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第一章 クソッタレと大丈夫(上)

※勝手ながら前後編に分けさせていただきました。

 内容に変更はありません

「────おいガキ、起きろ……!」

 がさつな声と舌打ち。

 少女はとろんと眠たげな眼を重たそうに開けた。

『──誰……?』

 どうやら話の途中で眠ってしまったらしい。舟をこいでいたその頭を上げると、荷台の上の全ての視線が自分に集まっていた。

 逆にここにいる中で少女を見てもいないのは彼らに興味がないこの馬車の御者くらいだろう。

 少女は目をこすろうとして、

 ──あれ? 動か──

 違和感の正体は両手を封じる一本の縄だった。それでもやり難そうに閉じた両まぶたの間をこすって、おもむろに首に手をやった。

 細い柔らかな指が触れたのは、少女に似つかわしくもない硬質な金属の輪。

 奴隷の証だ。

 ──そっか。買われたんだ、私……。

 ふと周りを見回すと彼らも少女と同じ格好で、逃げられない様に一本のロープで繋がれていた。

 少女が起きたのを確認すると、八人はそれが暗黙の了解のように声を押し殺して話し始めた。

「全く……売られてんだぞ、俺らは……」

「こんな状況でも居眠りとは相当な大物に違いねえな」

 呆れ顔で事の重大さを告げる青年と、笑って場を和ませる老人。

「大物ねえ……奴隷にしては上物だと思うがよォ……」

「フハハッ。確かに、なるほど。こりゃあ一本取られたな」

『ちゃんと、起き……ふぁ』

 寝ていたことを注意された。そう思った彼女は、か細い声で返事をしつつ暖かい陽気と適度な振動に眠気を感じて大きな欠伸をしだす。

 あまりにものんびりとした行動に青年は思わず頭を抱えた。

「本当に大丈夫かよ……」

『大丈夫、起きてる』

 感情が不足しがちな表情で少女は自信満々に頷いた。

 彼女の態度は平素なら微笑ましいくらいのものだが、緊張かあるいは警戒か。周りの面々の表情は異様なまでに硬い。

 そんな呑気な少女の顔を、

「じぃっ…………………………………………」

『なに……?』

 たっぷり十秒。

 青年は睨むような目つきで見つめると、それから同じ時間だけ目を閉じて唸りだし、最後に諦め顔でわざとらしく両手を上げた。

「…………お手上げだ、何言ってるか全っ然っわかんねえ。何考えてるかもなァ」

「あたしもダメ……聞いた事がない言葉よ。一体どこの国の言葉かしら」

 続いて妙齢の女も同意。

 赤毛なんて初めて見た、と軽くため息をつく。

 他の四人も続いた。顎でしゃくられ、指を差され。だが答えはすべて「ノー」だ。申し訳なさそうに首を振った。

「悪いが……俺もだ。力になれなくてすまんな」

 最後にいかにも老人の男がそう苦々しく答えた。

「つまり何か? このガキと会話が・・・・・・・・成立する奴は・・・・・・ここには居ねえ・・・・・・・ってことかよ」

「そういう事になるな。困ったもんだ」

「クソッタレ……マジかよ……」

 その結論に青年は金髪の頭を掻きむしり、老人は伸びた無精髭をふうむと唸ってさすった。

 それもそのはず。

 馬車にいる奴隷の中で、その少女だけは唯一船でこの国に持ち込まれていたのだから。

 少女にとってここは異国の知らない土地、言葉が分かるわけもなくその逆もまた然り。会話のしようがないのだ。

 思わぬ事態に、青年は本人が目の前にいるのも構わず愚痴を呟いた。

「俺はこんなお荷物はごめんだぜ」

 ぐちをこぼす彼に「ちょっと」と女が小突き、左右に揺れる豊満な脂肪に目を奪われながらも「どうせ何言ってもわかんねーよ」と親指で指して反論。女は「そうだけど」と同意しつつもどこか不満気。

 彼女は一回りも若く自分より過酷な境遇の少女を彼女は邪険にしたくなかった。

 もっとも本人は青年の露骨な態度すらも全く意に介さないようで、

『「クソッタレ」……?』

 首をかしげて彼の言葉を不思議そうにオウム返しするだけだったが。

「そう言うな。言葉も国も違うが同じ奴隷仲間だろう」

「そうよ。思いやりがないわね」

 諭すようにいう老人と、攻撃的な態度の女。

 しかし、それが気の短い彼の逆鱗に触れた。

 思わず床板にこぶしを振り下ろして声を荒げてしまう。

「じゃあどうしろって言うんだよ!」

 一同はぎょっとした。

 反射的に一同は御者の様子を伺うと、やかましい奴隷共だと一瞥する程度。こちらの会話を怪しんでいる様子はないらしく、そっと胸をなでおろした。

 老人は老練らしく落ち着いた物腰と口調で頭を下げた。

「突然大声を出してしまってすまなかった」

「フン……まるで獣だな。どうやら旦那様は奴隷商人に騙されて人と良く似た獣を買わされたらしい」

 御者のそれは明らかに奴隷を見下した口ぶり。

 カッカした青年が「なにを!」と立ち上がりかけた。女が反射的に隣から肘打ちを入れると、青年はその場で咳き込み、言いかけの怒声は情けない呻き声へと変わった。

「なっ……なに、すん、だっ……」

「バカ、あんたはもちっと大人しくしてな」

『?』

 状況が飲み込めず、不思議そうな目で彼らのやりとりを見つめる少女。

 老人はやれやれと言わんばかりの表情。

 血気盛んな青年に落ち着けと一言なだめると、

「彼については、元気が有り余ってる若者と見ていただければありがたい。奴隷としては元気な方が丁度いいだろう」

「ハッ。身分の違いも、奴隷としてわきまえる事も知らねえ。大馬鹿の間違いだろ」

「あ?!」

 睨む青年に「おお怖い怖い」と大げさに驚いて見せた。

 嘲笑うような態度に老人も一言。

「御者殿、そこまでにして頂きたい」

 しかし忠告を受けてなお御者は止めない。

 興が乗ったのか、体を前に向けてもぺらぺらと毒を吐き続けた。

「だってそうだろう、爺さん。奴隷ってのは大抵大馬鹿者だ。盗みを働いても馬鹿だからそれが罪だって分からねえ、馬鹿だから咎人になっても悔い改めねえ、馬鹿だから落ちる所まで落ちて奴隷になっちまう。そんな頭じゃあ、いくら元気があっても禄に仕事も覚えれねぇだろうさ。奴隷の上に木偶の坊、どうしようもねえ役立たずだよ」

「てめえ……ふざけやがって!!」

 明らかな挑発に逆上する青年。爪が食い込むほど拳を強く握って怒りを露わにする。

 だが御者は彼らが逆らえないことを、とても良く知っていた。

「やけに威勢がいいけど、忘れてねえだろうな? あんたら奴隷はエルフォード様が買われたのだ。もし俺に何かしてみろ。あんたらは地獄行きだ。国のどこへ逃げようともな」

「くっ……!」

「ほらほら、さっきまでの威勢はどうした? やって見せろよ。お前がどんな目に合うか楽しみだぜ。殴るか? 蹴るか? それとも馬車から突き落とすか?」

 手を出せないでいる青年を調子に乗って煽りだす御者。

 しかし彼は喋りすぎた。

「あんたもあいつが大馬鹿だと思うだろ、爺さん──」

 御者の男がそう問いながら再び荷台へ振り返ると、そこには鬼の形相があった。

 それは醜悪なまでに憤怒に満ちた顔。先程までの彼からは考えられない剣幕だった。

 衰えた肉体からは想像もつかない怪力で男の胸倉を掴みあげると、勢いよく眼前に引き寄せた。

 ──この老人も所詮は奴隷だっ……手出しできるはずがっ……!。

 しかし燃える松明のような赤目で睨み付けられると男は頭が真っ白になった。得も言われぬ恐ろしさに情けない喘ぎ声を上げ我知らず背筋がぞくりと震える。

「御者殿────もういいだろ」

「あ、ああ………………すまなか……った…………」

 ようやく剛腕から解放された御者は気付けば全身から滝のように汗を流し、最早疲れ切って何も言う気にならなかった。

「いや、こちらこそ失礼した。ああ、それと────」

「ひっ! ままま、まだ何か!?」

 しどろもどろになる男に老人は言った。

「これでも俺はまだ今年で五十八──『爺さん』扱いはご容赦願いたい」

 直前までの迫力から一転。穏やかに頼む男に御者は戸惑い、疲れた顔でため息を漏らしながら了承するのだった。

 ようやく御者が大人しくなると老人も一息、やれやれと顎鬚を撫でた。

 すると後ろから忍び寄る影。

 「ああ?」と彼が後ろを見やるとそこには上機嫌な面々。彼らは思い思いに彼の背中や肩を叩いて老人の活躍を褒め称えた。若々しい洗礼に老人も最初は驚いたが、すぐに彼らなりの称賛に慣れると仕返しとばかりに青年にきつい一発をくれてやった。痺れるような一撃に青年は叫び声をあげた。

 その様子に感心しているのか、面白がっているのか。

 一人蚊帳の外の少女は、

『ふぅん……』

 楽し気な彼らの様子が非常に羨ましいものに見え、老人の真似をして青年の尻に向かって右足を振り上げる事にした。

とにかく彼を殴ればいいのだ、殴ると手が痛くなるので蹴ってみよう等という非常に安易な発想で、覚えたての彼らの言葉と共に後ろから、

『「クソッタレ」』

「あぐぁっ!! ~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 不幸にも、少女の放った一撃は目測を大きく誤り、青年の非常にデリケートな場所を直撃。肘打ちとは比べ物にならない痛みに、声にならない叫びをあげて悶絶した。

 若い女は体を張ったパフォーマンスに腹を抱えて笑い。

 男達は「うわあ」と誰もが知るそのつらさに同情。

 老人は苦笑いしながら彼の背中をさすって「大丈夫か」と優しく声をかけて。

 少女は表情の乏しい顔で「だいじょうぶか」と彼の背中を叩く。

 ──…………このガキ、何かあっても絶対ぇ助けてやらねえ。

 青年は体を丸めてうずくまりながら、人知れず涙声で誓うのだった。



 元々世話を焼く性格なのか、子供が好きなのか、あるいは退屈しのぎも兼ねているのか。

 改めてジョシュと名乗った老人は『男の股間を蹴り上げてはいけない』と少女に身振り手振りで教えていた。

 他にも「クソッタレ」や「大丈夫」といった彼女が興味を持っていそうな言葉の意味を教えると、『なるほど、分かった』と得意げに頷き、それを疑わしそうに青年──ローランがぼやいた頃。

「村よ」

 美しい肢体の女──ジーナは風で栗毛をなびかせながら、彼らに聞こえるように言った。

「もう日も暮れるし、今日はあそこで泊るんじゃないかしら」

 港町を出た時は上ってしばらくだった太陽も気付けば夕日。地平線の上で真っ赤な輝きを放ち一面を照らしていた。もうじき周囲の森も月明り頼みの暗闇に包まれることになるだろう。

「どれだけ急いでも日没までに次の町は間に合わん。流石に危険を承知でいくことはないだろう」

 希望的観測にローランは力なく答える。

「だといいけどよォ……」

「第一もう半日は何も飲んでないんだ。ここを通り過ぎられたら干乾びちまう」

 だから流石にこの村で一泊するだろうと。

「それをあんたが言うのかよ」

「何がだ?」

「ジョシュ、あなたは元々干乾びてるでしょ」

 干物の様に乾いた体をジーナ指されると、老いぼれは一笑した。

「おお喜べお前ら、明日の晩餐は俺の干し肉だ。ちと食う所は少ないがな」

「ハッ、笑えねえ冗談だ。しっかし、はぁー……俺もからっからだ」

「俺もだ。朝の内に二日分飲んどけば良かった…………」

「なんでもいい……いっそ海水でもいい…………」

 次々とローランに賛同する男衆。

 そこへジーナは呆れたようにちくりと無情な一言を呟く。

「ローランは暴れてたからでしょ」

「クソッ…………俺は『肘』の事、忘れてねえからな」

 容赦ない攻撃のことを悪態と共に恨みがましく言うと、

「人の胸じろじろ見てた癖に」

「なっ……」

 予想外の反論に言葉を失った。

 青臭い反応にジョシュは堰を切ったようにひとしきり笑ってこういった。

「フハハハ──……『からっから』という割には色々と元気が有り余っとるみたいだな」

「俺らもローランくらい若けりゃあなあ?」

「いいや俺はまだまだ負けるつもりないぜ」

「何張り合ってんだよ、もうおっさんの癖に」

 壮年の男達に羨ましい限りだと笑われ、恥ずかしくて居たたまれないとローランは顔を隠す様に寝転がり始めた。

「クソッ……」

 その表情を覗き込む無垢な瞳。

『「だいじょうぶ」……?』

「クソッタレ」

 文字通りで余計な心配に、舌打ちをして彼女にも通じる憎まれ口を叩いた。

 とはいえ彼が恥をかいたおかげで、奴隷たちの顔にやっと余裕が戻り始める。喉が渇いたと喘いでいた連中も話に花を咲かせてケロっとした顔で調子よく話し出す。

 ある男はローランを見ているとガキの頃を思い出すと懐かしみ、別の男は俺もまだまだ若いと笑った。ジョシュも老いを感じさせない不敵な笑みを浮かべて対抗した。

「俺だってこれでも身も心も現役のつもりよ。いい女さえいれば会ってその日で口説き落とすくらい訳ないさ。難攻不落の女王と呼ばれたかみさんを落とした俺のテクニックを侮ってもらっては困る」

「オイオイオイ、その歳でまだ頑張る気か?」

「あったり前だ。まったく、年寄り扱いはよしとくれ」

 ふんと鼻息荒く意気込む最年長。

 そこへ横からノリ良く話に入り込む美女が一人。

「あら、もしかしていい女って私のこと? 私はそんなに軽い女じゃないわよ」

 そう言いつつもジーナは妖艶な笑みを浮かべると色っぽく誘うように豊満な胸を強調した。

 しかしジョシュはすっとぼけ。

「はあ。どっかに『いい女』いないかねえ」

「ちょっと」

 芝居がかった口調で夕焼けを眺める姿は、お前はいい女じゃないだろと主張していた。

「ジーナかぁ……」

「けどジーナはちょっと……」

「何よ? 文句あるの?」

 曖昧な返事に仏頂面で問い詰めるジーナ。

 男達も何も知らなければ喜んで我先にと名乗り出た可能性があったのかもしれない。だがこの半日の間に彼女の容赦ない性格を知った彼らは嫌そうな表情で口を濁した。

 なお主な被害者だったローランは関わりたくないとばかりに狸寝入り。彼らの反応に内心で何度も深く頷くのだった。

 ほどなくして、馬車は一行の予想通り最寄りの村に停車した。

 村人と御者に体に縛られたロープを引かれて川で水分補給を済ませると、八人は馬小屋らしき馬のいない粗雑な建物にぶち込まれた。

 ローランは小屋にロープを縛り付ける御者を睨みつけて尋ねた。

「おい、何か食べ物寄越せよ」

「うるせえ。朝になったら何かくれてやる手筈だ」

 無慈悲な答えに腹が勝手な返事をして舌打ちが出た。

「夜明けの後、旦那様の支度が整い次第出発する。それまでここで大人しくしていろ」

「大人しくしていなかったら、それで殺すつもりかよ」

 そう吐き捨てると御者は手に持ったマスケット銃をちらりと。

「これは魔獣用だ、ここは森が近いからな。それに奴隷に鉛玉をくれてやるなんて勿体ないことをすると思うか?」

 そう言って鼻で笑うと、彼は借りているであろう民家の影に消えて行った。

 そしてそれと同時に、

『「クソッタレ」』

「全くだ、クソッタレ」

 揃って藁の上に腰を下ろし毒を吐く少女とローラン。

 珍しい物を見たとジョシュは仲のいい二人に目を丸くした。

「なんだ、急に意気投合しおって」

 一方で他の連中は渋々といった風に各々くつろぎ始める。

「まあでも、この扱いは仕方ねえよ」

「今更だしなあ」

「鞭を打たれないだけマシよ」

「そうだ。所詮俺らは奴隷、文句を言う権利すらねえ。それくらいは知ってるだろう、ローラン」

 鋭い目つきで名前を呼ばれたローランは図星を突かれ不貞腐れた。

 それはまさに彼の言う通りだからだ。

 普通に生活している人間からすれば奴隷とは同じ人ですらない。主人が呼べば全力で駆けつけ、一言命じれば必死になってやり遂げ、失敗した時は鞭を振るわれる。大失敗した日には明日の朝日が拝めないことだってある。

 何故なら奴隷は主人の所有物だからだ。

 所有物故に、その扱いも命も主人の自由。

 モノは人ではない。

 モノに自由があるはずがない。

 当然、ローランもそれは良く知っていた。だが知っている事と納得している事は違う。突きつけられた『当たり前』が無性に腹立たしく、再び沸々と怒りが沸いて出る。

 それでも叫びたくなる衝動を自分の頭をがつんと殴って吹き飛ばすと、ごろんとその場で大の字になった。

「それで──どうすんだ、ローラン」

「…………何がだよ」

 しゃがれた声にローランは壁を向いて表情を隠す。

 まだ不貞腐れてるのかとジョシュは息を吐いて、もう一度問う。

「昼間。その子が居眠りしてる間にお前がいった話だ」と親指で少女を指出す。

 少女は何の話かと首を傾げた。もっとも彼女に説明する方法はないため一同は何も言わないが。

 ジーナはひそひそと眉をひそめて訝しげに聞いた。

「勝算はあるの?」

 その質問にジョシュは慎重に外を見回した。

 幸運にも人影も気配もない。

 示し合わせたように声のトーンを落として、

「監視してる奴はいないようだ。連中余程のお人よしだな」

「でもおかげで助かったわ」と安堵の表情。

「さっさと取り掛かろう。やるなら早い方がいいだろ」

「馬車を盗むのか?」

「馬車はうるさくてかなわん。夜明けはまだ先だが徒歩だと時間に余裕はないぞ」

「朝までになるべく遠くに……」

「ロープはどうするんだ?」

「あいつが港町にいる間にナイフをすったらしい」

「こいつは? 金属はさすがに無理だろ」と自分の首輪を指差すと、

「知り合いに鍵に詳しい奴がいる。駄目なら工具か何かでこじ開けて貰えばいい」

「さすがだ。頼りにしてるぜ」

「ここを出たら川沿いに来た道を戻って、途中から西だ。距離はあるが平坦な土地だ……なんとかなるだろう」

 少女とローランが無言の間に話はとんとん拍子で進んでいき、

「何日かかるの?」

「歩きなら……五日って所だな。……何事もなければだが」

 付け加えられた言葉に一同は押し黙った。

 だがジョシュは時間が惜しいと即座に沈黙を破る。

「ローラン、言い出しっぺはお前だ。お前が決めるんだ」

 ついに決断は彼に委ねられることとなった。

「ローラン……」

「ローランどっちだ」

「早くしろローラン」

『「ろおらん」?』

 七人は口々に青年の名を呼んだ。

 視線が皮膚をずたずたと突き刺し決断を迫る。

 指が震えた。

 失敗すれば殺されるかもしれないのだ。

 それでもこのまま奴隷として一生飼われるくらいなら一縷の望みに賭けたほうがいい。

 その決心と同じように拳を固く握る。

 体を起こして喉を鳴らしながら唾を飲み込み、長く閉ざしていた口を開いた。

「ああ、脱走だ」

 全員は緊張の面持ちで頷いた。

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