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「好き」と「得意」が一致するとはかぎらない

 さてさて久しぶり、湯兎である。


 唐突に「好きなものリスト」なるものを投下して、さっぱり音沙汰なくなった湯兎である。


 湯兎にはこういう時がある。スタートダッシュは早いのだが、持久力がない。


 実に悩ましい。


 というのは置いておいて、またいずれ書くとして。


 なぜいきなり「好きなものリスト」を書いたかというと、まあ表題の通りである。


 「好き」と「得意」が一致するとはかぎらない。


 たぶん定型発達の人もこういうことがあるであろう。「下手の横好き」という言葉もあるようだし、音痴だけど歌うのが好き、という人もいる。


 昔の湯兎のことである。


 今はそこまでひどくない、と思う。カラオケでたまに90点台とれる人は下手ではない、と思う。


 こほん。


 そしてこんなことわざも存在する。「好きこそものの上手なれ」。


 好きなものは熱中するから上達が早い、上手になる、といった意味である。


 私は、これが真理ではないことを知っている。


 昔の私は上手な絵を描きたかった。


 いや、そこまで上手でなくともよい。


 ちょっとした漫画が描ける程度の画力が欲しかった。


 ちょっとした、というのは、登場人物が少なくとも犬かネコか判別できる、という程度である。


 なにもイラストサイトに投稿したり、商業商品になるような漫画が描きたかったわけではないのである。


 が、私には壊滅的に「描く能力」がなかった。


 青いネコ型ロボットが描けないくらいなかった。


 ポケットに入るモンスターの代表ともいえる黄色い電気ネズミが、かろうじてそうとわかる程度しか描けないくらいなかった。


 ついでに電気ネズミは頭しか描けなかった。


 そんな感じの画力である。


 しかも、これは幼稚園や小学校のエピソードではない。


 中学生の話である。


 同時に、成人した大人の話でもある。


 スケッチなど到底できないので、湯兎は美術の授業が大嫌いだった。ベートーベンの写生? 結果はお察しだ。


 「好きこそものの上手なれ」にならって練習した時もあったが、毎日繰り返しても電気ネズミは描けなかった。


 結果、湯兎は自分に絵を描く能力が備わっていないことを認めた。


 これは私の「好きなこと」と天性の「得意なこと」が一致していなかった例である。


 ところで、発達障害者の中にはずば抜けた才能の持ち主が多くみられる。


 たとえば音楽。


 たとえば数学。


 たとえば言語。


 たとえばパズルをひっくり返しても迷わず完成できる、などなど多種多様。


 湯兎が能力テストでずば抜けていたのは、文章能力であった。


 文章を書き、読む力。翻訳能力なども入る。


 これらはいずれも私が「好きなこと」だ。同時に幼少期から「磨いてきたこと」でもある。


 国語の模試では全国偏差70~90を余裕で出していた湯兎だ。国語だけなら日本最難関に挑める。


 これは私の「好きなこと」と天性の「得意なこと」が一致した例である。


 湯兎はパズルも好きだ。


 パズルには「きらきら」「きれい」がたくさんある。画力が地面にめりこんでいた湯兎は、パズルを絵の疑似体験として楽しんでいたのではないかと推察する。


 ところが、これは湯兎の生来の能力で、一番苦手な分野であったのである。


 発達障害かどうかを確かめるテストで、湯兎は七つほどだったか、パーツを使って作られた三角形を前に、「さあ同じものを作ってみて」と言われて――。


 完成させるのに、数分かけた。


 数分。


 たった七つ程度のパーツを組み立てるのに、数分。


 別に立体的であったわけでもない、パーツだって直線しかなかったパズルに、数分。


 いやでも私はこの分野が苦手なのだと思い知らされた結果であった。


 それでも私はパズルが好きである。


 1000ピースのマイクロピースだって手を出す。


 そしてちゃんと完成できる。


 それは、湯兎の幼少期からパズルを続けてきた結果である。


 まさしく「好きこそものの上手なれ」で、パズルを続けたことによって、湯兎には一般的な曲線のパズルを完成させる能力が「磨かれた」のだ。


 これは「好き」と天性の「得意」が一致しなかったが、経験によって能力を底上げした例である。


 ……「得意」になったとはとても言えないが。


 これらは非常に興味深い。


 なぜかといって、これらは「発達障害者は得意なことと苦手なことに著しい差があるが、()()()()()()()()()()()()ことができる」ということだからだ。


 話し方が特異でも、何かが非常に苦手でも、育ってきた環境、本人の「好き」で能力を補える――つまり成長する余地がある。


 苦手なことが一生苦手だ、という場合ももちろんある。湯兎にとっては絵がそれだ。


 だが、この認識はぜひ定型発達の人にも発達障害者自身にも持っておいてほしい。


 私たち発達障害者は、成長することができる。


 教えるのには根気がいるが、理解するのにも根気がいるが、それらの多くは「不可能」ではない。


 そう信じてくれたら、発達障害者の湯兎は小躍りするほどうれしい。



今回出てきた症状……ASD 得意不得意の極端な差

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