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14, クレハの力

『このままあの山に向かって真っ直ぐ行くのじゃ』

 シルマが遙か彼方に見える黒山を指して言った。レイトが眠る洞窟はあの黒山にあるらしい。元々私とベガもあの山を目指していたのでさっきと目的地は変わらない。


「それにしても、あの黒山って不気味だわ」

『あの山は火山岩や暗色の鉱物に覆われているため、遠くから見ると黒く見えるのじゃ。そのおかげで誰も近づくものはおらん。恰好の隠れ場所だと思わぬか?』


 シルマの言うことは尤もだと思うけれど、結界の中で眠っているとはいえ、幼い子があの山の洞窟にいるなんて可哀想な気がする。


 どうせならお花畑の中とか……そうなるとまるで死んでしまった人を供らうみたいだわ……ならせめて綺麗な景色が見える丘とか……それじゃあ墓地みたいかぁ……だったら……


『アマネ、お主の言いたいことは大体わかる。じゃが、今レイトは結界の中で意識があるわけではないから周りの風景は見えぬ。レイトを不憫に思うなら出来るだけ早く守りの結界を解除してあの山の洞窟から連れ出せばいいだけの話じゃ』


 そうね、シルマの言う通りだわ。この世界の私の唯一の親戚かも知れない幼い従兄を早く助けなくちゃね。


「ねえ、シルマ、それでその場所に着くまで後どれくらいかかるの?」

『妾が飛んでいけば半日程じゃが、この乗物じゃとここから一日はかかるかのう』


 シルマの言葉を受けうんざりするものの、車を走らせていれば着実にあの山に近づくはずと自分自身に言い聞かせた。


『それにしてもこの車はゆったりして乗り心地がよいのう。アマネの世界の乗物はみんなこうなっておるのか?』

「みんなじゃないわ。この車は特別仕様なの。地球の自動車は殆どが移動することが目的だから座席があるくらいで大きさももっと小さいのよ」

『これはキャンピングカーと呼ばれる旅行するのを目的とした車だ』


 私の説明にベガがドヤ顔で付け足した。


『ほう、そうか。どうやらこの車には様々な機能があるようじゃな。クレハが作ったのか? レーナの郷にあった設備と似たようなものがある。そういやあやつの特殊能力(ギフト)は創造で、いつも突拍子もないものをこさえておったな』


「創造? え? 創造ってどういう事?」

『なんじゃ? ベガから聞いておらぬのか?』

「ぜんぜん。ベガからはお母さんが地球に来たいきさつしか聞いてないわ」

『まあ、ベガは以前から肝心な事を省く癖があったからのう』


『いや、吾輩はおいおい詳しく話すつもりであった。一気に話してはアマネが混乱すると思ってだな‥‥‥』


 ベガは言い訳がましく言い募る。


 確かに私が混乱していたのは本当だから何も言えないけど、ベガがおいおい話してくれるつもりだったのかは怪しい気がする。言い忘れていたのではないかと思ってしまうのは気のせいだろうか?


『まあ良い、ならば妾が教えてしんぜよう。レーナの民は一人一人特殊な能力を持って生まれてくるのじゃ』

「あっ、そこまではベガに聞いたわ」

『ほう、そうか。だが、その能力がどんなものであったのかは聞いておらぬのじゃろう?』


 私が頷くとシルマは更に続ける。


『クレハの特殊能力(ギフト)は創造じゃ』

「創造?」

『そうじゃ。頭に浮かんだ物を作る能力じゃ』


 え? 何そのチート能力……だって何でも作れるって事でしょ? 


「それにしてもどうやって? お母さんが何かを作る所なんて料理くらいしか見たことなかったけど……」


『錬金術だ。クレハは地球ではマナが少なくて錬金術を施したのはこのキャンピングカーだけだったが、レーナの郷ではさまざまな物を作っていたな』

「錬金術……?」

『ベガ、妾が話しているのじゃぞ。横から口を挟むな……まあ良い。そうじゃ、ベガが言ったとおり錬金術によって様々な物を創造する力じゃ』


 錬金術……ファンタジー要素来たー! しかもお母さんが錬金術師? なにそれ! 超格好いい!


 私の中でテンションが上がった……こんな状況なのに……


 私が脳内で興奮しているのも構わずシルマが話を続ける。


『レーナの郷の建物や設備もクレハの錬金術によって創造された物も多い。まあ、他の錬金術師によって創造された物も多いがな。じゃが、クレハの発想力は抜群じゃった。どこからその発想が来るのか不思議なほどにな』


『…………ああ、それなんだがな……どうやらクレハの前世は地球でしかも日本だったらしいぞ。とは言え、それを思い出したのは異界越えした後らしいが。もしかしたら、知らず知らずのうちに前世の知識を呼び起こしていたのかも知れないな。日本にはレーナの郷でクレハが創造したものと似たような物が多かったからな』


 ……ベガがまた新たな情報をぶっ放した。


「ベガ……初めて聞いたわ。お母さんの前世が日本人だったなんて」

『ふむ、今話したから問題なかろう』


 いやいやいや、そう言う問題ではないでしょ? この分だとまだベガが私に話していないことがあるかも知れない。


 私は溜息を吐いて、シルマに続きを促した。


「それでシルマ、お母さんはどんな物を作ったの?」


『そうじゃな、クレハは幼い頃から色んな物をこさえておったよ。そうそう、初めて作った物はキックボードという一人用の乗物じゃったな。あれは大人も子供も夢中になったもんじゃった』


 キックボード……私が今頭に浮かんだキックボードで合っているかしら? 異世界でキックボード? 今一つイメージが沸かないわね……。

 

『そうであったな。あの乗物は場所を指定すると障害物を避けながら自動で目的の場所へつれて行ってくれる機能もあったな。まあ、目に見える場所かレーナの郷内に限られたがな。このキャンピングカーにもその機能が付いていると思うぞ』

「え? そうなの、ベガ。早く言ってよ」


 私はますますベガが私に話してないことがあると確信して、早速目の前に見える黒山を目的地に定めることにした。


「さて、どうやって設定するのかしら?」

『その画面を操作するようだぞ。以前クレハが何やら施していたからな』


 最初にこのキャンピングカーを発車させる時に見たナビは茶色一面で使えないと思っていた。でも、ベガの話からするとちゃんと使えるのかも知れない。異世界だけど地図なんて表示されるの? と思ったけど、とりあえず先ずは試してみるしかない。


 そう思ってナビの画面を見ると最初に見た時と僅かに違っていることに気づいた。


 さっきまで一面茶色だった画面にはいつの間にかぽつんと小さな黒山のマークが現れていたのだ。そうか、きっとこれが遠くに見えるあの山なのだろう。


 画面を指でタッチしたらカーソルが現れた。そのまま指を動かし、その山に持っていき、その場所を指で触れたままにすると目的地と表示された。


 その文字をタッチすると、


 「自動運転に切り替えますか? ——はい——いいえ」と文字が出てきたので「はい」の方をタッチした。


 最後に「エンジンスタートボタンを押して下さい」と言う文字が現れた。


 意外と簡単に操作できることに安堵する。


 表示に従いスタートボタンを押すと、キャンピングカーは遠くにそびえる黒山を目指して始動した。


 でも、ふと思った。


 今回は目的地を目視できたし、ナビに移っていたのが黒山のマークだったからわかりやすかったけど、目的地の名称も住所も分からなかったら、ナビがあっても使えないんじゃ……と今さらながらに気づいた私だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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