狼煙
「スティィィィィィン!!」
スティンマジェネラルは自慢の鎌を勢い良く撃ち下ろした。
「当たるか!」
それをガナビッドーザーはあっさりと回避。さらに……。
「悪いけど、その物騒なもん……使えんようにさせてもらうで!」
腕から砲口を展開!そこから……。
ビジャアッ!!
「スティン!?」
粘性のある液体を発射!それがジェネラルの鎌と腕の関節にかかるや否や……。
ガチィン!!
「スティンスティン!!?」
一瞬で石のように固まり、一切全ての腕の動きを封じた。
「怖い怖い鎌さえなければ、お前なんかただのデカいだけのゴミ虫や。プチッと潰して……しまいや!!」
ゴォン!
「――スティ!?」
動けなくなった相手の頭にハンマーを叩き込む!さらに……。
「ポチっとな」
ボォン!!ビチャアッ!!
「――ッ!?」
柄のスイッチを押すと杭打ち機の要領で設置面が撃ち出され、ジェネラルの頭部を水風船のように破裂させる。
「一丁上がり」
ガナビッドーザーは対象の死亡を確認すると、ハンマーに付いた血や肉片を振り払った。
「あとは……」
「今、君が倒したので、この会議室にいたのは最後だ」
振り返ると返り血をべっとり浴びたエレヴァートがこちらにゆっくり歩み寄って来ていた。
「こんなデカい虫がおったら、会議に集中できんからな。良かった良かった……で、他の場所は……」
「早ければそろそろ報せが来るはず……」
「隊長!!」
フルメヴァーラの声が言い終わる前に、こちらも返り血でびっちゃりのエグアーレが部屋に飛び込んで来た。
「ナイスタイミングやな」
「ずいぶんと慌てているようだが、まさか悪い報せではないよな?」
「我が隊に限って、そんなことはありません」
「では」
「はい。この辺りのスティンマジェネラルの駆除を完了しました。残るトルーパーもあとわずかです」
「ってことは……」
「あぁ、狼煙を上げよう」
エレヴァートは懐から円筒状のものを取り出すと、会議室から出て、廊下の窓を開けた。
「また君に頼ることを申し訳なく思うが……あとは頼んだぞ、ドラグゼオ……!」
そう言って、円筒を弄ると黙々と黄色い煙が上がった。
時を同じくして、東からは赤色、西からは青色の煙が上がる。
それを遠くからドラグゼオは緑色の眼で捉えた。
「突入は、うまくいったみたいですね」
時は遡り、作戦会議の日……。
「間違いなく、君が今回参加している人間の中で最強だからね。なので……この任務の始まりと終わり、最も重要な部分を担ってもらう」
「始まりと終わり?」
「まず始まりについてだが……ドラグゼオが優れた飛行能力と、広範囲攻撃能力を有していると聞いたのだが、それに相違はないか?」
「ええ……自分で言うのもアレですけど、そこら辺のピースプレイヤーよりも速く高く飛べますし、色々と制約がありますが、自分の周囲をまとめて焼き尽くすことができます」
「凄い!トモル君!!」
「それほどでもないですよ、タモツさん」
トモルは照れくさそうに後頭部を掻きながら、ペコペコと首を上下させた。
「続けていいか?」
「すいません!どうぞ!続けてください!」
「おれもすいません!」
「アホやな」
「アホだな」
「では、話を戻して……この作戦のファーストアタックはそんな規格外の能力を持った君に任せたい。具体的に言うと、研究所外の制空権を支配しているウインガーと地上に蠢いているトルーパー、こいつらをできる限り引き付けて飛んで、下に被害の出ない高度で一網打尽にして欲しい」
「確かにそれができれば、突入がかなり楽になる」
「エクトル殿の言う通り、この我らにとっては最善の、奴らにとっては最悪の第一撃が成功すれば、突入のリスクは激減するはずだ。なので、是非とも君にやってもらいたい」
「いいですよ」
「返事軽っ!!つーか、即決かよ!?」
あまりの軽快さに、アピオンは思わず突っ込んでしまった。
「正直、あの大量のウインガーやトルーパーの映像を見た時から、そうするのが一番手っ取り早いし、安全なんじゃないかって思ってたんだ」
「なら、さっさと言えよ」
「あまり出過ぎた真似はしたくなかったから、とりあえず作戦内容を全て聞くまでは黙っておくべきかなって。でも、ぼくが思いつくようなことは、当然考えていたんですね。なんか安心しました」
「こちらとしても、これだけの負担をこの国の人間でない君に強いるのは、心が痛むのだが、どう考えてもこれが最善策だという結論が出た」
フルメヴァーラが目配せすると、後ろでリスキ副隊長とユリマキ将軍が無言で頷いた。
「申し訳ないが、ここは一つビブリズのために力を貸してくれ」
「だからやりますって。それよりも、ぼくが気になるのは、終わりって方なんですが……もしかしてクイーンもぼくに倒せと?」
「あぁ、情けない話だが、これも君に頼んだ方が最も成功確率が高いという結論になった」
「いやいや!いくらなんでもそれはさすがにトモルに任せ過ぎじゃねぇ?」
「あぁ、個人的にはわたしもそこまでしてもらう義理は……リスクが増えたとしても、クイーン討伐は我ら国軍がやるのが筋だと思っている」
(余計なことを……!)
一瞬だけフルメヴァーラとユリマキ将軍の視線が交差し、バチバチと火花を散らした。
「だからこちらに関しては断ってくれても構わない。君がやらないなら、わたし達がやる」
「断りませんよ。国の命運がかかったミッション、義理とか義務とかではなく、最も合理的な判断をすべきです」
「それが君が戦うことだと?」
「はい。ですよね、エクトルさん?」
トモルはエクトルにアイコンタクトを送った。
「トモルくんの言う通りだ。彼の実力は俺が保障する。クイーン討伐はドラグゼオ一人に任せるべきだ」
「一人?援護くらいはしようと思っていたのだが、単騎で戦った方が都合がいいのか?」
「本気のドラグゼオの側に寄るのは危険、邪魔になるだけだ」
(その方があの危ないコアストーンを誰かに奪われる可能性がないですからね)
「だからクイーン討伐は彼一人にやらせろ。そっちの計算した通り、それが最善手だ」
エクトルの言葉にフルメヴァーラはわずかに眉間にシワを寄せ、ユリマキは口角を上げた。
「……わかった。ならば当初の予定通り、クイーンは君に任せる」
「それではそのタイミング、ジェネラルを排除したことを知らせる方法だが……」
「は?普通に通信すればええやろ?」
「可能ならそれでいい。しかし、ミエドスティンマの研究データによるとトルーパーやジェネラルが大量に殺されると、その情報が一気にクイーンに送信される影響か、周囲の磁場を乱し、通信障害が起きる場合があるらしい」
「んじゃ、確かに別の連絡方法が必要か……狼煙でも上げるか?」
「良くわかったな」
「え?マジ?」
「本当だ」
そう言うと、フルメヴァーラは懐から円筒状のモノを取り出した。
「ジェネラルを排除できたら、狼煙を上げる。南部隊は黄色、東は赤、西は青の煙だ。その三本の煙が確認できたら、クイーン討伐に向かって欲しい。もし制限時間まで三本揃わなかったら……」
「その時はぼく個人の判断で動かさせてもらいます。それくらいの裁量権は持たせてもらっても、構わないですよね?こんだけ働かせられるんですから」
今度はトモルとフルメヴァーラの確固たる意志を秘めた視線をぶつけ合った。
「……ゼロ、狼煙が全く上がらなかった場合は外の奴らと共に撤退してくれ。それは譲れない。ただし一本でも、狼煙が確認できたなら、その時は自身の消耗具合を考えて、好きに振る舞ってくれていい」
「了解しました。それでいいですよ」
「だが、そんなことにはならない。必ず我らは任務を達成し、三色の狼煙を上げることになるからだ」
「せやな。ワイやエクトルさんが参加するんや、万が一にも虫ごときに遅れを取ることなんてあらへん」
「作戦を予定通りに遂行する……それが傭兵というものだ」
「おれも頑張って、任務をこなして、最善の形でトモル君をクイーンと戦わせてあげるよ!」
「ケントさん、、エクトルさん、タモツさん……ええ、信じてますよ、必ず狼煙は上がるって」
「信じてたけど……いざ、目にするとホッとしたというか、感動したというか……とにかく良かった良かった」
そう言いながらドラグゼオは背中に装備された灰色の追加装備ハネドラグのバーニアから桃色の炎を噴き出し、空に浮かんだ。そして……。
「では、皆さんの頑張りに応えるために……トモル・ラブザ!ドラグゼオ!仕上げに行きま~す!!」
ボオォォォォォォォォォッ!!
身体を横に倒し、全速飛行!桃色のラインを夜空に引きながら、研究所へと一直線!
「スティィィィィィン!!」
「スティンスティン!!」
そんな彼の前に大型の翅を生やした虫の群れが立ちはだかる……が。
「ウインガー……まだ生き残りがいたか。だけど、もう不死殺しの炎は使ったからね……ここからは手加減無しだ!」
桃色の竜は手に特製の複合兵装ガンドラグを召喚。引き金を押し込みながら、横に移動させた。
「横一文字葬炎弾!!」
ボボボボボボボボボボボボボッ!!
「「「スティ!!?」」」
真一文字に放たれた桃色の弾丸はウインガーを桃色の炎で包み込んだ!
「悪いけど、雑魚にかまってる暇はないんだ」
火の球となって、地上に落下していく死骸を一瞥もせずに桃色の竜は通過、研究所の真上まであっという間にたどり着く。
「女王様がおられるのは中庭……あそこか」
エメラルドを彷彿とさせる緑色の眼が下方の中庭で手を合わせ、頭を下げて、静かに佇んでいるスティンマクイーンを捉えた。
「死んだ我が子達に祈りでも捧げているのか?わざわざそんなことをしなくても……すぐに会えるよ!!」
ターゲットに同情などしない……歴戦の戦士らしく冷静、いや冷酷な判断を下すと、ドラグゼオは愛銃で十字を切った。
「十字葬炎弾!!」
桃色の炎で作られた十字架が、祈る女王の頭上から襲いかかった。
ボオォォォォォォォォォッ!!
スティンマクイーンの巨体は先の子供達のように桃色の炎に覆われた。
そして彼らと同様にこの世から跡形もなく消え……。
「やったか?」
「……ス」
「ん?」
「スティィィィィィン!!!」
ボオウッ!!
女王の咆哮!断末魔ではなく、咆哮でまとわりつく桃色の炎を一瞬で吹き飛ばした!
再び現れた姿はさっきまでとは別物に様変わりをしていた。
目の前で起こる、予想を遥かに上回る異常事態。それに対し、歴戦の戦士トモル・ラブザの取った行動は……。
「……あれ?」
すっとんきょうな声を上げて、首を傾げることだった。




