雨が降っていた
はじめまして、うにたろと申します。
この作品は処女作となります。批判・感想など頂けたら幸いです。
雨が降っていた。今日はどこにもいけそうにない。
煙草を吹かしながら、頭の整理をすることにした。
考えていたのは、明石と瑞穂、二人の事である。
「あいつら、二人ともこの町がよっぽど好きなんだな」
俺は独りごちた。その声は雨の音にかき消される。
明石はまだ判る。
家業を捨ててまで街を出ることは抵抗があるだろう。だが、それでも何かを成し遂げたいと思うのなら覚悟や決断をするべきではないだろうか。
瑞穂にしてもそうだ。
あいつは特にこの街に縛られる理由はないだろう。
明石よりも動きやすいと言える。にも関わらずこの街を離れないと言う。
どうも納得がいかないのだ。
チャンスはいくらでもあるのにも関わらず、この街に固執しすぎている。
確かにこの街は良い街だ。飯は美味いし、そこそこ発展してるので不便はない。
しかしながら、刺激の大きさでは都会と比べれば雲泥の差である。
都会が全てという訳ではない。
それでも今、この街を離れるくらいの覚悟がなければ、夢へ近づくのに大きく遠回りしているというのも、事実なのだ。
吸いかけの煙草を消した。
考え事しながら吸うもんじゃない。
つい何本も吸ってしまう。悪い癖だ。
以前感じた違和感の答えを思い出していた。
明石や瑞穂に足りないのは、新しい場所で心機一転して次のステップに進む、彼らが飛躍するにはそれくらいの覚悟が必要なのだと思う。
この街を愛するのは判るがこの街に縛られて生きていくのでは見えない物も多くあるだろう。
それでは駄目なんだ。
それに対して、俺ができることはなにかあるだろうか。2人の友人に対してできること──。
この前考えた時には、自分に負い目を感じ気持ちを押し殺したが、今度は違う。
自分の置かれている立場なんてどうだっていい。
大事なのは、二人がそれぞれの夢を叶えることだ。
俺が今どうしようもない奴だってことは承知の上で二人に対して提案をしたいのだ。
「俺に出来ること──」
俺ができる事と言えば、二人の夢を応援する事だ。
そのためには二人には、都会というものを経験してほしい。経験してそのうえで選べばいいのだ。
都会で頑張るのか地元で頑張るのか。行く前から、可能性を潰すようでは駄目だ。
お節介かもしれない。
だが、俺の大事な友人たちがこのまま野に埋もれるのは嫌だった。
できることなら二人には夢を叶えて貰いたい。
先ずは瑞穂からか。自由奔放な彼女を説得し、そのうえで明石を説得する。
瑞穂が行くとなれば、明石の心も多少なりとは動くはずだ。
「我ながら良い考えだな」
そうと決まれば、善は急げだ。
と言いたいところだが、今日はあいにくの雨。
しばらくやみそうに無い。
この雨では流石の瑞穂も手品をやっていないはずだ。
次の予定は、しまなみ海道の展望台。
「よし、この日にしよう」
俺はカレンダーに丸を付けた。
後は今日のように雨が降らない事を祈るだけだ。
あとはどうやって説得するかだが、これは流れに任せるしかないだろう。
しかし、二人とも頑固な部分が有る事を俺は知っている。
すんなりと、話を聴いてくれるとは思えない。
「少し強気で行く必要があるかな」
俺はそんなことを考えながら、TVの電源を入れた。
適当にチャンネルを回していると、手品師を紹介する番組を見つけた。
全国ネットの番組だった。
地方局でも流しているらしいその番組は、手品以外にも一芸に秀でている人にスポットライトを当て、それに対してパネラーが採点をするというオーディション番組だった。
「これは使えるかもしれない」
俺はメモを用意し挑戦者募集の案内を素早く書き写した。
何度か観てきた彼女の腕前には驚くばかりだった。
瑞穂なら都会でも成功する──。そんな確信めいた何かが俺にはあった。
明石にしてもそうだ。街はずれの古書店を離れ小説1本に集中したら文壇にあがるのも夢ではないはずだ。
「あいつらの為だもんな。俺はやるぞ」
気合を入れた声だったが降りしきる雨にまたかき消される。
TVはオーディション番組が終わり、観た事のある芸人の出ているバラエティー番組に変っていた。
俺はTVの電源を切り、横になる。
そして、俺はいつものように使う事の出来ない携帯電話を取り出した。
柏木奈津美──。彼女なら、こういう時にどうするだろうか。そんなことを考えた。
答えは判っている。
彼女なら迷うことなく街を飛び出していくだろう。そういう性格だった。
行動力があり何に対しても挑戦していく力強さを感じさせる女性だった。
今日こそは電話でもしてみようか。
俺は固定電話の受話器を取り番号をプッシュした。しかし、最後のダイヤルをプッシュする前に受話器を置いた。
「今更なにを話せって言うんだよ」
やり直そうとでも言うのか。
だが、彼女は東京にいて俺が居るのは、四国の今治である。
どう考えても上手くいくはずが無い。
それに快活な性格の彼女の事だ、
既に新しい彼氏ができていてもおかしくない。
ってこれを考えるのは3度目だ。
前にも思ったが女々しいったらありゃしない。
雨の日は人を憂鬱にさせると言うが、まさに今日の俺は憂鬱だった。
明石や瑞穂に関してもこないだと同じようなことを考え、奈津美に対しての未練も同じように悩んでいる。
考えが堂々巡りしているのだ。それも自分の事ではなく他の人の事ばかりを考えている。
何だか急に自分が何様なのかと思えてきた。
この前と同じように鏡の前に立つ。冴えない顔に無精ひげがそこにはあった。
ぱんと俺は自分の頬を張った。弱気になってどうする。
この前とは違うんだ、はっきりと二人を説得する。
ためらってどうする。
俺はみずぼらしい無精ひげをそり始めた。
こういうのは形が重要だ。
いつものようなずぼらな格好ではなく、きちんとした状態で2人に向き合う。
いくさ支度のような物だった。
髭を綺麗にそり上げ、もう一度、ぱんと自分の顔を張る。
どことなしか目に活力が戻ってきた気がする。
東京で仕事をしていた時のような生命力のある顔立ちになったような気がした。
外に目を向ける。
雨は容赦なく振り続けていた。
だが、俺の心には熱い火のような物がたぎっているのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は人物描写や風景描写を書くのが好きなのでそこを楽しんでいたけたらなと思います。
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