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よろしくお願いします。

 翌朝、約束通りに迎えに行くと、ララはきちんと準備して待っていてくれた。

 よく眠れたらしく、幾分か表情が和らいでいる。


「おはよう」

「おはようございます」


 二人並んで食堂に着くと、すでにゼンが座って待っていた。

 朝食は毎朝四人で取っているが、いつも来る順番はゼン、私、ノエル、ルーファスの順だ。


「おはようございます。昨夜はよく眠れたようですね」


 ララの様子を見たゼンが、安心したように言う。


「プリムラが綺麗に咲いて良かったわね」


 からかう調子で言ってみれば無言を返された。一瞥もない。

 しかし私には、ゲームプレイ時から聞いてみたいことがあるのだ。


「ねぇ、もし私がお客様だったら、どの部屋に通してくれるの?」

「は?」

「私ならどの部屋に通してくれるのかなーって」


 可憐とは程遠いから、私なら違う部屋になるだろうなと思っていたのだ。


「あなたには自室があるでしょう」

「だから、私がお客様だったらの、たとえ話だってば」


 ねぇねぇと言い募れば、特大のため息が返ってくる。


「雪割草ですよ、あなたは」

「えー、ちょっと可愛すぎない? しかもそんな部屋ないし」

「……たくましい花ですから」

「ふぅん」


 もっと大輪の迫力ある花でも言ってくるかと思ったが、想像していたよりも可愛らしい花を言われて少し照れる。

 雪割草の花言葉ってなんだったかしら。


「おはよー!」

「はよぅ」


 いつも通りの順番で、残る二人が食堂に集まった。欠伸をしているルーファスに対して、ノエルは朝から元気だ。


 給仕が朝食を並べて去っていく。

 香りのいい焼き立てパンを手に取り、ルーファスが口を開いた。


「白の国への書状はもう出してある。返事は遅くても夕方になるだろうな」

「それなら出かけてくればいいんじゃない? せっかく来たんだから、観光してかなきゃ!」

「丸一日を無駄にすることはありませんからね」

「いいんですか? 昨日はあまりよく見られなかったので、ご迷惑でなければ出かけてみたいです」


 いい感じにストーリーが進んでいく。

 ララも一晩寝て元気を取り戻したのか乗り気だ。


「僕達で良ければ案内するよ! 全員は無理だけど、一人くらいなら抜け出せるから」


 そうそう、ここで選んだキャラの好感度が上がって、観光がちょっとしたデートになるのよねぇ。


「では……」


 うんうん、誰を選んでもお買い得よ。


「エルザさん、お願いしてもいいですか?」

「えっ、私?」


 おずおずと私を見つめているララと視線がぶつかる。断られたらどうしようという不安げな瞳だ。


 どうして選択肢にない私をと思ったけど、よく考えてみたら男性三人と女性一人の中から一人選べと言われたら、女の子なら女性を選ぶかな……?

 でも乙女ゲームプレイヤーとしては、好感度の上がらない選択肢を選ぶのはかなりもったいない気がする。


「構わないけど……補佐官に怒られてしまうわ。仕事を残しているから」

「私から伝えておきますから、気にせず出かけてきなさい。あなたはいつも男性相手に訓練してばかりなのですから、たまには女性と出かけて羽を伸ばしてくればいい」


 お母さん……。

 抵抗も虚しくゼンの援護射撃にあい、私が付き合うことになってしまった。



 ララを連れて向かったのは白の国だ。


 白の国では三か月に一度のお茶会に合わせて街でもお祭りが催される。

 お茶会は昨日だったから地元の住民は普段通りの生活に戻っている人が多いものの、遠方から来た商人が売れ残った商品をなんとかお金に変えようと奮起していた。

 お祭りの装飾もまだ飾られたままになっていて色とりどりのガーランドが鮮やかにはためいている。

 ララはあちらこちらに顔を向けていて忙しない。


 さっきは好感度の心配をしたけど、私はすぐに思い出した。

 攻略対象はあの三人以外にもいることを。


 それぞれの国のキング達の他に、一般市民として四人の攻略対象がいる。

 その攻略対象達との出会いイベントが、この初日の観光中に発生するのだが、先に観光の相手に選んだキャラによって出会う人物が変わるのだ。


 視界の端に白い毛玉が見えた。

 ララが観光の相手に私を選んだことで、イベントが起きるかどうかわからない今、私が強引にでもイベントを発生させるしかない!


「白ウサギ殿!」

「やや? エルザ殿ではございませんか! 御機嫌よう。昨日ぶりですなぁ」


 中型犬ほどの大きさの、白地に金色のラインが入ったベストを着た真っ白なウサギが耳をピンと立てて振り向く。

 何を隠そう、この白ウサギがララをこちらの世界に引き込んだ張本人だ。


 ひょこひょこぴょんぴょんと四つの足で近付いてくる姿だけは非常に愛らしい。

 しかし、白ウサギはこちらに近付くと、私の後ろを見てギョッとした表情を浮かべて急停止した。

 ヒゲがピクピクと忙しなく動いている。


「お、おやおや、今日はまた随分と可愛らしいお嬢さんを連れていなさる。はじめまして、お嬢さん。白の国の白ウサギです。どうぞよしなに」

「こんにちは、白ウサギさん。ララと申します。あの、これ……」


 ララは喋る大きなウサギにも動じずきちんと挨拶をし、手提げかばんから懐中時計を取り出した。


「昨日、目の前で落とされて……大切なものだと伺いました。壊れていないと良いのですが」

「これはこれはご丁寧に! 失くして困っておったところです。これは白の女王陛下から賜ったものでしたな。失くしたことが知れては一大事と今朝は女王陛下の御前から逃げ回っておった次第で」


 白ウサギは両手で恭しく時計を受け取ると、すぐに紐を首にかけた。いつもの白ウサギのスタイルだ。


「うむ。やはりしっくりきますなぁ。どうも昨日から首が軽くて軽くて」


 白ウサギが耳を前足で毛繕いするように掻くと、その仕草が可笑しかったのか、ララがくすりと笑い声を漏らした。


「喜んでいただけて良かったです。もう落とさないでくださいね」

「ええ、もちろんですとも。しかしなんとまぁ優しいお嬢さんですなぁ。どうです、私の妻になっていただけませんか?」

「えっ、つ、妻ですか……?」

「ええ、私にはすでに十五匹の妻がおりますが、皆気立ての良いウサギですよ。ささ、我が家へ案内させていただきましょう。私達の仔はさぞや可愛らしい薄桃色の仔ウサギが産まれましょ……みぎゃっ!」

「待ちなさい、この万年発情期」


 ララの手を取り揚々と歩きだそうとする白ウサギの、ピンと張った耳を鷲づかみにする。

 一言一句漏らさずゲームの台詞通りに口説いたな、こいつ。


「なんですかな、エルザ殿。ヤキモチとはあなたも可愛らしいところがある」

「違う! って言っても聞きやしないのよね……とにかくララは、あなたの妻にはなりません」

「おやおや、それは残念……気が変わったらいつでもお声がけくだされ。私はもう、あなたの愛らしい真っ白ウサギですからな」


 尻尾をふりふりララにアピールする白ウサギは放置して話を進めよう。


「白の女王陛下から逃げてるって言ったわね? それならスペードの国からの書簡は見ていないの?」

「書簡? 何かトラブルでもありましたかな?」

「何かってね……」


 ぎゅううと耳をつかむ手に力を込めると、白ウサギはわたわたと慌てだす。


「痛い痛い! まったく、あなたの愛は激しくていけない!」

「うるっさい! あなたのせいでララが帰れなくなってるんでしょうが!」

「あわわわ、これには深ぁい深ぁいわけが!」


 ぎゃあぎゃあと一人と一匹で喚いていると、楽しげな笑い声とともに一人の紳士が声をかけてきた。

ありがとうございました。

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