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No Name's Trust  作者: 大道福丸
傭兵達の日常
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傭兵、家を借りる①

 とある国のとある路地裏に、千花というカレーショップが店を構えている。だが、それは表向きの姿。この店の本来の名は戦花、裏では武器を非合法に売り、それをメインの収入源として成り立っているのだ。

 トモル・ラブザもいつもは裏の顔を求めてここを訪れる。だが、今回はいつもと少し違うようで……。

「相変わらず美味しいです」

「お世辞はいいっての」

 カレーを弱火で煮込み、おたまでかき混ぜながら、トモルの感想にぶっきらぼうに返す店主ゴンドウ。けれど言葉とは裏腹にその顔は嬉しそうだ。

「お世辞じゃないですよ。ね、アピオン」

「おう。こんなわかりづらい路地裏じゃなくてもっとちゃんとした場所に店を構えればきっとメディアに引っ張りダコの人気店になると思うぜ」

「アピオン、お前まで……おまけだ」

「やったー!」

 小さな妖精用の小さなカレー皿に追加でルーを入れてやる。まんまと術中に嵌まっている気もするが、そもそもカレーで利益を上げるつもりがないので構わない。

「で、二人がかりでおれのご機嫌を伺って何が目的だ?レア物のピースプレイヤーでも探しているのか?それともまたハネドラグみたいに新装備を作って欲しいのか?」

「いえ、今回は本業の方は」

「ん?」

 予想外の言葉にゴンドウは手を止め、本題に入るためにトモルは水を一気に飲み干して、口内からカレーを洗い流した。

「ふぅ……実はぼく今家を探しているんですよね」

「家?家って家か?」

「はい。ずっと安いホテルやら、最近はウレウディオスのお世話になっていたんですが、そろそろちゃんと自分で家を借りたいなと思って」

「それで不便ないなら別にいいじゃねぇか。仕事柄、遠出が多くて家を持ってもそんなに居れねぇだろうし」

「ケントさんにも同じことを言われました。お金の無駄だって、ケチのお前が何を血迷ってんねんって」

「ちなみにおれっちもその意見に賛成」

「なら」

「だけどぼくとしては仕事の合間に心の底から落ち着ける空間が欲しいんですよね。リセットできるというか、心の洗濯をできる場所が」

「そういうものかね……」

 トモルの、傭兵の言ってることに納得できないゴンドウは眉間にシワを寄せ、軽く首を傾げながらまたカレーを回し始めた。

「でも、それならおれじゃなくてウレウディオスに相談した方が良くないか?奴らなら世界中からお前のお眼鏡にかなう物件を探してくれるだろ?」

「はいはい!おれっちもそれ言った!」

「ぼくもそれが一番手っ取り早いと思ったんですが、これ以上ウレウディオスに借りを作るのは……信頼できるお得意様ですが、依存し過ぎるのはまずいかなって」

「自分はあくまでフリーの傭兵ってか」

「そんな感じです」

「お前って変なとこ」

「真面目だよな~」

 ゴンドウとアピオンはトモルの姿勢に半分呆れ、半分感心した。

「話の経緯はわかった。それでおれんとこに来たのか」

「家を借りるならある程度土地勘があって、知り合いがいる方がいいかなと。で、そう考えたらこの辺りだなって。何かいい物件とか知らないですか?」

「どんな家がいいんだ?」

「あまり栄えてる場所は嫌ですね。元々田舎暮らしですし、郊外のポツンと一軒家がベストかな」

「交通の便が悪くてもいいのか?」

「最悪、ドラグゼオで飛んで行けばいいんで」

「お使いのために……特級ピースプレイヤーをなんだと思っているんだ……」

「PeacePrayer、平和を祈る者として戦うよりもよっぽど相応しい姿だと思いますが」

「そう言われると……そんな気もしてくるな」

 そしてそれを戦いに行く者達に売っている自分が少しだけ恥ずかしく思えた。

「それでそんな感じの物件に心当たりは……?」

「おれはカレー屋で武器屋だぞ。そんなもの……」

「やっぱりありませんか……」

「ある」

「「あるんかい!!」」

 トモルとアピオンは思わずツッコミを入れた。

「お前、やっぱり勘がいいというかツイてるな。実はちょうどこの店を紹介してくれた『カズ婆』っていうこの辺の不動産をたくさん持ってる婆さんがここから少し離れた『杉吉山』近くの家をどうするかって愚痴ってたんだ。借りてくれる物好きがいないから、処分しようか迷ってるって」

「ドンピシャですね。立地的にはバッチリ、これ以上ないって感じ」

「なら連絡取ってやる。まだ数日、ここにいるんだろ?」

「ええ、結構腰を据えて不動産屋を回る覚悟で来ましたから」

「んじゃ、この後電話して、都合がつけば早ければ明日にでも会いに行こう。予定が決まったらメールするよ」

「頼みます。ぼくらはホテルで待機してますんで、何かあったら逐次知らせてください」

「スーパーでアイス買ってこうぜ!!」

「そうだね。それじゃあゴンドウさん」

「おう」

 トモルはそう言うと軽く会釈して妖精を肩に乗せて店を出た。



 二人と一匹の会話から二日後、一行は街の片隅にある古い一軒家の前に来ていた。

「すまんな、昨日婆さん、歯医者やらなんやら予定が入っていたらしくてな」

「気にしてませんよ。むしろ想定よりずっと順調ですし」

「肝心の例の物件が予想通りとはいかないかもだぞ」

「その時はその時です。個人的にはそれよりも家を借りても空けがちになる傭兵なんて物騒な職業のぼくに貸してくれるかの方が心配です」

「それは問題ないと思うぞ。おれなんかに貸してるんだから」

「確かに」

 ゴンドウの自虐にトモルは思わず微笑んだ。

「待たせちゃまずいですし、早くインターホンを」

「いや、約束は取り付けてるから……」

 ゴンドウはインターホンをスルーして、玄関の前まで進むと扉をノックし、「カズ婆いるか~?」と、声をかけた。すると……。

「勝手に入ってくれ~」

 奥からか細い声が聞こえた。

「お許しが出た。つーことで参りましょうか」

 ゴンドウは声に従い、扉をガラガラと開き中へと入っていく。トモルとアピオンもそれに続いた。

「こっちだ」

 案内されたのは昔のドラマに出てくるお手本のような茶の間。そこで痩せ細ったシワだらけの老人がちゃぶ台の横に座り、湯気の立ったお茶を啜っていた。

(この家もそうだけどパッと見、たくさんの不動産を所持しているお金持ちには見えないな)

「みすぼらしいババアにしか見えんか?」

「うっ!?」

「顔に出過ぎじゃ。優秀な傭兵と聞いていたが、まだまだじゃな」

「なんかすいません……」

 心を見透かされ萎縮するトモルを見てゴンドウはにやついた。

「ボーッと突っ立ってないで、はよ座れ」

「はい!!」

 言われるがままトモルは老婆の対面に座り、その間にゴンドウは腰を下ろした。そして……。

「よいしょ」

 アピオンはちゃぶ台の上にあぐらをかいた。

「長い間生きてきたが、こんなオリジンズは初めて見るの」

「良かったな冥土の土産が増えたぞ」

「アピオン!!」

「構わんよ。注意せずともあたし自ら気に食わなかったらこの手で叩き潰すから」

「ひっ!?」

 手を広げ、老婆らしからぬ鋭い眼光で睨み付けられると、妖精は後退りしながら正座に座り直した。

「なんかすごいですね……」

「言ったろ、おれに店を出させるとんでもない人だって」

「じゃあやっぱりゴンドウさんの裏の顔も」

「もちろん」

 トモルが改めて目を向けるとカズ婆はのんきにお茶を湯飲みとおちょこに注いでいた。

「……今でこそこの辺は治安がいいが、あたしや旦那があんた達くらいの頃はそれはひどいもんだったさ。そこで生き残るためにあたしらは傭兵や武器屋を非難できないようなこともやってきた。なんだったら似たようなこともしたね」

「そうだったんですか」

「ほい、お茶」

「ありがとうございます」

「サンキューです」

 差し出されたお茶をトモルとアピオンは疑いもせずに口をつけた。

「出されたものをそんなあっさり……注意不足なんじゃないかい傭兵さん?」

「あなたほどでもないですが、ぼくも色々経験してるので信頼できる人かどうかの判断はそれなりにできるつもりです」

「おれっちは元々そういうのに敏感な種族だからな。それにちょっとやそっとの毒じゃ死なない程度にデザインされている」

「そうかい」

 二人の返事がお気に召したようで老婆はシワだらけの顔をさらにしわくちゃにして笑った。

「あたし的にも第一印象は合格だね。えーと……」

「ラブザです、トモル・ラブザ」

「おれっちはアピオン」

「トモルにアピオンか。名前もいいね」

「恐縮です」

「っす」

「じゃあ、まどろっこしいのは嫌いなんで早速本題に入ろうか」

 そう言うとカズ婆はちゃぶ台の下から写真の束を取り出し、トモル達の前に広げた。

 そこには山をバックにポツンと立った一軒家とその前に立つおじいさん、さらにその内部が写し出されていた。

「これが話に聞いた……」

「杉吉山はそんな高い山でもなければ登山人気のある山でもない。それでも月に何度か物好きが登りに来て、何年かに一回は遭難するようなバカが出てくる。そいつらを探す拠点として作られたものだ。そこを旦那が気に入って買い取った」

「実際に旦那さんもそういう捜索のお手伝いをしていたんですか?」

「あぁ。だが、旦那がそこを使う時はもっぱら狩りの時だね」

「狩り?」

「『デカノイシ』っていう牙の生えたおっかないオリジンズが住んでいてね。まぁ、普段はおとなしいんだが、数が増え過ぎると手狭になった山から人里に降りてくることもあったから、うちのが趣味とボランティアを兼ねて定期的に狩っていたのさ。この界雷を使ってね」

 カズ婆は今度は懐からお守りを、正確にはお守り型の待機状態の六角重工業製のピースプレイヤーをトモルの前に出した。

「で、相談なんだが旦那が三年前に死んでから狩りは行われていない。このままだとデカノイシが降りてくるかもしれないから、あんたに狩って欲しい」

「それがぼくにこの家を貸す条件ですか?」

「あぁ、もしあんたがここを気に入ったらだけど」

「写真を見た感じだとシンプルでかなりぼくの理想に近いですけど……」

「もし今回だけじゃなく定期的にデカノイシを狩ってくれるなら、家賃はタダでいいよ」

「ここに決めました」

 トモルは真っ直ぐな目で力強くそう答えた。

「おいおい……紹介しておいてなんだがそんな簡単に決めちまっていいのか?」

「だってタダなんですよゴンドウさん!タダなんですよ!!」

「こいつは本当に……!カズ婆も気前良すぎないか?」

「この家自体山を降りたデカノイシに荒らされる可能性もある。そうなったり、そうならないように対策を取ることを考えれば安いもんさ。狩ったデカノイシの死骸はあんたに売り捌いてもらうつもりだし」

「あぁ~、確かにそれなら上手くおれがやればそれなりの纏まった金になるか……」

「ノイシ種は別に珍しいオリジンズじゃないからそれで家賃代全てをカバーできるとは思わんが、足しにはなるだろ。何よりあんたは一切損してない。むしろ仲介料で儲けが出る」

「つまりここで止める理由はない、むしろ背中を押せってことね……トモル!いい契約したな!!」

「はい!ゴンドウさんのおかげです!!」

(人間ってどうしようもねぇな……)

 アピオンは人間の醜さを侮蔑しながら、おちょこに注がれたお茶を啜った。

「あたしとしても良かったよ。面倒ごとが一つ解決して」

「早速明日にでも杉吉山に入って、デカノイシを何頭か狩猟してきます」

「あれだったら旦那の、界雷を使うかい?特に弄ってもないから、あんたほどの使い手なら問題なく扱えると思うけど」

「婆さん、悪いけどトモルにはドラグゼオっていう超強いマシ――」

「ではお言葉に甘えて使わせてもらいます」

「――ん!?」

 トモルは差し出されたお守りを受け取り、握りしめた。

「トモル!?何で!?お前にはドラグゼオが……」

「実はちょっと考えてることがあってね。もしかしたら今回ぼく的には一石二鳥の大満足の結果になるかも」

 かわいらしいトモルの顔が不敵な笑みを浮かべて歪んだ。


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