一時休戦
「そんなもの!炎竜壁!!」
ターゲットである桃色の炎竜は今日何度目かの炎の盾を生成!それが矢を弾く、もしくは跡形もなく溶かす……はずだった。
フッ……
「え」
あろうことか矢が炎の盾を通り抜けた!貫くのではなく、何もなかったかのようにただ通り過ぎたのだ!そして……。
ズッ!!
「!!?」
ドラグゼオに命中!そのまま身体の中に飲み込まれてしまった。
矢は竜の身体に飲み込まれてしまったのだ。
「……え?あれ?痛くない、血も出てない。あれ?」
ドラグゼオは緑色の二つの眼で自らの身体に異変がないか確認した。パッと見、特に変なところは見受けられないが……。
(あの矢、まさか……だとしたらあいつは……!)
オルコはドラグゼオの変化を感じ取っていた。記憶と知識からこれから起きる異変を予測したと言った方が正確か。
そして同時に殷則がエレシュキガルを使う上で最悪の使用法を実行しようとしていることを理解、確信した。
「これで脅威は排除された」
「あなたの目は節穴ですか?ぼくはなんともない」
「表面上はな」
「……一体あなたは何を?」
「説明する義理もない。目的は果たしたのでここいらでわたし達は失礼させてもらう……よ!」
ブシュウッ!!
「――ッ!?」
満足げな、そして端から見ると不愉快極まりない笑みを浮かべた殷則が弓を地面に突き立てると、そこから土煙が凄まじい勢いで噴出、遺跡中を包み込んだ!
「目眩ましか!だけどそんな小細工!」
ドラグゼオは拘束を解くため、土煙を吹き飛ばすため、全身から炎を放出しようと力を込める!
「………」
力を込める!
「………」
力を……。
「……あれ?」
いくら力を込めても、炎は出なかった!どんなに強く願っても愛機は応えてくれない……。
「まさかこれが……あの矢の効果?」
「どうやらお開きのようだな」
土煙が漂う天井を見上げ、任務の終了、即時撤退を命じられていることを察知したヌディゴは全ての武装を解除する。
「というわけで、おれは盗賊らしく尻尾巻いて逃げさせてもらうぜ。リベンジするつもりなら、そんな量産品じゃなく、お前も特級を手に入れるんだな。まぁ……次はなさそうだが」
「う、ううっ……」
フリオーソはベッローザ以上にズタボロになり、地面に転がっていた。腹部には穴が空いており、そこからケントの血がドクドクと溢れ出し、真っ赤な水溜まりを作っていた。
「じゃあな、ケント・ドキ。お前のことは……一週間は覚えておいてやるよ」
ナベシマはマスクの下で薄ら笑いを浮かべながら、土煙の中に消えていった。
「あの野郎……!絶対に許さへんで……!必ずその憎たらしい顔面を……おもいっきりぶん殴ってやる……でも、その前に……血をなんとかせな……癪やが、トモルに、ドラグゼオに……治療してもらわんと……」
「この!出ろ!出ろ!炎よ!出ろ!!」
ブオォォォォォォォォッ!!
「うあっ!?出た!?」
今まで鬱憤を晴らすかの如く竜の全身から炎が放出され、土煙を吹き飛ばした。
「よくわかんないけど……これなら!」
ガキィン!
間髪入れずにまとわりついていた岩の鎖を強引に粉砕!自由の身に舞い戻る。
「ふん!」
ガキィン!ザンッ!!
示し合わせたかのようにオルコも念動力とウォーターカッターで拘束をほどく。
「………」
「………」
二人は一瞬だけお互いの顔を確認した……が、すぐに出入口に視線を移動させた。殷則がその先にいるであろう出入口に。
(ぼく達の元々のターゲットはテュシアの残党。古代の魔法使いさんも気になるけど、優先すべきは現代の魔法使いか)
(我が使命はエレシュキガルの保護!桃色の竜との決着ではない!)
二人はこれまた呼応するように最速の移動のために、脚部に意識を集中させた。その時!
「ドラグゼオ!ケントがヤバい!すぐに治療してくれ!!」
「「!!?」」
トラウゴットの悲痛な声が響き渡る!声の発生源に目を向けると、血まみれのケントを抱く今にも泣きそうな男の顔が見えた。
(あのナベシマとかいう大男にやられたか。だが、こいつの目的がエレシュキガルなら、奴らのように切り捨て……)
「ケントさん!!」
「!!?」
目の前に突然提示された二択。しかし桃色の竜は全く迷わなかった。
ドラグゼオは追跡のために溜めていたエネルギーを仲間の下へと向かうために解放した。
「トラウゴットさん!ケントさんをそこに寝かせて!」
「おおう!」
命じられるがまま仰向けに寝かせると、ドラグゼオは足の先から頭のてっぺんまでケントを観察した。
「一番傷が深いのは……」
「腹だ!」
「ですね……ガンドラグ!!」
桃色の炎竜は特殊複合兵装を召喚すると、銃口をいまだに血が止まらない腹部に向けた。そして……。
「ここを重点的に……!!」
ブオォォォォォォォォッ!
引き金を引き、桃色の炎を吹きつける!
するとみるみると傷は塞がっていき、苦しそうなケントの顔も穏やかになっていった。
「どうやら……大丈夫そうね」
「お嬢様、ジョゼット」
トゥレイターとブラーヴ改二も合流。危機を乗り越えた仲間の姿を見て、安堵する。
「とりあえず……これで」
ガンドラグの炎を止めると、トモルもまた安堵の表情を浮かべる……ことはなかった。
「……で、まだやる気ですか、古代人さん?」
振り返ると奴は、オルコがいた。
ドラグゼオを始めとして、ウレウディオス一行は再び構えを取る……が。
「やる気は……ない」
オルコの方は逆に戦闘態勢を解いた。
「どういう心変わりですか?あんなに頑なにぼくと闘志剥き出しで戦っていたのに」
「奴らは平気な顔で仲間を殺した」
柱に押し潰され、天井のシミとなった哀れな男を見上げると、自然と顔を強張り、怪訝なものへと変化した。
「対してお前らは奴らを倒すことより、エレシュキガルよりも仲間の治療を優先させた。それは非情な悪党では決してできないことだ」
「情は……最低限は持ち合わせているつもりです」
「それがわかった……わかったから、話くらいは聞いてやってもいいかな……と」
そしてドラグゼオの方を向き直すと、笑みこそ浮かべなかったが、わずかに表情を緩めたのだった。
「だったらもっと早く……っていうのは、野暮ですかね?」
「野暮だな。過ぎたことをぐちぐちと……そんな女々しいことしてくれるな」
「女々しいとか現代ではあまり使わない方がいいですよ。コンプライアンス的に」
「……何を訳のわからないことを。お前の言っていることはさっきからさっぱりわからん」
「どの口が言ってるんですか……」
眉と口を“へ”の字にして首を傾げるオルコを見て、トモルは疲労感がどっと増した気がした。
「まぁ、何にせよ一時休戦だ。我はオルコ、エレシュキガルの守り人」
「ぼくはトモル・ラブザ、よろしくお願いします」
桃色のマスクの下で意味がないのにできるだけ穏やかな表情を作りながらトモルはオルコにそっと手を差し出した……が。
「ふん」
「へ?」
古代の魔術師はその手に、トモルの想いに応えることなく、彼の横を通り過ぎ、出入口に向かってそそくさと歩き出した。
「あの~、古代には握手という文化はなかったんでしょうか?」
「ある」
「なら……」
「我は話を聞くと言っただけ、馴れ合うつもりはない。外で待っているから、早くしろよ」
そう言い残すと、オルコはそのまま振り返りもせずに外に出ていってしまった。
「なんか難儀な人だな……」
テュシア盗賊団の残党を捕らえることもできず、禁忌の魔石と呼ばれるエレシュキガルも奪われてしまったが、トモル・ラブザ達は古代から甦った頼れる仲間を手に入れた……多分。




