しかし……。
ボオウッ!!
「――な!?」
「スティィィィィィ……!!」
今度は女王を燃やすことさえできなかった。ほんのり黒光りする甲殻を赤らめただけ……ドラグゼオの代名詞たる不死殺しの炎をもろに受けても、それだけの変化しか起こらなかったのだ!
(完全にあの黒い装甲に炎を無効化されている。これは最初のウインガーを倒したパニッシュメントの情報を受けて、対抗する術を構築したということか?)
「スティィィィィィン!!」
ボボボボボボボボボボボボボッ!!
女王はやはり考える時間を与えてくれないようで、先ほど以上の大量の刺を発射した。
「ちっ!面倒な……!!」
舌打ちしながら、桃色の炎と灰色の翼の力で、軌道上から離脱する……つもりだったのだが。
グンッ!
「――!!?ホーミングだと!?」
刺は急速方向転換!逃げるドラグゼオに追いすがる!
「くそ!やっぱり撃ち落とさないと駄目なのかよ!!」
バババババババババッ!!バシュウッ!!
桃色の竜は反転し、刺の方を向くと、再度ガトリングとキャノンを放ち、凄まじい弾幕で刺を全て……。
ボボボボボボボボボボボボボッ!!
「な!!?」
弾幕を避けるように第二波到来!ガトリングとキャノンの射角を避けるように大きく回り込み、ドラグゼオを取り囲む!
「時間差攻撃など……猪口才な!!」
桃色の竜はその身体と同じ炎を両腕から放出しながら、勢いよくクロスさせた!
「炎竜壁!全開だ!!」
ボボボボボボボボボボボボボボオウッ!!
およそ前方とサイド270度に湾曲した炎の壁を出現させる!第二波の刺は全てそれに進路を阻まれ、本体へはたどり着くことはできなかった。
「くっ!また炎をこんなに使ってしまった……!一刻も早くクイーンを……え?」
視線を下に向けると、クイーンがいたはずの中庭はもぬけの殻になっていた。
「炎の瞳 (フレイム・アイ)!!」
刹那、反射的に桃色の竜は周りに、同じ色をした火の玉を無数に出現させた。敵の存在、攻撃を敏感に察知する炎のレーダーを。
だが、どうやらその必要はなかったようだ。
「スティィィィィィン!!」
「!!?」
感知する間もなく、奇声を上げながら、背後から女王強襲!
子供達よりも大きく重厚で、それでいて鋭い鎌を振り下ろした!
「バーナーブレード展開!!」
即座に反応!振り返りながら、炎竜は銃のグリップから炎を噴き出し、刃を形成する!
ボオウッ!!
「くっ!?」
「スティィィィィィン……!!」
二振りの鎌は炎の刃によって受け止められ、つばぜり合いの状態になった……それは本来なら絶対にあり得ない光景である。
(やはり鎌も燃えない、溶けない……!こいつに炎は一切通じないのか……!?)
「スティィィィィィン!!」
「ぐっ!?」
クイーンは翅を目にも止まらぬスピードで羽ばたかせ、炎の刃ごとドラグゼオを押し潰そうとした。しかし……。
「調子に乗るな!!」
ボオウッ!ガギィン!!
「――スティ!!?」
桃色の竜は腕や足、背部追加ユニットから炎を噴射し、力任せに鎌を弾き飛ばした!さらに……。
「天は竜の領域!虫は地べたに這いつくばってろ!!」
そのまま回転!炎で加速した脚でオーバーヘッドキックを繰り出す!
「迴炎脚!!」
ドゴッ!ドスウゥゥゥゥゥゥン!!
蹴りは見事に女王の頭を直撃し、中庭に叩き落とした!けれど、桃色の仮面の下、トモル・ラブザの顔は晴れない。
(この感触……倒せてはいないな)
「スティィィィィィ……!!」
(ほらね。こういう予想はきっちり当たるんだよな……)
予想通り、何事もなかったように、ゆっくりと立ち上がるクイーンの姿を見て、トモルは心の底から辟易した。
(まぁ、へこんでいても仕方ない。まずは女王様に何故、ドラグゼオの炎が効かないのか、考えてみよう。
①ミエドスティンマはいまだ謎の多い存在、知られていないだけで、条件を満たすと、本来あり得ない速度で身体の構造を変えることができる。今回の場合考えられる条件は大量の子供達を短時間で失った時かな?
②犠牲になった研究員が彼女と適合する存在で、それを食したことで進化能力をパワーアップさせた。だとしたら、彼女は運が良すぎ、ぼく達は悪すぎ。
③この古代遺跡を利用した研究所もしくはここに貯蔵されたアーティファクトの影響を受けた。これも可能性としては捨て切れない。
この辺りかな、ぼくが思いつくのは。で、どれが本命かというと……全くわからない!!)
ごちゃごちゃ考えてみたが、結局トモルくんにはちんぷんかんぷんであった。
(まぁ、大切なのは、相手がどうパワーアップしたかよりも、パワーアップした相手をどうやって倒すかだ。必殺の炎はあの黒光りした甲殻には効かないし、ちょっとやそっとの打撃で砕ける感じもしない。一体、どうすれば……)
瞬間、トモルの脳裏にハネドラグのことを自慢気に説明するゴンドウの顔が過った。
「あっ!あれならもしかしたら……!」
「スティィィィィィン!!」
ボボボボボボボボボボボボボッ!!
トモルが何やら妙案を思いついたとタイミングを同じくして、クイーンは再度刺を発射した……が。
「芸がないな!それはもう通じない!!」
ボボボボボボボボボボボボボボオウッ!!
ドラグゼオは再び前方に炎の壁を展開し、刺を一つ残らず防いで見せた。さらに……。
「三度目の正直!十字葬炎弾!!」
ボボボボボボボボボボボボボボオウッ!!
「スティン!!」
今日三回目となる炎の十字架を発射!しかし、やはりクイーンにはダメージを与えることはできず。黒い装甲を赤らめるだけ。
それが、それこそが狙いだ!
「ハネドラグ!!」
呼びかけに応じ、背部ユニットの装甲が開く!そこには小型のミサイルがぎっしりと詰まっていた!
「フリーズミサイル!全弾発射!!」
ボボボボボボボボボボボボボッ!!
灰色の翼から白煙の糸を引きながら、無数の小型ミサイルが撃ち出された!
それは雨のように女王に振り注ぐと……。
ガチィィィィィィン!!
着弾と同時に内部に搭載していた瞬間冷却剤をばらまき、クイーンの巨体を氷で包み込んだ!
「これで動けなくなったら、それはそれでいいんだけど……」
「スティィィィィィン!!」
バギィン!!
「ですよね~」
女王は力任せに氷を粉砕し、拘束から解放された!砕け散った氷の破片が、周囲にキラキラと舞う。そして少し遅れて……。
バキバキバキバキバキバキ……!
「――スティ!?」
クイーンの黒光りした甲殻に亀裂が走り……。
バギィン!!
「ンマァァァァァッ!!?」
こちらも勢いよく砕け、周囲に舞い散った!
「よし!うまくいった!ゴンドウさんのいつまでも忘れない子供心のおかげだ!!」
それはゴンドウにハネドラグの説明を受けた日のこと……。
「これで一通り説明は……あ!一番大事な武装のことを言い忘れてた!」
「一番大事な武装?」
「フリーズミサイルだ。当たると対象をカチコチに凍らすことができる優れものだ」
「確かに便利そうだけど……炎属性のドラグゼオに氷ってどうなの?」
「バカかお前!相反する属性を両方持ってるのがカッコいいんじゃねぇか!あとマンガやアニメでよくある急激な温度変化で鉄壁の装甲に亀裂が!?展開ができるし、絶対あった方がいい!!これこそロマンだ!!」
「いつまでも子供心を忘れない人ですね……」
「おうよ!男がロマンを追わなくなったら、終わりだ!!お前も大切にしろよ!ロマン!!」
「はいはい。肝に命じておきますよ」
「……あの時は鼻で笑ってたけど……やっぱりロマンって、人生において必要なのだと痛感したよ、スティンマクイーン」
「ス、スティン……!!?」
そう呟きながら、竜は天から降りてきた……その全身に炎を灯しながら。
「そのボロボロの身体じゃ、この攻撃は……耐えられないだろ!!」
火の玉と化したドラグゼオは地面スレスレを疾走した!いつもよりも眩い桃色の軌跡を描きながら、傷だらけの女王の胸に向かって真っ直ぐと!
「ドラグゼオ葬炎弾!!」
ボシュウゥゥゥゥゥゥッ!!
「――ッ!?」
圧倒的熱量と速度を誇るドラグゼオの文字通り全身全霊の突撃はスティンマクイーンの巨体を貫き、大穴を開け、彼女の魂を一瞬で焼き尽くした!




