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人生最後で、一番濃い一月  作者: 津川サブロー
3/8

第2話

 次の日。学校行くのさえだるさを感じたが、どうせあと一月(ひとつき)しかない人生。二月(ふたつき)で遊びつくしたから、学生に戻るのも悪くないなと思ったので、向かうことにした。


 そして、昼休み。僕は昨日彼女が言っていた言葉を思い出して、何となく屋上に向かった。別に昨日彼女が言っていたことを守らなくてもよかったと思う。けれど、どうせ暇だし「まぁ、いっか」と思う気持ちが僕のどこかにあった。


 今日も、彼女は室外機の陰に隠れるようにして座っていた。

「あ、ホントに来たんだ」

「来いと言ったのはどこのどいつだよ」

「まさか、ホントに来るなんて思ってなかったから」

 自分で言っといてずいぶんと無責任な女だ。僕は、深いため息をついて言った。

「で、呼び出しておいて何の用だ」

「うん。ただそこにいるだけでいい」

「は?」

 何を言ってるんだこの女は。と思ってしまった。呼び出しておいてなんだ?


「いいから」と彼女は言った後、黙ってしまった。

 このまま何も言わず帰ってもいいかなと思ったが、あと少ししかない命。騙された気持ちで過ごしてみるのもいいのかもしれない。そう思ったから彼女の言いなりになることにした。

 一度黙ってしまってからはお互い喋ることなかった。予鈴が鳴り、彼女が教室へと消えるまでその静寂は続いた。帰り際、彼女はこう言った。

「明日も、よろしくね」

 よろしくね。じゃねーよと内心思いながら、こう言った。

「ああ、わかったよ」



 ――――――――――――――――――――



 それから3日が経った。あれから、昼休みになると僕は彼女と屋上で黙って過ごすようになった。さすがに、こうも続くと好奇心というものが人は湧くものだ。その日も、彼女は屋上にいた。室外機の陰に隠れるように、ひっそりと座っていた。

「やぁ、今日()だね」

 と、彼女は言う。

「そうだね。平井楓さん」

 彼女の名前を呼ぶと、彼女は少し驚いた顔をした。僕は、話を続ける。

「平井楓。2年5組。クラスのいや、学年の“マドンナ”と言われる存在。男女双方から憧れられる存在で、誰からも好かれるような性格の人間。こんなとこで何してるんだ?友達の下に行かなくていいんか」

 僕が喋り終えると、彼女は少しため息をついてこう言った。

「知ってるんだね、私のこと。阪上優馬くん。どうやって調べたの?」

「なんだ、俺の名前知ってるんかよ。どうして…」

「質問に答えて」

 話を遮られたことに、内心舌打ちをしながら返した。

「そりゃ、有名な人間なんだから、少し興味を持ってみればすぐに調べもつくさ。それより、僕の質問にも答えてほしいな」

 そう言うと、彼女はすっと立ち上がり、僕をじっと見つめながらこう言った。

「そうね、私は『私が私らしく生きる』ためのお手伝いを人にお願いするためにここにいるの」

「へぇ、面白そうだね。誰がその手伝いやるの?」

 と興味なさそうに聞くと彼女ははっきりとこう返した。

「それをあなたにやってほしいの」



 そう、これが僕の人生最後で、一番濃かった一月(ひとつき)の始まりであった。


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