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No Name's Trust  作者: 大道福丸
国を滅ぼす毒
83/100

乱暴な忠告者

「ホテルに向かっていないからもしやと思っていたが……バレていたか」

(声が加工されている……)

(当然だな)

(あのマシンならね……)

 タモツとアピオン以外は不気味に加工された声に対し、驚きはしなかった。声紋という正体へと繋がる重要な手がかりを残す必要など、まともな頭がある人間ならするはずがないのだから。

「スパイごっこするなら、もっと尾行の勉強せな。つーか、ドローンがあるならそっちだけでええやろ」

 そう言ってケントは頭上を指差す。

「ドローンもか……」

 謎のピースプレイヤーから信号が送られると四方から四機のドローンが飛来し、トモル達を囲むように旋回する。

「ドローンも……おれ、全然気づかなかった」

「ピースプレイヤーはともかくドローンの方はわからなくても仕方ないですよ。ぼくも違和感は感じてましたけど、アピオンに確認するまで、自信を持てなかった」

「おれっちの感知能力は世界一ぃぃぃぃっ!!」

「せやな」

「あれ?調子に乗るなとか、言われると思ってたのに……」

「大言壮語にも聞こえるけど、実際にここにいる誰よりもそこに関しては圧倒的に突出しているからね。誰もツッコめないよ」

「あぁ、素晴らしい能力だ。よくやったぞ、妖精くん」

「ど、どうも……」

 想像してない反応が返って来たアピオンは照れくさそうに後頭部に手を当て、ペコペコした。

「ルツ族の力を見誤ったか。侮っていたわけではないのだが……」

「そんな風に思ってる時点で見立てが甘いねん。一人を除いて、ワイらは超がつく一流やぞ」

(ごくごく自然に除かれた……)

 わかってはいたが、改めて言語化されたショックは思いの外大きく、タモツは密かに落ち込んだ。

「超一流か……ならばせっかくだし、サインでももらおうかな」

「欲しければいくらでも書いてあげますよ。ただし……」

「貴様の目的を全て話してくれるんならな」

「何のつもりでこんな真似した?まさかマジでワイらのファンやっていうやないやろ?」

「あなた達のファンというのは間違っていないので、もう少しお話しさせてもらいたいところですが、どうやら皆さんあまり気が長いようじゃないので、単刀直入に言わせてもらいます……ミエドスティンマの討伐任務から降りてください」

 瞬間、皆の頭に先ほどの会話の内容と、神経質そうな指揮官様の顔が鮮明にフラッシュバックした。

「外様を参加させたくないということは……フルメヴァーラのシンパですか?」

「ノーコメント」

「では、質問を変えよう。今回の作戦は我ら、とりわけトモルくんの役割が非常に大きい。もし彼が離脱したら、間違いなく作戦成功の難易度は上がり、犠牲も増えるはずだが……それでもいいと思っているのか?」

「イエス」

「それでおたくに何の得があんねん」

「ノーコメント」

「理由も言わずに一方的に要求だけ突きつけてきて、それにはい、わかりましたと応じるような面子に見えますか?」

 謎のピースプレイヤーは改めてトモル達の顔を一人ずつ見ていった。

 誰も彼も瞳の奥に強い輝きを灯し、とてもじゃないが薄っぺらい言葉だけで懐柔できる雰囲気ではない。

「見えませんね。やはり説得は無理か」

「では、サインをもらって帰りますか?」

「いや……強行策を取らせてもらう!」

 ストーカーが地面を蹴り出し突撃!それに呼応するようにドローン達も戦闘モードを起動し、機銃を露出させる!

「やっぱこうなるか!」

「よくあるパターンやな」

「あるあるなんですか!?これ!?」

「話は後だ!みんな!行くぞ!!」

「「「おう!!」」」

「パラディジェント!!」

「『機仙・ダブル甲』!!」

「ベッローザ!!」

「BP・ボーデン!!」

「熱く行こう……ドラグゼオ!!」

 五人の戦士が眩い光に包まれ、機械鎧を装着する。

 その中で真っ先に飛び出したのは……。

「あいつはぼくが相手します!!」

 桃色の竜ドラグゼオであった。灰色のリュックが変形した背部追加ユニット、ハネドラグから桃色の炎を噴き出し、ストーカーを迎え撃つ!

「最強戦力自ら相手をしてくれるか!」

「厄介ファンとは関わりたくないんですけどね!」

「つれないこと言うなよ!!」

 そう加工した音声で叫びながら、ストーカーはパンチにキックにチョップにエルボーに膝蹴りetc……様々な攻撃を繰り出した……が。


パンパンパンパンパンパン!!


「な!!?」

 その全てをドラグゼオは小虫を払うように、いとも容易く捌いていく。

「訂正します……あなた、別に厄介じゃない」



「ワイも行くで!!」

 ケントベッローザはその特徴である機動性を存分に発揮し、ドローンへと凄まじい速度で突っ込んでいく。

「ターゲットロックオン……排除シマス」


バババババババババババババババッ!!


 それに対しドローンは機銃の雨を降らせ、対処するが……。

「なんやそれ?真面目にやらんかい!!」

 雨粒一つ、ベッローザの影すら捉えられない!そして……。

「超一流を相手にすんなら……おもちゃももっと上等なん持って来いや!!」


ザンッ!ドゴ!ドゴオォォォォォォォォン!!


 跳躍からのすれ違い様にナイフで一閃!ドローンは真っ二つに切断され、ほんの少しだけ時間差をつけて爆散した。



「無駄無駄無駄!!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 若葉を思わせる緑色に塗られたBP・ボーデンの装甲はドローンから放たれる銃弾を全て弾き返していた。

「そんな豆鉄砲じゃ、おれのマシンに傷一つつけられないぜ!!」

「おれではなく、わたし達だろ?」

「え?」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 ボーデンよりも分厚い装甲を誇るのが、ボリスが装着した機仙・ダブル甲だ。しかも、それに加えて、背部から伸びたサブアームにシールドまで装備されている。まさに鉄壁という言葉を体現しているようなピースプレイヤーであり、ドローンの機銃など全く寄せつけなかった。

「すげぇ……。」

「機仙・甲の上位モデル、ダブル甲。ずっとここまでの防御力は過剰だと思っていたが、ターヴィの戦いで世の中にはわたしの想像を超える怪物が存在するという事実を、文字通り痛いほどわからされた。だからもうわたしは迷わない!防御に全ぶりだ!」


キンキンキンキンキンキンキン……カチッ!


 けたたましい音と明滅する光がピタリと止まる。全弾撃ち尽くしても、ダブル甲の盾と装甲は撃ち抜けなかったのだ。

「相手が悪かったな」


バァン!ドゴオォォン!!


 ライフルを召喚し、弾切れのドローンに容赦なく発砲!見事、撃墜した。

「ついでに……えい!」


バァン!ドゴオォォン!!


「あっ!?」

 さらにボーデンが相手していたドローンも撃破!

「お、おれの分まで……」

「これで今回のキルスコアはわたしがトップだな」

「……実は攻める方が好きでしょ?ボリスさん」

「どうだかな」



「ボリスの奴……ノってるな」

 機銃の雨を回避しながら、相棒の活躍を横目で確認したエクトルは白い仮面の下で満足そうに微笑んだ。

「これは俺も負けてられん。パラディジャベリン」

 モノトーンの聖騎士は大型の刃を取り付けた愛槍を召喚しながら、立ち止まった。そして……。

「よっと!」


グルン!キンキンキンキンキンキン!!


 それを前方で高速回転!銃弾を弾く!弾く!弾く!


キンキンキンキンキンキン……カチッ!


「残弾ゼロ。撤退シマス」

 そして瞬く間にこちらのドローンも弾切れ。打つ手無しと判断すると、その場で反転し、パラディジェントから全速力で離れていく。

「空に逃げれば、槍使いにはどうにもできんと思ったか?パラディジェントを舐めてもらっては困る」

 聖騎士は槍の切っ先をドローンへと向ける。

「ガンモード」

 そして、その大きな刃をパカリと割って、内部に隠してあった銃口を露出させた。

「目標捕捉……シュート」


バシュウッ!ドゴオォォォォン!!


 銃口から放たれたのは一筋の光!それがドローンを貫くと、夜空に爆炎の花が咲き誇った。

「パラディジェントと戦うという判断をした時点で、貴様の敗北は決定していたのだよ」



「あんなものを隠してたのか……」

 トモルもまたストーカーの攻撃を捌きながら、パラディジェントの活躍を悠々と観戦していた。もしあの地下駐車場での戦いが中断していなかったらと思うと、背筋が凍る。

「ケントさんに止めてもらって良かったよ」

「考え事をしてる場合か!」

 自分に対して脅威どころか興味さえ持っていないドラグゼオに対し、ストーカーは怒りを乗せて拳を振り下ろした……が。


ゴッ!バギャアァァァァァァン!!


「――な!?」

 パンチに肘でカウンターを合わされ、衝撃で二の腕まで粉々に粉砕されてしまう。

「君こそもう少し喧嘩を売る相手を考えた方がいいよ」


ガシッ!


 ドラグゼオは両手を逆さまに捻り、小指を上に、さらにクロスし、ストーカーの頭部を両脇から掴んだ。そして……。

「はっ!」


グルン!ゴギャン!!


 勢い良く腕を左右に動かし、ストーカーの頭部を捻り切って見せた!

 分離した頭がガンガンと二回ほど大きくバウンドし、地面に転がったところで、残された胴体も力を失い、仰向けに倒れた。

「ちょっと!いくらなんでもやり過ぎじゃ!って言うか、これだと話を聞けない!!」

 ドラグゼオの凶行を目の当たりにしたボーデンが慌てふためきながら、首無しの胴体に近づく。その時!


グンッ!!


「へ?」

 胴体が再び起立!手の届く距離まで来ていたボーデンに襲い……。


バン!バン!バシュウッ!!


「へ?」

 襲いかかろうとした瞬間に、胸や腹に三つの穴が空いた。ベッローザ、ダブル甲、そしてパラディジェントがボーデンの後ろから撃ち抜いたのだ。

 胴体は今度こそ全ての力を失い、倒れると二度と動かなかった。

「み、皆さん……助かりました」

「気にするな。仲間なんだから当然だ」

「エクトルさん、甘やかし過ぎや。再起動する可能性なんて、ちゃんと敵を観察できとれば、予測できたやろうに」

「再起動……?」

 ベッローザが顎をしゃくり上げ、倒れたストーカーの胴体をよく見ろと促す。

 言われた通りに、ボーデンは胴体を冷静に観察して見ると……ドラグゼオに砕かれた腕や、開いた穴から火花が散り、その奥にはコードや回路が覗いていた。

「これは自律型の……いや、遠隔操作型のピースプレイヤーか!?」

「せや。こいつは『プロン・マリオネット』。装着しないで、安全なところから操作すればいいっていう便利な臆病者御用達のマシン」

「みんなは最初からわかっていたんですか?」

「あぁ」

「わたし達は前に見たことがあったからな」

「ワイは初遭遇やったけど、存在は知っとった」

「ぼくも名前までは覚えてなかったけど、姿形だけは」

「おれっちは人間の気配を感じなかったから一発でわかったぜ!」

「つーかアピオン、お前どこにおったんや?」

「そりゃあ、いつもの如く、高みの見物決め込んでいたのさ。みんな強いな」

「当たり前や!!」

(おれ以外はな……!!)

 パストルとの修行の日々で強くなったと思っていた。

 トモルにも認められて、実際にその気になった。

 だが、現実はまだ彼らとの間に大きな壁があることを実感し、悔しさから自然と拳に力が入る。

(全然駄目じゃないか!おれ!!)

「自分のことを駄目だとか思ったら駄目ですよ」

「え?」

「誰よりもまず自分が自分を信じてあげなきゃ。今回の失敗を糧にすればいいだけの話ですよ」

「トモル君……」

「一歩一歩進んで行きましょう」

 ドラグゼオはボーデンの肩をポンポンと叩いて慰めると、ストーカーの胴体の横に膝をつき、隅々まで観察する。

「逆探知とかできますかね?」

「こういうのはボリスの領分だな。どうなんだ?」

「まぁ、無理でしょうな。きっといくつもの中継地点を通って信号を送っているはずですから。操作端末も今この瞬間に廃棄処分されている可能性もあるし」

「あのドローンも中古やスクラップを直したようなボロやったから、これもそうやろ。せやから……」

「販売記録から探るのも無理か……」

 ドラグゼオは膝についた汚れをはたき落としながら、立ち上がった。

「正体も気になりますが、それ以上に何が目的だったんでしょう?」

「おれ達を作戦に参加させたくないって言ってたけど……」

「本気でやめさせたいなら、もっとうまいやり方があったはずだ」

「ワイら相手にこの程度の戦力で向かってくるなんて……策としては下の下や」

「では、別の何かが……」

「忠告だ……」

「!!?」

 地面に無残に転がっている首から、ノイズが走った音声が再生される。

「まだ通信していたのか……」

「言いたいこと――っていたか――な」

「え?」

「――――には、気をつけろ――――あれにはドラグゼオの炎は――ガピッ!!」

 明らかに何かが壊れた音が鳴り、頭部からプスプスと煙が立ち昇る。センサーの光も消え、加工された音声が再生されることは二度となかった。

「言いたいことがあるなら、ちゃんと言えっちゅうねん!!」

「気になる~」

「忠告と言っていたが……」

「ドラグゼオの炎について言っていたな。何か心当たりはあるかいトモルくん?」

「いえ、さっぱりです」

 桃色の竜はお手上げだとジェスチャーした。

「まっ、これでエクトルさんの言う通り、ビブリズの連中が信用できないと証明できたわ」

「ケントさんはあの乱暴な忠告者の正体は軍の人間だと?」

「ボロクソにやられはしたが、遠隔であれだけ動かせる奴なんて、早々おらんわ。ちゃんとした訓練を受けた奴が操縦しとったに決まっとる」

「そもそも軍の人間しかミエドスティンマと作戦について知っているはずはないからな……」

「楽なミッションではないと覚悟していたが……予想以上にややこしいことになりそうだ」

 パラディジェントはため息をつきながら、眉間のあたりを指で押し揉んだ。

「だとしても乗りかかった船です。裏にどんな思惑があろうとスティンマクイーンのコアストーンごと焼き尽くしてやりますよ……!」

 トモルが強い決意を口にすると、ドラグゼオの体表が熱を帯び、周囲の気温を上昇させた。

「ピースプレイヤー越しでも熱い……!」

「これがドラグゼオか……!」

「やる気満々やな」

「君を見ていると、どんな苦境もなるようになる気がしてくるな」

「錯覚じゃなくて、実際になるようになりますよ。このメンバーならどんなことでも。でしょ?」

「「「おう!!」」」

 ドラグゼオがそう語りかけると、四人と一匹は力強い返事が空き地に、いやビブリズに響き渡った。


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