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 ララちゃんの部屋に着いてノックをしたが、返事がなかった。警戒しているのかもしれない。


「ララちゃん、スペードの9のレグサスだ。キングからあんたの護衛を頼まれたから、開けてくれねーかな」と、声をかけてから気がついた。


 あの子、俺のこと覚えてんのかね、と。


 せめてルーファスにでも着いてきてもらうべきだったかと考えて、それにしては物音一つしないことが不審に思えた。


 今日は部屋にいるよう伝えたとルーファスは言っていたが……敵地に一人で部屋に篭るのは、自衛の手段のない女の子からすれば心細く思ったかもしれない。となると、この部屋はもしかして空か?


「おいおい……トラウマの再来だな」


 ララちゃんが行きそうなところといえば、ルーファス達の部屋だけだろう。

 踵を返して駆け出した。




 予想一発目の部屋でララちゃんを確認できたのは良かった。だが、その表情がまずい。大きな丸い金色の目にじわりと涙が浮かんでいる。

 耳をそばだてれば、どうやらルーファスの予想は正しく、ダイヤの女が乗り込んできているようだった。

 死んだ目で対応するルーファスは哀れだが、それよりもこっちだ。


 ドアノブに伸ばされた手に焦りつつ、口元を覆う。暴れたララちゃんの耳元で「しーっ、静かに」と囁いた。

 ここで修羅場になったら、あの女がララちゃんを邪魔者とみなすかもしれない。


 間一髪で修羅場を回避し、ララちゃんの部屋に取って返した。




「と、いうわけで、ルーファスはあの女から今回の騒動の目的を聞き出すために、話を合わせてただけなんだよ」


 淹れてくれたお茶をいただきつつ説明する。ほっとしたのを誤魔化すためか、ララちゃんは「そうですか」と素っ気なく言って、お茶を啜った。

 あの涙は誤魔化しが効かねーと思うが……まぁ、これは俺には関係ない。


「『君』とか言ってたのは笑えるよなー」

「そうですね」


「顔も引きつってたしなー」

「そうですね」


「……頑張ってたなー」

「そうですね…………っじろじろ見ないでください!」


 とうとうララちゃんは真っ赤な顔で抗議してきた。からかったわけではなく、これ以外に話題がなかっただけなんだが。


「別に、私はエルザさんを助けられたらそれでいいんですから! あんな人が言いなりになったって、私には関係ありません!」

「はいはい、わかってるよー」


 エルザとは違ったタイプの拗ね方だな。


「でも、安心しただろ? あんな女の口車に騙されるほど、あいつは馬鹿じゃねーよ」

「…………そうですか?」


 疑いの眼差しを向けられて首を傾げる。昔からなんでもこなす万能男だったが、ララちゃんの前では違うのかもしれない。


「今だって、あの女がララちゃんに危害を加えないように言葉を合わせてたんだからな。あいつも、よっぽどあんたが大事らしいとみえる」

「エルザさんの友達だからでは? だって私……言われて、ないし…………」

「言われてって、なにが?」


 ララちゃんはぶすっと不貞腐れたまま、お茶を飲み干した。


「本当に寝るのはソファでいいんですか?」


 あからさまに話題が逸らされたが、これには乗っておこう。


「いいよ。慣れてるし、護衛対象とあんまり離れたくないんでな。ララちゃんが嫌なら近くの部屋でも借りるよ」

「私はいいですけど……あの人が、レグサスさんと私が同じ部屋で寝てもいいって、言ったんですか」


 思わずララちゃんの顔を見つめれば、どう誤魔化そうが拗ねたとしか言えない表情をしていて、笑いを堪えるのはひどく難しかった。


「どうして笑うんですか」


 激しく睨まれるがどうにも、猫の子の威嚇みたいで迫力に欠ける。エルザに睨まれたら、ぞくりと来るものがあるが。


「……ルーファスは、昔っから俺らがエルザに近付くのを嫌がってなー。いっつもベッタリくっついてたもんだったが……」


 目で続きを促される。


「それが、このエルザの災難にララちゃんの安全を考えたのかと思ってな」


「…………今日はもう、休みます」


 些か緩んだ膨れっ面でララちゃんは立ち上がった。機嫌は治ったかね。


「はいよ。寝室の確認だけさせてなー」

「確認、ですか?」

「ああ。前に、護衛対象が目を離したすきに部屋からいなくなっちまったことがあってな。それから確認は欠かさないことにしてんの」

「……その人は大丈夫だったんですか?」

「大丈夫大丈夫。……恋人が颯爽と助けてたからなー。俺の出番なし」


 これを聞いたララちゃんは頬を先ほどとは違う赤に染め、金色の目を輝かせた。


「恋人が助けてくれたなんて、素敵ですね!」

「だよなー。カッコいいよな」


 ララちゃんは「いいなぁいいなぁ。羨ましいなぁ!」と興奮した様子で捲し立てている。……このキラキラした顔は確かに可愛い。ルーファスのでなければなぁ。


 睡眠薬でも盛られてやしないか。他には何者かが潜んでいないかの確認を済ませる。大丈夫そうだな。


「はいよ。お待たせ。ゆっくり休んでな。俺は隣にいるから、何かあったら声かけてくれ」

「ありがとうございます。レグサスさんもちゃんと休んでくださいね」

「可愛いララちゃんと同じ部屋で寝るなんて、ドキドキして眠れないよ」

「……扉で分かれてるじゃないですか。ルーファスさんに言い付けますからね」

「勘弁してくださいほんと。冗談だから」


 両手を上げて降参すれば、クスクスと笑うララちゃんに安心して、寝室を出ようと扉へ向か──ったところで、身振りでララちゃんに部屋の端に下がるよう伝える。


 微かにだが、バルコニーに、何かが降りた音がした。




 顔を強張らせつつ下がるララちゃんに、口元に指を当てて笑いかける。気のせいかもしれないし、不安を煽るのは本意じゃない。


 剣を抜き、バルコニーへ向けて足を踏み出し──バルコニーへの扉が静かにノックされた。


「……ララ。まだ起きてるか?」


 聞き覚えのありすぎる声に、脱力のため息が漏れる。

 扉を開けて、抗議した。


「……どこから来てんだよ、大将」

「お前こそなんでこっちに……いやそれはいい。頼む。匿ってくれ」


 眉間にシワを寄せて部屋へと入り込んだルーファスは、頭痛がするとばかりに頭を押さえた。


 どうしたのかと聞く前に、侵入者の正体に気付いたララちゃんが「あ、お、お茶、淹れてきます! あ、でも、お酒の方がいいんでしたっけ……」と、あたふたしつつ居室に消えていった。……些か頬を赤くして。嬉しそうに。


「な? 可愛いだろ」


 どこか得意げなキングへの返答は避けた。肯定も否定もややこしいことになりそうだ。

ありがとうございました。

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