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No Name's Trust  作者: 大道福丸
国を滅ぼす毒
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エピローグ:それぞれの道へ

 数日前の国家の危機など、すっかり忘れてしまったようにビブリズ空港には新たな旅に心を躍らせ、笑みを溢す者と、大切な人との別れを惜しみ、目の中一杯に涙を溜める者達で溢れていた……まぁ、当事者であるトモル達も彼らあまり変わらないのだが。

「本当にありがとうございました」

 一言では言い表せない複雑な感情を抱きながら、トピは故郷の恩人達に深々と頭を下げた……また。

「何回やんねん。もう今日までに百回は言われたで」

 辟易しているケントは顔をしわくちゃにして、嫌がる。

「何回言っても足りませんよ。皆さんはこのビブリズの恩人なんですから」

「まっ、お礼なんて何回言われても悪い気はせえへんけど……ただ!ギャラは一切まけへんで!それとこれとは別!いくらお礼を言われても!ビブリズ饅頭をお土産でもらっても!そこは譲らへん!」

 ケントはお土産にもらった紙袋を力強く握りしめながら、熱弁した。

「セコいな~。前金はもらってんだから、いいじゃねぇか。ビブリズ饅頭うまいし」

「あかん!確かにビブリズ饅頭はうまいが、プロとして報酬はきっちりもらっとかんと!」

「ぼくもそこはケントさんに賛成かな。こういうのはちゃんとやった方がいい」

「おれ個人としては、もう十分……って感じなんすけど、貰わないと社長に怒られるからな」

「俺達もプロだから、いただくべきものはきちんといただく。ただ……」

「ただ……?」

「そこまで金に困ってもいないし、執着もない。だから、わたし達の分はいずれビブリズが落ち着いた後でいい」

「エクトルさん、ボリスさん……」

「ああいうのを器がデカいっていうんだろうな」

「小さくて悪かったな!」

「はは……」

 バツが悪くなったのか、ケントはそっぽを向き、トモルとタモツはひきつった笑顔を浮かべながら、頬や後頭部を掻いた。

「別に恥じることはありませんよ。皆さんはやるべき以上のことをやったんですから、貰えるべきものは貰うべきです。できるだけ速やかお支払いできるように手配しますよ」

「そうだとええが、実際のところトップが生物兵器作ろうとしてたり、部隊が一個丸々クーデター起こそうとして捕まったりで……ボリスさんの言う落ち着くまでに大分かかりそうやからな……」

「そのことなんですけど、実はフルメヴァーラ隊長……いえ、フルメヴァーラは部下には嘘の情報を伝えていたと供述しているんです」

「え?嘘?」

 驚くトモルに、トピは小さく頷いて答えた。

「ユリマキ将軍が反目していたラトヴァレフト第一機甲隊隊長を部隊ごと謀殺した。そして自分を含む第二機甲隊の抹殺も画策してるみたいだから、自分達の命を守るために……って言いくるめて、秘密裏に戦えるように準備してたと」

「んじゃ何か、慰霊祭の日に女将軍様がそれを実行しようとしたから、反撃しただけ……っていうんか?」

「はい。部下はそう信じて行動しただけで、国家転覆、ましてや国民を殺そうなんて思ってなかった。むしろミエドスティンマのコアストーンを使おうとしたのは、ユリマキ将軍だったと伝えていた……部下は自分に騙されてただけの被害者だって言い続けてます」

「おれだったら、そんなの信じられないけどな……」

「でも、実際に末端の兵はそう教えられていたみたいですし、幹部達もフルメヴァーラの話を肯定しています」

「……リスキ副隊長もか?」

「ええ、あとアルホネンさんも」

「あの人も……」

「失敗した時は、こうする算段だったんでしょう……全ての罪を自分で背負い、裁かれるつもりで……」

「その最後の隊長命令にリスキ達は従っているってわけか……」

 トピの脳裏にフルメヴァーラの最後の笑顔が過った。あの時の笑顔は部下に汚名を着せずに済んだ安堵感によるものだったとしたら……やるせなかった。

「実際に今後、第二機甲隊がどうなるかは定かではありません。ただどんな結末になるにせよ、ここからはこの国の人間達が決めるべきだということ」

「俺達はお役御免か」

「はい。もうあなた達には頼りません、頼れません」

「フッ……そんな必要はなさそうだがな」

 トピの真っ直ぐで力強い眼差しを見ていれば、何も心配はいらない……エクトル達はそう確信できた。

「その言葉に応えられるように精進します」

「気張りや」

「はい!……ところで皆さんはこれからどうするんですか?」

「おれは会社に戻って、またオリジンズ退治さ……」

 タモツははぁ~と大きなため息をつく。

「オリジンズという単語をしばらく聞きたくない気持ちもわかるが、誰かがやらないといけない仕事だから」

「ミエドスティンマに比べればマシと思うしかないな」

「はい……社長と一緒に頑張ります。エクトルさん達はどうするんすか?」

「俺達はターヴィに会いに行こうと思っている」

「は!?」

「ターヴィさんに!!?」

 ケントとトモルは思わず飛び上がりそうになった。

「別にあいつに恨みはない。ただ一人の武芸者として、あの時から鍛え抜いた俺がどこまで奴に通じるか試したいだけだ。前回と違い万全の状態で戦えれば……きっと勝敗はどうであれ、スッキリすると思う」

「不完全燃焼が一番モヤモヤしますもんね」

「あぁ、やるだけやってダメだったら納得もできる」

「わたしはその付き添い。生憎武芸者ではないので、あんな化け物と好き好んで戦う気など更々ない」

「ボリス……」

 相棒の嫌味にエクトルは苦笑いを浮かべることしかできなかった。

「ぼく達は……」

「トモルさん達は“石”の処理ですよね」

「……はい」

 トモルは懐の妖しく光る石を収納してある箱を服の上から擦った。

「すいません……厄介なものの処理を押しつけちゃって……」

「気にすんなや」

「破壊するにしても、もしもの時を考えて人のいないところでやった方がいいですからね」

「まっ、そのせいで秘密のバイトがバレて、お得意様がガンギレだけどな」

「「うっ!?」」

 恐る恐る窓の外を見ると、ウレウディオス財団のマークの入った飛行機から、女性が一人鬼気迫る顔でこちらを睨んでいた。

「感知能力がなくてもわかる。かなりのお冠だぜ」

「やっぱ連絡しない方が良かったかな……でも、一般客のいる飛行機にこんな物騒なもの持ち込めないし……」

「信じるしかないな……ビブリズ饅頭の力って奴を!!」

 悲しいかな何の変哲もないお土産にすがるしかないほど、救国の英雄は追い詰められていた。

「ま、まぁ、頑張ってください……」

「トピ君もね」

「さて……そろそろ俺達の乗る飛行機の時間だ」

 エクトルは電光掲示板を見上げると、僅かに寂しさを顔に滲ませた。

「おれも……もう行かないと」

 対するタモツは分かり易く、寂しがっていた。今にも泣きそうだ。

「お別れか~、おれっち的にこのパーティーはかなりイケてたんだけどな」

「別に永遠の別れってわけではない」

「生きていればまたいつか会えるさ」

「……せやな」

「その時までにビブリズを立て直してみせます!」

「おれも!もっと強くなってみせるっす!!」

「楽しみにしてますよ、みんなとの再会の時を」

「またな~!!」

 手を振り、頷き合うと、お互いに背を向け、それぞれの道を歩き出す。

 軽やかに前を向き、進む者もいる。

 重い足を必死になって、動かす者もいる。

 思いはそれぞれ、だが大切なことは変わらない。

 自分で自分の道を決めることが大切なのだと彼らは知っている。

 だからきっと彼らの未来は大丈夫……。


 名も無き者達の物語は……決して終わらない。


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