てへぺろ☆
ようやく説明が終わる。
「はぁ、もういいや、疲れた。で、二点目以降はー?」
耳の穴をかっぽじりながらやる気なくのたまう俺なう。
「ぐるう。なんかだんだん、なんでこの人が好きになったのかわからなくなりそう……」
勝手に一目惚れしておいて何たる言い分か!! って、これは流石に俺が悪いよな。
「あー……ちょっと変な期待をしすぎた俺が悪かったよ。本当にごめん……。謝るから、機嫌直してくれよ。それで俺にいろいろ教えてくれないか? な?」
素直に謝りながら、俺はトーカの頭を優しく撫でる。
「ぐるる」
眉をひそめて若干泣きそうなトーカだったが、ちゃんと謝って頭を撫でてやると、少しずつ機嫌が治ってくれたのか、笑みを浮かべながら続きを話してくれた。
「えっとね、契約による効果の二点目は、三点目とも関わってくるんだけど、お互いの状態や状況を、距離が離れていても常に感じ取ることができるの! 感じ取り方は簡単! 目を閉じて相手のことを思い浮かべるの!」
「ふむ」
言われた通りに俺は目を閉じてトーカのことを考えてみる。
するとどうだ、なんと、目の前にトーカのステータスウィンドウが!
「出ねぇし!」
「ぐる!?」
俺は目を開けてトーカに問い質す。
「おいトーカ。何も出ねえんだけどどうなってんだ?」
「出る? 違うよ、感覚でわかるんだよ」
「感覚?」
「うん。私がどんな状況なのかを感じ取ることができると思うよ?」
再び目を閉じて、今度は感覚とやらを研ぎ澄ましてみることにする。自分で言ってて感覚研ぎ澄ますとか超ムリゲーwww とか思ってたんだが……。
「……ん? これか?」
あ、なんか感じる。これは……トーカか? なんかエライ元気の塊を感じるぞ?
なるほど。ステータス的なものではなくて、気を感じる! 的なものなのか。
ドラゴンはドラゴンでもクエストではなくてボール的なシステムだな!
異世界モノのセオリーとは若干外れてる気もするが、気を感じているという事実に軽く感動を覚えている俺に、続けてトーカが説明を加えてきた。
「それでね、ある程度の状態共有とかできるの!」
「状態共有?」
「うん! 例えば、お兄ちゃんが瀕死の病気になったとするよね?」
いきなり嫌な例え話せんでください!
「そういった時に、苦痛をトーカと半分こにしたり、ほかにもトーカの元気を分けてあげることで病気を改善させたりすることができるの!」
「おお、それはつまり、状態異常や絶好調を互いに分け合うことができる、もしくは負担の軽減ができるってことか」
それは……なかなか使えるな!
ようやく異世界的なファンタジー要素が……ん? でもそれって……。
「私が、『病める時も健やかなる時も一緒』って言ったのはそう言う意味!」
「つまりそういうことですよねえ!」
ことあるごとに迫ってくるこの幼女なんなの!?
「でもこれには契約時にひとつの術式を必ず入れ込まないといけない決まりなの!」
若干興奮気味のせいなのか、それとも優越感に浸っているためなのか、座っている俺に対して腕をブンブンしながら続きを捲し立ててくるトーカ。
「これが三点目も関わってくるの! 契約時にお互いの真名を捧げることによって、互いが互いを隷属状態にするの! 私とお兄ちゃんは共に愛の奴隷なの!」
「なるほどねー。互いに奴隷状態……ってうおおおおおおおおい!!!???? それ、今までで一番の衝撃事項なんですけど!?」
俺が幼女ドラゴンの奴隷ですと!? なんでやあああ!!!
「ぐる♪ 恋の勝負はいつでも先手必勝なの! 例えばほら、【契約の真名を用いてトーカ。イスズがシーナ・イスズに命じる。我を抱きすくめ、愛の口づけを捧げよ!】ふふふ、これでお兄ちゃんと私は名実ともに夫婦に……あれ?」
なんとも物騒な発言をしてほくそ笑むトーカに愕然とする俺だったが、彼女は不意に表情を困惑に変えた。
「あれ? あれれ? おかしい。おかしいよ、契約の内容が、私が一方的にシーナお兄ちゃんの隷属になってる! なんで!?」
……。あ。さっき後回しにしたことのもう一つに、俺の呼び方とかがあったな。
「シーナお兄ちゃん」って、なんで名字で呼ぶのかなーとか、トーカの名前が何で「椎名透花」じゃなくて「トーカ・イスズ」なのかなーって思ってたんだよな。
「なんでぇ! なんでぇぇぇ!?」
本気で涙目になっているトーカがなんかものすごくかわいそうなのだが、若干の安堵を感じてしまっている俺の更なる安堵の為、俺は心を鬼にしてトーカに尋ねる。
「なあ、トーカたちの……ああ、こういったほうがいいか? この世界の名前の付け方って、もしかして、個人名が先に来て、その後に氏族名を名乗ったりしないか? でもって、契約の真名の重要な部分って、個人名なんじゃないのか?」
考えてみればとことん異世界モノのセオリーとも言える「姓名の順序」を追求してみた。
「そんなのあたりまえなの! どこの世界に氏族名を先に名乗る知的生命体がいるっていうのよ!! 契約の祝詞だって、個人名が先に来ることを前提に式を組んでるんだから!」
……あー……そうかー……。
なおもアタフタしながら涙目で返答してくるトーカに、俺は残酷な質問を更にしなければならない。
「あのさ、ちなみに片方の名前が偽名だった場合ってどうなるわけ?」
「それは契約自体が成立しないの!」
まあそうだよな、契約自体が成り立っちゃってるからトーカもこれだけ慌ててるんだろうし。
「じゃあ例えばさ、家族名を個人名として扱ったら?」
「その場合は契約自体は成立するけど、それは氏族が個人への一方的な奴隷契約に使う祝詞で……え? もしかして……」
ぐるぐる回していた手をピタッと止めたトーカは、呆然とした表情で俺に視線を向ける。
「……すまん、俺の世界の、日本という国は……家族名が先で、個人名は後ろの方だ……。てへぺろ☆」
果たして、鯛焼きほど甘くない現実はどちらのものだったのか。
「うぐるぅ~~~~!!!????」
さっきの逆に、トーカの魂の慟哭がこだまする!
中途半端に感じるでしょうが、一応これで説明は終わりです。この後のあれこれを含めて、次回からは元の時間軸に戻ります。
でも、なんかスッキリしないので、頑張ってもう一回更新したい……。
明日のことを考えたタイムリミットは1時前後です。それを過ぎても更新されてなかったら、あきらめて明日に回したと思ってください。
2015/9/24 段落や行間を修正。トーカの口調を多少修正。