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湯兎の双極性障害

 湯兎のうつ状態は、正直、うつ病のうつなのか、双極性障害のうつなのか、すぐには見分けがつかぬ。


 まあ、正直なところ、見分ける必要もないと思う。だって対処法は同じである。


 寝る。


 とにかく寝る。


 そして決まった時間にご飯を食べる。絶対にご飯を食べる時間をずらしてはいけない。


 いつもと同じ時間、それが大切である。


 そうしていると、だんだん元気になってくる。


 うつ抜け――という言葉があったが、トンネルの中のトンネルを抜けた感じだ。


 根本的な解決ではないけど、とりあえずうつ状態は脱した、みたいな。


 うつ病のうつであれば、今現在では、どんなに長く続いても五日前後。


 双極性障害のうつであれば、どんなに長くても四日で終わる。


 そして、私の場合、ここでようやくうつ病のうつか双極性障害のうつか見分けがつく。


 うつ病のうつでは、湯兎から時間感覚がなくなる。


 早い話、「寝て起きたら五日たっていた!」という感覚なのである。


 軽躁状態ではどうだろう。


 これはもう、一発でわかる。一時間の睡眠で次の日元気なら、軽躁状態だ。


 軽躁状態の特徴は前話の通り、「いつもよりちょっと調子がいいな」。


 ……だが、ASD、ADHDという二種類の発達障害を抱えている湯兎は、とんでもない失敗を、過去、幾度も繰り返した経験がある。


 双極性障害Ⅰ型の説明を覚えているだろうか。


 極端な散財、絶対に大丈夫という万能感、周囲の意見を聞かず、しゃべり続ける。


 まだ治療が始まっていないころ、治療が始まったばかりのころ、湯兎はこれらをやった。


 やらかした。


 やってしまった。


 後者二つについては被害者は両親、そして私の心配をして電話をくれていた友人だった。


 二時間三時間四時間しゃべり続ける常識知らずによくぞ付き合ってくれたものだと思う。今は顔から火が出るほどに恥ずかしく、申し訳ない。


 両親もそうだ。団らんの時間にマシンガンのごとくしゃべる成人済みの子どもを、責めるでもなく、「躁状態に入ってないかな?」と心配してくれる。


 仕事の邪魔すらするマシンガンに根気良く付き合ってくれる。


 もったいないほどの両親である。本当にご迷惑をおかけしました。


 絶対に大丈夫という万能感は極端な散財と結びつき、金銭的な被害をもたらした。


 いわゆる、爆買いである。


 一つだけ救いなのは湯兎が本当に高価なブランド品などには興味がなかったことだ。


 が、爆買いは爆買いである。


 主に生活用品、そして災害用の非常用品。そして服など。


 今必要な分だけではない。下手をすれば一年分の商品を買う。


 これについては湯兎が熊本地震の被災者であることが関係している。とにかく夏でも冬でも一週間生きていけるだけのものを用意しなければ気が済まなかったのである。


 気持ちはわかるが、やりすぎだ。


 もっとも致命的だったのは、そのころ湯兎がネットゲームにはまっていたことである。


 ゲームをしているユーザーなら「あ」と思ったであろう。


 そう、湯兎は課金に手を出してしまったのだ。


 課金は一度手を出してしまえばなかなか抜け出せぬ。


 もうちょっと、この武器を手に入れたら、このカードを手に入れたら。


 「もうちょっと」が積み重なるととんでもない額になる。


 ところで湯兎は金銭感覚を養うため、自立した時にちゃんと生活を成り立たせるため、親から生活費を渡され、その中でやりくりを鍛えている。


 ……が、この躁状態の時はだめだ。次の月に我慢するから今高いけど買おう、そんな思考回路のものが次の月に我慢できるはずがない。


 我慢をするブレーキが機能せず、次の月だって散財する。


 偏見である。


 あるが、湯兎にとっては真理であった。


 そして数日の躁状態を抜け、うつ状態がやってくる。


 このうつ状態がまたひどい。


 「躁状態の時にやったことを後悔し、自己嫌悪に陥ったりする」。


 まさに、しかり。


 これ以上ない後悔がやってくる。


 そして両親に対してこれ以上ない罪悪感が襲ってくる。


 では謝罪するのか?


 そうではない。そうはならないから病気なのだ。


 この後悔と罪悪感は、湯兎自身へ向けられる。


 この後に書くことに非常な嫌悪や不快を覚える方がいると思う。


 いやな予感がした方はここでブラウザを閉じておくれ。










 覚悟がある方だけ残ったであろうか。


 うつ状態で自己嫌悪に陥った湯兎がとる行動――それは、自罰行為である。


 自傷はしない。私は最初にかかったお医者さんと、これだけは守ってほしいという約束をした。


 自分の体に傷をつけないこと。自傷行為をやめること。今後もやらないこと。


 約束は守らなければならない。


 湯兎はそれまでくせになっていた自傷行為をすっぱりやめた過去がある。


 この約束は今でも有効だ。自傷はしない。でも、ある意味自傷と同じことをしている。


 過食――暴飲暴食、だ。


 それが湯兎の自罰行為なのだ。


 カップ麺を二つ食べる。でも食べたくて食べているわけではない。吐きそうなのに、止められない。


 買ってきたアイスや甘いものを際限なく食べる。


 いつもの二倍量のご飯を食べる。


 異常だ。


 先述した。食べたくて食べているわけではない。


 それどころか、食べている間も、食べた後も、すぐさま後悔が追ってくる。自己嫌悪がやってくる。


 わかっているのに止められないのだ。止めるためのストッパーが全然機能していない。


 うつ状態で、ふらふらしながら両親の目を盗んで食品をむさぼる。泣きながら食べることもある。


 こんなことしたくない。したくないのにどうして止まれない?


 その結果、二月で体重が十キロ、、十五キロと増える。


 明らかに異常な体重の増加だ。


 それを見て、また、罪悪感が込み上げる。


 そしてまた……というひどいループに陥ったこともあった。


 今は対策を考え、実行している。


 ゲームはやめた。爆買いも頓服薬で衝動を落ち着かせ、ある程度コントロールすることに成功した。両親に協力してもらい、「それは本当に必要なものなのか」第三者の意見を聞くようにした。


 暴飲暴食の対策は、「止められないなら野菜を食べなさい」ということになった、


 冷蔵庫にはきゅうりが常駐することになり、湯兎の食卓にはプチトマトが用意されることになった。


 過食の衝動があらわれた時はきゅうりをがりがり食べる。


 ココアやほかの清涼飲料水を飲みたくなったらトマトをかじる。あるいは炭酸水を飲む。


 家族は減量にも協力してくれる。


 野菜たっぷりの食事、たんぱく質も忘れずに。ヨーグルトや甘酒は自家製だ。砂糖はラカントに切り替え、炭水化物の量も少なくして健康的な食事を作ってくれる。


 もともとうまく動けない湯兎だ。


 寝て、起きて、おなかがすいたらきゅうりをかじかじ。


 本当に、家族から大事にされているのを感じる。


 書いているだけで涙が出てきた。障害を持っていても成人済みの子どもにこれだけ親身になってくれる親は、ほとんどいないと思う。


 いつも、いつも、思っているのだ。ありがとうと。


 最近は起きている時間も多くなり、家族と接する機会も多くなり、症状が好転しているのを感じる。


 私は社会に復帰できるだろうか。


 いつも不安に思うが、両親にちゃんと「ありがとう」を告げるためにも何かしらの形で社会とつながりたい、社会で必要な存在になりたいと願う湯兎である。

今回出てきた症状……双極性障害Ⅱ型 過食 爆買い(異常な散財) 計画性のない金銭管理

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