ビュッフェと嘘つき
「「ビュッフェ!ビュッフェ!ビュッフェ!!」」
「………」
子供のようにはしゃぎながら歩くケントとアピオン。その背中を灰色のリュックを背負ったトモルは訝しげな目で見つめていた。
「ん?元気がないな、トモルくん」
「なんや?腹でも痛くなったか?」
「違いますよ。急にホテルのビュッフェを奢ってくれるなんて、どういう風の吹き回しですか?」
「人が奢ってやるっていうとるのに、その言い方はなんやねん」
「そうだ!そうだ!慈悲深きケント様を崇め讃えろ!」
「ケント様って……」
トモルは高々ビュッフェごときでそこまで媚びへつらえる相棒の姿に驚愕した。
「そもそもお前、人の金で食う飯が一番うまいって言ってたやんけ」
「そんな恥知らずなこと言った覚えはないですよ。ぼくが言ったのは、タダ飯は控えめに言って、最高……って」
「一緒やないかい!!」
ケントは振り返りのエネルギーを余すことなく手に伝え、ツッコミを入れた。
「一緒じゃないですよ。別に人にお金を払ってもらうことが嬉しいんじゃなくて、ぼくがお金を払わないということに重きを置いているんですから」
「こいつ、澄んだ目で堂々とくだらん屁理屈を……」
真顔でしょうもない持論を話すトモルにケントはドン引きする。
「……まぁ、ええわ。金払わんのが嬉しいなら、なんにせよ嬉しいはずやろ?もっと喜べや」
「奢ってくれるのが、ジョゼットさんやトラウゴットさんなら素直に喜んでいましたよ。あの人達の奢りは善意100%の可能性が高いですから」
「ワイの奢りは善意だけではないと言いたいんか?」
「はい。ぼくに勝るとも劣らないケチなあなたが何の裏も無しにご飯をご馳走してくれるとは思えない。違いますか?」
「……違う」
強い否定の言葉とは裏腹に、ケントの目は右に左にスイミングする。
「無理は禁物ですよ。頼みごとがあるなら、とっとと言ってください」
「だからそんな裏なんて……あっ!痛い!」
「……え?」
「痛い!痛い!急にポンポンがどえりゃあ痛くなって参りましたよ、わたくしは!」
ケントは珍妙な言葉遣いで不調を訴えると、お腹を抑え前屈みになった。
「……ケントさん、見てられないですよ、ぼく。本当に怒らないんで、素直に話してくださいよ」
「いや!マジで!マジで痛いねん!めっちゃ痛いねん!これはあれやな!トイレに駆け込まんと!!」
「じゃあ、あそこのコンビニで……」
「確かここら辺にデパートがあったな!そこに行こう!」
「いや、そこよりもあそこのコンビニの方が近い……」
「よっしゃ!そうと決まれば善は急げや!!デパートへ行こう!デパートによ!!」
そう言うとケントは腹痛を患っているとは思えないスピードで一目散に走り始めた。
「アピオン」
「ん?」
「これってついて行った方がいいのかな?」
「さぁ?おれっちはビュッフェが食えれば何でもいい」
「君はそうだよね。ここでバックれたら、それはそれで面倒なことになりそうだし……行くしかないか」
トモルは重い足取りでケントをけだるそうに追った。
「ここら辺にトイレが……」
「いや、さっき通り過ぎましたよ。っていうか何で迷わずに地下駐車場に……」
ケントはわき目も振らずにデパートに到着すると、何を思ってか地下駐車場へと足を運んだ。というか、もうお腹も抑えておらずに大丈夫そうに見える。
「えーと、この地下駐には伝説のトイレが……」
「何ですか伝説のトイレって。ここに呼び出したいなら、もっといい方法あったでしょうに」
「何を仰っているのやら、わたくしは計画性皆無、行き当たりばったりで生きていますよ」
「ある意味そうですね。もうちょっと演技プランを練ってください。共感性羞恥が凄いですよ、さっきから」
「う、うるさいわ!ワイだってこれでも必死に……じゃなくて!多分あっちにある気がする!!ここまで来たらワイ一人で大丈夫やから、お前はここで待っといてくれ!」
「いや、ついて行きますよ。ここまで来たら伝説のトイレとやらを見たいですし」
「あかん!そんな気軽に見ていいもんちゃうねん!伝説のトイレは!!安易に近づくと命がなんかヤバいことになるで!!」
「それ、伝説じゃなくて呪いのトイレなんじゃ」
「トイレはトイレ以下でも以上でもない!とにかくワイ一人で行くから!あとハネドラグ邪魔やろうから預かるわ!!」
ケントはトモルのリュックに手をかけ、強引に預かろうとした。しかし……。
「嫌ですよ!何でわざわざトイレに行く人に大事な新装備を預けなきゃいけないんですか!っていうか普通、荷物を預けるのはトイレに行く方でしょ!!」
トモルは断固として拒否し、手を離そうとしない。
「普通とか常識とかそんなもんに囚われるな!さらに上に行きたいならよぉ!!」
「何、ちょっといいセリフ吐いてやったぜみたいな顔してるんですか!全然、格好よくないですからね!!」
「大事なのは自分がカッコいいと思えるかどうかや!他人は関係ない!ワイは……ワイは自分にだけは嘘は吐かへん!!」
「ぼくにも嘘言わないでくださいよ!!マジであなたという人は……!!」
「だからごちゃごちゃうっさいねん!!うおりゃ!!」
「あっ!?」
不毛極まりないリュックの引っ張り合いはケントに軍配が上がった。
「へへ……これでこいつはワイのもんや!!これでようやく……お花摘みに行けるで!!」
そしてそのまま小物じみたというか、意味不明な言葉を吐き捨てながら、逃げるようにケントは地下駐車場の闇の中に消えて行く。
結果、トモルとアピオンは、彼の狙い通りその場に置き去りにされてしまったのだった。
「行っちゃったよ……」
「追うか?」
「いや、いいよ。性格はくそで、嘘つきだけど、性根までは腐ってないはず。だから、いずれは返してくれるはず、多分」
「いまいち確信をもって断言できないんだな」
「そりゃあ、あんな怪しげな言動を見せられたらねぇ」
「しかも、完全武装のやる気満々ソルジャーと引き合わせられたらか?」
「うん……」
トモルとアピオンがわかっているぞと言わんばかりに振り返る。
すると、彼らの期待に応えるように漆黒の闇の中から、白と黒のモノトーンに彩られたピースプレイヤーが姿を現した。
「やはり気づいていたか」
「これでもそれなりに修羅場をくぐり抜けているんでね」
「意外とやるのよ、おれっち達」
「それでこそだ、トモル・ラブザ。そんな君と、ドラグゼオと俺は……戦いたい!」




