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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
17/100

強者三人①

「あ、暑い……!!」

 報酬をピーヌスで受け取ってから、一週間後、トモルとアピオンは太陽が燦々と照りつけ、砂塵が吹き荒れる町にやって来ていた。

「失敗したかな……山登りよりは楽だと思ったんだけど……」

「ここまで来て、ぐちぐち言うなよ。きれいにケントと行き先分かれて、喜んでたくせに」

「ここまでとは思わなかったんだよ……でも、確かに今さら言ってもしょうがないか」

 マントを頭からかぶり、ゴーグルとマスクでほとんど顔が隠れている中、僅かに露出している額で粒になっている汗と共に、トモルは後悔の念を拭い取った。

「それにしても、毎度のことながらアピオンは元気そうでいいね」

「感知能力と適応力が我らルツ族の売りだからな!今回はさらにスペシャルな装備もあるし」

 どこで手に入れたのかアピオンはトモルと同じマント、マスク、ゴーグルのミニチュア版を装備しており、それを自慢するかのように相棒の顔の周りを一周した。

「ぼくら人間にはそんな便利な能力がないからね……早く建物の中で冷たい水を飲みたいよ……」

「だったら愚痴ってないで、早く見つけないとな、集合場所。ここら辺なんだろ?」

「うん。この『イキの町』の中心にある酒場らしいんだけど……」

 トモルはゴーグルの下の目を細め、辺りを見回した。そして、ジョッキらしきイラストが看板にかかれた建物を発見する。

「あそこかな?」

「わかんねぇけど、まだ集合時間まで余裕あるし、とりあえず入ってみて違ったら、一杯水を飲んでから仕切り直せばいいんじゃないか?」

「それもそうだね。お店の人に話も聞けるし」

「ここじゃない他の酒場の場所を教えてくれってのは、ちと気が引けるがな」

「そうならないように祈ろうか」

 トモルとアピオンはそのジョッキの看板の店に恐る恐る入って行った。


カランコロンカン……


「お邪魔しま~す……」

「いらっしゃい……」

「………」「あっ?」「ちっ!また増えた……」

 二人を出迎えたのはやる気のない店主の声と、突き刺さるような殺気に満ちた視線であった。

「当たりだね」

「だな。針のむしろっていうのかね……居心地が悪いったらありゃしない……!」

「まぁ、結局のところ神器を取り合うライバルだからね。優しく出迎えてはくれまいさ」

 トモルは頭に被っていたマントを脱ぎ、ゴーグルとマスクを外すと、再び視線を動かし、酒場の中の客達を観察した。

(いかにも強そうなムキムキマッチョ、悪いことは一通りやってそうなタトゥーだらけの強面、絶対に関わりたくない挙動不審のヤバそうな奴……だけど、どれも見かけ倒し。この場で本当にヤバいのは……ん?)

 トモルの視線が酒場の片隅で止まった。そこにはピースプレイヤーが三人たむろしていた。

「あれは……?」

「知り合いか?あの早くも準備ばっちりな奴ら?」

「いや、顔は見えないからなんとも言えないけど、多分初めましてだよ」

「じゃあ、何が気になるんだ?」

「あのピースプレイヤー、色と形が違うけど、ケントさんが持っていた物と同じシリーズだなって。確か……キュウリおっさん」

「キュウリおっさん?そんなダサい名前のマシン使ってんのか、あいつ。付き合い方考え直そうかな」

「名前はともかく性能は良かったから」

「おい」

「ん?」

 突然呼びかけられ、そちらを向くと先ほど目にしたタトゥーだらけの強面がすぐ目の前まで迫ってきていて、不愉快そうにトモルを見下ろしていた。

「……ぼくに何か用ですか?」

「ここはお前のような貧弱な奴が来る場所じゃねぇんだよ……!悪いことは言わねぇから、とっとと尻尾巻いて帰んな」

 恐い顔をさらに恐くして、圧をかける男。そんな男を尻目に、トモルの頭はウレウディオスの面々の顔を思い出していた。

(本当に選別したのかな、あの人達。自分と相手の力量を見極められない奴がいまだに残っているなんて……)

 呆れを通り越して、怒りすら湧いてくる。その感情が漏れ出たのか、トモルの表情は怪訝なものになり、それを見た強面の男の心を無闇に刺激した。

「なんだ、その顔は?この『ヤンネ』様に文句があるのか……!?」

「どなた様かは知りませんが、文句なんてありませんよ。ただぼくのことを貧弱な奴っていうなら、放っておけばいいのになって。自分に本当に自信がある人なら、わざわざ因縁をつけに来ないでしょ?」

「ぷっ!」

 酒場のどこかから吹き出す声が聞こえる。その声がヤンネの我慢の限界を破ることになった。

「てめえ……人が下手に出ていれば!!」

 ヤンネはタトゥーだらけの腕を振りかぶった!そして固く握った拳をトモルに……。

「そこまでだ」

「「!!?」」

 拳が今まさに振り下ろされようとした瞬間、いつの間にかヤンネの背後に立っていた金髪の男が腕を掴んで制止した。

「てめえ……!!」

 ヤンネは腕を振りほどこうとした。

 金髪の男はモデルのようなスラッとした体型で、肉体を苛め抜き、筋骨隆々の自分ならば簡単に振りほどけると思った。

 しかし、その考えは甘いと言わんばかりに掴まれた腕は全く微動だにしなかった。

「下らないことで体力を消費するな。本番はこれからだぞ」

「何に体力を使うかは、おれが決めるんだよ……!!」

「そうか……体力があり余って仕方ないのか……ならば、俺が相手になろうか?」

「――ッ!!?」

 金髪の男のエメラルドのような瞳で睨み付けられると、ヤンネは全身から震え上がった。生物としての本能が細胞の一つ一つから警告を促しているのだ……やめておけ、と。

 そして、トモルも……。

(あの緑色の目は……!)

 トモルも強い恐怖を金髪の男に感じた。それを引き金に過去の記憶がフラッシュバックする。こちらを見据える緑色の目をした凶悪なピースプレイヤーの姿を……。

「ちっ!?わかったよ!確かにあんたの言う通り、長丁場の前にしょうもないことでスタミナを使うのはアホみたいだ」

「わかってもらえて良かったよ」

 金髪の男が手を離すと、ヤンネはそそくさと店の端っこに逃げて行った。

「あ、あの……ありがとうございます」

 我に返ったトモルは男に頭を下げた。

「礼はいらんさ」

 金髪の男はトモルに微笑みかけた。その顔は同性でも胸を高鳴らせてしまうほど、魅力的なものだった。

「で、でも助けてもらったのは事実ですし」

「助けた?お前をか?違うだろ……むしろ俺に礼を言うべきは、さっきのあいつの方だ」

「え?」

 金髪の男は微笑みを保ちながら、視線を下に、トモルの手に向けた。

「掌底のカウンターで顎を砕くつもりだったんだろ?」

「お見通しですか」

「少なくとも俺と俺の……今回だけのツレの目は誤魔化せないよ」

「でも、それなら何でわざわざ助けに……?」

「ここで騒ぎを起こせば、出発が遅れるかもしれないだろ?これ以上ここで足止めを食らうのはごめんだ」

「なるほど……」

「あとは奴がお前ほどの男が相手にするレベルじゃないと思った……それだけだ」

 そう言うと男は反転し、トモルに背中を向けた。

「どうだ?一緒にこっちで飯でも食わないか?少し頼み過ぎてしまってな。酒は俺もツレも飲まないからないが……」

「トモルも飲まないから、オールOKだぜ!!」

 トモルの背後から飛び出して来たアピオンが、彼の代わりに勝手に返事をした。

「君……人の後ろにこそこそ隠れてると思ったら……」

「あの程度ならおれっちの手助けなんていらないと思ったから、後ろで見守ってたんだよ」

「ものは言い様だね」

「それよりもラッキーだな」

「あぁ……この酒場で別格に強い二人にお近づきになれそうだ……!」

 期待と不安を半分ずつ抱えながら、トモルとアピオンは神経を研ぎ澄まし、金髪の男と、彼のツレの上等そうなマントを羽織り、長刀を背負った白髪の壮年の男が待つテーブルまで歩みを進めた。

「おおう!見てたぜ、かわいこちゃん!災難だったな」

 白髪の男は片手にコップを持ち、空いているもう一方の手を元気よく振った。

「っていうか、さっき吹き出したのあなたですよね?」

「おっ!バレてたか」

「この酒場に入ってから、ずっと注目してましたから」

「俺もお前さんが入って来た時、やっとまともな奴が来たなって思ったぜ」

「それはどうも」

「まぁ、とりあえず座りな」

 促されるままトモルは椅子に腰を下ろすと、アピオンは彼の前のテーブルに胡座をかいた。

「まずは自己紹介だな。俺は『ダブル・フェイス』、傭兵だ。で、こっちがネー……じゃなくて」

「『ノードゥス』だ」

「ぼくはトモル・ラブザです」

「ラブザ……どうりで」

 ダブル・フェイスは一人で勝手に納得したようにほくそ笑んだ。

「何か?」

「いや……そっちのルツ族は?」

「あぁ、おれっちはアピオン!」

 自己紹介を終えると、トモルは改めて傭兵とノードゥスの顔を見比べた。

(どことなく似ているな。目も同じきれいな緑色だし、もしかしてこの二人って……)

「俺の顔に何かついているか?」

「い、いえ!何でもありません!」

 不意にノードゥスに声をかけられ、トモルは慌てて誤魔化した。

(初対面の人、しかもこんな仕事をしている人のパーソナルな部分にいきなり触れようとするなんて、無粋だよね。ましてやついさっきぼくを助けてくれた人だし)

 ちょっとした内省を終えると、タイミングを見計らったようにノードゥスが水をコップに注いで出してくれた。

「何から何までありがとうございます」

「気にするな。実はお前にお願いしたいことがあるんだ。なぁ、傭兵?」

「おう!」

 ダブル・フェイスは持っていた水を一気に飲み干すと、トモルを真っ直ぐ見つめた。その眼差しには有無を言わせぬ迫力があり、トモルの頬に暑さで流れるのとは別の類いの汗が流れて行った。

「お、お願いというのは……?」

「それは大事なことだが、その前に俺達にはやらなくてはならないことがある……そうは思わないか?」

「やらなくてはならないこと……!?」

 ニコリと無邪気に笑う傭兵の姿に、トモルは生唾を飲み込んだ。

「それは一体……?」

「それはな……」

「それは……?」

「さっきのタトゥーが何日目にリタイアするか、賭けようぜ!!」

「こんな時までギャンブルか!!」

「乗った!!」

「お前も乗るのか!!」

 それがこの砂漠での旅を共にする奇妙で、それでいて圧倒的に強い漆黒の竜二人組とトモルの出会いであった。


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