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53.絶対

 


 アマテラスが扉を開き、王の間へ入ることを促す。


 部屋の中央に大きな玉座。他には何もなく、初めて入ったが、広々としていてどこか寂しげな印象があった。


 歩き玉座へ向かい到達すると、そこに座っていた王が口をひらいた。


「......大きくなったな」


 一瞬何を言われたのか理解できなかった。まるで久しぶりにあう知人のような言い草。

 どこかで一度あったことがあるのか?考えたところで記憶になかった。

 そもそも相手が王である以上、言葉を交わせば必ず記憶には残っているはず。


「言っている意味がわからない」


 そう僕が言うと、王は小さく二度頷いた。


「覚えとらんのも無理はない。 お前はあの頃の記憶を持たんからな」


 優しい瞳。まるで懐かしむかのように、彼は髭をなで目をつむる。


「時が来たというだけの話だ。 まさかお前とこうして、この王の間で相まみえることとなるとはな。 ......本当に不思議なものよな」


「? 僕の事を知っているのか?」


「ああ、知っとる。 お前の父と母は友人であったからな」

「僕の......親?」

「そうだ。 しかしお前は覚えとらんのだろう。 いや、記憶が消失していると言ったところか」

「......!」


 確かに、僕は奴隷商に買われる少し前くらいからの記憶しかない。それは事故による記憶障害と聞かされていた。

 ......こいつはその事故を、僕の両親の事を知っているのか。


「レイ」


 いや、自身の命を守るための嘘という可能性も。


「......なんだ」

「ここ王の間へ至るまでに多くの命を奪ったな」

「あんたらから仕掛けた事だ。 この犠牲はあんたらが愚かにも力で事を運ぼうとした結果だろ」

「ああ、そうだな。 しかし、命の重さを背負うのは、奪ったお前だ......彼らにも家族がいた。 お前の友にアトラという男がおったな? 彼は犠牲となった家族、そしてその復讐で村を陥れようとした......」


「だからどうした」


「復讐の連鎖の中にお前も在るという話だ。 その代償はでかいぞ......こちらが仕掛け出た犠牲であっても、命を奪ったのは、確かにお前なのだ」


「言われるまでもない。 全てを背負ってやるよ......誰かの悲しみも憎しみも、全部飲み込んでやる。 この国が後の誰かの幸せで満たされるなら、僕はそれでもいい」


「......やはり、死を選ぶというのか」

「それが必要なら」


 彼女が幸せに生きられる時代を創る。僕の使命で、ネネモアとの約束。


 全てを終わらせて、彼女の元へ還る。


「なるほど、お前は既に死人だったか」


 王のオーラが揺らぐ。


「!」


 ......やはり、和解なんかじゃなかったか。まあ、今更求めてもないが。


「諦めた者に明日は来ない......。 未来を変え、希望を生むその為ならばわしは命を捧ごうとさえ思っていた。 しかし、血で血をそそぎ作り得る未来に光はない」

「魔族がよく言う。 お前が人をコントロールしているから、犠牲が増え続けるんだろう」


 王はゆっくりと腰をあげ、玉座から立ち上がった。


「未熟なり。 何も知らなんだか。 世界の均衡をも知らぬとは......人が正しく魔族が悪という認識、これこそが争いの元凶だというのにな」


 そこでふと思い出した。


 アルフィルクが言っていた言葉。


『......知っていますか? 我々魔族は元々はこの地に住まいし、人の同胞なのです。 それを荒れ果てた瘴気たちこめる魔界へと追いやったのは人なのですよ』


 魔族が被害者だと、彼はそう言っていた。


 ――......だからどうした。


「......この世界から魔族を排除して、それで終わりだ。 お前らが危険な存在なのにかわりはない。 邪魔なものは、僕が全部......排除する」


 王は玉座の裏から封印布が巻かれた物を取り出す。形からして大剣。しかし、異様な大きさを誇り一般的なものよりも二倍以上もあるように見える。


「ならば戦うしかあるまいな。 互いの護りたいものを賭けて」


 封印布が全て取られ、剣はその姿を現した。


「......目を覚ませ、【宝剣・ヴリトラ】」








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