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No Name's Trust  作者: 大道福丸
禁忌の魔石と不死殺しの炎
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禁忌の魔石の力

「……うむ、食に関してはきちんと進歩しているようだな」

 オルコはメイド達が作ったおにぎりを頬張ると、目覚めてから初めて笑顔の花を咲かせた。

 戦いを終えたトモル達は、オルコと殷則達に見捨てられたテュシア盗賊団の下っぱを縛り上げ、輸送ヘリに戻って来ていたのだった。

「なんや偉そうに。あいつホンマに大丈夫なんか?アピオン」

「おれっちは別に嫌な感じはしないけど……」

 ケントの質問に答えながら、いつものように自然と彼の肩に妖精は止まろうとしたが……。

「痛っ!!?アピオン!痛い!!」

「うおっ!?すまんすまん!!」

 包帯でぐるぐる巻きで椅子に座っていたケントが悲鳴を上げ、驚いたアピオンは空中に逆戻りした。

「すいませんケントさん、最低限の治療しかできなくて。まだ油断できない状況なんで、余力を残しておかないと……」

「かまへんかまへん……ワイもプロやからお前の判断はわかっとる」

 申し訳なさそうにするトモルに手を振って気にするなとアピールするが、ケントの額から脂汗がだらだらと流れていて、それは無理な話だった。

「やっぱりもうちょっとだけドラグゼオの炎で……」

「やめい」

「でも、ケントさん……」

「どうしてもワイの治療をしたいんなら、やることやってからや……古代人様の話を聞いて、ホンマに信用できるかどうか判断してからや……」

 ケントの言葉で彼を取り囲んでいた面々の視線は一斉にオルコに移動する。

 当の古代人様はおにぎりを食べ終え、のんきにお茶を啜っていた。

「……ふぅ。この茶もうまいな」

「あたしの自慢のメイドが淹れたからね」

「大事するといい」

「言われなくてもしてるわよ」

「強気で若干口が悪いが、いい主人だな」

「あなたが心の底から信用に値する人物だと思えたなら、もっと丁寧な対応をするわよ」

「そのためには、我は何をすればいい?」

「そうね……まずはあなたが守り、あいつらが奪っていった“エレシュキガル”とやらを教えてくれないかしら?」

「エレシュキガルのことか……」

 オルコとメルヤミの視線が交差する。二人が見つめ合っていた時間は一秒にも満たなかったが、その緊張感からヘリの中のもの達にはもっと長く感じた。

「……その目、本当に何も知らないようだな」

「無知を誇るようなみっともない真似なんてしたくないけど……何にも知らないわ、本当に」

「その素直さに免じて、教えてやろう。エレシュキガルというのはオリジンズから取れた魔石の一つ。その能力は……」

「その能力は……?」

「死者を生き返らせることだ」

「「「………え?」」」

「死者蘇生を可能にすることができる魔石は世界に三つあると言われており、それが『イシス』と『ペルセポネ』、そしてエレシュキガルだ」

「「「………え?」」」

「魔石以外だと、七柱の巨神、闇の巨神にして最大の巨神『タルタロス』と、混沌の巨神イザナギの裏モード『イザナミ』だけが死人を蘇らすことができるという。もしかしたらレスレヒートの中にもそのような能力を発現する者もいるかもしれんが……」

「ちょっ!ちょっとタイム!!」

 饒舌に語るオルコをメルヤミは慌てて制止した。

「何だ?貴様が話せと言ったから、話してやっているのに」

「それはありがとうなんだけど……」

「なんか世界の最重要情報がこうもあっさりと提供されると……」

「どう反応していいかわからんちゅうねん……」

 ケントの言葉に一同はウンウンと同意を示した。

「やはりエレシュキガル以外の情報もかなり失伝しているみたいだな」

「はい……そうみたいですね。色々と気になるんですが、今回はエレシュキガルについてだけを詳しくご教授願いますか?」

「教えろと言っても魔石使い、エネルノビルについてはこの時代もいるのだろう?」

「ええ、あなたやあたしが戦った殷則という男のようなエネルノビル、この時代ではストーンソーサラーと呼ばれる人間はたくさんいるわ」

「ならば基本は一緒だ。手に入れたからといってエレシュキガルを誰でも使えるわけではない」

「属性だとか相性の問題ですね」

「つまりあいつらが死者を、多分少し前に死んだつう頭領のマゼフト・テュシアを蘇らせられず骨折り損のくたびれ儲けになる可能性もあるってことやな」

「可能性としては十分考えられる」

「そうですか……」

 皆仲良くホッと一息つき、死者蘇生という単語を聞いてから、妙に張り詰めていた空気が緩んだ。

「あくまで可能性の話やけど、そうなってくれるとベストやな」

「いや、それはベターだ」

「……はい?」

「ベストはきちんとエレシュキガルを使いこなすことだ」

「…………はあ?」

 オルコの真意がわからずこれまたみんな一斉に首を傾げた。

「さっきから仲いいな、お前ら」

「そうなんや!ワイらずっ友やねん!って、ちゃうわ!そうやなくて……痛あぁぁっ!?」

 決死のノリツッコミの反動でケントの身体に激痛が走った!

「アホなのか、こいつは?」

「アホなんだ、こいつは」

「アピオン……お前……!!」

「アホのことは放っておいて……盗人どもがエレシュキガルとやらを使えた方がいいってのは、どういうことなんだ?教えてプリーズ」

「何事にも対価は必要、我や桃色の竜が水や炎を出せるのは」

「精神力をパワーに変換しているからですね」

「エレシュキガルも同じだ。死者を蘇らすためにはそれ相応の対価が必要。命の対価となるのは……命しかない」

「命……!」

「完全に使いこなせる者がエレシュキガルを発動させると、発動させたエネルノビル、そして周りにいる者の命が全て奪われる」

「使用者だけじゃなく、周りの人もですか……?」

「理をねじ曲げ、生物のルールに反するためにはそれだけの生け贄が必要なんだよ」

 トモルはエレシュキガルのとんでも仕様に恐れおののき生唾をゴクリと飲み込んだ。

「だから奴らに発動させるのが一番だ。蘇らすつもりの頭領がどれだけ強くとも所詮は一人。そいつのためにあの土使いと他の者が死んでくれるなら、それがベスト。厄介な盗人集団を一網打尽にできるならむしろどうぞやってくれって感じだ」

 オルコはそう言うと、邪悪な笑みを浮かべた……が。

「エレシュキガルを発動させる殷則はともかく他の奴らは適当に拐ってきた奴とか用意しておけばよくね?」

「……え?」

「だからそれこそ生け贄を。あっ、そこまで手間をかけなくても、人のいるところで勝手にやればいいだけか……って、思いもつかなかったって顔だな」

 さっきの不敵さはどこへやら、オルコはアピオンの言葉に目を点に、口をポカンと開けて、間抜けを晒した。

「人のことをようアホ呼ばわりできたな」

「いや、その……あれだ!かなりの集中しないとダメだから、人ごみの中での発動なんてまず無理だ!!」

「別にいくらでもやりようがあると思うが、人ごみの中はその理屈で無しだとしても、生け贄を拐う案は問題ないやろ」

「むぐぅ……!!」

「反論できず……やっぱアホやな、こいつ」

 ケントは呆れ果てた。

「じゃあエレシュキガルを奴らが使えないのがベストで、使いこなせたい場合がワーストってことで、いいんだな?」

「結局そういうことになるね」

「いや……」

「なんやまだ粘るんか?」

「我の考えが至らなかったことは認めている」

「なら」

「その上でエレシュキガルを使いこなし、発動させた場合はワーストではないと言っているのだ」

「……冗談じゃなさそうですね」

 先ほどまでと打って変わっての古代人の真剣なトーンにヘリの中の空気は再び引き締まった。

「だったらあんたが考える最悪の展開ってなんやねん?」

「最悪なのはエレシュキガルを……」

「エレシュキガルを……」

「エレシュキガルを半端に発動させた場合だ」

「……はぁ?」

 またまた皆仲良く小首を傾げる。それくらいオルコの発言はとんちんかんだった。

「何事も半端が一番タチが悪いのは、昔も今も変わらんだろう」

「それはまぁ……」

「せやな」

「エレシュキガルを使う際もそうだ。半端に才能があり、半端に相性がいい奴が発動すると命こそ獲られないが、寿命を持っていかれる」

「知り合いならともかく……盗賊ならいい気味ね」

「それだけで済めばな。半端に発動した場合、蘇らせようとした対象も“半端”になる」

「……え?半端?半分とか一部だけ蘇るってことか?」

「そうではない……生と死の間にいる中途半端な存在となるのだ。生きていないから殺せない……不死の怪物に……!」


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