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No Name's Trust  作者: 大道福丸
禁忌の魔石と不死殺しの炎
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獣になりたい少女②

 明朝、出発したトモル達一行は順調に樹海を進んでいき、カジュルルが住むという霧深いエリアまで到達していた。

「霧が凄いな」

「だね。確かメルヤミさん達が向かっている山も霧が濃いって言ってたけど、偶然なのかな?それとも神聖なものに霧はつきものなのかな?」

「なんか霧がかかっていると厳かな感じがするよな。つーか、お嬢様達はアピディウスとやらをゲットできたのかね?」

「手に入れることはできてると思うよ、メルヤミさんもゾーイさんも強くて賢いから。ただ手に入れても使えるかどうか……アーティファクトは人を選ぶから」

「名前似てるし、おれっちが使えたりしないかな。とりゃ!!」

 アピオンは空中で剣を振るう真似をした。

「そもそも大きさ的に無理だと思うよ」

「だよな。おれっちが持てるサイズじゃねぇよな……って、カジュルルこっちだ」

「了解」

 妖精は方向転換し、トモルはそれに素直についていく。

 それを後ろからモネードが不満そうに口を尖らせて見ていた。

「うち、必要ないですね……」

「そんなことないですよ」

「でも、途中からアピオンさんがカジュルルの気配を感じて……」

「それができる距離まで、モネちゃんが案内してくれたおかげでな。最初からおれっち達二人だったら、ここまでスムーズに来れなかった」

「そう……なんですか……?」

「そうだよ、モネードさんは役に立っているよ」

「そうなんですね!!」

 二人の必死の励ましが功を奏し、少女に笑顔が戻った。

(変身できないことで、大分自己肯定感が削られてるな……)

(本人的には今日で追放がほぼ確定するかもとか思い込んで、ナイーブになっているんだろうけど……)

((めんどくせぇ~!!))

 二人は心の中で叫びながらも、顔には決して出さずにそのまま進み続けた。

 そしてついに……。

「あれだな」

「あれが……」

「カジュルル……!!」

 樹海の中にポツンと現れた開けた空間に、それはいた。

 全身緑色でのそれは地面に伏して、寝ているようだった。

「伝承通りです。カジュルルは一日の大半を寝て、正確には寝ているように見えるだけで、あぁやって樹海の様子を探っているんです」

「じゃあ、ぼく達のことも?」

「多分気づいてるぜ。これ以上近づくなオーラをびんびん感じる」

 アピオンは頬を伝う冷や汗を拭った。

「君がそう言うならそうなんだろうね」

「ドリン族の成人の儀のやり方でも、一定の距離に接近すると、戦闘態勢に移行すると書いてありました」

「そう……じゃあ……頑張って」

「はい……へ?」

 トモルの言葉をモネードは理解できなかった……自分で望んだことなのに。

「あ、あの……うちに戦えって言うんですか?」

「そうだよ。というかモネードさんもそのつもりで来たんでしょ?」

「それはそうなんですが……」

「こいつ、カジュルルを実際に目にして、臆病風に吹かれやがったな」

「うっ!?恥ずかしながら、その通りです……」

 モネードは肩を落とし、大きく項垂れた。

「うち、いつもそうなんですよね……威勢のいいことを言うのに、いざその場面が来たらビビってしまう……我ながら情けない……」

「それはみんなそうだと思いますよ。むしろ恐れを感じない人の方が駄目ですよ」

「トモルさん……あなたはさすがですね。カジュルルを見て、逆に落ち着いたように見える」

「もしかしたらと思っていたけど、実際に見たら知り合いに似てたからね」

「は?」

 また何を言っているのかわからずモネードは首を傾げた。

「とにかくやるだけやってみなよ。いざとなったらぼくが助けますから」

「トモルさん……」

 この言葉は理解できた、頭ではなく心で。

 トモルの自信がにじみ出た声は揺れていたモネードの心に決意の炎を灯したのだ。

「わかりました。やるだけやってみます!」

 そう言って背負っていた荷物を下ろすと、中から瓶を取り出し、トモルに差し出した。

「涙を流したら、これで受け止めてください」

「了解」

「それでは……」

 再び立ち上がり、カジュルルの方を向き直すと、そのまま一歩……。

「………」

「モネードさん?」

「ちょっと準備運動をしておこうかなって」

 一歩踏み出さず屈伸を始めるモネード……。

「よし!」

「よっしゃ!行け!モネちゃん!!」

「はい!!」

 今度こそ一歩……。

「……やっぱもうちょっとしっかりと身体を解してから……」

 また行かずに、腕を伸ばし始めたモネード……。

「おい……さっきの威勢はどこへ行った?」

「……うちが聞きたいです」

「モネードさん……」

「ったく!ごちゃごちゃ言ってないでとっとと行け!!人生なるようになるだ!!」


ゴッ!!


「あ」

 モネードの背中にアピオンの渾身のヒップアタックが炸裂!

 体勢を崩した少女はトントンと片足立ちで、カジュルルに接近していった……本人の意志を無視して。

「まだ心の準備が……」

「……カジュ」

「って言ってる場合じゃないみたいですね……」

 モネードが止まると同時にカジュルルも起き上がった。四つの足で大地を踏みしめ、緑色の身体のところどころで色とりどりの花が咲き……。

「カジュルウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「ひっ!?」

「うあっ!?」

「なあっ!?」

 バーの樹海に轟く咆哮!天が揺れ、地面が震える!

「完全にお怒りみたいですね……」

「カジュウゥゥゥゥゥッ!!」

 神聖なる獣は前足を上げ、自分の縄張りに入り込んだ無礼者を踏み潰そうと試みる……が。

「カジュル!!」


ドスウゥゥゥゥゥゥン!!


「危ないな!もう!!」

 モネードは地面を転がりながら、回避した。

「カジュ!!」


シュル!シュル!シュル!!


 踏み潰すことは困難だと判断したのか、カジュルルは全身からツルを生やした。それを……。

「カジュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 全てモネードに向かって伸ばす。

「伝承通り!!」


ヒュン!!ザンッ!ザンッ!!


 けれどもこれもモネードは攻略!回避と、腰の後ろに装備していた鉈を手に取り、切り払い、事無きを得る!

「この日のために樹海を探し回って、見つけたオリジンズの骨を集落一の鍛冶屋にしたってもらったうちの相棒!名付けて“モネードの鉈”!!」

「まんまじゃねぇか!!」

 アピオンは思わずツッコんだ!

「うちのネーミングセンスはともかく!切れ味は最高ですよ!」


ザンッ!ザンッ!ザンッ!!


 その言葉に間違いはないだろうと誇示するように、近づいてくるツルを次々と切り落としていく。

 モネードの足下にはあっという間に切り裂かれたツルの残骸が敷き詰められた。

「モネードさん!切った後も油断しないで!!」

「えっ!!」


シュル!!


「うあっ!?」

 本体から分離したツルの残骸はそれでも蠢き、モネードの足を取ろうとした……が、トモルがそれを事前に察知し、注意を促したので、モネードが足を絡め取られることはなかった。

「ヤバいヤバい……危うくもう終わっちゃうところだった。トモルさんのおかげで少し寿命が伸びた……このチャンスを無駄にしないように気を引き締めないと!!」

 モネードはトモルに一礼をすると、再びツルを切り裂きながら、フィールドを動き回った。

「今のお前の感じ……砂漠でのダブのおっちゃんを思い出したぜ」

「ぼくもだよ」

 かつての辛くも楽しい砂塵の中珍道中を思い出し、トモルの口角が上がった。

「あの時、コーチされてたお前がコーチする側になるなんて……時の流れは早いねぇ~」

「そこまで老け込んでもないし、ぼくなんてまだまだダブさんの足下にも及ばないよ」

「謙遜するなよ。今のお前は熟練の戦士オーラバリバリで落ち着き払っているじゃないか」

「わかってるくせに。ぼくが平静でいられる理由」

「まぁな。おれっちもウレウディオスから、カジュルルの生態についての資料を見た時、“あいつ”を思い出したもん」

「うん。カジュルルは……ターヴィさんに似ている」

 朗らかな顔が一転、一度は敗北を喫した男の姿を思い出し、真剣なものへと様変わりした。

「あの人にはボロクソにやられたからね。リベンジのために散々頭の中でシミュレーションした」

「それをまるっとそのまま適用できそうだから、トモルちゃんは余裕綽々なのよね」

「さすがに身体の大きさも違うし、見た感じ攻撃範囲はターヴィさんより大きそうだから、そのまんまってわけにはいかないけどね」

「ターヴィにはない隠し玉の可能性もあるしな」

「その通り、決して油断できないよ。ただ……」

 トモルは今も目の前で勇敢に、そして懸命に戦うモネードの姿を見つめ……。

「ただ、いざとなったら女の子一人を逃がせるくらいはできると思う」

「だからおもいっきりやれってこったな」

「うん。モネードさん……悔いを残さないように全てを出し切って。そしてできることなら、君の望んだ結果に……」

 首から下げた十字架を握りしめ、願いを込めた。


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