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そうしてなんの参考にもならない無駄な時間を過ごした俺は、ドレス専門のデザイナーに色と贈る相手の印象を伝えてドレスを注文した。
桃色のスカートがふわりと揺れるデザインだ。赤い大振りの造花がいくつも縫い付けられていて可愛らしい。きっと似合うだろうと思ったが、残念なことに受取拒否されていたらしい。
やはりドレスのプレゼントは性急すぎたのだろう。
もう少し親しくなってからにするべきだった。
全幅の信頼を寄せる親友の案であっても、恋愛に関してだけは信用してはならないのだと。怒った恋人に必死に謝罪する後ろ姿を見たときに気付くべきだった。
「わかった。ダンスは諦める。けど、一人でいるなよ。妙なこと考える奴がいないとも限らんからな」
「わかってます。エルザさんを探してきます」
「そうしろ。合流するまでは俺も付き添うからな」
返事はなかったが、これに関して譲るつもりはなかった。
エルザですら酔っ払いに絡まれることがあるからな。
「とは言っても会場にはいないな」
先ほどまで中央で踊っていた二人は、今はどこにも姿が見えない。
会場から抜け出したのなら、あまり探さない方がいい気もするが……膨れっ面のララを見れば、探さないわけにはいかないなと悟った。
招待客に開放されている中庭を歩く。時々振り返って、きちんとついて来ているかの確認をしながら。
そうして歩いているうちにようやく水色の姿が見えて、内心ほっとした。
淡い金のドレスが月の光を浴びて水面のようにキラキラと輝いている。かなり派手に思うがエルザが着れば月の女神かというくらいに似合っている。
そのドレスを着たエルザの腰に手が添えられていて、恋人同士、顔を寄せ合って話を楽しんでいるようだった。
このまま盗み聞きしては先日の二の舞だが、どうするかな。
「……ゼンかノエルにしとくか?」
尋ねると同時に、風が声を運んできてしまった。
「今日のあなたは、この会場で一番綺麗だ」
喉から悲鳴が漏れるかと思った。
聞いてるこっちがむず痒くなる。
思わずララと顔を見合わせてしまった。
気まずげな表情の金の瞳には同じく苦い顔をした俺が写っている。
「誰だって自分のパートナーが一番綺麗だと思ってるわ。私はあなた限定よ」
照れ隠しの声も運ばれて来て、いよいよ居た堪れなくなってきた。
「行くぞ。聞いてられ」
「そんなことない。誰がなんと言おうが、エルザが世界で一番綺麗だ」
るか。と言う前に、ララの手を取り逃げ出す羽目になった。
うるさく騒ぐ心臓を抑えて喘ぐ。
「あ、あいつ、ふっつうに口説いてんのな……」
「そ、そうですね……」
まさかエルザはあれも参考にしろって言いたかったのか? あんなのは恋人だから許されるやつだ。
エルザにララを預けるのは断念して、ゼンかノエルを探そうと会場へと足を向けた。
「……エルザさんが他の男性といても気にならないんですね」
しかし背中から声がかかる。
振り返れば表情を消したララと正面から向き合うことになった。
「何度も言ってるが、俺はエルザと恋人になりたいなんて思ったことは一度もないぞ」
まさか本当にヤキモチか、と思ったが、瞬時に認識の誤りを悟った。
月明かりに照らされた庭園を背に、ララの丸い金の瞳が浮かべるのは明らかな嘲笑。
「どうしてあなたがエルザさんを好きにならないか、教えてあげましょうか」
このような嘲りを向けられて黙っていることしか出来ないなど、生まれてからこれまで初めてかもしれない。
「あなたは、ララを好きになるんです。そう決まってるんです」
続く言葉には拍子抜けした。しかし体は強張ったままだ。
「そう……伝えて来た、つもりだけどな」
「違う!!」
大声で怒鳴られ、こちらを睨む目が光るのを見て狼狽する。
俺が何か気に触ることを言ったのか?
「ルーファスが好きなのはララです! エルザさんでも……私でもない!!」
一筋の涙がこぼれ落ち、俺の唇は固められたように動かないまま。
ララは逃げるように俺の前から走り去っていった。
「俺が好きなのはララであって、“私”じゃない……?」
やっとのことで口が動いたものの、言われたことの意味は到底理解できなかった。
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