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第2話 私、看板に転生しました。

 ……私が再び意識を取り戻した時、周りからたまに声が聞こえた。

 おかしい、確か私は……苗木になっていて……森で少しの間休んでいたはずだ。

 声が聞こえるはずが無い……。


 ぼんやりとしながら、魔力を空気中に広げてみると、何と私は村の入口に居るという事が分かった。

 何故、森からこんな所に……と自分の姿を確認してみると、なんと私は看板になっていた。


 なるほど、看板か……。


 ……って看板!?そんなバカな事があるのか!? と、何回も確かめるが、私はどう見ても看板だった。


 ……私は、一旦落ち着いて、今の状況について考えてみることにした。

 私は、ちょっと前まで苗木だったはずだ。

 今、看板になっているという事は……加工されたという事か?


 ……しかし、苗木が育ちきって、切られて、看板に加工されるまで、かなり時間がいるはずだ。

 ……まさか、時間の感覚が、人間の時より遅くなっているのか?

 それは非常に困る。時間的な問題で、国王に出会えないかもしれないじゃないか。

 そう思った所で私は、そもそも、最初に転生した時点で、私が魔王を倒した時からかなり時間が経っているかもしれないという可能性が頭に浮かんできた。


 そうだ、森は私が生きていた時代からたくさんあったが、この村は、見た事がない村のような気がする。

 魔王の嫌がらせだったら、すぐに効果が出るはずだろうと思っていたから、経っていても数十年位だろうとしか考えていなかった。


 まさか、数百……数千年後の世界?


 ……そ、そうだ、私は看板だ。

 何か、文字が書いてあるはず。


 もしかしたら、この世界は、私の知らない時代の世界かもしれないという可能性から、一旦目を逸らし、自分の、看板の事を考えてみる事にした。


 ……何々、『ハヅィマルィ村→』?

 ……聞いた事ないな、そんな名前の村。


 ……あー、もう一度寝ようかな。


 現実逃避をするために、看板の文字に触れたのに、現実に引き戻されてしまった。

 ……間違いなく、私が魔王を倒した時より、新しい村が出来る程の時間は過ぎている事が分かってしまった。

 ……よし、仕方ない。

 ……私が知っている国王は、もういないんだ。そう割り切ろう。……そうするしかない。

 私は覚悟を決めた。


 ……だがしかし……王国はまだあるのか?

 数百……だとしたらギリギリ……数千……ならもう……。

 私はまだ、王国に行く事を考えたが王国がまだあったとしても、国王が居なかったら、もはや行く意味が無いのではないだろうか、と思った。

 私が魔王を倒した賢者の生まれ変わりだ!

 なんて信じて貰えない気がする。

 ……そもそも、意思疎通は可能なのか?


 ……今の私みたいな状態のやつと会話出来る能力を持っている人が居るか……。私は……テレパシーみたいな事は魔法で出来るが、看板が話しかけていると分かるのだろうか?

 霊の類だと思われて、逃げられないだろうか。

 ……村の入口だから、まあまあ人通りはいいが……話は無理そうだな。


 取り敢えず、また長い間眠らない様に、日の出と共に目覚める為に、私を起こす魔法をセットしておこう。と、看板の下に魔法を発動させた。


「……あっ」


 ……すると、どこからともなく女の子の声が聞こえてきた。


 ……魔力を広げる範囲を拡大してみると、茂みに隠れて、少女がこちらを見ている事が分かった。

 もしかして、私の声が聞こえるのだろうか。


「……あっ、は、はい、き、聞こえ……ます」


 ……どうやら本当に聞こえるらしい。

 でも、どうして茂みから話を……?


「あ、す、すみません。

わ、私……幼い頃から、皆には見えない物が見えたり、聞こえない声が聞こえたりして……。

あ、あなたも、ずっと不思議なオーラを感じていたので、毎日、か、観察させて貰っていました。今日は、いきなり喋ったり……魔法を使いだしたんで、びっくりしちゃって……思わず、声を……」


 なるほど。しかし都合が良かった。

 私と意思疎通が出来る者がいれば、コミニュケーションの幅はかなり広がるだろう。

 ……しかし、一応、隠蔽魔法で、魔法陣は視認出来ないようにしているはずだが……。

 “見えない物が見えたり”には、隠されている魔法も含むのだろうか。

 魔法も使わずに私の隠蔽魔法を破れるとは……この子は、かなり才能があるのかもしれない。


「えっ?い、いや……才能だなんて……」


 女の子は、謙遜しつつも嬉しそうにしていた。

 しかし、私は伝えるつもりがないのに、思った事が全て伝わってしまうとは……それは少々不便かもしれない。


「あっ、ご、ごめんなさい。

見ないようにすれば、見えなくなるので……看板さんが本当に伝えたい事以外は、聞こえない様にしておきます」


 私がそんな事を思っていると、少女はそう言い、一度ギュッと目を瞑って、もう一度こちらを見た。

 ……もう聞こえていないのだろうか。

 しかし、生まれながらの能力なのに、調整が出来るのか。

 もしかしたら、無意識に魔法を発動しているのかもしれないな。

 それと……。


 …………看板さん、かあ。


 何だか自分が人間では無くなってしまった事をあまり認めたくないから、看板は勘弁して欲しいが、今本当の名前を明かしたら、話が大きくなる気がする。

 取り敢えず、私が看板になった理由と、人間になる……とまでは行かなくとも、人と普通に意思疎通が出来る方法が分かるまでは、この子に、魔王、国王、転生関係の話は、しない方がいいのかもしれない。


『えーと、取り敢えず名前を聞いていいかな?

後、看板さんは勘弁して欲しいかな』


 私は、少女にそう伝えた。


「あ、す、すみません。

私は、ミールルアって言います。

ミールルア・リナリアです。

ええと、看板さんに、名前ってあるんですか?」


 少女は、相変わらず茂みからそう、話をした。

 名前はあるが……言うべきか、偽名を、今作って名乗るか?

 ……いや、でも……。


「じゃあ、その、私が名前、付けていいですか?」


 私が名前に関して迷っているのを察したのか、少女、ミールルアは私にそう提案した。

 ……まあ、悪くはないか。


『お願いする』


 私は、提案を受け入れた。


「ええと、じゃあ、『マルィ』でいいですか?

『ハヅィマルィ村』の看板なので!」


 ミールルアは、今までとは打って変わって、ウッキウキな態度で、私に名前を付けた。

 ……名前自体はそんなに悪くは無い。

 だが、よく考えてみれば、ミールルアは、ペットに名前を付けるような感覚で、今名前を考えているのだろうから、本質的には『看板さん』と何も変わっていないのではないかと思ったが、せっかくつけてくれた名前で、『看板さん』より、だいぶいい名前なので、受け入れる事にした。


『すごくいい、ありがとう』


「す、すごくいい?

い、いやあ、そんな……」


 私がそう伝えると、ミールルアは、また態度から嬉しさを滲ませていた。

 相当、素直なんだろうな。

 ミールルアは、娘よりは年上だが、何となく、娘を思い出してしまうな……。


「あ、あの、ありがとう、じゃあ、また、来るね……」


 私が思い出にひたっていると、ミールルアは、そう言って去ろうとした。


『あ、ちょっと待って!

出来れば、ここから移動したいんだけど……』


「えっ?」


 確かに、ミールルアにしてみれば、ただ、観察しに来て、今日もその一日なのかもしれない。

 しかし、私にとっては、この一日を逃せば、私が何故苗木に転生し、看板になったのか、分かるチャンスを棒に振る事になってしまうかもしれないのだ。何としてでもチャンスを掴まなくては。


 ミールルアは、ちょっと考えて、何かを取りに行った。

 ……私は、これからの事に不安を感じつつも、ミールルアに希望を抱いたのだった。

今回も、読んでくださりありがとうございます。


面白い、続きが読みたいと思った方は、

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