第五曲 祥の返答
「私も何かできないかな?何の取り柄も楽器もやったことが無いけれど皆に迷惑を掛けないようにするから!!カスタネットでもタンバリンでも何でもやるよ!!」
玲子は祥に拝むポーズで頼んだ。玲子とバンドをやるって想像つかないけれど、それは僕も同じだもんな。
祥の考えが知りたい。祥は、腕組みをして下を向き真剣に考えている。と言っても、彼が考えているのは結論ではなく玲子への断り方と言う感じだ。拓人は黙り込んでしまった祥を見て、玲子の援護に入った。
「いいんじゃないの~? 俺も女の子のメンバーが増えたらやる気でるし! 俺が女の子達の先生になってもいいぜ!」
玲子は拓人の言葉にポカーンとしている。
拓人の場合、フォローと言うよりも下心だな。祥は拓人のことを見下した目で見つめた。しかも無言だから、かなりキツい仕打ちだ。まあ、祥が回答するための時間稼ぎにはなったのかな。
祥は覚悟を決めたようにゆっくりと語った。
「川名がバンドに入りたいと言う気持ちは、凄く嬉しい。だけどね。俺も考え無しにバンドメンバーを増やそうとしている訳ではないんだ。人数が増えたら、それだけ迫力のある音が出来る反面、音が重なることによって不協和音を生み出してしまうリスクが高くなるんだ……だから申し訳無い」
祥は玲子に誠意を込めて説明した。そして玲子もこれ以上突っ込むことは無かった。
「うん。わかった。その代わり裏方として手伝わせてね! これは断られたってやるんだから!」
「もちろんOKだよ。それと俺に少し考えがあるんだ。悪いようにはしないよ」
「え? どう言うこと?」
「それは、まだ言えないな。内緒」
祥は含みのある言葉で呟いた。
……考え? 悪いようにはしない?
祥が言うくらいだから、またミラクルを生み出そうとしているような気がする。
不思議な男だ。人を惹きつける魅力が半端ない。
それよりも……ずっと、祥がテーブルの下で僕の手を握っているのだが……振りほどこうとしても力強く僕の手を握ってくる。
嫌とかではないのだけど……いや、男として本当は嫌じゃなきゃいけないのか。それよりも手汗が出てくる!ヤバいって!祥の良い香りに包まれて頭がボーっとする。
「しょーちゃん顔赤いよ~この前も急に赤くなっていたみたいだけど体調悪いのー?」
「本当だ。風邪? うつさないでね」
直美と理津美がじーっと俺を見ている。
「何でもない。大丈夫だよ」
平静を装う僕のことを見て祥は意地悪に微笑む。性格悪いなあ……こうしている間も手は離さない。本当に勘弁してほしい。祥は突然、気づいた様に言った。
「そうだ弟。明日はバイトだっけ?土曜日もバイト?」
「うん。23時まで入ってる。日曜も9時~18時までバイト」
「じゃあ、日曜日の19時からスタジオ入れるかな?」
「スタジオって何? まあ行けると思うけど」
「バンドの練習をやる場所だよ。じゃあさ、白旗さんも誘ってみてよ」
え? 弘子さんを誘えって、どう言うことだ?
僕は女性を誘うなんてしたことが無いけど、弘子さんだったら大丈夫……かな。
「弘子さん? シフトが被ってる時があるから誘えるけどどうして?」
「ベースのアドバイス貰いたいからさ」
ああ、そうか。祥はバンドのリーダーだし、担当はギターだし、僕にだけ構う訳にも行かないだろう。そこでベーシストの弘子さんを誘って、僕の先生をやってもらう訳か。
出席者は、ブリドリメンバーにチビトリオ、弘子さんに僕。全部で8人か。人数多そうだけど大丈夫なのかな。まあ祥が言うなら大丈夫だと思うけれど。
「さて、もう少しバンド活動の詳しいことを決めようか」
祥は楽しそうに言った。




