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よく聞こえることがいいことともかぎらない

 湯兎は聴覚過敏だ。


 それは人より耳がいいということであり、人が平気な音をひどく苦痛に感じるということでもある。


 この間検査をしてわかったことだが、湯兎、超音波が聞こえるらしい。


 お医者さんはたまにいるよと言っていたが、湯兎的には遠い目である。そりゃ人より音に過敏にもなる。


 聴覚過敏の人が全員超音波を聞いているのかは知らぬが。


 ただ、音に過敏ということが悪いことだけということはない。


 湯兎は外を歩いているとき、「音」で周囲の状況を把握していた。


 それは前方だけでなく、背後もである。


 たとえば。


 後ろから一台自転車が来るな。


 あ、前からも自転車が来る。


 あ、このままだと私と二台の自転車が同時にすれ違うな。ちょっとわきにずれよう。


 たとえば。


 曲がり角の向こうに車が一台。


 スピード出してるなあ、これは止まらないな。私が一旦停止。


 本当ならあなたが停止するんだぞ。やれやれ。


 たとえば。


 ドン!!


 車同士の衝突音、建物出て左手一つ目の交差点、そこそこ大きめの事故。って、え、今まさに友人の車が出て行ったんだけど!?


 案の定、友人は事故にあっていた。


 友人の名誉のためにいうなら、彼はつっこまれた側である。相手の一時停止無視だった。


 慌てて救助活動に参加した湯兎である。


 こんなかんじの日常を、湯兎は視覚に頼らず送っていた。


 主に車関係のたとえであるが、思い出しやすいのである。


 湯兎の場合、目で見るより耳で「見る」ほうが断然早くて、正確である。


 しかしながら、聴覚にたよりすぎるために起きかけた事故もある。


 湯兎の記憶に一番残っている危険な記憶は、やっぱり車関係。


 電気自動車である。


 今は電気自動車は音が聞こえる。


 しかし、昔の電気自動車は音がしないことが売り。


 それはなんと、湯兎の聴覚にひっかからないほどの静音だったのである。


 ある田舎道で、横断歩道もない道路を歩いていた時のことだ。


 一方通行の道路、右側を歩いていて、次の角を左折。前後に足音なし、自転車なし、車の音もなし。


 湯兎はうしろを見ることなく道路を渡ろうとした。


 その瞬間である。


 きー! と、急ブレーキ音が後ろから聞こえたのだ。


 湯兎はびっくりした。心臓が飛び出るくらいびっくりした。後ろに音はなかったのに!


 びっくりして、目を真ん丸にして振り返ったら、そこに自動車がいたのである。


 湯兎はびっくりした。心臓が飛び出るくらいびっくりした。後ろに音はなかったのに!?


 とにかくドライバーさんに頭をペコペコ下げて、湯兎は呆然と家に戻ったのである。


 ちなみに、その車が再度動き出した時、やっぱり音は聞こえなかった。


 なぜ。


 びっくりした湯兎はネットで調べてみた。「車 音 きこえない」こんなかんじだ。


 そして湯兎は電気自動車の静音性を知った。


 湯兎はびっくりした。三度目のびっくりである。


 だって、まさか、自分に「見えない(きこえない)」車があるなんて!!


 ちなみにであるが、こういう事故(未満)は当時多発していて、今の電気自動車はわざと音が出るように設計されている。


 賢明である。


 事故を起こしかけた湯兎が偉そうに言えぬが。


 こんな感じに視覚より聴覚にたよっている湯兎は思わぬ事故を起こすことがある。


 ノイズキャンセリングワイヤレスイヤホンを使っている今はなおさら気を付けなくてはならない。


 人が平気な音を苦痛と感じるように、耳がいいことがよいことばかりとは限らない。


 ご近所の談笑とテレビの音を聞きながら、しみじみ思う湯兎である。


 せめてプライバシーだけは、どうにか……。


 ……どうしろと。


 

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