後編
「此処は何処なの?」
華は辺り一帯を見渡したが、白い霧が立ち込めており、何一つ認識出来なかった。
此処は極楽浄土なのだろうか。
それにしては誰もいない。
極楽浄土なら、今までに死んだ人々が全ていると勝手に思い込んでいたが、どうにも違うということが分かった。
しかし、何もない場所で私に何をしろと神は仰るのだろうか。
退屈な華は、一人で散歩がてらに周囲を歩いていると、いつの間にか川が流れている場所に辿り着いた。
其処もやはり白い霧が立ち込めており、川岸には小さな小舟がある。
小舟の隣には、腰を曲げた仙人のような老人が座っていた。
もしかしたら、何か知っているかもしれない…一抹の期待を覚えた華は少し躊躇するも老人に尋ねる。
「此処は何処なんです?どうして誰もいないんですか?」
老人は少し驚いたように目を見開いたが、やがてぼそりと言った。
「此処は、現世から極楽への港だと考えれば大きく間違っていないだろう。」
「港…?じゃあ、此処は海なの?」
「海ではない。三途の川の中流だ…下流には地獄、上流には天国がある。」
「何で私はどちらにも行けないんですか?」
「それはお前さんが哀れな迷い子だからだ。」
「迷い子ですって…?」
はっきり言ってしまえば、その言葉は心外だった。
現世から離れた時に、未練なんてものはなかった筈だ。
一体、私は何を迷っているのだろう。
「お前さんは、現世に大切な物を落としてきてしまったようだな。そのせいで完全に成仏出来ずに此処にいる。違うか?」
「成仏…出来ていないんですか…私。」
「あぁ、今も現世を彷徨っている。今日中に誰かにその思いを気付いて貰わなければ、お前さんは永遠に彷徨うことしか出来ない哀れな亡霊になってしまう。」
老人の一つ、一つの言葉が華を追い詰めていく。
華は、三途の川に映る己の姿を虚しく見つめた。
あれから二日後ーーー
華が行方不明になってから、そんなにも時間が経ってしまったと思うと楓は、悲しかった。
この二日間は非常に長く感じられたと思う。
生きていることが、こんなにも苦痛なものだと初めて知った。
この事件は警察沙汰になり、屋敷の周辺捜索にまで及んだが、手掛かりになるものが何も見つからぬまま迷宮入りになりかけていた。
このままでは未解決のまま、終わらされてしまう。
楓は必死になって警察に懇願したが、願いは天には届かなかった。
楓が華の為に唯一、出来ること。
それは祈りを捧げることだけだった。
楓は毎日、神社や寺、遂には教会にまで足を運んだ。
十字架、阿弥陀様、何にでも頭を下げて華の無事を祈ることしか出来ない非力な己には心底、呆れる。




