最大火力でスタート!
「いよいよやな……!」
会議後、何度か軽く合同訓練を行い、あっという間に作戦決行当日がやって来た。
空に星一つ見えない暗がりの中、指定の場所で待機しながら、気合十分なケントがボキボキと指を鳴らす音だけがこだました。
「張り切るのはいいが、君の出番はもう少し後だぞ」
「わかってますがな、指揮官様」
「ならいい」
フルメヴァーラはケントに話しかけながらも、彼の顔を一瞥もしなかった。
「この期に及んで、まだワイらが任務に参加することが気に入らんか」
「勘違いしているようだが、わたしはいつもこんな感じだ。あまり人付き合いが得意なタイプではない」
「じゃあ、ユリマキ将軍ともバチバチなんか?」
「……何を聞いたか知らんが、わたしと彼女は上司と部下、それ以上でもそれ以下でもない」
「でも、今日というこの日に軍の最高責任者でありながら、明日の慰霊祭の準備の方を優先しとることに、内心イライラしてたり……」
「ないな。慰霊祭も大切な職務だ」
「さいでっか」
(どうやらこれ以上やっても本心は引き出せんようやな。つーか、これ以上ワイの心証を悪くしたら、どさくさ紛れに後ろから撃たれそうなんでやめとこ。収穫無しでタイムアップか……情けない)
今日までケント達は色々と探りを入れ、あの乱暴な忠告者やこの作戦に裏がないかを調べていたが、結局何もわからずじまい。その焦りがこのピりついた作戦直前に挑発じみた言動を取らせたのだった。
決してケントが空気が読めず、性格がアレな輩というわけではない。断じてない。
『東突入部隊、準備完了しました』
『西突入部隊、準備完了』
フルメヴァーラの通信機から音声が流れると、漸く彼はケントの方を向いた。
「らしいが、君は?」
「当然、準備万端。いつでも行けるで」
「ならば……始めよう」
指揮官は通信機に口を近づけた。そして……。
「ミエドスティンマ討伐、そしてビブリズ国立考古学研究所奪還任務をこれより開始する!桃色の花火が上がったら、突入部隊は速やかに研究所の中へ!」
『了解』
『ラジャー』
「待機部隊は突入部隊を援護しろ!また外に出て行こうとするくそ虫どもを駆除しろ!決して撃ち漏らすなよ!」
『了解!』
「では……ドラグゼオ、ド派手にやってくれ」
『はい!!』
「……スティン?」
研究所の周りで蠢くスティンマトルーパーとウインガーの複眼が瞬間、一点に集中する。
漆黒の空の向こうに桃色の光が見えた気がしたのだ……いや、気ではなく、実際に桃色の光が見えた!そして、それはどんどんと大きくなっていく!つまり……近づいているのだ!
「トモル・ラブザ!ドラグゼオ行きます!!」
灰色の翼を携えた桃色の竜が一気に戦闘区域に突入!
「「「スティィィィィィン!!」」」
乱入者の姿を確認するや否や虫達は耳障りな奇声を上げ、母であり女王である存在を守るために、一斉に翅を広げた。
「そうそう!そうこなくっちゃね!!精々必死こいて足掻いてみせろよ!虫けらども!!」
完全に悪役が言うセリフを吐きながら、ドラグゼオは背部ユニットからキャノンを右肩に、ガトリングを左肩に展開!そして……発射!
ドシュウン!ババババババババババッ!!
「――スティ!?」
「ンマ!!?」
弾丸は容赦なく、虫達の身体を抉り、貫き、弾き飛ばした!凄まじい勢いで、地上のトルーパーは数を減らしていく。
「スティィィィィィン!!」
見るに耐えない蛮行をやめさせようと、ウインガーが側面から突撃して来た!
そのスピードたるや目を見張るものがあり、並の戦士なら、為す術なくその高速タックルの餌食になっていただろう。
「その程度でドラグゼオを捉えられるか!」
けれど、今回の相手は残念ながら並ではない。桃色の竜は闘牛士の如く、華麗に身を翻し、ウインガーの特攻を回避した。さらに……。
「はっ!!」
グシャッ!!ドゴオォォォォン!!
「――マ!?」
避けるだけに飽き足らず、踵落としを繰り出す!優れた飛行能力を得た代わりに、甲殻が薄くなったウインガーは不快な音を立てて、折れ曲がり、その形のまま地面に叩きつけられると、バラバラに弾け飛んだ。
「スティィィィィィン!」
「スティスティン!!」
同胞を無惨に殺される場面を目の当たりにしたというのに、ウインガー達は臆することはなかった。次々とドラグゼオへと我先にと突撃して来る……が。
「鬱陶しい!!」
グシャッ!グシャアッ!!
それも回避しながらのパンチとキックであっさり撃墜!徒手空拳で撃墜したのだ!
「「「スティィィィィィン!!」」」
「だからしつこいんだってば!!」
ドシュウン!ババババババババババッ!!
ウインガーの集団にありったけの弾丸をばらまき、キルスコアを荒稼ぎ!
しかしここでも、ドラグゼオは代名詞とも言える炎を使わなかった。
(念には念を入れて、不死殺しの炎を一回だけだと決めていた。だからこの状況は覚悟していたけど……思っていたよりずっともどかしいな……)
ミエドスティンマの進化能力を考えて、ドラグゼオは飛行以外に炎を使うことを禁じていた。本来ならば、もっと圧倒的かつ効率的に虫けらどもを駆除できるのだが、この縛りプレイのために、こうしてちびちびと地道に潰していかなければならない。
(まぁ、いいよ。炎は使えないのは。それよりも深刻なのは……)
ウインガーを撃ち落としながら、ドラグゼオはエメラルドのような緑色の眼を下方に向ける。
そこでは翅を広げてはいるが、決して飛ぼうとしないトルーパーの軍団がこちらを不気味な複眼で見上げていた。
(こいつら想像よりも遥かに賢い。飛行能力特化のウインガーが倒された途端、空中戦ではぼくに勝てないと判断し、地上に留まった。きちんと状況判断ができている)
「スティィィィィィン!!」
グシャッ!!
突撃してくるウインガーを蹴り上げ、吹き飛ばす。そしてその奥に、追撃のウインガーが来ているのを捉えた。
「ちっ!!」
ドシュウン!!ドゴオォォォォン!!
それも易々とキャノンで撃破するが、その後ろにはさらに、数え切れないくらいのウインガーが……。
(てっきりウインガーは航空戦力だと思っていた……思っていたが、違う。こいつらは武器だ。生きているミサイルだ。死を恐れずに突っ込んで来るこいつらを相手し続けるのは、精神的にしんどい)
自らの全てを女王に捧げる羽虫の集団との戦いにトモルは早くも嫌気が差していた。そしてこの状況が長引けば、長引くほど自分が窮地に陥ることにも……。
(トルーパーの数を全然減らせなくて、下のみんなには申し訳ないけど……そろそろ潮時か!)
「スティン!?」
ドラグゼオ急上昇!熱エネルギーを身体の中心で圧縮しながら……。
「スティン!!」
「スティスティン!!」
ウインガー達は当然追跡!その身を犠牲に我らが女王の敵を撃ち滅ぼそうと、全速力で桃色の竜に追いすがる!
「スティィィィィィン!!」
「スティスティィィィィィン!!」
さらに一部のトルーパーも追撃隊に加わる!スピードこそウインガーに及ばないが、闘志は負けていない!
それを見て、ドラグゼオは……。
(よし!!)
心の中でガッツポーズした。
(トルーパーが釣れた!予定よりも少ないが、結構な数だ!これなら……!!)
ある程度上昇すると、ドラグゼオは反転しながら停止、身体を丸めた!
炎を内部で更に凝縮しているのだ!溜めているのだ!目に映る全てを燃やし尽くすために!
「滾れ炎よ!迸れ灼熱よ!これがぼくとドラグゼオのマキシマムだ!!」
ドラグゼオは両手を広げ、溜めに溜めた桃色の炎を解放する!桃色の竜の最強にして最凶の必殺技の名前を高らかに叫びながら!
「ドラゴニック・ブレイズパニッシュメント!!!」
ボシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
「――ッ!?」
「スティ!?」
桃色の竜を中心にその身体と同じ桃色の炎が球状に広がり、周辺一帯を飲み込んだ!
花火というにはあまりに凶悪で灼熱の炎は、触れたトルーパーとウインガーの薄い翅も、硬い甲殻も、その下に守られた神経と内臓も、その全てを跡形もなく、この世から消し飛ばした。
それは桃色の太陽であった……。
「はっはー!ワイ以上に気合入っとるな、ドラグゼオ様は!」
夜明けと錯覚してしまうほど爛々と輝く眩い炎の球を眼を細めながら見上げ、ケントは自分が活躍したかのように喜んだ。本人は否定するだろうが、彼にとってトモルという存在は自慢の同僚なのである。
一方、桃色の竜の全力を初めて目の当たりにした面々は……。
「まさか……あそこまでとは……!!」
「そりゃあ、ターヴィとやり合えるはずだ……!」
「これは神の御業か……?それとも悪魔の所業か……?」
「一個人が太陽を生み出せるなんて……あってはいけない……!」
「イカれてるぜ……!」
「トモルさん、あなたはなんて……」
「いくらなんでも凄過ぎるよ……こんなの凄過ぎるよ……!」
対照的にフルメヴァーラやエクトル達、その力を初めて目にした人間は作戦の成否のことなど忘れ、胸の中を強い恐怖に支配された。。
桃色の炎が鮮やかに燃えれば燃えるほど、良くも悪くもそれに照らされた者の心を大きくかき乱す。今のドラグゼオとは、そういう存在になってしまったのだ。
「ふぅ~、これで大分数を減らしたぞ」
下界の者達が自分のことで顔をひきつらせていることなど露知らず、一仕事を終えたトモルは桃色のマスクの下で満足そうな笑みを浮かべていた。
「さてと……これでぼくの最初のミッションは終了。通信は……もう通じないかもしれないし、見ればわかるよね」
独り言を呟くと、ドラグゼオは先ほど飛んで来た方向に頭を向け、そのままそちらに飛んで行った。まるで合図を送るように、夜空に桃色のラインが引かれる。
「予定通り、ドラグゼオは離脱したみたいやな。ほんなら、ワイらも行こうか?」
「………」
「指揮官殿?」
「………」
「指揮官殿!」
「………」
「ラスムス・フルメヴァーラ!!」
「――ッ!?」
フルネームを呼ばれ、漸くフルメヴァーラは正気を取り戻した。
会議の時は鉄面皮のようで、まったく表情が読み取れなかったが、今の彼の顔は大きく崩れ、そして汗でびっしょりと湿っている。
「すまない……さすがにあれだけの火力を、あれだけの広範囲に出せるとは思わなかったんでな。普段はあんなに大人しそうなのに」
「せやな。普段のあいつからはあの傍若無人ぷりは想像できんわな」
「あぁ、想定外だ」
ケントは喋りながら、フルメヴァーラの表情をつぶさに観察した。
(こいつがあのストーカーの中身なら、こんなに驚くか?遠隔操作とはいえ、曲がりなりにもあのドラグゼオと正面切って戦っとるのに。でも、あん時は不死殺しの炎使ってへんし、合同訓練の時も加減しとったからな。このリアクションで白か黒かは判別できんか)
「……どうした?急に黙りこくって」
「いやいや、ついな。あんさんがそこまで驚くとは思わへんかったもんやから」
「むしろあれを目にして、驚かない人間がいたら会わせて欲しい」
時間が経ったからか、ケントの視線に違和感を感じ気を引き締めたからか、フルメヴァーラの顔はいつも通りの固く無表情なものに戻り、汗も引っ込んでいた。
「調子を取り戻したみたいやな」
「おかげ様でな」
「ほんなら……」
「あぁ……総員、装着準備!」
「「「はっ!!!」」」
フルメヴァーラの号令を合図に、後ろに控えていた隊員達が、首にぶら下げていたタグを露出させた。そして……。
「総員装着!!」
「「「エグアーレ起動!!」」」
「「「ペザンテ起動!!」」」
その真の姿を解放し、各々機械鎧を纏っていく。
エグアーレはパッと見、平均的なピースプレイヤーといった感じで、その印象通り、癖のない量産モデルである。
ペザンテはそのエグアーレの各部、詳しく言うと、人体の急所と呼ばれる場所と動きの邪魔にならない箇所に装甲を盛ったマシンであった。
(HIDAKAの主力製品のエグアーレに、防御重視のペザンテ……今回の任務のセオリー通りの組み合わせやな。となると……)
「エレヴァート起動」
フルメヴァーラが装着したのは、エグアーレの各所を豪華にしたが、ペザンテほど変化が見られないマシン……そしてその印象通り、ほんの少しだけエグアーレよりも性能の高い所謂上位モデルのエレヴァートだ。
(やはりエレヴァートか。まぁ、指揮官、エース用のマシンって触れ込みで売ってるんやから当たり前っちゃ当たり前か。せやけど、合同訓練の時も一切装着せんかったから、勝手にもっと特別なマシンだと期待しとった。ほんま勝手な話やけど……がっかりやな)
「拍子抜けか?」
「え?」
「第一機甲隊の隊長やユリマキ将軍は特級使いだと聞いていたんだろ?ならば、わたしもと思っていたんじゃないか?」
「ぶっちゃけその通りや」
「わたしはこの通り、あまり感情を表に出さないタイプなんでな。感情を力に変える特級は向いてないよ」
「さいでっか」
「それよりも……」
「はいはい。ワイも……ガナビッドーザー!!」
ケントは自分のパーソナルカラーである黄色と黒に彩られた特製のマシンを装着。ハンマーを肩に担いだ。
「今日はこれやろ」
「見たこともないマシンだが、それだけ自信ありげなら、強いんだろうな」
「もちのろんや」
ガナビッドーザーはピースサインを突き出した。
「緊張もないみたいようだし、早速……!」
「行きましょうか!」
「全軍!南口より、研究所に突入するぞ!!」
「「「おおう!!」」」
「スティ!!?」
物陰に隠れていた部隊が一斉に飛び出し、同胞を目の前で大量虐殺されて呆けているスティンマトルーパー達に向かって突撃した!
「邪魔だ!道を開けろ!!」
バン!バン!バァン!!
「ステ!?」「ンマ!?」「ティン!?」
先陣を切るエレヴァートは視界に捉えた虫達に手当たり次第弾丸をお見舞いした。
「ほい!ほい!ほいっと!!」
グシャッ!グシャッ!グシャッ!!
その後方のガナビッドーザーは、サイドから飛びかかるトルーパーをハンマーで一匹一匹、確実に潰していく。
「我らも隊長達に続け!!」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」
バァン!バァン!ザンッ!ドゴッ!!
さらに後に続く隊員達も銃なり、ナイフなり、拳や脚なりで、思い思いに虫を蹴散らしていった。
そして、あっという間に目的地である南口の前に……。
「突入!!」
勢いそのままに扉を破壊し、フルメヴァーラ隊長率いる南突入部隊は研究所内部に侵入した。
そして時を同じくして、東と西も……。
「東口……突入!!」
ペザンテを装着したリスキ副隊長を先頭に東突入部隊もなだれ込む。
「西口突入っと!!」
部隊のナンバースリーであるアルホネンは余計なものを削ぎ落とした細身のマシンを纏い、ゴールテープを切るように優雅に素早く突入し、西突入部隊もそれに遅れまいと次々と研究所内に足を踏み入れる
「スティィィィィィン!!」
それらを追って、外にいたトルーパー達も研究所に押し寄せる……が。
バシュウン!!
「――スティ!?」
「スティスティン!?」
今まさに研究所に侵入しようとした一匹のトルーパーの頭を一筋の光が貫通した。急所を的確に撃ち抜かれた虫はピクピクと痙攣こそしているが、結局あと一歩のところで研究所の中には入れず仕舞い。
「スティン!!」
「スティンスティン!!」
周辺のトルーパーは同胞を絶命させた光の軌跡をその複眼全てで遡っていく。
するとそこには、ペザンテの大軍。さらにその後ろに控えるエグアーレに、長大なライフルを持ったマシン、全身にミサイルランチャーを装備したマシンがこちらを睨み付けている。
大量の虫の兵隊達は、自分達に負けず劣らずの四種類ほどのピースプレイヤーの混成部隊に取り囲まれていたのだった。
「研究所近くのターゲットは『ゲメッセン』で狙撃!離れている奴は『フリオーソ』のミサイルで爆撃!近づいて来る奴はエグアーレとペザンテで対処しろ!一匹もこの包囲網から出すな!殲滅しろ!殲滅!!」
バシュウン!バシュウン!ドゴオォォォォォン!!
トルーパー達は時に撃たれ、時にミサイルの爆発に吹き飛ばされ、次々と命を散らす。
「スティィィィィィン!!」
まずは先にこいつら排除しないとまずいと判断したのか、トルーパーは反転、攻撃目標を外に残った防衛部隊へと変更し、一目散に進み始めた。
「かかった!これで突入部隊の負担を減らせる!」
バシュウン!バシュウン!バシュウン!!
「ステ!?」「ンマ!?」「ティン!?」
狙撃用マシンであるゲメッセンを装着したトピ・ユロスタロ隊員は嬉々としてライフルの引き金を引き続け、撃墜数を更新していった。
「やるな、トピくん」
「ボリスさん!」
「これはわたしも負けてられんな」
防衛線を敷いていたペザンテの間に、それ以上の装甲を持った機仙・ダブル甲が割って入る。手にライフルを持って……。
バン!バン!バァン!!
ライフルが火を噴くと、その銃口の先にあるトルーパーの頭が次々と吹き飛んでいった。
「助っ人として呼ばれたんだ……活躍しないと、何を言われるかわからん」
(さすがだな……自分も!)
バシュウン!バシュウン!バシュウン!!
発砲音はいつまでも鳴り止むことはなかった。この音が止まるのは全てが終わった時、つまり……。
「どちらかが全滅するまでやり合おうじゃないか、毒虫どもよ!!」
「当然、滅びるのは、お前達の方だ!!」
発砲音は鳴り止まない。勝敗が決するまで決して……。




