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第三曲 バイトの先輩


 授業が終わりバイトに向かう。

 チビトリオに捕まったらバイト遅刻確定だから見つからないように学校を出た。


 バイト先は駅前のレンタルCD屋さん。


 レンタルCD屋で働いてて、音楽に興味ないのかと言われると辛いのだが、たまたま店の前を通りがかったらバイト募集のポスターが貼られていたのだ。時給も良かったし店の中にいる店員が楽しそうで輝いて見えて僕も仲間に入れて欲しいと思えたのだ。今は勇気を出してバイトを初めて良かったと心から思う。


 玲子達には『翔ちゃんがよりによって、レンタルCD屋でバイトなんて! 大丈夫? わかる?』って、心配されたけれど、今のところ何とかなっている……と思う。


「おつかれさまでーす!」


 僕はスタスタと早足で店に入り、先に入っている店員さんに挨拶をした。


「翔ちゃん! おつかれ~今日もよろしくね!」


「はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 挨拶をした店員さんはバイトリーダー、僕より1つ年上で女子高2年生の『白旗(しらはた)弘子(ひろこ)』、とても頼りになる先輩だ。


 高校ではバンド活動をやっている。僕は音楽の事を知らないので、言うまでもなくバンドのことを詳しくは知らないから、お客さんからCDのことを聞かれると、バイト開始当初は、そのまま弘子さんに聞くことが多かった。

 でも、今では彼女のおかげで有名な歌手は覚えたかな。さすがにブリドリのことまでは聞いてないけれど。


 ロッカールームに入って荷物を仕舞う。着替えは特になくて、制服の上にエプロンを身に着ければおしまい。至って簡単だ。そして入口横にあるタイムカードに打刻をして仕事開始。


 さあて、やりますかあ! お客さんは、そんなに多くないな。


「翔ちゃん。今日は忙しくなさそうだよ。この返却されたCDを棚に戻しておいてくれる?」


「了解っす!」


 弘子さんからCDを受け取る。確かに量は少ないな。最初は棚に戻すCDの場所がわからなくて同じところを何回もウロウロしたけれど、今はほぼ効率的に最短距離で戻せるようになった。


 あ。そうだ!

 弘子さんにバンドのメンバーになることについて相談してみよう。弘子さんは女子バンドを組んでいるから良いアドバイスを貰えるかもしれない。それにバンドをやっているなら、ブリドリのことを知っているかも知れない。


 僕は渡されたCDを全て棚に戻した後に、レジにいる弘子さんに声をかけた。


「弘子さんって、バンドやってるって言ってたじゃないですか?」


「うん。突然どうしたの?音楽に目覚めた?」


 弘子さんは意外そうな顔をした。そりゃそうだよな。今まで弘子さんから好きなバンド名を聞かれても答えることの出来ない僕に呆れていたくらいなのだから……


「そう言う訳じゃないけれど、最近バンドに誘われて、音楽に興味なかったのにバンドやるのっておかしいかな。って。」


「確かに音楽に興味なかったら、バンドやろうなんて思わないよね。パートは何?」


「パートって担当する楽器の事? わからない」


「わからないってどう言うこと?! それバンドに入る入らない以前の問題でしょ! 他のメンバーは初心者?」


 弘子さんは大きな目をさらに大きくして驚く。現役でバンド活動を行っている弘子さんからすれば当然の反応なんだろうな。

 

「初心者じゃない……と思う。僕以外のクラスの奴らは皆知っているバンドだったし。」


「皆知ってる? そんなに有名なバンドなんだ? 高1でクラス全員が知ってると言ったら、かなり有名なバンドなんだろうね」


「うん。まあ……そうみたい。」


「バンド名教えて? 私も知ってるかもしれない。」


 うーん……弘子さんだったら知っているかもしれないけれど、どうだろう。ブリドリのことを知っていたら話が進めやすい。


「A Brief Dream To You……」


「へえ……英語名のバンドなんだ? あ、ぶりーふ、どりーむ、とぅゆー……? A Brief Dream To You! え? 待って? もしかしてブリドリ?!」


「そうとも呼ばれてるみたい」


「ちょっと! やばいやばいやばい! マジで?! 祥くんのいるバンド?!」


 弘子さんが目を白黒させて興奮している。やはり、弘子さん知っていたか。ここまで驚くとは思っていなかったけれどバンドマンからしたら普通の反応かもしれないな。


「うん。ギターは祥。」


「キャーッ! 嘘でしょ?! ブリドリって言ったら芸能事務所からスカウトされたって噂のバンドだよ?! 超ファンなんだけど! 私CD持ってるよ! 何で翔ちゃんが?!」


 そりゃそうだよな。人気バンドから素人同然の僕が誘われるなんて誰も信じないよな。弘子さん見るからに混乱してるし、クラスの皆とほぼ同じ反応だ。


「うん。芸能事務所からスカウトされたみたいだね。彼ら断ったらしいけど。残念ながら本当なんだよ」


「そうだよね。音楽オンチの翔ちゃんがブリドリに誘われたなんて嘘がつける訳ないよね」


 偉い言われようだ……否定はできないけれど。


「うん。その音楽オンチの僕がブリドリでやっていけるか。誘いを受けるべきかって言うのを相談しようって思ったのです」


 弘子さんの勢いに押されて思わず敬語になる。やっと弘子さんも冷静になってきたらしい。


「え~と……ブリドリならボーカル、ギター、ドラムの3人組でしょ。メンバー補充するならキーボードかベースかなあ……ツインギターってのもアリかと思うけど祥君居れば十分だし優先度的に考えたらベースかな。私と同じパートになるね」


「あ、弘子さんベースやってるんだ?」


 ベースってのが、どんな楽器かは検討もつかないけれど、ギターと同じ形をしている楽器ってことはわかる。


「ひどっ! 今まで私がベースやってるって知らなかったの?! どんだけ私に興味ないのかな? ベースがロッカールームに置いてあるでしょ?!」


 そう言えばデカいギターケースがロッカールームに置いてあったな。


「ごめんごめん。でもやっぱり弘子さんブリドリ知ってるんだね。」


「当り前じゃない! 昨日もライブやってたでしょ? 私見に行ったんだよ?」


「そうなんだ……? そこに僕もいたんだよ。気づかなかったな。」


「えっ?! そうなの? あの人混みじゃ気づかなくて当り前だよね。」


 そうか。弘子さんも、あの格技場のライブに来ていたのか。全く気付かなかったな。それよりも、ブリドリは別の高校の弘子さんが来るくらいの有名バンドなんだなって再認識した。


 弘子さんがブリドリのことを知っていると言うことは話が早いな。弘子さんの見解が知りたい。


「で、どう思う?」


「そっかあ……ブリドリかあ……それはそれはハードル高いよねえ……やりがいはありそうだけどね」


「そうなんだよ。友達とバンドやろう! ってレベルでもないんだよね」


「翔ちゃんだったら、友達とバンドやろう! ってレベルで言われても誘いに乗らないよね?」


「あ。そっか。」


 確かにそうだな。今回、ブリドリから誘われたから、ここまで悩んでいるって言うのもあるかもしれない。


「でも、しっかりリズムラインさえ取れていれば、ベースだったら何とかなるんじゃない? 彼らも最初から難しい曲やらせようなんてことは思わな……○△xx□!!」


 弘子さんが突然、前を指差して言葉にならない声……悲鳴を上げた。口だけパクパク動いて声の出ない状態で僕に何かを訴えている。


「え? どうしたの? 弘子さん?」


 弘子さんが何故驚いているのかわからない状況に戸惑っていると、誰かが僕の後ろに現れて肩に手を回した。


「お? お姉さん。いいシャウト持ってるね♪」


 祥が状況を楽しむかのようにニヤニヤと微笑んだ。


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