第9話 寂しい帰宅
ついに彼女たちが帰って来る。それは、非常に嬉しいことだ。しかし、それは寂しいものだ。
カヨの救ったエスペランザの下級兵の1人、ジョージが目覚める3日前・・・。カヨ、ケイ、ジン、レイの4人は、仮想世界から脱出し現実世界へ辿り着いていた。「帰ってきたわね・・・。」久し振りに見た私の弟、ロイ・グレイスのラボを見渡した。「・・・相変わらず、散らかってるわね。」恐らく、ここは研究室なのだろう。整理されておらず、薬品の匂いがした。すると、入口の自動ドアが開いた。
「やあ、みんなお帰り。」ボサボサの茶髪に眼鏡をかけた、やせ細ったロイが現れた。「ただいま。・・・ていうか、あんた痩せすぎじゃない?」そうかな?と言ってコーヒーを飲んでいる彼の手は、振るえていた。「・・・大丈夫なの?」私は、更に心配になってため息をついた。
「そう言えば、どうやってその3人は仮想世界に?」ロイは、私に質問してきた。「・・・ジョン・クリードは、あの世界のこと知ってたみたいよ?」私は、そう言った。「情報が漏れてたってことかい!?」ロイは、驚いたように言った。「というより、こうなることを予想してたみたいよ。」私は、ため息交じりに言った。「なんてこった・・・。」ロイは、頭を抱えた。
「・・・こんなことしてていいのか?」ジンは、そう言った。「そうね。久々の外を見に行こうかしらね。」私は、入口へ向かって歩き出した。「ルイさんに挨拶もしないとね。」レイは、私の言葉につられるように言った。「ロイ君との話はもういいのか?久々の家族だろ?」ケイは、そう言った。「いいよ、ケイさん。久々の外だし、姉さんの好きにさせようよ。親父も心配してたし。」とロイは、前と変わらず優しかった。「また後でね、ロイ。」私は、ロイの方へ振り向いて笑顔で言った。ロイも手を振って見送った。
「盛り上がってるところ悪いんだけど・・・。」ジンに担がれている、女がそう言った。「あ。」その場にいた5人は、忘れていたように言った。「・・・早く解放してくれない?」女は、ため息交じりに言った。そして、女と男2人を床におろして拘束を解いた。「ところで、君の名前は?」ロイが女に質問した。「カレンよ。カレン・ウェイバー。」女はそう言った。3人は、ナノマシンを除去するために研究室においた。私たちは、ラボを出た。
「・・・眺めがいいわね。」私は、久々の夕陽に目が眩んで手をかざした。眼下には、恐らく仮に建てられた集合住居が建ち並んでいた。だが、以前のアメリカらしい摩天楼は見当たらなかった。スラム街よりは、マシだが決していい暮らしとは思えない雰囲気だった。「・・・寂しい光景ね。」私がそう言った。「・・・そうだな。」ケイもそう言うと、4人は沈黙してしばらく景色を眺めていた。「・・・行こう。」しばらく、景色を眺めたあと親父のいる総督室があるリベルタ軍本部へ向かった。
「あら、カヨさんですか?少々お待ちください。」私は、受付嬢に許可を貰って親父の部屋の前でノックした。「入っていいぞ。」親父がそう言ったので、部屋へ入った。「親父、ただいま。」私は、笑顔でそう言った。「お帰り。」親父も笑顔でそう言った。「ケイ君、レイとジンもご苦労だったね。」親父は、そう言った。「いえいえ・・・。」3人は、照れくさそうに言った。
「親父、その手・・・。」私は、手袋を付けている右手を指差した。「これは、エスペランザの幹部と戦った時にな・・・。」親父は、右手を隠した。「そう何だ・・・。」(あの親父が!?)私は、少し悲しくなった。「そう言えば、兄貴は?」親父は、しばらく無言になった「親父?」私は、再び質問をした。「・・・亡くなった。」親父は、苦しまぎれに言った。「そっか・・・。」私は、沈黙するしかなかった。
「そ、そう言えば、レイ。」親父は、レイの方を向いて話しを変えるように言った。「はい?」レイは、良く分かっていない様子だった。「仮想世界から連れて来た子に薬使ったか?」親父は、そう言った。「は、はい。」レイは、何か察したようだ。「いつもより多めにか?」親父は、更に深く聞いた。「そ、即効性の高いものを・・・。」レイは、声が徐々に小さくなった。
すると、「いて!」レイは親父の拳骨をくらった。「馬鹿者!そのせいで治療が長引いているんだぞ!」親父は、顔を真っ赤にしていった。「す、すみません・・・。でも、義手の右手で殴ることないじゃないですか・・・。」レイは、頭を押さえて涙目で言った。(この光景も久々だなあ・・・。)レイ以外は、恐らくそう思いながら温かく見ていた。
長い説教を経て・・・。「見苦しいところを見せたな。」コホンと咳払いをした。「イテテ・・・。」レイは、頭を押さえて小声でそう言った。「いやいや・・・。」レイ以外は、そう言った。「今日は、疲れただろ?部屋は用意してある、積もる話もあるがそこでゆっくり休みなさい。」親父は、そう言った。「はい。」私たち4人は、そう言って総督室をあとにした。
私たちは、本部入口前でそれぞれ分かれた。私は受付嬢からもらったスーツとフードを持ち軍本部の寮へ向かった。時刻を見ると、19時を回っていた。「ここね・・・。」私は少し寮の外観を眺めて寮へ入り、自分の部屋へ向かった。そして、部屋について中に入った。「ふうー・・・。疲れ?」部屋に入ると目の前には、先ほど会ったカレンがいた。「・・・え?」2人は、目が合った。
「まさか、相部屋があんたとはね。」私は、そう言った。「私もビックリだよ。でも、カヨさんで良かった。」カレンは、にこやかに言った。「カヨでいいわよ。」私も笑顔でそう言った。「でも、一応助けてくれた恩人だし・・・。」私とカレンは、見つめ会って少し笑った。
「そう言えば、カレンはもう大丈夫なの?」私は、そう聞いた。「うん。私、ナノマシンの影響ほとんど受けてなかったみたい。」なので、除去が早くすんだようだ。「あの2人は?」他の2人は、ナノマシンの影響を強く受けているのであと3日はかかるそうだ。
「あの2人の名前は?」私は、そう言った。「銀髪の方がジョージ、黒人の方がトムだよ。」カレンは、そう言った。「あの2人とはどうゆう関係?」私は、また質問した。「3つ子の3兄弟だよ。」カレンは、そう答えた。「あまり似てないわね。」私は、そう言った。「母がイギリス系の人で、父がアフリカ系だからだと思う。目の色だけは、同じだけど。」カレンは、自分の青い目を指差して言った。
「あの3人とカヨの関係は?」今度は、カレンが質問してきた。「私たちは、元々スラム街出身なのよ。」私は、そう答えた。「ケイとは、恋人関係?」カレンは、そう言った。「元だけどね。」私は、少し恥ずかしくなった。「」「でね、幼い頃から一緒で、ある時親父が・・・。」と私たちは、消灯時間まで話をし、明日に備えて早めに眠った―――。
この素晴らしいとは、言いがたいこの世界に新たに友ができた。そして、新たな友と共に物語は動いていく。