お掃除開始
「商売繁盛、満員御礼、エントランスはお客様で込みあっております……って、そんなおめでたい話ちゃうわ!!」
研究所内部にところ狭しと蠢いているトルーパーの軍団を目にしたケントはその憂鬱な感情をノリツッコミで発散させるしかなかった。
「個人的には中々面白かったが、できることなら口より手を動かしてくれないか?」
「「「スティィィィィィン!!」」」
ザンッ!ザンッ!ドゴッ!!
「「「――ッ!?」」」
「スティン!?」
「こんな風にな」
そう文句を垂れつつ、エレヴァートは向かって来るトルーパーをナイフで切り裂き、蹴りで別の個体に叩きつけた。
「へいへい。こちとらプロなんでね。ギャラの分は働きますよっと!!」
グシャアァァァァッ!!
ハンマーを持って大回転!一撃でトルーパーを四、五匹撃破した。数が曖昧なのは、死体を確認する暇もなく、次から次へと新しい個体が押し寄せて来るからだ。
「切りがないな……」
「わかっていたことだろ。全滅させる必要はない。一匹でも多く殺し、来るジェネラルやクイーンとの戦いに横槍を入れられる確率を減らすんだ。お前達もわかっているよな!」
「「「はっ!!」」」
「無闇に銃を使うなよ!オリジンズには勝ちましたが、フレンドリーファイアで怪我しましたなんて、笑い話にもならん!面倒だが、ナイフや徒手空拳で一匹ずつ潰していけ!幸いにもこいつらの攻撃では、ピースプレイヤーの装甲をどうにかできんようだ!落ち着いて対処すれば何も問題はない!!」
「「「はっ!!」」」
指揮官の指示に従い、エグアーレとペザンテの集団は目の前にいるトルーパーを一匹ずつ確実に葬っていく。
(ずいぶんと慕われとるな、指揮官様は。まぁ、気持ちはわからんでもないが……)
グシャッ!
ガナビッドーザーは足下のトルーパーを踏み潰しながら、横目でエレヴァートの奮戦を目に焼きつけた。
(教科書に載っているやり方をまんま再現したようなお行儀のいい戦い方。無駄なく、効率的に敵を殲滅していく様は、P.P.ドロイドのようや。けど、実際には血の通う人間、それも軍のお偉いさんまで昇り詰めた立派な人間や。そんな人が危険を顧みずにこうして下っぱである自分と肩を並べて戦ってくれるんやから、忠誠心の一つや二つ生まれるわな)
ケントは素直にフルメヴァーラを中心にしたこの部隊の士気の高さと連帯感に感心した。
「また動きが鈍ってるぞ」
「ついうっかり。皆さんの奮戦ぶりに見とれてましたわ」
「下手なおべっか使っても、報酬は上がらんぞ」
「そんな邪でがめつい考えなんて、これっぽっちしか思うとらん」
「少しでも頭を過って、実行してしまったら、文句無しに邪でがめつい奴だ」
「手厳しい人やな。で、話は変わるんやけど」
「唐突だな。下らない質問なら、答えんぞ」
「ここの掃除はあんさんのおかげで、大分上手くいっとるけど、東と西の方は大丈夫なんか?どうにもあの二人は頼りないちゅうか、信用ならんちゅうか……」
「つくづく言葉を選ばない人間だな、君は。だが、気持ちはわからんでもない。あの二人は端から見ればそういう印象をもたれても仕方ない奴らだ」
「んで、実際は?」
「リスキの東は問題ないだろう。奴は我が隊の副隊長だからな」
「西は?」
「アルホネンの気分次第だろうな」
同時刻、東突入部隊――。
「スティィィィィィン!!」
スティンマトルーパーが一体のマーキングが施されたペザンテに飛びかかった。第二機甲隊副隊長イリタ・リスキが駆るペザンテに……。
ガギィン!!ガシッ!
「――スティン!?」
ペザンテはそれを微動だにせず抱き止めた。トルーパーの攻撃では自慢の装甲に傷一つつけられないとわかっていたから、回避運動など取る必要ないのだ。むしろ色々と手間が省けて助かるくらいだ。
「本当なら女王の腕の中で息絶えたいんでしょうけど……アタシで我慢してちょうだい」
ギリギリギリギリギリギリ……
「スティ!?スティスティン!!?」
リスキペザンテは万力のように両腕でトルーパーを締め上げていく。苦しむ虫は鎌のついた腕と何本もの足をじたばたと動かし、脱出しようとするが……駄目だった。
ギュッ!!バキッ!!
「――スティ!?」
ついにはトルーパーの身体はへし折られ、その命を散らすことになった。
「さっきはああ言ったけど……むしろ虫ごときが、ビブリズ第二機甲隊副隊長の腕の中で死ねたことを喜びなさい」
そう言いながら、ゴミを捨てるようにトルーパーの死体を同胞の骸の上に投げ捨て、積み上げた。
「やるな、副隊長殿」
ザシュ!ザシュ!!
「「――ッ!?」」
ここが戦場だと思えないほど軽く話しかけながらパラディジェントは槍を縦横に動かした。すると、彼に襲いかかろうとしていたトルーパー二匹がその軌跡通り、縦と横に真っ二つに斬り裂かれる。
「……そんな妙技を見せられながら言われても、嫌味にしか聞こえないわ」
「別にそんなつもりは。俺はただ受けた依頼を全力でこなしているだけだ」
ザシュ!ザシュ!ザシュ!ブウン!ドゴッ!!
「スティ!?」「ンマァ!?」「ティン!?」「ス!?」
上から下へと斬り下ろしで一匹、そのまま流れるように突きで二匹、直ぐ様槍を引いてからのもう一回突きで三匹、それをぶん投げ、四匹目に叩きつける。
この一連の行動を終えるまで一秒もかかっていない。
「……やっぱり見せつけてるでしょ?」
「だからそんなつもりはないって」
「まぁ、いいわ。ギャラを上げるためのデモンストレーションでも、自分の強さを誇示するためでも、このゴミ虫どもを減らしてくれるならね」
リスキペザンテはそう言いながら、辺りを見回した。
「はあっ!」
「死ねぇ!!」
「とっととくたばりやがれ!」
「ふん!!」
「スティィィィン!!?」
自分とパラディジェントだけでなく、部下達も大いに奮戦し、トルーパーの死体の山を各所に作り出していた。
「ここは大分減ってきたな」
「アタシの部下は優秀だからね」
「なら」
「ええ……予定通り、部隊を一部分ける!ここに残る者はこのままトルーパーを殲滅!それ以外はこの先の食堂エリアに向かうわよ!ジェネラルの姿が見えないってことは、きっとそこに隠れているはず!引き続き、集中を切らさないように!」
「「「はっ!!」」」
リスキの号令が鳴り響くと、部下達はそれに従い、各々動き出した。
「本当に優秀だな。統制がきちんと取れている」
「これくらいさせられないなら、副隊長なんて任せられないわよ」
「ナンバースリーはどうなんだ?あいつはあまり人の上に立たせるべきタイプには見えなかったのだが」
「そんなことないと、否定したいところだけど……その通りだわ。正直、アルホネンは性格に難がある」
「それでもあの地位にいるってことは……」
「お察しの通り……強いからよ」
同時刻、西口……よりさらに奥に進んだ資料保管庫。
「ヒヤッハー!!」
バン!バン!ザンッ!!
部隊のナンバースリー、ピルッカ・アルホネンが駆るシュネッラーは部屋を縦横無尽に動き回りながら、銃撃と斬撃でトルーパー三匹を一気に撃破した。
「すごい……けど、資料に当たるかもしれないから、そういうのは控えた方がいいんじないですか?」
タモツボーデンもトルーパーを撃破しつつ、その早業に感心しながらも周りの本棚にぎっしりと敷き詰められた資料に何かあってはいけないと気が気でなかった。
「はっ!本当に大切な資料なら、デジタルデータとして保管してあるだろ」
「だとしても、ここの資料が必要ないってわけじゃないでしょ!!」
「つーか、そもそもオレが誤射するわけねぇんだよ!!」
バン!バン!バァン!!
その言葉を証明するように、銃弾は資料の間を通り抜け、ターゲットのトルーパーの眉間に見事に命中した。
「ほらな」
「確かに……これじゃあ、文句は言えないですね……」
「ふん、だったらとっとと先に進むぞ。ここにはジェネラルはいないみたいだからな」
そう言うと、シュネッラーはそそくさと出入口に向かって行った。
「ちょっと待ってくださいよ!他の人達が、全然ついて来てないじゃないですか!」
他の部隊と違い、この資料保管庫にいる人間はアルホネンとタモツだけであった。それ以外の生命体は虫しかいなかったが、それも今しがた全滅してしまった。
「オレについて来れない奴が悪い」
「でも、バラバラになったら被害が……」
「こんな雑魚相手にやられるくらいの奴なら、部隊に必要ねぇよ。それにさっさとジェネラルとやらを倒した方が結果として被害を抑えられると思うんだが?」
「うっ!一理あるかも……」
「納得したなら、とっとと行くぞ」
シュネッラーは扉を開け、外に出て行く。
(言葉は乱暴だけど、筋はそれなりに通っているから反論できないんだよな。もしかしたらこうして単独行動を取りたがるのは、機動力重視のシュネッラーの特性を生かすため?味方を気にしていたら、全速は出せないだろうからな。そこまで考えていたとしたら……伊達にナンバースリーと呼ばれてないわけか……)
タモツボーデンも考えをまとめながら、資料保管庫から出た。その時……。
ササササササササササササササッ!!
「!!?」
頭上を、天井を逆さまのトルーパーが通り過ぎた!兵隊虫は一目散に無防備なシュネッラーの背中に向かって行く!
「アルホネンさ――」
タモツの声は間に合わなかった。
バァン!
「――スティ!!?」
「――ん!!?」
なぜなら言い終わる前にシュネッラーが対処してしまったから。
振り返ることもなく、後ろ向きのまま見事にトルーパーを狙撃、撃墜したのだ。
「オレがあの程度気づかないと思ったか?」
「……思いました」
「はっ!ずいぶん低く見積られたもんだ。奴の足音は保管庫から出る前から聞こえていたぜ」
そう言って、耳元をトントンとノックした。
「あっ!そうか!HIDAKAは楽器も作ってるから、聴覚センサーが優れているんだった!」
「その通り。ただこれを生かして、敵を捕捉したのはオレ自身の警戒心の高さがあってこそだ。お前らのマスコットの妖精並みにオレは敏感に、そして正確に周囲の様子を把握している」
一通り自慢を終えると、シュネッラーは再び歩み始めた。
(パストル社長も視界だけでなく、五感全てを使えって言ってたけど、こういうことなのかな?おれにはしばらく無理……というか、直情的なタイプだから目の前のことだけで精一杯、一生できないかも)
若葉色のマスクの下で、ため息をつき、肩と顔を落とすタモツボーデン。すると……。
ガシャン!
「いてッ!?」
立ち止まったシュネッラーにぶつかった。
「……お前は目の前で起きたことさえ、把握できんのか?」
「うっ!?いや、面目ない……でも何で急に立ち止まったんですか!?」
「ここだ」
シュネッラーが顎を動かし、視線を誘導する。
顎の先には先ほどの資料保管庫の扉と同じものがあった。
「えーとここは……」
タモツはボーデンにダウンロードした研究所内部のマップをディスプレイ裏に表示した。
「ここも倉庫らしいっすね」
「さっきよりも広くて、危険度の低いアーティファクトが保管してあるな」
「え?」
「地図は全て頭に入ってる。どこに何があるか自分の家のようにわかる」
「そうなんですか……」
タモツは能力の差をまた見せつけられ落ち込んだ。
「落ち込む必要ねぇよ。俺らはミエドスティンマがここを占拠してからずっと訓練してきたし、この国の人間だからな。お前らが、内部の地図を渡されたのはついこないだだろ?覚えてなくても仕方ねぇさ」
「アルホネンさん」
アルホネンの励ましの言葉で、一転して、タモツは元気を取り戻した。
「まっ、オレならどんだけ時間がなくても、きっちり覚えてくるがな。つーか、実際、一時間程度で覚えたし」
「ええ……」
いや、やっぱり落ち込んだ。
(この人、やっぱり苦手だ……)
「ボケっとしてないで、入るぞ。この扉の先にいる奴の足音は“重い”」
「では、この中に……」
「あぁ、資料なんか気にするな。てめえごときが戦闘中に、それ以外のことに現を抜かすなんて、死にたいって言ってるようなもんだからな」
「了解しました……」
「んじゃ、覚悟決まったみてぇだし……突入!」
バキッ!!
シュネッラーが扉を蹴破ると、そこには資料が散乱し、絨毯のように敷き詰められていた。その上に……。
「スティィィィィ……!!」
「ンマンマ……!!」
トルーパーよりも遥かに大きな虫が二匹佇んでいた。
「これがスティンマジェネラル……おれが倒すべき……ターゲット……!!」




