【01】許せませんわ! - ザーリア・パパラチアサファイア
タイトルは真相(?)からすると間違ってますので、タイトルそのままなお話を期待してる方はお気をつけください。
よくある幼馴染を優先?! 系を書こうとちま……ちま……と気分転換に書いていたのが完結したので投稿します。本日18:00までに完結予定。
ちなみに元々書こうと思った話から斜め上に飛んでおります。
明確/直接的なざまあはありません。スッキリやり返してほしい方にも本作はおすすめできないのでご注意!
落ちはギャグより……? かもしれない。
【追記】あらすじ間違えていたので訂正しました!
(許せない……、許せませんわ!)
柱の影から、私は楽しそうな婚約者を睨みつけ続けました。しかし、婚約者は、こちらを少しもみようとはしません。
私はザーリア。数あるパパラチアサファイア子爵家の娘。
ピンクにも、オレンジにも見える絶妙な髪色は、他家には見れない色で、私にとっても誇りですの。
我が家は領地こそないけれど、商会を三つも運営している、立派な貴族家よ。
そんな私には幼馴染という関係であり、婚約者でもある男性がいます。名前はターヴェアン・ブルームーンストーン様。ブルームーンストーン男爵家のご子息。
爵位の階級だけで見れば、我が家の方が上に見えるけれど……。あちらは領地持ち。ターヴェアン様は、次期跡取り、という存在よ。
領地の持たない我が家より、ターヴェアン様のお家の方が、格が上という関係なの。
この国では、子爵、男爵は掃いて捨てられるほど沢山あるの。だから爵位よりも、実際に持っている力が重要で、曽祖父の代からブルームーンストーン男爵領に移住してきた我が家は、ターヴェアン様の男爵家と良好な関係を保ち、商売を行っているという訳。
そんな私たちの婚約が結ばれたのは、私がデビュタントをすませた後の事だったわ。
お母様が教えてくれたの。「ターヴェアン殿と婚約を結ぶのよ」って。
嬉しかった!
だって、二つ年上のお兄さんであるターヴェアン様の事が、好きだったの。初恋だったわ。
従兄弟に虐められて泣いていた私を、ハンカチーフを差し出して、慰めてくださったあの日から、ずっと。美しい青い瞳で、私だけを見つめてくださった、あの日からずっと好きで……。
貴族家の令嬢として生まれた以上、好きな人に嫁ぐなんて出来ないと思っていたからこそ、お母様からそれを伝えられた時、本当にうれしかった。
だから私、頑張ったわ。
領地持ちの夫人になるという事は、大きさの差はあれど、どこかの一族を纏める本家の妻になるという事。
実際、ターヴェアン様の男爵家には、いくつも分家があった。男爵領で暮らしていたから、私も彼らと会った事はあるわ。
それらを取りまとめる夫人になるのだから、沢山沢山勉強して、マナーも身につけて、努力をした。
家庭教師から、海外の言葉も教えられた時は、苦しんだわ。ジュラエル王国は大きな国で、国外に出るのでもなければ、第二言語を学ぶ必要はそこまでない。だから最初は、そこまで学ぶの? と心の中では思ってしまった。
ブルームーンストーン男爵家は外国と直接のやり取りをこれまでしていなかった筈だけれど……、家庭教師から指示があったという事は、今後は外国とのやり取りを行う事もあるのだと、考え直したわ。
むしろ、そういう事情があるからこそ、私が婚約者に選ばれたのかもしれない、と、
我が家、パパラチアサファイア子爵家は、名の通り、サファイアの血族。
サファイアの血族は、王国の建国時代からある、最古の血族の一つよ。
一族は商売に長けるものや、交渉に長けるものが多いと言われているの。とはいえ、最古の血族の中でも、特に枝分かれした血族だから……すべての家がそうではないけれどね。
ただ、他国に関心を持つ者が、他の血族より多いのは、事実でしょう。
求められて、選ばれた。
そう思ったらもっと頑張ろうと思って、私は勉強して勉強して、頑張り続けた。
全ては、ターヴェアン様の横に立っても相応しいように。
……でも、ターヴェアン様は、婚約を結んだのに、私に一向に会いにきてくださらなかった。
お母様やお父様に尋ねたわ。「いつ、お誘いがあるのかしら」と。相談もしたわ。「婚約者からの手紙がないのです」と。
でも2人とも、「今は忙しいのよ」「まだ若いからな」って、そればっかり。
そしたらある時、従兄弟のヘーヴェカーが教えてくれたの。ヘーヴェカーは、お父様の弟である叔父様の息子で、私にとって、分家の家の子にあたるわ。
「どうにも、お前の婚約者のターヴェアン様は、男友達と遊び回ってるらしいぜ」
……もちろん、同性のお友達と遊びたい気持ちは分かるわ。
私だって、全ての時間を、ターヴェアン様にだけ向けれる訳ではないもの。
でも、けれど、婚約してから数年経つの。
その間ずっと、まともな手紙はなし。
誕生日もよ……!
お父様のお仕事の関係者からは、山みたいな贈り物が届くのに。
ターヴェアン様からは、まともにない。
お花とメッセージカードだけはあるわ。でも、それだけ。
婚約者なのに……。
会いにも来てくださらない。
――もっと、こちらを見てほしい。
――せめて、婚約者として、最低限扱ってほしい。
そんなふうに思うのは、悪い事?
ヘーヴェカーの言葉に、胸に嫌な気持ちを抱えたまま、私は、両親と共に、王都に来たの。
年に一度ある、パパラチアサファイアの血族が集まる会合が、今年は王都で開催だったの。
普段は総本家と言われる、パパラチアサファイア伯爵様の御屋敷でなのだけれど……今年は色々な事情から、王都の方のお屋敷での開催だったの。
それを知っていたから、両親に頼み込んで、一緒に王都に出て来たの。
私は普段、家で家庭教師から専門の勉強を教わっているけれど、ターヴェアン様は王都にある、貴族学院という国内最古の教育機関に通っておられるから。
王都に来れば、会える筈。そう思ったの。
……こんな風に行動するなんて、淑女としては恥ずかしいかもしれないけど。
(向こうから来てくださらないなら、会いに行くしかないわ……!!)
そう思いながら、ヘーヴェカーから聞いた、ターヴェアン様が訳出入りしているというお店に行けば、そこに、ターヴェアン様はいたわ。昔は意地悪ばかりだったけれど、ヘーヴェカーは、嘘はついていなかった。
ターヴェアン様は、とてもとても楽しそうに笑っていた。
それは、私には見せてくださった事のない笑顔だったわ。
「ヴェカ! 流石だなぁ、良い食べっぷりだ!」
「まだまだ行けるぞ、店主、もう一皿!」
一瞬、誰か浮気相手といるのかと思ったの。ほんの一瞬ね。すぐに違うと分かったわ。ターヴェアン様と一緒にいるのは、格好から分かったけれど、男性で、騎士の人でしょう。
首が太くて、肩幅は、ターヴェアン様の2倍はありそうで、体格も見るからな良くて、赤い髪……きっと、ルビーの血族の方なのね。ルビーの血族は武勇に優れているから。こちらも、建国まで祖を遡れる、古き血筋だわ。
護衛だとすると、口調があまりに気安かったから、たぶん、貴族学院の学友かしら。
はしたない事に、2人がいるテーブルには、食べ終わった皿が山のように積まれていた。全部、学友の方が食べたみたい。
貴族がいくようなお店なら、すぐ下げられるはずの皿は、むしろ積まれていく。このお店が、平民向けのお店だから、片付けられる事もないのね。
「まだまだ行くのか!」
「お前も食べろ、ターヴェアン殿? 男たるもの、もう少し食べれないとな」
「確かにな。よし、店主、俺にも、もう一皿!」
目を丸くする。
俺、なんて一人称、ターヴェアン様はこれまで使ってなかったわ。がさつすぎる。なんてこと。本当に品がないわ。ターヴェアン様は、ブルームーンストーン男爵家の、跡取りなのに……。
……でも。ターヴェアン様が、笑っている事は確かで……。
(私の事は放置し続けているのに。なのに、そんな笑顔を、ご友人には向けるのね)
そう思ったら、お腹の奥から、熱いものが込み上げてきた。
(私は、私は、いつもターヴェアン様からのお返事を待っていたのに……)
いつ手紙が来るだろうと、待って、待って待って。
それで、何も来なくて、悲しんだ日々。
あの時の私の悲しみの裏で、ターヴェアン様は、お友達と、こんな風に楽しんでいた。
そう思ったら、足を止められなかった。
せめてひとかけら分でも、私に意識を向けてくれていたら、違ったのに。
あんなに、泣き過ごす夜を、越さなくてもよかったのに……!!
「ターヴェアン様っ!」
声をかけると、ターヴェアン様は振り返った。
「うん……? ……パパラチアサファイア嬢?」
「知り合いか?」
「あ、ああ。領地で商会をいくつか営む、子爵家の娘さんだ」
唖然とした。その、他人行儀な説明に。
名すら、呼んでもらえなかったことに。
(私は……婚約者として、紹介すら、してもらえないの?)
何も言えず立ち尽くしていると、ターヴェアン様が声をかけてくる。
「ここで、何を? なぜ王都に? というか、まさかお一人か? 護衛や付き人は、どうされた」
矢継ぎ早の質問は、私を責め立てているようだった。
それに答える前に、熱が……怒りが、湧き上がる。
「……、せっかく会いに来た私に、なんですか、その言葉は……」
「は?」
「もっと……もっと違う言葉がありますでしょう!?」
遠いところよくきた、とか。
会えて嬉しい、とか。
「私はっ、わたしはっ、そんなに見窄らしい女なのですか……っ?」
「はい? まっ、なぜ泣かれる!?」
嘘ですら、会えたことを私は喜んでもらえないのね。
楽しく時間を過ごすご友人に、紹介一つする価値もないの?
毎日毎日、ターヴェアン様に嫁ぐために、外国語まで勉強してきたのに。
「どうして、手紙をくださらなかったの? どうして、贈り物は花しかなかったの?」
「待て、まずは涙を止めたまえ、本当に使用人は連れてきてないのか?!」
「わたし、がんばってきましたのよ……、あなたの、お嫁さんになるために!」
せめて褒めてほしい。そう思いながら叫ぶと、ターヴェアン様は怪訝そうに眉根を寄せた。
「何を言っているんだ、君は」
その一言に、一気に心が冷えた。
ああ……ああ、ここまで来ても、あなたは私を認めようとはしてくださらない。
大勢の、店にいる客の前で、私を辱めるのね……。
パァンッ!!
気が付けば、私は、ターヴェアン様の頬を張っていた。
無意識だったの。誰かを叩くなんて、生まれて初めてした。
手が、手首が、腕が、全部が痛い。
けれど、目を丸くして驚いているターヴェアン様の顔を見たら、少しだけ胸がスッとしたわ。
婚約者が、格下の、領地もなにもない、子爵位の娘だったのが、嫌だったのかしら。
でも、なんでも良いの。
初恋は叶わない。本当なのね。
あの頃の優しいあなたは、いなくなってしまわれた。
「婚約は、解消いたしますわ。あなたのような、女心を解さない殿方に嫁ぐなど、御免被ります!」
私は踵を返し、走った。淑女としてはよくないでしょう。でも、これ以上ターヴェアン様の顔をみたくないし、声も聞きたくない。
……ターヴェアン様は、私を引き留めても、下さらなかった。




