第二部 第四話「それぞれの思惑」
休館中の劇場に忍び込んだソレントとアルラウネ。
無人の舞台でアルラウネに得意の歌を披露するソレントだが、地震の影響で床が抜け、穴に落ちてしまった。
それを助けたのは『彼』の従者でレスラーのプルートと、その弟子のディオンだった。
快くソレントを救出してくれた彼等だが、魔女の血を受け継ぐアルラウネは嫌な予感を抱く。
独自の理想を胸に秘めるプルート。
そして彼等に対してを冷めた目で釘を刺す意外な人物も現れ…。
本作の核となる部分が少し明らかになります。
政治と戦争の意味を問いかける全編会話劇のみの哲学ファンタジーを是非ともお読みくださいませ。
**オーケストラ(無料劇場)**
「パルタカ、ロイセン、そして南方のラオにおいても国の政治は王制である!
しかし、我が国の共和制における元老院の選挙は…。」
「…何言ってるかわからない…。」
「申し訳ございません。アルラウネお嬢様。
私を助けてくれたプルートさんが、『礼をしたいなら私の講演を聴け』と言われましたので…。」
「…ソレントのせいじゃない…。」
「わかりました。
もう少し待って、プルートさんの話が続くようでしたら退席しましょう。
子供の私達には難しい政治の話ですからね。」
「……我が国の自由とは砂上の楼閣も同じだ!
自由なのは市民のみだ!
そして、その自由は多くの奴隷である同志によって支えられている。」
「そうだー!
いいぞプルート教官!」
「…ソレントも奴隷…。
私が自由なのは奴隷が働いてくれているから…?」
「お嬢様、『世の中は市民と奴隷、そんな単純ではない』とお義父様は言われてましたよ。」
「私はただのレスラーで終わるつもりは無い!
私はかねてからの計画を実行する!
期は熟した!
地震の被害は新たなる誕生の知らせだ!
私は大学を創る!
市民も奴隷も関係なく、真に才能を持つものだけが力を手にする権利を持つ。そんな世の中を実現する為に!
大学では数学と体育を教えるだけではない。
『哲学』だ!
王による統治ではない。選挙で選ばれた元老院議員による統治でもない。
大学という学問の要塞で、鍛え抜かれたエリートが統治する社会だ!
闘技場や劇場には、市民も奴隷も関係ないように!芸術や格闘から学問に舞台を移す時は来た!」
「プルート教官!本当に俺達奴隷にもチャンスがある世の中になるだろうなー?」
「我が同志達よ、だがそれには闘技場のレスリングだけでは資金が足りん!
皆の知り合いからの投資を求む!」
「異議あり!プルートさん!」
「…ソレント…何を言うの?帰ろう…。」
「お嬢様、少しだけお時間を失礼します。
プルートさん、ここは休館中のオーケストラです!
貴方の考えを弟子のレスラーに語るのは自由ですが、休館をいいことに寄付や投資を斡旋するのは如何なものか!
『名誉軍規律顧問』の我が義父の了承を得ての発言であろうか!」
**劇場近くの裏道**
「…ソレント格好良かった…。」
「講演を打ち切らせてしまいましたけどね。」
「坊や…。
このまま只では帰さないよ…。」
「確かディオンさんでしたか?
助けて頂いたお礼は言ったつもりですが?
家路を急ぎますので通して下さい。」
「坊や…。
プルート教官は以前から君を高く評価していた。
是非とも大学に入れたい人材だと。
でも君の先ほどの態度…。
プルート教官はさぞやがっかりされたでしょう。貴方が教官に賛同するしないは勝手ですが、僕達の活動を一切邪魔しないと宣言してくれませんか?」
「子供の私相手に脅迫ですか?
それはプルートさんの意志ですか?」
「いえ、僕の意志です。
教官に気に入られるのは僕だけでいい!」
「…ソレント…この人怖い…。」
「大丈夫です、お嬢様。私は命に代えてもアルラウネお嬢様だけはお守り致します。」
「僕に…腰の剣まで抜かせないでくれ…。
君はただ約束するだけでいい。」
(…ウル、前みたいに幻術を使える?)
(了解、やるしかないわね。)
「おやおや、やはり教皇様と教会の教えが浸透してないこの国では、歪んだ愛に身を堕とす輩が後を絶ちませんねぇ。
やはり我がジーザス教の戒律だけではなく、国の法律でソドミィは火炙りにすべきなのでしょうか…?」
「オーガスタスさん!」
「ちぃ、俗人神父が何の用だ!」
「俗人?確かに。
でも、わたしは歴戦の傭兵でもあります。
わたしと一戦を交えますか?」
「くっ、異国の邪教に留学生!
だからこの国は変わらないといけない!今に見てろ。」
「ソレントくん、アルラウネちゃん。
お久しぶりです。
無事で何よりでした。
よろしければ君たちのお義父様の屋敷まで同行しても構わないかな?」
「勿論です、ありがとうございます、オーガスタスさん。」
**彼の屋敷にて**
「我が従者オーガスタスよ、何と礼を言ってよいのやら…。ありがとう。」
「礼には及びません、我が主よ。
しかし、同志プルートの気持ちもわからないでもありません。
わたしの目から見ても改善の余地はたくさんあります。」
「従者オーガスタスよ、わかっている。だが力ではなく、話し合いで改善すべきを決めることが重要だ。」
「政治は門外漢ですが…。こと信仰に関しては、デルフォイの神殿こそ諸悪の根源と申し上げておきましょう。巫女の堕落は酷い。いえ、決して異教徒批判ではなく…。」
「従者オーガスタスよ、巫女長さまは人格者だ。言葉を慎め!」
「その巫女長はご高齢です。
先の戦争もそのことが関係しているかもしれません。
我が主よ、この世には男と女しかいませんから。ご自分の目で真実を確かめられた方が賢明かと存じます。」
**翌朝 彼の屋敷にて**
「私は今日はデルフォイの神殿に行く。
事の真相も大事だが、ご高齢の巫女長様に会いに行くことにする。」
「お義父様、ソレントもお供致します。」
「いや、ソレントよ。お前はアルラウネと闘技場に行くがよい。プルートの試合を観て見聞を広めるのも勉強だ。」
「…闘技場は有料…。」
**デルフォイの神殿 巫女長の部屋**
「お久しぶりです。軍規律官さま、いえ『名誉』軍規律顧問さまだったかしらねぇ?」
「お久しぶりです、巫女長様。その通りです。私は宮勤めをする意志はありません。」
「相変わらずでございますね。今日はどうなさいました?
まさか、このババの見舞いだけではありましょうに?」
「勿論です。お伺いしたいことがあり、参りました。
先の大戦に関する神託です。」
「いつか来られると思ってました。
しかし、お恥ずかしながら、老いと病から私は大戦の予言=神託をしておりません。
貴方の友人、カイレフォンに頼まれ、『世界一の賢者は誰か?』の質問に対する神の御言葉を告げたのが最後の神託です。」
「巫女長よ、では大戦の神託を出したのは?」
「次期巫女長のロディテです。」
「我々は大勝利を治めた。
そのロディテ様も、何とも素晴らしき能力をお持ちであられますな。」
「空世辞はお止めなさい、大戦の英雄さま。
貴方は気付いているのでしょう?
この国の政治とは、元老院が我ら巫女のお告げに依存していると言うことを。」
「どうとでも解釈できる、曖昧で抽象的な言葉を『神の御言葉』とおっしゃることでしょうか?」
「そのような巫女もおりますし、真の力を持った巫女もおります。ロディテは前者で私は後者だったと思いたいです。」
「元老院とデルフォイの巫女様達は、市民を欺き続けたという疑惑を認めるということか!
その為にどれだけの兵が犠牲になった!
元老院が戦争をしたがり、市民を納得させるという、ただその『お墨付き』の為にだけ神の名を語り、予言をしたつもりになっていたと言うのか!」
「そう興奮なさらないで、市民一の英雄さまよ。
真の力を持った巫女など三代に一人誕生するかどうかです。
しかし、人間には『畏れを知る』という気持ちを忘れない為にも、巫女の予言を信じる気持ち、その生活そのものが大切なんです。
どうかロディテを許して下さい。
あの子もただの人間の女なのですから。」
「そのロディテ様は今?」「深い傷を負い、ここに居ないとだけ申し上げます。
しかし、私はロディテに巫女長を継がす意思はありません。
デルフォイの巫女は終わりの時を告げるのです。」
「何故?」
「『責任』とだけ申し上げておきます。」




