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第三曲 祥の見解


「まってまって! 待ってよ祥ちゃん! 弟君がメンバーになるまでブリドリの活動停止ってどう言うことっ? 意味わかんねー! それ必要?!」


 ボーカルの拓人が慌てて割って入る。哲太も呆れ顔で、子供を(なだ)める様に優しく言った。


「どうした祥? いつもの祥じゃないぞ? 弟君のことが絡むとムキになるところがあるな。ちょっと落ち着けよ。」


「落ち着いてるさ! 中途半端な状態じゃ音にも影響出るし、皆にも迷惑がかかる。それだったら活動停止にして弟が正規メンバーになるまで待つさ」


 祥の硬い意志に押されて哲太は黙り込んでしまった。一体、どうなってしまうのだろう。僕だって今の意見を引っ込めるつもりは無い。そもそも無理だ。

 今、この自分のレベル(ゼロ)状態でブリドリの正規メンバーに参入するなんて無理だ。全員が黙り込む重い空気の中、理津美はそっと手を挙げた。


「このままじゃ(らち)が明かないね……2人が納得できる落としどころを少し探らせてくれるかな?」


 理津美の言葉に祥と僕は小さくうなずいた。


「祥くんは、翔ちゃんのこと正規メンバーにしたいってことだけど次のライブにフル出場させるつもり?」


「フルが理想的だけど最初は優しい曲を数曲でもいい。」


 ……え? そうなのか? 最初から最後までライブに出させられると思っていた。まあ、ブリドリの曲で優しいレベルと言っても難しいだろうから、数曲でもハードルは高いと思うけど……


 理津美は、さらに聞く。


「優しい曲を数曲? ブリドリで優しい曲ってあったっけ? 結構レベル高いと思っていたけど」


「そう言う意味では最悪オリジナル曲じゃなくても良い。前に弟に渡したCDに入っている曲でも良いかな」


「なるほどね。それは初心者でもできるレベルなのね?」


「1曲は初心者用。もう1曲は少しレベル高いかな」


「じゃあ、ライブは正規メンバーの顔見せって感じで、ラストに『初心者用の曲』1曲だけで翔ちゃんのお披露目ってことにしない?」


「う……」


 理津美の交渉に祥もタジタジだ。(うつむ)いて黙り込んでしまった。そんな祥の姿を見て理津美は僕に声を掛けた。


「って、ことらしいけど、翔ちゃんとしてはどう? 初心者用の曲だったら、翔ちゃんでも何とかなるんじゃない? その代わりライブのラストの曲だから少しプレッシャーかかるけど、まあ、そこは頑張るってことで」


「う……うん。それで正規メンバーと言えるんだったら頑張れる……かも」


 ライブで十数曲やることを考えたら、初心者用の一曲だったら何とかなるかもしれない。あの祥を黙らせてしまうなんて理津美は凄いな。かつ、理津美から祥へのヒアリングを聞いている僕も納得せざるを得ない状況になってしまった。


 黙っていた祥が口を開く。


「片瀬……? ここで俺が折れれば、あの約束は守ってもらえるってことでいいんだよな?」


 祥は理津美に問いかけた。約束……なんだ、それ?


「まあ……しょうがないかな。約束は守るよ」


 渋々ながら理津美は(うなず)いた。当然、祥と理津美の2人以外はキョトン顔になっている。

 そこで、ボーカル拓人が突然元気よく手を挙げた。


「はいはいはい! なに? 約束って! 聞いてないぞ!!」


 拓人の食いつきに思わず祥も笑ってしまう。そして、祥は、ゆっくりと重々しく語った。


『片瀬をブリドリのキーボードとして迎え入れる』


 祥の言葉に理津美は複雑な表情で微笑んだ。


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