第二部 第五話「永遠巫女(とわみこ)」
デルフォイの神殿を訪れた「彼」は、先の戦争は巫女長のお告げではないことを知る。
次期巫女長のロディテが出した真意も分からず苦悩する「彼」。
そして巫女長はロディテを後継者に選ばず、神殿の巫女そのものを終わらせる決断をする。
一方でアルラウネはソレントと一緒に闘技場のレスリングを観戦する。
そこで出会った人物は…。
全編会話劇のみの哲学ファンタジーの、第二部第五話をお楽しみくださいませ。
**デルフォイの神殿・正門の前にて、「彼」の独白**
「巫女長様は言切れた!
最期を私に託された。
『私の死を7日7晩隠し通した後に、巫女達を解散させよ』と。
そして再び私に言われた。
『カイレフォンの友人よ、私の最後の神託には、神のお告げでもあり私の遺志でもあります。
貴方こそが最大の賢者です。』と。
我が友カイレフォンよ、お前は何という問いかけをしてくれたのだ!
私などが賢者であろうはずがない!
現にオーガスタスが私を神殿に差し向けた意図もわからず、大戦が勃発した真の理由も解けていない!
わかったのは開戦は巫女長様の意志ではなかったというだけだ!
プルート、オーガスタス、そしてマケドニウスよ!
お前達は何故そんなに己の野望に忠実でいられるのか、私にはわからない!」
**同時刻 闘技場**
「…闘技場って鎖に繋がれた奴隷が猛獣と戦う場所と思ってた…。」
「お嬢様、それはもう百年も昔の話です。
闘技場では、科学的実証に基づく訓練を積んだ闘士が力を競う場所です。」
「試合前にプルートさんの挨拶ですね。」
「本日は我が町ダイダロス出身の元老院 にて、先の大戦の英雄・イカロス司令官にお越し頂いた!
地震の復興の為に多額の寄付をされた司令官に習い、私は今日も無報酬で試合をする!!」
「…自分をいい人に思わせる所は凄い…。」
「そうですね、お義父様は理想を語り過ぎるプルートさんと、現実的なマケドニウスさんが両極端だと言っておられました。」
「…自分が鍛えて強くなったのと、人の強さ、弱さは別物…。」
「その通りです、お嬢様。
しかし、今日はプルートさんの思想より、レスリングを観ましょう。」
**試合後 闘技場近くの帰り道**
「如何でしたか?」
「…もっと怖いかと思ってた。一生懸命鍛えた人が頑張って勝つ姿は嫌いじゃない…。」
「よう、奴隷のソレントじゃないか!」
「違うぜ、兄貴!最近有名な『唄歌いの』ソレントだぜ。」
「こんにちは、お久しぶりです。」
「…誰?この人達?」
「カイレフォンさんのご子息達です。」
「もしかしてその子が、親父が言ってた魔女っ子ちゃんか?
可愛いじゃないか?
そんな奴隷より俺達と遊ぼうぜ!」
「…男の子嫌い…特にあんた達みたいのが…。」
「付き合えよ!」
「痛い!離して!」
「汚い手でアルラウネお嬢様に触るな!」
「奴隷が!四人相手にやるか!」
「貴様らも元奴隷だろうが!」
「…ソレント、自分より身体の大きな四人を相手に…無茶よ…。」
「働くことを忘れた成り上がりの市民階級達が!」
「だったらお前は一生奴隷だよ!」
(ウル、ソレントが危ない。幻術で助けて!)
(駄目よ、前は相手が大人だったから助けてやったけど、子供同士のケンカに協力する気はないわ。)
(そんな…。相手は大勢なのに…。)
「お嬢様、逃げて下さい!」
「ソレント、助けを呼んでくる…。」
「駄目よ、あんたは兄貴達の大事なおもちゃなんだから、あたいが逃がさないわよ。」
「…貴女もカイレフォンの養女…?離してよ…。」
「あんたはこの後で、兄貴達からたっぷりと遊んでもらえるわ。
ボロボロになった奴隷君の目の前で嫌というほどにね!…そう、あたいみたいにね…。」
(どうすんの?このままじゃ、このちびっこの子の言う通りになるわよ。ソレントを助けられるのはあんたしかいないわ!)
(…そんな…私なんかが…。)
(あんたにしか出来ない助けかたがあるはずだよ!)
(私にしか…?わかったわ!ウル。)
「何をしているソレントよ!!
そんな子供達相手に時間をかけすぎだ!
お前はただの奴隷ではない!
偉大なる黒森の魔女、ベルフルーチェの娘、アルラウネの下僕なるぞ!早く片付けんか!」
「アルラウネお嬢様…!?」
「ソレント、こっちを見てる暇は無い!
右前方からパンチが来る!」
「は、はい。」
「左下から蹴りだ!」
「はい!」
「後方から掴みに来る!しゃがんでかわせ!」
「俺達の動きが見透かされてる!
気味が悪いよ、兄貴!」
「呪いだ!魔女の呪いだ!俺達呪い殺される~!」
「逃げろ~!」
「お兄ちゃん、あたいを置いてかないで~この子怖い~!」
「お嬢様を侮辱することは許さん!
背を向けたならこのレンガの破片を投げつけてやる。それ!」
「ギャッ!痛ぇ!」
「これで暫くプロメテウスの町から出てこないでしょう。」
「…ソレント、大丈夫?」
「私は大丈夫です。しかし、お嬢様、先ほどの力は…?」
「黒森の魔女は未来が見えるの。
数秒後の奴らの未来を見れば、どんな攻撃してくるか全部読めた…。
まさかこんな使い道があるなんて、自分でも…。」
「お嬢ちゃん凄かったよ!黒森の魔女なんておとぎ話と思ってたよ!」
「巫女なんて比べものにならない!
よくわからないお告げをするだけだからね。」
「永遠巫女様が降臨されたんだ!」
「そうだ、永遠巫女様だ!」
**三日後の朝・屋敷にて**
「とにかく私は反対とだけ言っておきますよ。」
「お義母様、わかって下さい。
毎日の仕事に支障は出しません。」
「ソレント、貴方が仕事を疎かにしないことは私が一番知っています。
しかし、町のゴロツキとのケンカに勝つ為にレスリングを習うのは反対です。
貴方には人を魅了する歌があるはずです。」
「歌ではお嬢様を守れません!」
「あらあら、アルラウネが町の人気者になってからずっとこの調子…。
あたしが永遠巫女様にお伺いを立てたいわ。
ねぇ、貴方?」
「テーゼよ、巫女長の死を市民に公表するまであと4日。
やはり私は事前に元老院に報告する!」
「あらあら、こっちも神殿から帰ってきたらずっとこんな調子…。
我が家の男共は悩むのが好きですこと。
いいじゃありませんか?巫女長様は貴方を指名したのですから。
元老院は巫女にお伺いを立てますが、巫女は元老院を気せずお告げを出しますわ。」
「元老院を気にせずに…?
それだ!流石は我が愛する妻テーゼだ!
鍵は…イカロスだ。元老院議員にて軍を総括する司令官。
そして次期巫女長だったロディテ…。
我らを戦争に踏み切らすのに都合が良いお告げを出したのは、きっとあの二人が談合したからだ…。」
「貴方、出かけるならアルラウネのお客様が一段落してからにして下さいな。
私とソレントだけじゃ行列を整理仕切れないわ。」
「…次…って、まだいるの…?」
「申し訳ございません。アルラウネお嬢様。
次で最後にしてもらいました。
続きは明日で。」
「お嬢ちゃんが噂の永遠巫女様かい?
お願いだ、今年のうちの葡萄の収穫は豊作かい?」
「…永遠巫女が何かわからない…。
…どれくらい収穫したら去年より豊作かわからない…。
でも、秋が来る時の貴方の顔はとっても笑顔だわ。凶作に苦しむ人の顔じゃないはず…。」
「凄いよお嬢ちゃん!
それだけ言ってくれたら十分だ!
去年の神殿の巫女は酷かった!何が『三日月が紅く染まる夜に豊穣の女神は振り向きながら微笑むだろう!』だ!
俺は豊作か凶作か聞きたいだけなのに曖昧なお告げばかりして!
本当にありがとう。
これ少ないけど…。」
**その日の午後アルラウネの部屋**
「毎日、凄い人気です、アルラウネお嬢様!
お嬢様はこのまま巫女になられるのですか?」
「…黒森の魔女と神殿の巫女は違う…。
巫女にはならない…。」
「どうしてですか?素晴らしい能力ではありませんか?」
「…巫女は嫌…。」
「どうしてですか?」
「…ずっと独身なんて嫌…。」




