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商店街に来ていた

商店街に来ていた。スケジュール通りなら、瑞穂はここで手品を披露している筈だ。特に会いたいという訳ではなかったが、買い物のついでについ彼女を探してしまっていた。

だいたいの場所は把握しているので、見つかるまでそう時間もかからなかった。

「あ。須磨先輩ー!また来てくれたんっすね」

「よお。今日も頑張ってるな」

「須磨先輩こそ、相変わらず暇そうっすね。ニートは暇そうでなによりっす」

「一言余計だ、この野郎ー」

 俺は瑞穂の頭にげんこつをぐりぐりと押し当てた。瑞穂は振りほどこうとしてバタバタと暴れ出した。

「痛っ! 痛いっすよ先輩ーっ!勘弁して下さいっす」

「言って良い事と悪い事があるんだよ。会うたびに暇なんて言われたら、傷つくだろうがっ」

「判ったっす。もう言わない! 言わないっすから助けて下さいっす」

 もう一度ぐりぐりとげんこつを押し当ててから瑞穂を解放した。

「ふう。痛かった。これ以上背が伸びなくなっちゃったらどうするんすか」

「大丈夫だ。お前の背はこれ以上伸びねーよ」

「そうっすかね。170cm位になる予定なんっすけどね」

「お前なぁ。それ本気で言ってたら結構痛々しいぞ」

 そういうやいなや、瑞穂は俺のむこうずねをけっとばしてきた。

「痛っ!すねはやめろすねは。相変わらず足癖の悪い女だなー」

 手品を見ていた客が、くすくすと笑いだした。俺と瑞穂のやりとりが面白かったらしい。

「場所を変えよう場所を」

「そ、そうっすね。これ以上ここで、騒いでたら漫才師と間違えられそうっす」

 瑞穂は、てきぱきと手品道具をかたずける。

「じゃあ、行きましょうっす」

「行くって何処にだよ?」

 俺は当然の疑問を口にした。

「なにいってるんすか。こないだの喫茶店すよ」

「ああ。あそこか」

「喫茶店まで競争っす。ビリは1位の人におごりっすからね」

瑞穂はそういうと、とてとてと駆け出して行った。あっという間に遠ざかっていく。

「おい!走ると危ないぞ」

「大丈夫っすよ! わひゃあ!」

自転車に轢かれそうになっていた。道端に尻もちをついて座り込んでしまっている。

「おい、立てるか」

俺は手をさしだすと、その手をとって瑞穂は立ち上がった。

「どうもっす」

瑞穂が、ぱんぱんとズボンをはたく。

「子供かお前は」

「てっへへ」

恥ずかしそうに頭をぽりぽりとかいている。全く危ないったらありゃしない。

その後、俺たちは再び走り出すことはなく歩いて店へと向かった。

「ふう。涼しいな」

「ほんと、涼しいっすね。喫茶店って冷房が利いてて気持ち良いっすね」

俺たちはこの間と同じ席に座った。水とおしぼりがほどなくして届く。

「アイスコーヒー2つとパンケーキ2つ」

メニューを見ずに瑞穂は注文を済ませる。

「おごらないからな」

「えっ! この間はおごってくれたじゃないっすか」

「だからだよ。今日は割り勘だ」

「ぶーぶー」

 瑞穂が抗議の声をあげる。しかし、口でぶーぶーっていうのはなんだろうか。外国人じゃああるまいし、どこか子供じみてておかしかった。

「先輩なんで笑ってるんですか? なんかおかしいことあったすか?」

「いや。お前はいつも面白いやつだよ」

「むぅ」

 瑞穂はぷくーっと頬を膨らませると、机の下から蹴りを繰り出してきた。

 俺はその攻撃をひらりとかわす。そうすると瑞穂はじたばたと地団駄を踏んだ。

「先輩、可愛い後輩が反抗してるんですから、あまんじて受けてくださいっす」

「可愛い後輩は攻撃なんてしてこないぞ」

 そんなことをしていると、アイスコーヒーとパンケーキーが運ばれてきた。

「いっただきまーす」

 瑞穂は、このあいだと同じように、どばどばとシロップをパンケーキにかけている。

「うん。うみゃい」

「お前この前も言ったけど口に物を入れながら喋るな」

「だって、うみゃいんですもにょ」

「上手く喋れてないぞ。てか口元にまたくっついってる」

「わぷ」

 俺はナフキンで瑞穂の口元を拭ってやる。

「ところで──。明石にも言ったんだが、お前は東京には興味ないのか」

「突然すね。東京っすか。そりゃあ興味ありますよ。観光したりしたいですもん」

「いや、そういう意味じゃないくてだな。東京で手品やろうと思わないのか」

 俺の問いに瑞穂はけげんそうな顔をする。

「きっと明石っちも言ったと思うんすけど、自分もそういうことなら興味ないっすね。ってこの話この前も話したじゃないっすか」

「だってお前、この町で手品するよりももっとたくさんの人に観てもらえるぞ。そりゃあ何度だって言うさ、お前の腕なら大きな場所で高みを目指すべきだ」

「確かにそうでしょうけど、私この町が好きなんすよ。なので、この町を離れてまで手品したいとは思わないっすよ。はい、この話はおしまいおしまい」

「そういうもんか。なんだかもったいない気がするな」

「そういうもんっす。それにしても相変わらず美味いっすね」

瑞穂は俺の問いをさらっと受け流して、目の前のパンケーキをもくもくと食べている。

なんだろうか。この間の明石といい、今日の瑞穂といい何処か心にひっかかるものがある。この間も感じたのだが、喉に小骨がひっかかったような感じがどうにも言葉を詰まらせた。

俺はその違和感をぬぐうような気持ちで注文したアイスコーヒーを飲み干したのだった。


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