20, レイトの記憶【残酷な真実】
ガタンッ!
「おや? どうされました、殿下」
突然立ち上がった僕に口髭が驚いて声を掛けてきたが、そんなのどうでもいい。それよりも聞かなきゃ。母上に父様のことを聞かなきゃ。
僕は思わず走り出した。僕の後ろで口髭が僕を呼び止める声が聞こえるけどそんなの構っていられない。
『レイト、レイト待つのじゃ。どこへ行くつもりじゃ』
シルマが僕を追いかけながら僕を止めようとしているけど、どうしても抑えられなかった。母上に会って真実を突き止めなくちゃいけないと思ったんだ。
全速で廊下を走る僕の姿に侍女も城の兵士も誰も僕を止めることはできなかった。それ程僕は鬼気迫った顔だったのかも知れない。
「殿下? どうなさったのです? 今日はお約束はなかったのではないですか?」
母上の部屋の前に着くと侍女に止められた。
「どけ!」
僕は両手を侍女に向けて思いっきりマナエネルギーを放出した。初めて人に向けて放ったマナエネルギーの圧力に侍女は数メートル飛ばされ尻餅をつきながら僕に恐怖の目を向けていた。
それでも僕は止まらない。母上の部屋の扉を思いっきり開いた。
「何事です! 今日は会う予定ではありませんよ。きちんとマナーを守りなさい!」
母上の叱責が飛ぶ。でも僕はそんなことどうでもいい。僕には聞かなければならないことがあるのだから……
「母上、父様は殺されたのですか?」
僕の言葉に母上は目を見開き驚きの表情を浮かべた。
「だっ、誰がそんなことを言ったのです?」
「正直に答えて下さい。父様は殺されたのですか?」
僕は母上の言葉に構わずもう一度同じ質問を飛ばした。
『なぜ、レイトはタクトが殺されたことを知っているの? まさか城の誰かの噂話を聞いたの? 忌々しい。レイトの耳に入れるなんて……この怒りよう。これはまずいわ。レーナ一族には特殊能力が備わっている。レイトの特殊能力はまだ発現していないけど、どんな特殊能力か分からない内は油断できないわ。何とか宥めてこれまで通り霊元石からマナエネルギーを取り出させなくては。この分だとタクトを殺したのが私だと知ったらどんな行動にでるかわからないわね』
タクトを殺したのが私だと知ったら…………
母上の心の中から流れてきた言葉は僕が予想だにしないことだった。
「母上が父様を殺したの?」
怒りが心の奥から湧き上がってくる。例え父様を殺したのが母上だったとしても到底許せる事ではない。
僕が母上を睨みつけると、母上は怯んだ様に一歩後ずさった。
「なぜ……そのことを……その目の金環……はっ、まっまさか……」
「そうだよ、僕ね、特殊能力が発現したんだ。僕ね、どうやら人の心の考えが聞こえるみたいなんだ。母上、今父様を殺したって言ったよね、心の中で」
僕は母上を問い詰めた。驚愕の表情で僕を凝視する母上。
『どうする? この子は今後素直に私の言うことに従わなくなるかも知れない。いや、それよりも今はともかく、成長したら復讐に走るかも知れない。あんなにもタクトを慕っていたのだから……どうするか……捉えて強制的に言うことを聞かせるか』
母上の心の葛藤が僕の頭の中に届くと母上は扉の外にいた兵士を呼び命を下す。
「この者を捉えなさい。この国に牙を向こうとしています」
僕が逃げようとすると、侍女が僕の前に立ちふさがった。
「僕を捉えて言うことを聞かせようとしても無駄だよ。僕はもう母上の言うことは聞かない」
「それはどうかしら? あなたが言うことを聞かなければあなたのお世話をしていた侍女や教育係があなたの代わりに罰を受けます」
母上の方を振り返りきっぱりと放った僕の言葉に母上は脅すように言った。
「勝手にすればいいよ。侍女も教育係もここには誰も僕の味方はいないんだ。みんな罰を受ければいいんだ」
僕はそう言うと母上の部屋から飛び出した。
二人の兵士が駆けつけ、僕を捉えようとするのを素早く避けながら廊下を駆ける。
「捉えろ! 殿下を捉えるのだ! セアラ皇女の命だ!」
近くにいた兵達も僕の捕獲に参戦し、次第に僕を追って来る者が増えていった。
「そこまでだ。レイト」
僕の目の前に立ちふさがったのは皇太子と呼ばれていた人だ。この国の皇太子……確か母上の兄上で次の皇帝となる人だ。名前は……忘れた……同じ城内にいるというのに城内は広すぎて会うことはあまりないからね。煌びやかな衣装を纏い、三人の従者を引き連れて僕を凝視している。
『セアラが産んだ下賤な男の子供が。何やらセアラと一悶着あったようだな。いくら下賤な血を引く者とは言え、クラメイル王族の血を引く者。我が息子と同じ年であり、不本意ながらも皇位継承権もある。私には子供が息子一人。万が一息子に何か有ればこやつが息子に取って代わられるかも知れぬ。不安な芽は摘んでおくか……』
皇太子の言葉が僕の心の中に届き、殺気を含めた表情で僕に近づいてきた。
僕を殺そうとしている……。
皇太子は僕に聞こえない程小さな声で従者に囁いている。心の中の考えを読むことができる僕にはどんなに小さな声で言っても頭にその言葉は直接飛び込んでくる。
『殺せ。いかにも誤って殺してしまった様に見せかけるんだ。まあ、こんな子供だ。お前が思いっきり殴っただけで動かなくなるだろう』
僕は足が震えて動くことができなくなった。
大柄な従者が僕に近づき、右腕を大きく振り上げた。
殺される!
僕がそう思った瞬間、僕の周りにキラキラとした光が現れた。光は次第に僕を柔らかく包んでいく。
何だろう……とても綺麗……そう思いながら僕の意識は徐々に薄れていったのだった。
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